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INTERVIEW

2023.08.04

アーティスト・GIRUVIが“植物を愛でる時間”から導き出したアート

Text / Fumika Ogura
Photo / Kaoru Mochida
Edit / Eisuke Onda

慌ただしい日々の中で、ひと息ついたりする瞬間は大切だ。余白を持つことで視野が広がることもあれば、思わぬアイデアなんかも閃いたりするかもしれない。 

ストリートカルチャーをルーツに持つアーティスト、GIRUVIにとっての余白のひとときは植物を愛でる時間だった。会社員時代にたまたま購入した一株のサボテン、そこからのめり込み、どんどん生活のなかでかけがえのない存在となっていく。

アトリエがある一軒家は、気がつけば数え切れないほどの植物で溢れかえっている。今回の記事ではGIRUVIのアトリエで、植物がある暮らしの魅力と、その生活があるから生み出せたアートについて聞いてきた。

Dioscorea elephantipes
税込価格:165,000円

Dioscorea elephantipes
税込価格:165,000円

Dioscorea elephantipes

余白を楽しむ人
アーティスト・GIRUVI

グラフィティやスケートボードなどのストリートカルチャーをルーツに、ライフスタイルの中心となっている植物を融合させた作品を制作。作品は主にステンシルやシルクスクリーンで、 製版から刷り上げまで一貫して行っていながら、朽ちることのない美しい植物を再現している。今回はそんな彼がコレクションしている植物を見せてもらった。

interview_giruvi-1GIRUVIさん

interview_giruvi-2アトリエで制作してた《horrida》

GIRUVIさんのアトリエの一軒家に訪れると立派なユッカ・ロストラータがお出迎え

玄関先にもパリー、チタノタ、マクロアカンサなど多種多様なアガベが並ぶ

窓際にはこぶりなサボテンたちがずらり

写真左からサボテンの紫太陽、姫春星、白星

リビングにはドライになったタンクブロメリア

GIRUVIさんが愛用する「NEIGHBORHOOD」の園芸ライン「SRL」のグッズ

そして、一番のお気に入りの場所だという温室へ足を踏み入れる

Anthurium warocqueanm
税込価格:165,000円

Anthurium warocqueanm
税込価格:165,000円

Anthurium warocqueanm

きっかけは花屋で見つけたサボテン

ーまず、植物に興味を持ちはじめたきっかけを教えてください。

80年代に公開された『ポリス・アカデミー』(1984年)という映画を観たのをきっかけに、長いことスケートボードを趣味でやっていたのですが、ヘルニアになってしまって運動全般できなくなってしまったんです。そんなときにたまたま近所の花屋さんでサボテンを見つけて、育ててみようかなと思ったのが、植物に触れた最初の出来事です。今でもそのサボテンは自宅の温室で管理していて、いまだに成長し続けてくれています。もう10年くらいは経っていますかね。

一番最初に購入したサボテンのレウクテンベルギア・プリンキピス。最初は親指くらいのサイズだったのがこんなにも立派に

「どんどん幹が太くなっていくんです」(GIRUVI)

もともと熱帯魚などを飼っていたこともあり、なにかを育てることには親しんできたタイプでしたし、最初の1個目がうまくいったので、こうして今でも続いているのかもしれません。今は200種430株ほど所有しています。どれも思い入れがあるので、買った場所や名前はすべて把握していますね。

GIRUVIさんの温室

サボテンの恩塚ランポー玉、ユーフォルビア・オベサ、レノフィルム・グッタツム錦などが並ぶ

金網に吊るしたティランジア

ワシントン条約指定種のエンセファラルトス・ホリダス

赤いブロメリアのビルベルギア・ビードルマンやホヘンベルギア・サンドラズマウンテンなど珍しい種類がぎっしり

GIRUVIさんのお気に入りのビルベルギア・ハレルヤ

ーどのようにして育てるノウハウを学んでいきましたか?

もともと収集癖があるタイプなので、ハマってからは当時会社員として働いていたときのお給料すべてを費やすほどでした(笑)。植物の本を読みながら、「こんな植物もあるんだ!」と、色々な種類を購入し、世話をしていくなかで、自然と育て方やコツを習得していきましたね。また、数年前に、医師でもある滝沢弘之さんが会長を務める「日本ブロメリア協会」に入会しました。そこでは会報誌のほかに、年に数回イベントがあって、そこで植物に関するさまざまな情報を交換したり、育てた株を売買、トレードしたり。植物をきっかけに、人との繋がりの場にもなっています。

「日本ブロメリア協会」の会報誌

会長の滝沢さんは、普段の仕事も忙しいはずなのに、育てる上で疑問があったら丁寧に答えてくれますし、南米の地域など、現地で新種発見や交配による新しい品種の創造もされていて、好きがゆえに突き抜けるその姿を近くで見ることができて、植物の新たな一面や深さを改めて知ることができました。

「会長の滝沢さんの温室を撮影した雑誌なんですけど、これ本当にすごくて。いつかこんな温室にしたいですね」(GIRUVI)

ー普段はどのようなところで購入しているんですか?

ハマり始めた頃は、結構週末に植物のイベントがやっているのでそこへ出向いたり、代官山にあった「BOTANIZE」にはよく足を運んでいましたね。最近は購入するよりも、交換することや、植物を交配させて新しい品種を作ることにチャレンジしています。

GIRUVIさんが交配させて生み出した珍しい斑入りのディッキア

ー植物を育てることは、GIRUVIさんにとってどのような時間ですか?

