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ESSAY

2023.09.29

「“ちゃんとしなきゃ”の呪縛から解放させてくれた家のアート」 / わたしの余白時間。#3 クリエイティブディレクター・辻愛沙子

Illustration / Kahoko Sodeyama
Edit / Eisuke Onda

慌ただしい日々を過ごす現代人。仕事や家事から解放された、「余白」のある時間を皆さんはどうお過ごしだろうか?

なにか美しいものを観たり、素敵な物語に感動したり、美味しいものを食べたり。過ごし方はいろいろある。今回は様々な人たちにアートにまつわる「余白時間」を聞いてきた。

最後に登場するのは広告とブランディングの仕事に携わりながら、社会課題にアプローチするためのアクションをする、株式会社arca CEOでクリエイティブディレクターの辻愛沙子さん。学生時代から慌ただしく働き続けてきたあるとき、不安や無力感に苛まれた事があった。そんな辻さんを救ったのは家にある大事なアートだったのだとか。

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「歌舞伎の“間”と日本画の“余白”に思いを馳せる」 / わたしの余白時間。#2 歌舞伎役者・尾上右近

  • #尾上右近 #特集

心が揺らぐ時には“形ある”アート作品の力を借りて

上手くやらないと。期待に応えないと。
ちゃんとしないと。頑張らないと。
あれもこれも、形にしたい。
もっともっと、こうありたいのに。

一生懸命生きれば生きるほど、
自分が“やってきたこと”よりも、
自分が“やりたいこと”や“足りていないこと”に
目が向くようになってしまう。

人生というものは、
目に見えないものだからこそ、
不安になり、焦ってしまう。
暗闇を手探りで進んでいくように。

ーーー辻愛沙子、27歳。
株式会社arca CEO、クリエイティブディレクター。

大学在学中に仕事を始めて以降、
裏方として企画や作品を作るいちクリエイターとしても、
表舞台に立って言葉を届けるいち発信者としても、
自分が社会に対してできることを無我夢中で考え、常に走り続けてきた。

賞を頂いたり、私自身が賞の審査をすることも増えた。
テレビやメディアで話す時も、変な緊張をしなくなった。
社員や仲間も増え、孤独感も減ったし、
給料日前にお財布とにらめっこすることも、いつの間にか無くなった。

側から見たら順風満帆に進んでいるように見えるかもしれない、
そんな私の全力疾走の日々に
“不安”や“無力感”の風が吹き始めたのは、
キャリアスタートから6年目の頃。

ある日ふと、日常から自分のワクワクが減っていることに気がついてしまった。
自分の心が向くままに進み続けていたはずが、
期待に答えるために......とか、
ファイナンスの観点で......とか、
“ちゃんとしなきゃ”の呪縛が少しずつ忍び寄っていたのだ。

今自分が歩んでいる道よりも
その先にある可能性につい目が向いて、
焦りが募ったり、自信を失ったり。

そんな“ちゃんとしなきゃ”の沼に足をとられている時、
自分を取り戻すきっかけをくれたのは
大事にしている家のアート作品たちだった。

辻さんの部屋に飾られている山崎由紀子《服を着て》

雑誌棚の上にはロンドンのアーティストデュオ、アダム・ブルームバーグ & オリバー・チャナリンの《FEMALE WORKERS OF ALL LANDS BE BEAUTIFUL》のポスター

部屋の中には𝙅𝙚𝙣𝙣𝙮 𝙠𝙖𝙤𝙧𝙞(写真上)やChim↑Pomの時計、A2Z™、安田 知司、などの作品を大切に飾っている

先に書いたように、設計図も航海図もない
「人生」という目に見えぬ道を歩んでいると、
自分の歩みが見えなくなってしまう時がある。

自分が今確かに歩み進めている1歩を忘れ、
50歩先、100歩先に進めていない自分を責めてしまったり、
違う道を歩むべきだったんじゃないかと不安が生まれたり。

けれど、ふと家にある大好きな作家さんたちの作品に目を向けると、
真っ白なキャンバスに一筆一筆描き重ねながら
この作品を少しずつ理想形に近づけていった、
そんな作家さんの葛藤や不安や努力の痕跡が
筆跡に現れているように見えて。

「あぁ、そうか、どんなに大きく壮大な作品も、最初は真っ白なキャンバスだったんだ」
「どんなに素晴らしい作品を作る人だって、1筆ずつ、1作品ずつ、描いてきたんだ」
と、ハッと気付かされた。

困難に思える道のりも、遥か遠くにある目標やゴールも、
どう進んでいいか分からず足を止めてしまう時も、
結局自分の人生を進めていくためには、
1歩ずつ、1個ずつ、今の自分にできることを積み上げていくのみ。
それは大好きな作家さんも、私も、同じことなのかも......と。

目の前の1歩を軽視しないこと、
そして、等身大の自分を信じること。

そう気づけたことは、私の硬くなった心を解きほぐす大きなきっかけになった。

人生は、目に見えないものだからこそ不安になる。
だからこそ、心が揺らぐ時には"形ある"アート作品の力を借りて、
その作品が出来上がっていく過程を想像してみてほしい。

まだ真っ白なキャンバスだったところから、
その前に座り考え悩みながら筆を進めていった
それぞれの作家さんたちに想いを馳せて。

きっと今自分が迷い進もうとしているその1歩も、
目の前の作品を彩る美しい1筆のように
いつか自分の人生を彩り照らすものになると
きっと信じられるはずだから。

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「ときめきを探しに街へ」 / わたしの余白時間。#1 文筆家・甲斐みのり

  • #甲斐みのり #特集

DOORS

辻愛沙子

株式会社arca CEO /クリエイティブディレクター

社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の二つを軸として広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける越境クリエイター。リアルイベント、商品企画、ブランドプロデュースまで、幅広いジャンルでクリエイティブディレクションを手がける。2019年春、女性のエンパワメントやヘルスケアをテーマとした「Ladyknows」プロジェクトを発足。2019年秋より報道番組『news zero』にて水曜パートナーとしてレギュラー出演し、作り手と発信者の両軸で社会課題へのアプローチに挑戦している。

volume 06

「余白」から見えるもの

どこか遠くに行きたくなったり、
いつもと違うことがしてみたくなったり。
自然がいきいきと輝き、長い休みがとりやすい夏は
そんな季節かもしれません。
飛び交う情報の慌ただしさに慣れ、
ものごとの効率の良さを求められるようになって久しい日常ですが、
視点を少しだけずらせば、別の時間軸や空間の広さが存在しています。
いつもより少しだけ速度を落として、
自分の心やからだの声に耳を澄ませるアートに触れる 。
喧騒から離れて、自然のなかに身を置く。
リトリートを体験してみる。
自然がもつリズムに心やからだを委ねてみる……。
「余白」を取り入れた先に、自分や世界にとっての
自然なあり方が見つかるかもしれません。

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