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- 同時に存在する表裏を捉え続ける。 / 爆破から彫刻を生むラッパー・Meta Flowerが見てきた風景
INTERVIEW
2023.10.10
同時に存在する表裏を捉え続ける。 / 爆破から彫刻を生むラッパー・Meta Flowerが見てきた風景
Edit / Quishin
Photo / Takuya Ikawa
ARToVILLAでは2023年10月27日(金)から30日(月)まで京都にて、エキシビション/アートフェア「ARToVILLA MARKET」を開催。キュレーター・山峰潤也氏による「Paradoxical Landscape」というテーマのもと、7人の作家の作品の展示・販売を行います。
Paradoxical Landscapeを直訳すれば、「矛盾した風景」。自然と都市、アナログとデジタル、過去と未来、現実と虚構……などの一見異なる概念が混ざり、重なり合って存在する現在的な風景のユニークさと、そんな風景への新しい感性のまなざしを探るための特集「交差する風景」にも通じます。今回は、出展作家の方々に共通の質問をし、風景と作品についてのインタビューを行いました。
出展作家のひとりであるMeta Flowerさんは、ラッパーであり彫刻家。地面を爆破することで生まれる彫刻作品にはナンバリングのみでタイトルはなく、観賞する人の記憶の中の風景を膨れ上がらせる。風景への思いを聞いていくと、ヒップホップが根付いた街で生まれ育ち、格差と同時にアンダーグラウンドのよさも感じてきたなど、異なる風景を同時に捉え続けてきたことが見えてきた。
# あなたの原風景は?
「境界を隔てた表裏みたいなものが、原風景として残っている」
僕の地元は神奈川県藤沢市なのですが、育ったのは高級住宅街と大きな団地が隣り合っているエリアで。祖母が戦後に松林を切り開いてつくった土地で、時代の流れとともに高級住宅街と呼ばれるようになっていった場所です。
団地で暮らす友だちは、少し離れただけなのに生活環境が全然違っていて。家庭が荒んでいる友だちも少なくなく、格差社会というか、社会のズレみたいなものが原風景として残っています。でも、そういう環境でも工夫すれば何かをつくることができるというのもヒップホップが根付いた土地で育ったことで感じ、アンダーグラウンドのよさも見えていったように思います。
原風景を聞かれて、もうひとつ思い出すのが、大学3年生のときに行ったパレスチナでのこと。そこで見た分離壁と人々の光景が、原風景として強く残っています。
Meta Flowerさんが現地で撮影した、バスから見た分離壁
分離壁に窮屈に抑え込まれるようにして民家が立ち並んでいて、あらゆるものがすごく狭い土地の中で生きているように感じました。分離壁は外側から見たら白い壁なのに、中に入るとマルワーン・バルグーティというパレスチナ蜂起の象徴である人の肖像画や、ジャスティスと書かれたグラフィティがある。
何かこう、境界を隔てた表裏みたいなものが、自分の中には原風景として残っています。
「0.0000050」
税込価格:440,000円
# 風景とはどのようなもの?
「美しく塗り替えられたものを、風景と呼ぶんじゃないかと思っています」
風景って、僕にとっては「美化されているもの」。
人間ってどんどん忘れていく動物なので、今残っている記憶って一度忘れた上で更新されているものだと思うんです。今の自分に都合のいいようにつなげたり、ちょっと嘘を交えておもしろおかしくしたりして、美しく塗り替えられたものを風景と呼ぶんじゃないかと思っています。
去年、実家を掃除したときに、生前は生物学者だった祖父の持っていた書籍を、軽トラック5往復くらいかけて捨てたんです。そのときに叔父さんがやってきて、「雑誌の居酒屋特集の1ページ目に、おじいちゃんがすごく大きな盃を持ってうれしそうに日本酒を呑んでいる写真があるから、それだけは捨てるな」と言いました。
3日間くらい探したのですが、大きな盃を持っているおじいちゃんが載った雑誌なんて出てこない。ふと、薄い冊子を見つけて開いてみたら、小さいお猪口をカウンターの女将からもらっているおじいちゃんの写真が、ちょこっと載っていたんです。これじゃない?って聞いたら、これしかないねって(笑)。そうやって自分の中で美しく留めようとする人の視点が加わっていったものが、風景じゃないかと思います。
