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- 言葉がなくても、関係性の中で対話は生まれる。 / アーティスト・藤田クレアがなぞる風景
INTERVIEW
2023.10.10
言葉がなくても、関係性の中で対話は生まれる。 / アーティスト・藤田クレアがなぞる風景
Edit / Eri Ujita
Photo / Daisuke Murakami
ARToVILLAでは2023年10月27日(金)から30日(月)まで京都にて、エキシビション/アートフェア「ARToVILLA MARKET」を開催。キュレーター・山峰潤也氏による「Paradoxical Landscape」というテーマのもと、7人の作家の作品の展示・販売を行います。
Paradoxical Landscapeを直訳すれば、「矛盾した風景」。自然と都市、アナログとデジタル、過去と未来、現実と虚構……などの一見異なる概念が混ざり、重なり合って存在する現在的な風景のユニークさと、そんな風景への新しい感性のまなざしを探るための特集「交差する風景」にも通じます。今回は、出展作家の方々に共通の質問をし、風景と作品についてのインタビューを行いました。
出展作家のひとりである藤田クレアさんは、無機的な素材でつくられた機械と自然物、そして場合によっては動きを組み合わせた造形作品を制作しているアーティストです。作品を無心で見ていたとしても、いつの間にかその造形や動きに意味を見出してしまう。そんな藤田さんが捉える風景には、「関係性の中で生まれる対話」へのまなざしが含まれていました。
# あなたの原風景は?
「中国に住んでいた頃に見た、壮大な現代アートの展示」
10代の頃は中国に住んでいて、北京にある中高一貫のインターナショナルスクールに通っていました。その学校の近くには、中央美術学院という中国でトップクラスの美術大学があったり、798芸術区という著名なアーティストのスタジオや大きなギャラリーがあるエリアがあったりして。人数の少ないクラスだったこともあり、先生がそれらの場所に頻繁に連れて行ってくれたんです。
そこで心奪われたのが、壮大な現代アートの展示でした。作品のスケールの大きさに圧倒されましたね。空間も、作品も、日本とは規模の差が歴然で、同じ作家の作品でも全然違って見えるなと感じました。
その当時は中国でアートブームが起きていた頃でもあったので、欧米のアーティストの作品にもたくさん触れることができました。特に、アントニー・ゴームリーの素材によって見え方が変わる感じやハンス・オプ・テ・ベークの沈黙を感じさせるモノトーンの色使いはすごく印象的で、いまだにその時の光景を思い出します。
中高生の頃に制作した作品。左:《穴あけパンチ》Dot(ドット)についての作品。穴あけパンチは穴を開ける道具。その道具の周りを立体で透明なドットで装飾し、周りにその道具の機能について考えたことを文字として書く。空いた穴と作られた穴の関係性について考えた。右:《壊れたモノ》破壊と再生について考えた作品。日常で使用するモノを破壊し、再生させる作品。一旦壊れたものは再生したとしても元通りのものにはならず、別のものへと変化する。
「Never the same」
税込価格:3,080,000円
# 風景とはどのようなもの?
「ずっと見ていると、物思いや考えに耽ることができる。それが風景なんじゃないかなと思います」
ずっと見ていると、物思いや考えに耽ることができる。それが風景なんじゃないかなと思います。
そういう意味ではアート作品も、見た後に日常のものの見方が変わったり、なんでもないような瞬間に思い出したりして、風景と似ているところがあるなとも思って。
私はマテリアルをベースに作品を考えることが多くて、これまでいろいろなマテリアルを使ってきました。なかでも使うことが多いのが、石やガラス、貝殻、鳥の羽などの自然物なんです。
自然物には、その一つひとつに秘められたものがあって、たとえば貝殻であれば、その表面にある凸凹に、それがどこから来て、どんな時間を過ごしてきたのかといういろいろな軌跡が刻まれています。そういったものを読み取ろうとするのもまた、ある種の風景を見ることだと思うんですよね。だから、そういった風景的な、自然物をなぞり出すような作品をつくることが多いのだと思います。
《Interrelations ~version 1 : (1 + √5)/2+x~》(2020年)
