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INTERVIEW

2022.04.29

井澤卓に聞く「居場所」をかたちづくるもの。巡り合ったアートが、新しい関係性を生む

Interview&Text / Aiko Iijima
Edit / Moe Ishizawa
Photo / Gyo Terauchi

多様化し、つねに変化し続ける社会の中で、さまざまな場をつくろうとする人がいます。そして、自分だけの心地よさを求めて、場へと足を運ぶ人もいます。人が集い、そこでしか流れない時間を共有していくこと――その積み重ねで、「場所」はきっと「居場所」になっていくのでしょう。では、「居場所」をかたちづくる上で、アートはどんな役割を果たすのでしょうか?

ARToVILLAでは4月から6月にかけて、特集「居場所のかたち」を実施しています。そこで今回は、池尻大橋のストリートバーLOBBYや代々木公園のカフェ&バーnephewを運営し、壁画制作やスペースデザインを行うクリエイティブスタジオ& Supplyの代表・井澤卓さんが登場。井澤さんの居場所づくりへのこだわりを伺ったほか、それをかたちづくるアート作品の数々をご紹介いただきました。

居場所づくりに大切な作品選びは、巡り合わせから

――井澤さんが、さまざまな人が集まる居場所を展開されるなかで、そこにアートを取り入れる際に意識していることを教えてください。

友人や繋がりのある人の作品を置くことですね。なので、お店に飾っている作品も、だいたいは知人や友人が手がけた作品がメイン。普段仲良くしている人って、そもそも共通の価値観があるうえで付き合う場合が多いですし、友達じゃなかったとしても話せば意気投合する人のアートワークは好きなことが多いです。

お店の構造はすごく考えるのですが、アートワークの設置は意外と計画的ではないんです。LOBBYはグリーン、nephewはブルーというふうに、お店の色に合わせて作品を選ぶことも多いですが、その居場所をつくっていく過程で出会ったもののなかから選んだり、巡り合わせみたいな要素が強いと思います。

――井澤さんはホテルがお好きだということで、これまでにたくさんの居場所を見てこられたと思いますが、ご自身で空間をつくる際に意識していることを教えてください。

まず、僕は見たことのない場所にときめくんです。既視感のないデザインや、インスピレーションの源泉がわからない、「自分には絶対つくれない」と感じる場所。デザイナーの頭の中が表出されているんだけど、ぶっ飛んでいるわけじゃなく、一般の人もいいなと思えるバランスの取れた洗練された空間はすごいなと思います。それが自分たちで空間を考えるときも意識しているポイントです。

――LOBBYとnephewは、それぞれどんな空間にしようと考えていらっしゃったんですか?

LOBBYは僕にとっては、友達と集まれたらいいなという場所。コンクリートむき出しのラフな空間なので、カジュアルにふらっと訪れやすい空間をイメージしています。ただ、荒々しい雰囲気であまり生気がないので、その分イラストタッチの作品や、色が取り入れられている生気のあるアートピースを置くようにしています。nephewは、席の構造的にデートでも来やすい感じになっていたり、パーソナルスペースをつくりやすい空間なので、ゆったり系の場所。LOBBYは日中暗くてカフェとして居心地がいいわけではないのですが、nephewは木造の建築物で日差しが入り、全体的に温かい要素が備わっています。アートピースも、LOBBYと同じアーティストの違う作品を、伏線のように置いています。誰も気づかないですが(笑)。

今回取材を実施したLOBBY

nephewは、青と白を基調にしたやわらかい空間になっている

 

井澤さんが選んだ、居場所をかたちづくる6つの作品

①イラスト / ステファン・ベーカー

友人にもらったメルボルンの蒸留所「フォーピラーズディスティラリー」のクリスマスジンのラベルがすごくかわいかったので、調べてみたところ、ステファンの作品だと分かりました。色の使い方が素敵で、人のモチーフだけど表情のない抽象的な感じが好きだったので、すぐに作品を購入。彼の作品はnephewにもLOBBYにも、自宅にも飾っています。実現しなかったのですが、LOBBYをつくったときにコースターやTシャツのグラフィックをやってくれないか本人に問い合わせ、そこからちょこちょこ連絡を取り合っていました。3年前くらいに& Supplyの立ち上げメンバーでオーストラリアに行き、実際に会うことができてすごく仲よくなったんです。作品を知って、コンタクトを取り、そこから友達になったという、僕にとってはおもしろい背景のある作品です。

②写真 / 柏田テツヲ

テツヲくんとはもともと友人。彼はモーテルをたくさん回って『MOTEL』という写真集を出しているのですが、僕もアメリカのモーテルが好きだからいい切り口だなあと思って見ていました。この写真は、アメリカのなんてこともないロードサイドのダイナーでカップルがキスをしているもの。そんなゆるい出来事や空気がLOBBYでも生まれたらいいなと思ったんです。

③写真 / luka

モデルとしても活動しているlukaさんの写真。LOBBYにも来てくれているのですが、実は僕は本人とオンラインでやりとりしているだけで実際にお会いしたことがなくて。取り壊される渋谷のビルで開催していた展示『ARIGATO SAKURAGAOKA produced by ART PHOTO TOKYO』でたまたま見つけたのですが、なぜか彼女のテイストがめちゃくちゃ好きで、珍しく本人がどんな人が知らずに買った作品です。ちょうどLOBBYをつくる手前の時期だったので緑系のアートピースを探していて、ここに飾ろうと決めて買いました。

④LOBBYのキービジュアルイラスト / 髙城琢郎

LOBBYのキービジュアルとして描いてもらった作品。テイストがすごく好きで、以前、絵を買ったことがあったんです。LOBBYをつくるときに、荒々しい空間にちょっと柔らかい要素を入れたいと思い描いてもらいました。僕がディレクションしてつくってもらった作品ではあるので、アートというよりはデザインという感じかも。このビジュアルはお客さんにもすごく好評で、Tシャツも人気です。

⑤ペインティング / 小泉遼

ペインティングチーム「RELISH」を一緒にやっている小泉さんの『enso』というスタイルの初期作品。LOBBYのカラーであるグリーンを使ってほしいとお願いして描いてもらいました。テクスチャーのある塗料で一筆一筆手描きで円を描いている、ちょっと変態的な作品です。これはLOBBYに飾っているもののなかでもがっつりアートって感じですね。

 

店に飾るアートから、関係性が紡がれていく

――一つひとつのアートピースのテイストはバラバラなのに、それでも統一感が出るのはなぜでしょう?

