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INTERVIEW

2023.10.11

印刷を介した表現によって、見えていなかったものが見えたりする。 / 美術作家・藤田紗衣が描く新鮮な風景

Interview&Text / Miki Osanai
Edit / Quishin
Photo / Kengo Yamaguchi

ARToVILLAでは2023年10月27日(金)から30日(月)まで京都にて、エキシビション/アートフェア「ARToVILLA MARKET」を開催。キュレーター・山峰潤也氏による「Paradoxical Landscape」というテーマのもと、7人の作家の作品の展示・販売を行います。

Paradoxical Landscapeを直訳すれば、「矛盾した風景」。自然と都市、アナログとデジタル、過去と未来、現実と虚構……などの一見異なる概念が混ざり、重なり合って存在する現在的な風景のユニークさと、そんな風景への新しい感性のまなざしを探るための特集「交差する風景」にも通じます。今回は、出展作家の方々に共通の質問をし、風景と作品についてのインタビューを行いました。

出展作家のひとりである藤田紗衣さん。風景というキーワードから思い起こすのは、美術を学んでいた大学時代。藤田さんは、印刷技術を介して生まれる「版画」ならではのアプローチに新鮮さを感じたと言います。長い歴史があり、とても身近な「印刷」という行為が、多彩な表現を秘めた技術であり、見る人に新たな視点を与える可能性をはらんでいるのだと、藤田さんが教えてくれました。

# あなたの原風景は?
「大学時代に版画に触れて考えたことや、制作の記憶が、今につながっている」

藤田さんのアトリエで撮影

私の原風景。うーん、なんでしょうね。大学時代に版画に触れ、版画について考えたり、考えながら制作したときのことは今でも記憶に残っています。その頃に学んだ考え方が、今の自分の作品につながっていると思います。

大学では最初、絵画を専攻しようと思っていました。でも試しに版画をやってみたら、ものすごくおもしろいなと感じて。版画の中でも木版、銅版、リトグラフ、シルクスクリーンと選べる中から、私はシルクスクリーンを選びました。

学んでいく過程で、自分の中の版画に対しての概念が更新されていくのを感じていました。

「自分の手で直接描くのではなくて、何か間にモノを介して新たなイメージをつくるんだ」とか「絵画制作のように筆で手を加えていって完成に近づけるアプローチではなく、最初にゴールが決まっていて、出来上がるものが何で構成されているのかを分解して考える必要があるんだ」など、版画ならではの考え方をすごく新鮮に感じていましたね。

《LPSI》(2022) / 紙にシルクスクリーン, 撮影:Yuichi Nishimura

 

# 風景とはどのようなもの?
「風景と聞かれて、光景よりも出来事の方が思い浮かんだ」

風景って、一般的には目の前に広がる何かの光景のことですよね。

でも私は、何かの光景を見て大きく影響された経験はパッと思い浮かばない。たぶん、“出来事”のほうが影響を受けやすいんじゃないかと思います。原風景を聞かれて思い出したのも、大学時代に版画について学んだことや、紙に印刷する技法だけではなく、型取りの技法で立体の複製物を作るワークショップを受けたことでした。

「交差する風景」というテーマにしても、「交差する」ということから、以前出展した展示での出来事を思い浮かべます。

「惑星ザムザ」というグループ展だったのですけど、紙に印刷した作品と、布のように皺になったセラミックの作品を、同じ空間に設置したんです。

《untitled SML》(2022) / 紙にシルクスクリーン,《DDD(warp)》(2022)/シルクスクリーン、セラミック, 撮影:木奥恵三

オープンから約2週間後に会場に行ったら、数日前に降っていた雨のせいか、紙の印刷が湿気でシワシワになっていました。一方のセラミックの作品は、湿気に影響されずに元のシワシワ具合でそこにある。それぞれの素材に乗っている印刷されたものの変化がおもしろいなと感じました。

その状況を見てから、紙という弱くて軽い素材が、その場の環境の要因で変わっていくようなことを取り入れた制作をしてもいいかなと思ったりしました。

「DDD(warp)」
税込価格:99,000円

「DDD(warp)」
税込価格:99,000円

DDD(warp)

 

# どんな作品の考え方・アプローチをしている?
「目に見えていなかった構造が、目の前に現れてくる」

シルクスクリーン版。アトリエで撮影

私の制作は、印刷によるイメージ変化を軸としています

小さいストロークで描いたイメージを、本来のスケールとは全然違う大きさに引き伸ばして、それを出力する手法を取ることが多いです。

そうすることで、印刷する前は目に見えていなかった構造が、目の前に現れてくるという状況になるのがおもしろくて。こちらのシリーズが代表例ですね。

《untitled SML(PANTALOON)》(2022)/ インクジェットプリント, 撮影:Yuichi Nishimura

展示会場の壁などに合わせたサイズで出力していますが、一枚の紙で印刷するのではなく、元のイメージを細分化するように何枚も印刷して貼っています。そうすることで時間の経過とともにクルッと捲れてきたりして、また見え方が変わったりとか。イメージ全体だけではなく、イメージを構成している要素にまで目が向くようにしています。