# どんな作品の考え方・アプローチをしている?
「素材から見える、動きや関係性を作品にしたい」
私は自然物にある、予測不可能な要素が面白いと思っていて。
たとえば機械仕掛けの作品をつくっても、その動きは単調で面白みを感じないんですよね。一方で自然物は、人間がつくり出せないようなエラーを起こしてくれる。それに、人工物を使うと意味が強くなってしまいがちなので、見る人がいろいろな捉え方や解釈ができるという意味でも、自然物を選ぶことが多いですね。
《Invisible soundscape ~version 1 : (1 + √5)/2+x~》(2020年)
作品をつくる時は、基本的に一つのテーマを追求するというよりも、その時々で起こる興味を追求する形でいろいろなアプローチに挑戦しています。
なかでも、《Invisible Soundscape》という作品は、ちょっと特殊なつくり方をしていて、自然物である貝殻に螺旋状についているたくさんの凸凹を物理的になぞるだけでなく、それを一度電気信号に変えて、また物理的に鉄琴を叩いて音に変えるという構造にしています。《Invisible Soundscape》というタイトルも、音に変えることでしか見えない風景をイメージしてつけました。作品を見た友人からは、「ジュークボックスみたいだね」と言われましたが、見た目に反して音自体はすごく素朴なんですよね。個人的には、力強くパンと叩かれる音が予想外の音だったので、気に入っています。
個展「Expanded Creatures」
2022年に北千住のBUoYで開催された個展「Expanded Creatures」は、生物と機械といった相反するものを組み合わせることで、生命感の拡張を試みた展示で、素材から見える動きや関係性、ストーリーを作品にしています。
《Body Language -呼吸-》(2021年)
たとえば、そこで展示していた《Body Language -呼吸-》という作品は、金属の棒二つがピストンを運動して、左側にあるボールの入ったガラス管に空気を押し込む動きをするものです。中にあるボールは、空気に触れて、呼吸を合わせるようにすごく微妙な動きをしながら左側にずれます。それがまるで、空気同士が会話をしているように見えるんです。
《When Two Beautiful Things Touch》(2022年)
その展示では鳥の羽をよく使っていたのですが、《When Two Beautiful Things Touch》という作品では孔雀の雄の羽を使い、2つの羽を時計の針のように動かしています。この作品は、羽と羽が触れ合う瞬間が美しくも面白くて、重なり合うと引っ張り合い、離れるときはぺっと離れる。そういうセンセーショナルな動きが魅力的だなと思っています。
「Interrelations ~version 1 : (1 + √5)/2+x~」
税込価格:330,000円
# 影響を受けたアート / カルチャー
「馬と交わした、言葉じゃないコミュニケーション」
すごく印象的だったのが、2015年にスパイラルで開催されていた「スペクトラム ―いまを見つめ未来を探す」展です。詩人の大崎清夏さんの詩が、榊原澄人さんのアニメーション作品の横に、「すべてを見ようとして、でも見切れなくて、ほっとした。」というような一文があって、作品と詩がめちゃくちゃ合致しているなと感じたんです。
といっても私が好きなのは、言葉じゃないコミュニケーションなんですよね(笑)。幼少期にニュージーランドに住んでいて、日常的に馬に乗っていたのですが、その経験が影響しているというか。馬に乗るためには、言葉以外で意思疎通しなければいけないから、ちょっとした重心のかけ方や動作で伝えるんですよね。そういう対話の仕方の方が、私にとってしっくり来るんです。
幼少期の藤田クレアさん。当時は毎週乗馬レッスンに通っていた。今でも日常に疲れた時や、都会や人から少し離れたい時に馬に乗りに行くという
# 今後、描いていきたい風景
「近々やりたいことは、『遊園地』をテーマにした展示」
近々やりたいことは、「遊園地」をテーマにした展示ですかね。遊園地に行ったときに感じるような、ドキドキした体験ができる展示がしたいんです。
私が特につくりたいのは、メリーゴーラウンド。ジェットコースターをつくっている作家さんもいるので、その方と一緒にやれたらめちゃくちゃ楽しそうだなと思っています。まずは場所探しからですね。
もう少し長いスパンで言うと、いろんな素材を知っていきたいという思いもあります。
今扱っている素材の中では、鉄が一番得意なのですが、金属の中でもそれぞれに特徴があって、難しさを感じることもあるんです。自然物も人工物も、いろいろな素材を知っていくことで、もっと自由自在に組み合わせることができると思うので、もっと素材と仲良くなっていきたいですね。
ARToVILLA MARKET Vol.2出展作家 Meta Flowerさんの記事はこちら!