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税込価格:440,000円
# どんな作品の考え方・アプローチをしている?
「行き過ぎてしまった気がする彫刻を、裸にして原始的なものに戻したい」
僕がつくり続けているのが、爆発の衝撃波で彫刻するシリーズ作品です。
制作プロセスとしては、まずは粘土質な地面を爆薬で爆破させ、その結果生まれた地面の穴に発泡ウレタンという膨らむ充填剤を流し込みます。固まったらそれを掘り起こして付いている土を洗い落とし、アトリエに持ち帰ってスプレーで塗装するという制作方法です。
彫刻は、一番最初は木に文字を彫る作品からスタートしています。木の板に言葉を型抜きのように彫っていって、彫ったあとは全部同じ色で塗りつぶし、あえて文字が読みづらい状態にする。言葉という、人によって受け取り方が全然違うもので“カーテン”をつくるようなイメージで制作していました。
The agitator said
その後、大学の教授から「自分がラッパーであるということに、もう少し近づける表現にしたらどうか」と提案され、木ではなく地面に文字を彫るようになりました。地面という発想はアンダーグラウンドからきています。
そこから爆薬を使うことになったのは、行き過ぎてしまった気がする彫刻を裸にして原始的なものに戻したいから。彫刻って、リアルな人や動物をつくることも、建築素材としての追求もすべてやってきて、今では映像が彫刻だと言う人もいる。「まだやっていないこと探し」のようになっている側面があると思います。
そうやって行き過ぎたものから何か外していくという着想から、人類がつくれるもので一番強く、音楽よりも速いマッハで形を変えることのできる爆薬を使うことにしたんです。爆破で生まれた穴自体がもはや彫刻である、と僕は思っています。
爆破の技術を使って平面作品にも挑戦してきた。写真は、紛争地帯の地図をモチーフにしてつくられた作品「Panning on the Other Side」
# 影響を受けたアート / カルチャー
「ラッパーの先輩や予備校の先生から、彫刻の影響を受けた」
彫刻を裸にしたいというのは、ラッパーの先輩から影響を受けた部分も大きいですね。
ミュージシャンはレーベルに入ることで、著作権を大きな権力に持っていかれてしまうのですが、その先輩は取られた音楽をスライスして、AIでもわからないように速度を変えてリリースしている。権力に取られたときにアナキズムへ還る行為というか、本来の原始的な音を解放してあげるというコンセプトでの活動なんです。
僕自身の音楽活動については、地元からの影響が大きいですね。7歳ずつ離れた従兄弟がいて、7歳上がDJで14歳上がラッパーでした。同級生のお兄ちゃんやお姉ちゃんもラッパーで、ヤンチャなお兄ちゃんがいる友だちの家に行ってOZROSAURUSのCDを聴いたり。そこからTHA BLUE HERBとか、ポエトリーっぽいところにも入っていったりしました。
高校では美術室に入り浸っていたのですが、美術の先生から美大の予備校の先生につながって。予備校の先生は彫刻だけでなくハードコアのバンドやグラフィティもやっていたりなど、ライフスタイルがおもしろい方でした。その先生に出会ったことで、彫刻ってカッコいいかもと思うようになりましたね。
# 今後、描いていきたい風景
「物事のいいところだけを拾わず、清濁混沌としたものを見続けたい」
来週から3ヶ月ほどアメリカに行くんです(取材をしたのは、9月12日)。ロサンゼルスからニューヨークまで横断する予定なんですけど、アメリカの現代史の中での白人カルチャーから、ヒップホップも含めた黒人のアンダーグラウンドなカルチャーまでをちゃんと見に行きたい。
滞在中に制作活動もするつもりで、ラップと彫刻というものを今一度くっつけたいと考えています。今はまだ、アンダーグラウンドから着想した「言葉」や「地面」というところでしかつながっていないけれど、声の周波数を拾って砂の形を変えてみるような研究をしたい。その上で、インスタレーションを発表できたらいいなと思っているんです。
また、いつかもう一度、パレスチナに行ってみたい気持ちもあります。当時はまだ僕も芸術家として右も左もわからなかったので、分離壁のことなどをリサーチした上で、もう一回足を運んで、現地で制作をしてみたいです。
ただ、パレスチナもですし、地元の風景もですけど、格差社会のようなものを見てそれがどう表現に影響しうるのかというのを、自分の中ではまだ言葉にしづらい部分もあって。ひとつの問題を拾うと、他の問題を蔑ろにしてしまうことって多々あるので。いいことも悪いことも同時に起きている中で、いいところだけを拾わず、清濁混沌としたものを捉え続けることがアーティストとしてやりたいことだし、そういうものをまだ見たいんだと思っています。
ARToVILLA MARKET Vol.2出展作家 GILLOCHINDOX ☆ GILLOCHINDAEさんの記事はこちら!
