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- 6名の作家による展覧会「新しい日本画 ― Japanese Modern ―」が銀座で開催 / 日本画の技と素材をベースに、絵画の新たな可能性を探る
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2025.12.17
6名の作家による展覧会「新しい日本画 ― Japanese Modern ―」が銀座で開催 / 日本画の技と素材をベースに、絵画の新たな可能性を探る
Artglorieux GALLERY OF TOKYO(GINZA SIX 5階)では、2025年12月18日(木)~12月24日(水)の期間、因幡都頼、カナイミユ、鈴木康太、外山諒、中西瑛理香、和田宙土による展覧会「新しい日本画 ― Japanese Modern ―」を開催します。
本展は、伝統的な日本画の技と素材を基盤にしながら、現代の視覚と精神を通して絵画の新たな可能性を探る、因幡都頼、カナイミユ、鈴木康太、外山諒、中西瑛理香、和田宙土による展覧会。日本画という言葉は、単なる技法の継承ではなく、自然や時間、存在への感応を媒介とした思考の形式を意味します。本展に出品する作家たちは、それぞれの感性からその形式を解体し、再構築することで、絵画が「いま」をどのように生きうるのかを探求しています。
因幡都頼
歴史に残るおとぎ話や伝承は、実際の出来事が時代や文化を通して姿を変えたものであり、そこには、当時の人々が感じていた現実や世界認識が、かたちを変えて息づいている。
不思議な出来事も、悲しい事件も、作家が目撃し記録したものは、誰かにとっては作り話であり、時に喜劇として受け取られるかもしれない。その揺らぎは、イメージと言葉が交わる表現の中で、現実と幻想の境界を溶かし、解釈の「余白」を生み出している。
因幡は、時代ごとに変わる「リアル」を記録しながらも、それが他者によって自由に読み替えられる余地を作品に組み込むことを意識している。「時間」「視点」「物語」が交わる場所を立ち上げ、見る者の中で、少しずつ意味がずれていくこと。その曖昧さや重なりこそが、作品の根にあるものである。

因幡都頼「対岸は火事」 2025年 F10号 麻紙、アルミ箔、墨、胡粉、水干絵具、岩絵具
カナイミユ
日々の中には、言葉ではすくいきれない「ざらつき」がある。
人間の感情が生む揺らぎや不安定さは、社会の中で求められる効率性や整合性の中で、いつの間にか見過ごされ、削ぎ落とされていく。
私の作品は、そうした「ざらつき」=「ノイズ」に目を向けている。木版画の制作過程で生まれる版のズレ、かすれ、汚れなど、本来は「失敗」とされる偶発的な痕跡を、人間的な誤差として受け入れ、記録する試みである。

カナイミユ「新しい洋服もない」 530×727×21mm 木版画、墨、岩絵具、和紙
鈴木康太
現在は、主に【空間松林図】と【EMERGE】シリーズを主軸とし製作している。
【空間松林図】は、松のシルエットを記号的に描き、 それをコピー&ペーストで反復して構成する。この手法は、現代人が日常的に行うデジタル操作であると同時に、尾形光琳の《燕子花図》などに見られる伝統的なパターン表現とも響き合う構造を持っている。極度に簡略化されたシルエットであっても「松」と認識できるのは、その形のイメージが日本や東アジアの人々にとって普遍的だからではないだろうか。まさにシンボリックな存在である。アジアの象徴である松と「バグ」とを同居させることで、現代の風景画を描き出したい。
【EMERGE】シリーズは、【空間松林図】シリーズからの派生として制作している。 デジタル上のフラットな画面に構成されたイメージが、現実世界において立体化され、壁面から「浮かび上がる」ように見える構造をとる。この構成は、情報空間と現実空間の境界を再考する試みである。作品タイトルは制作順に《EMERGE_》の後にナンバリングしており、これは観察・記録の行為を想起させる博物学的な発想に基づく。すなわち「バグを伴った二次元の松」が三次元上に現れ、観察者によって発見・記録された“生成の痕跡”を示している。