一日のルーティンとして、朝起きてからまず植物をチェックするところからスタートします。日によって、一日かけて水やりをしたり、植え替えをしたり。もう10年以上続けていることなので、生活に欠かせないものですし、自分の一部のような感覚かもしれません。

「ここに並ぶ植物はけっこう水を好むので、夏場は夕方に毎日水やりをします」(GIRUVI)

もちろん、癒しやリフレッシュという要素もあるのですが、植物があることが私にとっての当たり前なんですよね。日々観察をして愛情を注ぐと、その分返ってくるのが楽しいですし、動物と違って、自己表現ができるわけではないので、自分が考えた通りに成長していくのが嬉しさでもあります。そして、今は自身の創作活動でもモチーフとして描いているので、こうやって生活のなかで育てる時間があるからこそ、本業のほうが締まるというか、気付きになっているのかなと思います。

ご自宅にある2つの目のベランダにはディッキア ビルペイレン

「葉が邪魔して水があげられないので腰水で管理します、長期の旅行とかはもう諦めています(笑)」(GIRUVI)

 

コロナ禍に見つめ直した本当の自分

続いてアトリエを案内してくれた

ーGIRUVIさんが植物からインスピレーションを受け、創作活動を始めたきっかけを教えてください。

ずっとスケートボードをやっていたので、デッキの裏にステンシルで絵を描いたりしていましたし、その延長線上にあるアートカルチャーもすごく好きでした。とくに若い頃は、バンクシーやアンディ・ウォーホルの作品をよく観ていたのですが、自分で描くとなると、そのアーティストたちの真似事しかできなくて、「自分のオリジナルを描くことができない」と、何かを創作することをしなくなってしまいました。

リビングにはご自身の作品や影響を受けたストリートアート、それから「メディコム・トイ」のベアブリックもたくさん

そんな期間を経て、植物を育て始めたときに、私は室内に置かないタイプなので、家でも気軽に楽しめる植物があればいいなと思い、ステッカーやグラフィックなど、好きなものを詰め込んだサボテンの絵を自分のために描いたんです。頭の中になんとなく構想はあったんですが、それをようやく表現した一枚目でもありました。で、いつも自身で購入したアートを額装してもらっている家具屋さんがいるんですが、その店主に、「今後もこういうの描いていけたらいいな〜」なんて話したら、「やってみたらいいじゃん」という後押しがあって、最初は趣味の延長として、会社員を続けながら創作活動をスタートさせました。

ー最初は、会社員とアーティストで二足の草鞋だったんですね。

そんな感じで活動していたら、コロナ禍に突入してしまいました。毎日いろんなニュースが飛び交うなか、多くの人が亡くなっていく現実を見て、自身の本当にやりたいことを見つめたときに、アーティストとして絵を描いて作品を残していきたいと思ったんです。そのタイミングで会社をやめて、創作活動に専念していこうと思いました。キャリアは短いので、まだまだこれからです。

ーさまざまなショップやアパレルブランドともコラボレーションしていますよね。

それは本当に自分でも運がよかったなと思うんですが、周りに恵まれていますね。それこそ、お客さんとして通っている「BOTANIZE」さんとは、Tシャツのデザインや個展をやらせてもらいましたし、やっぱり植物好きの人が作品やアイテムを気に入ってくれることが多いです。そうやって各所で繋がった人を起点にして、展示にも遊びに来ていただいたりするので、ありがたいことだなと思います。

お気に入りの「BOTANIZE」と「メディコム・トイ」のコラボグッズ

ー最後に、今後挑戦していきたい作品のテーマを教えてください

基本的に育てている植物や、手に入らなそうな植物を作品に落とし込んで来ましたが、今後は、花にスポットも当てていきたいなと思っています。野生のチューリップとかってすごくかっこいいんですよ。作品を観にきてくれた方からもよく言われるテーマなので、今後はチャレンジしていきたいですね。

Information
今後の展示スケジュール一覧

One Time One Art

■会期
2023年9月27日(水)→10月10日(火) ※最終日は20時閉場
※EC販売は最終日17時までとなります。

■会場
大丸梅田店 1階 東 イベントスペース
〒530-8202 大阪府大阪市北区梅田3丁目1−1

※一部作品は店頭限定販売となりますのでご了承ください。

■入場
  無料

詳しくはこちら

ARTIST

GIRUVI

アーティスト

グラフィティやスケートボードなどのストリートカルチャーをルーツに、ライフスタイルの中心となっている植物を融合させた作品を制作している。"管理不要の枯れない植物"をコンセプトに、シルクスクリーンやステンシルを用いて制作している。

volume 06

「余白」から見えるもの

どこか遠くに行きたくなったり、
いつもと違うことがしてみたくなったり。
自然がいきいきと輝き、長い休みがとりやすい夏は
そんな季節かもしれません。
飛び交う情報の慌ただしさに慣れ、
ものごとの効率の良さを求められるようになって久しい日常ですが、
視点を少しだけずらせば、別の時間軸や空間の広さが存在しています。
いつもより少しだけ速度を落として、
自分の心やからだの声に耳を澄ませるアートに触れる 。
喧騒から離れて、自然のなかに身を置く。
リトリートを体験してみる。
自然がもつリズムに心やからだを委ねてみる……。
「余白」を取り入れた先に、自分や世界にとっての
自然なあり方が見つかるかもしれません。

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