# ARToVILLA MARKET来場者へ
「やっぱり連続性の中での変化が見たいとなると、回転になるんです」
ARToVILLA MARKETでは、2019年から2022年に制作した作品を展示します。
先ほど紹介した《Invisible Soundscape》や黄金比を巻貝の計測を通じて可視化しようとした《Interrelations ~version 1 : (1 + √5)/2+x~》のほか、回転運動による動きと関係性をテーマにした《Body Language -呼吸-》《When Two Beautiful Things Touch》《Never the same》をセレクトしています。
《Interrelations ~version 1 : (1 + √5)/2+x~》(2020年)
私は初期の頃から、作品に回転運動を取り入れてきたのですが、やっぱり連続性の中での変化が見たいとなると、回転になるんですよね。
たとえばこの前も、作業をしながらなにかを乾かそうとして、そのためにドライヤーを天井から吊ったんですよ。それでスイッチをオンにしたら、ドライヤー自身が回転しはじめて(笑)。その偶然から生まれた光景も面白かったですし、やっぱりすべては回転なんだなと思いましたね。
今回は作品のポイントについて話しましたが、どの作品も、いろいろな捉え方ができるような余白を持たせています。ぜひ、ご自身で見て面白いと思ったところに注目して、ゆっくり眺めてみていただけたら嬉しいです。
Information
「ARToVILLA MARKET Vol.2」
展示テーマ:Paradoxical Landscape
展示アーティスト:浦川大志、河野未彩、GILLOCHINDOX ☆ GILLOCHINDAE、藤倉麻子、藤田クレア、藤田紗衣、Meta Flower
展示場所:FabCafe Kyoto 1F・2F (京都市下京区本塩竈町554)
展示期間:2023年10月27日(金)- 30日(月)
開催時間:11:00–19:00(最終日は17:00まで)
入場料:無料
企画監修:山峰潤也
制作:株式会社NYAW
制作進行:株式会社ロフトワーク
詳しくはこちら
ARTIST
藤田クレア
アーティスト
中国北京生まれ。2011年北京世青国際学校卒業後、日本帰国。2016年東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業。2018年同大学大学院美術研究科修士課程先端芸術表現専攻修了。現在東京藝術大学大学院美術研究科グローバルアート専攻テクニカルインストラクター。 動力的な装置と有機物を組み合わせ、自身が生きる社会構造やプライベートな関係性において直面する問題や苦悩を反映した作品を制作する。主な個展に2020年「ふとうめい な 繋がり」(資生堂ギャラリー、東京、2020)、グループ展に「SOUND & ART展」(アーツ千代田3331、東京、2021)、「SPECTER」(京都CLUB METRO、京都、2022)など。
volume 07
交差する風景
わたしたちは、今どんな風景を見ているでしょうか?
部屋のなか、近所の道、インターネット、映画やゲーム、旅先の風景……。
風景、とひとことでと言っても
わたしたちが見ている風景は、一人ひとり異なります。
そしてその風景には、自然と都市、アナログとデジタル、
過去と未来、現実と虚構……などの
一見異なる概念が混ざり、重なり合って存在しています。
この特集では、さまざまな人たちの視点を借りて、
わたしたちが見ている「風景」には
どんな多様さが含まれているのかを紐解いていきます。
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