# ARToVILLA MARKET来場者へ
「膨らんで生まれている作品たちが、観賞する人の記憶に残る風景と結びつくかもしれない」
今回、ARToVILLA MARKETに出させていただくのは、衝撃波彫刻作品シリーズ。爆薬というのはこれまで、モノを破壊したり人を傷つけることでしか使われなかったけれど、そうではなく彫刻が生まれた。この作品は、そういう行為の記録なので、タイトルをつけずにただナンバリングしています。
この作品を観て、原発や戦争に結びつける方もいれば、キノコやサンゴを想起する方もいます。
結局、僕の作品は、発泡ウレタンが膨らんで生まれているものなので、それこそ膨らみながら記憶に残り続ける原風景じゃないですけど、観賞する人によって、その人の中の記憶の風景と結びつく側面があるかもしれません。
人によってはショッキングな風景を想起したり、楽しい風景を思い出したりすることがあると思いますが、何が正しいということはなく、ただ自分の風景と結びつけること自体がいいことだと僕は思っています。ぜひ、勘違いして観てもらいたいですね。
Information
「ARToVILLA MARKET Vol.2」
展示テーマ:Paradoxical Landscape
展示アーティスト:浦川大志、河野未彩、GILLOCHINDOX ☆ GILLOCHINDAE、藤倉麻子、藤田クレア、藤田紗衣、Meta Flower
展示場所:FabCafe Kyoto 1F・2F (京都市下京区本塩竈町554)
展示期間:2023年10月27日(金)- 30日(月)
開催時間:11:00–19:00(最終日は17:00まで)
入場料:無料
企画監修:山峰潤也
制作:株式会社NYAW
制作進行:株式会社ロフトワーク
詳しくはこちら
ARTIST
Meta Flower
ラッパー / 彫刻家
1994年神奈川県生まれ。ラッパー、彫刻家。2022年東京藝術大学美術学部彫刻科修士卒業。アンダーグラウンドという場所のルーツから感じた、社会の立ち位置や視点の差異をバックグラウンドに持つ。彫刻では文字をテーマにした作品や、爆薬にて衝撃波を起こし制作する「衝撃波彫刻」を制作。音楽活動はイスラエルやパレスチナなど旅先で出会ったミュージシャンとのセッションや、東京をベースに日本各地でのライブ活動を行う。 主な個展に「An Explosion to Memorize」(渋谷西武オルタナティブスペース・美術画廊、東京、2022)、「EYES SUNRISE REALIZE」(APARTMENT HOTEL SHINJUKU、東京、2021、グループ展に「THE SELECTED vol.1」(WATOWA GALLERY、東京、2022)、「SHIBUYA STYLE vol.14」(西武渋谷店、東京、2020)など。2023年5月に1st Solo Album「The Priest」リリース。
volume 07
交差する風景
わたしたちは、今どんな風景を見ているでしょうか?
部屋のなか、近所の道、インターネット、映画やゲーム、旅先の風景……。
風景、とひとことでと言っても
わたしたちが見ている風景は、一人ひとり異なります。
そしてその風景には、自然と都市、アナログとデジタル、
過去と未来、現実と虚構……などの
一見異なる概念が混ざり、重なり合って存在しています。
この特集では、さまざまな人たちの視点を借りて、
わたしたちが見ている「風景」には
どんな多様さが含まれているのかを紐解いていきます。
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