やっぱり自分が選んだものや、同じ価値観のチームメンバーと選んだものなら、テイストが違っても意外と違和感がないんですよ。だから、そこらへんはあまり気にしなくていいのかなと思っています。アートには選んだ人の好きなものや交友関係、そういうものが全部溢れてくると思うので、流行っているから、かわいいから、という理由で買うよりは、「この人がつくっているもの」という作品を部屋に置いておくことで、自分の人間味を空間に浸透させていく効果があると考えていて。それによって、「居場所」で過ごす時間の充実感がもっと高まるのかなと感じています。

――コロナ以前と以降で居場所の捉え方が変容してきました。ひとりで家にいたり、家族と過ごせる時間が増えた反面、サードプレイスのような居場所を明確に求める人が多くなったと感じるのですが、LOBBYやnephewに訪れるお客さんはどんな居場所を欲していたと思いますか?

人とのコミュニケーションの機会がないので、人が集まる場所で時間を使いたいと考えている人が増えた印象があります。フルタイムで平日会社勤めしている人が夜にお店で働きたいと言ってくれることもあって。僕らは友達同士でやっている小さな会社なので、みんな出社していたんですけど、それって仲間内で仕事をしていて会社に行くのが楽しいからなんですよね。だから、会社勤めの人でも個人でも、出社しなくていい人たち、別の仕事をしていても気の合う人たちが集える場所があったらいいなと思っています。今、神泉に新店舗兼事務所を作っているのですが、事務所部分は友達が働きに来られる感じにしたいです。

――物理的な居場所はもちろん、精神的な繋がりによってコミュニティが生まれることもありますよね。井澤さんの周りにはなぜそういうコミュニティが形成されていったと思いますか?

コミュニティがある飲食店って、店頭に立つ人が繋がりを生む努力をしていることが多いと思うんです。僕も週に2、3回はお店に立って、お客さんが「どういう人たちがこのお店をやっているんだろう?」となったときに、「僕らがやっていて、内装も自分たちでやって」という話をしていて。自然とそこに興味を持ってくれる人との関係は深くなっていきます。そういう人たちがまた新しい人を連れてきてくれたりすることで、徐々に広がっていくんです。

あと、料理人とコラボしたり、フリマをやったり、毎月イベントを企画し続けて、「LOBBYに行ったらおもしろいことがあるっぽい」という空気をなんとか築き上げてきました。そこは意図的に努力している部分です。そういう意味では、店に飾ってあるアートを見て「これ〇〇さんの作品だ」みたいな話になったりすることもあるので、アートが人と人を繋ぐ役割をすることもありますね。

――アートを実際に購入して生活に取り入れることに敷居の高さを感じてしまう人も多いと思うのですが、気軽にアートを楽しむコツがあれば教えてください。

まず、自分が描いた絵や色を塗ってみたものを飾ること。僕たちはもともと絵を描いていたわけではなくて、20代の頃、お金がないながらに新居を飾りたいと思って、「これだったら安くできそうだ」とチョークアートを真似して描いたことをきっかけに、のめりこんでいったんです。僕らは美大も出ていないし、タイポグラフィの勉強もしたことがないから、プロの方が見たら一言あるかもしれないけど、人によっては僕らの描いたものをアートと言ってくれた。それが起源なので、アートってもっとラフに楽しんでいいものだと思うし、自分でつくったものや友達の作品があることで、その空間が自分色に染まって、表面的じゃない空間ができると思います。

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LOBBYは、& Supplyが運営するストリートバー。
ホテルのロビーのように、「色々な人が介在し、肩肘張らず、思い思いの使い方ができる場所」を 目指して「LOBBY」と名付けました。 
Instagram

 

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nephew
代々木公園駅徒歩2分に位置するストリートカフェバー nephew
LOBBYから続く& Supplyの二店舗目として、2021年4月にオープン。
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DOORS

井澤卓

クリエイティブディレクター

クリエイティブスタジオ “& Supply” 代表。スペースデザイン、グラフィックデザインを中心に、様々なクリエイティブ制作をチームで手掛けている。自社で飲食業も展開しており、池尻大橋でLOBBY、代々木公園でnephewというバーを経営中。自身もレタリングアーティストとして活動し、主宰する壁画チームRELISHは、GREENROOM FESTIVAL、SUMMERSONIC等音楽フェスを始め、GoogleやVANSなど国内外の企業、イベントへ作品を提供している。

volume 02

居場所のかたち

「居場所」はどんなかたちをしているのでしょうか。
世の中は多様になり、さまざまな場がつくられ、人やものごとの新たな繋がりかたや出会いかたが生まれています。時にアートもまた、場を生み出し、関係をつくり、繋ぐ役目を担っています。
今回のテーマではアートを軸にさまざまな観点から「居場所」を紐解いていきます。ARToVILLAも皆様にとって新たな発見や、考え方のきっかけになることを願って。

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