鈴木康太「EMERGE_24」 H520×W650×D60m 木材、アクリル塗料、純銀箔
外山諒
山と海に囲まれた自然豊かな土地で育ち、フィールドで昆虫を採集・観察することを好んだ。蝶は世界中に分布し地域によって多様化しており、卵・幼虫・蛹・成虫と完全変態する様子は生命の神秘や力といったものを強く感じる。
その生命力を魂の象徴として日本画材を用いて表現している。この世に生まれたすべての生命は、世界を形作る欠かせない要素であり、それぞれが生きることにより他の生命に影響を与え、その連鎖は未来へと受け継がれていく。枯木は過去の時間の蓄積や歴史を、その周りを飛ぶ蝶は今を生きる命(魂)を象徴しており、生命が互いに影響し合うこの瞬間の世界の様子を表現している。
花鳥画の系譜に見られるような自然の中の生命を見つめモチーフに意味を持たせる視点を取り入れている。

外山諒「Loka dhaatu」 1167×727×21mm 木製パネルに麻紙、岩絵具、水干絵具、墨、アクリル絵具
中西瑛理香
古典的な技法を基盤としながら主観的なデフォルメや現代的な要素を融合させた表現を探求している。
自然への敬意や信仰する神を表現しない配慮などの日本古来の精神は、日本独特の美意識である「間」や「感じ取る」感覚に通じるものがある。空白や余白は鑑賞者の想像を促し、生命の存在感を際立たせることで、見る人との対話を生み出す。
近年はデフォルメされた希少動物の仔動物たちのしぐさや関係性を中心に、背景にドットや古典表現を取り入れることで、ゆるさと厳かさが混在する表現を試みる。
日本古来の精神文化と現代の視点を交差させることで観る人の心に新たな発見、仔動物を通じてその人が持つ優しさを引き出すことができたらと願っている。

中西瑛理香「まだかえりたくない」 2025年 H652×W652×D25mm 麻紙、洋金箔、水干、岩絵具、墨
和田宙土
偶然人の形を成した水中に落ちゆく墨の模様を撮影し、写真をもとに絵画で再構築した。人に見える瞬間は一瞬であり、次の瞬間にはただの淀みに変わり、やがて水中全体も透明から灰色一色となる。この一連の芸術的な瞬間を永遠に引き延ばすことで自分の描くべきものを見つけられたような感じがする。
鮮やかな赤は生命の色であり、始まりと終わりの色である白と黒に挟まれてこそ鮮やかに輝く、そのように考えている。

和田宙土 形象 62「風」 910×910mm 絹本、岩絵具、胡粉、膠、墨
6名の表現は多様でありながら、共通して「伝統と現代のあわい」に立っています。
因幡都頼は、俯瞰的構図による都市と記憶の再構成を通じて、現代の情報的視覚を日本画に結びつけています。カナイミユは、身体と記憶の断片を柔らかな線と色で編み、個人の内面を普遍的な情感へと昇華させています。鈴木康太は、デジタルの偶発性を岩絵具や箔の質感に転写し、情報と物質、記号と手仕事の関係を可視化しています。外山諒は、光と空気の層を丁寧に重ねることで、時間の流れや感覚の余韻を絵肌の中に留めています。中西瑛理香は、動植物の儚さを象徴的に描き、素材と生命の呼応を静謐に表現しています。和田宙土は、抽象的構成と色面の響きを通じて、日本画が内包してきた形式美と空間意識を現代的に再定義しています。
素材の持つ記憶を尊びつつ、その内側から現代的な意識を立ち上げること――そこに「新しい日本画」の核心があります。彼らの作品は、過去を否定することなく、未来を模倣することもなく、その間に生まれる緊張と静寂を見つめています。作品の前に立つとき、鑑賞者は絵画を単なる視覚体験としてではなく、時間と感覚の対話として感じ取ることでしょう。
Information
「新しい日本画 - Japanese Modern - 」
因幡都頼|カナイミユ|鈴木康太|外山諒|中西瑛理香|和田宙土
■会期
2025年12月18日(木)→12月24日(水) ※最終日18時閉場
営業時間:10:30~20:30
■場所
Artglorieux GALLERY OF TOKYO
東京都中央区銀座6丁目10-1 GINZA SIX 5階
入場料:無料
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