制作のアプローチは、2015年に大学のプログラムでイギリス留学する前後で、大きく変わりました。それまではイメージを拡大したりはせずに、本物の木の板と、紙に木目のイメージを印刷したものを組み合わせたパネルの作品など、支持体のパネル自体に複雑な構造があるような作品をつくったりしていたんですけど、パネルをつくること自体が結構大変だなと感じてもいて。

《toire》(2015)/ シルクスクリーン、紙、木

そんな時期にイギリスでサイ・トゥオンブリーの展示に行ったのですが、そこには小さなサイズのドローイングと、大きなペインティングが同じ空間に展示されていました。その2つが並んでいる状態を見た時に、何故か私には小さいサイズで描かれたドローイングをそのまま拡大したものが、大きなペインティングになっているかのように見えました。

その見え方がおもしろいと思い、2016年くらいから、小さなストロークで描いたものをそのまま大きく拡大するような手法で制作していくようになりました。

 

# 影響を受けたアート / カルチャー
「文字や記号への興味が出てきたときに、アスキーアートを思い出した」

風景のお話で少し触れましたが、セラミックに印刷した作品も数多く制作しています。こちらの作品で、表面に印刷しているイメージはアスキーアートです。

アスキーアートは、文字や記号を並べたり組み合わせたりして絵に見立てたもののこと。私はゲームが好きな子どもでしたが、ゲームを通じて知らない人とチャットしたりしているうちにインターネットにハマっていき……。小学生の頃からFLASH動画やブログなど、流行っていたコンテンツを追う中で、アスキーアートに出会いました。

当時は、「へえ、こんなのがあるんだ」と眺めていただけでしたが、制作活動をする中で文字や記号への興味が出てきたときに、「アスキーアートっておもしろかったな」とふと思い出したんです。そこから作品にも取り入れるようになりました。インターネットカルチャーから受けた影響は大きいかもしれません。

 

# 今後、描いていきたい風景
「本づくりは、自分をふり返る時間」

セラミックに印刷する前から、アスキーアートを使ってドローイング集をつくっていました。私は美術作品の制作と並行して本づくりもしていて、デザインと製本も自分でしています。

本をつくることは、自分が何を考えてきたか、あるいは何をやってきたかを、もう一度振り返ることができる時間だと思っています。本をつくることが、自分の美術作品に影響を与える行為でもあると捉えているんです。

今は、2023年の1月まで京都で開催していた個展「仮想ボディに風」のアーカイブとしての本を制作しています。

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# ARToVILLA MARKET来場者へ
「印刷を介してどんな表現ができるのか、思考を巡らせてきた」

ARToVILLA MARKETでは、セラミックの作品と、シルクスクリーンの平面作品を出展したいと思っています。

シルクスクリーンの平面作品も、今は小さく描いたものを大きく引き伸ばして印刷する手法で制作しています。イメージを見るとき、距離によって大小の関係が変化すること、どの距離からもすべてのイメージを一度に鮮明に捉えることができないということについて考えています。

たとえばこの作品では、真ん中と周りの小さいイメージの差を極端にして、全体として捉えどころのないイメージを構成していたり。

《BBWSS》(2021)/ 紙にシルクスクリーン, 撮影:Yuichi Nishimura

捉えどころをなくすことによって、見えていなかったものが見えてくるようなことに興味があって、こういった作品をつくったり、紙だけでなくいろんな素材に印刷したりしています。

作品はすべて、印刷という技術を介してどんな表現ができるのか思考を巡らせる中で生まれていったものなので、「これも印刷されたものなんだ」という視点で、見つめてもらえたらいいなと思っています。

Information

「ARToVILLA MARKET Vol.2」
展示テーマ:Paradoxical Landscape

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展示アーティスト:浦川大志、河野​​未彩、GILLOCHINDOX ☆ GILLOCHINDAE、藤倉麻子、藤田クレア、藤田紗衣、Meta Flower

展示場所:FabCafe Kyoto 1F・2F (京都市下京区本塩竈町554)
展示期間:2023年10月27日(金)- 30日(月)
開催時間:11:00–19:00(最終日は17:00まで)
入場料:無料
企画監修:山峰潤也
制作:株式会社NYAW
制作進行:株式会社ロフトワーク

詳しくはこちら

ARTIST

藤田紗衣

美術作家

1992年京都府生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻版画修了。ドローイングを起点に、シルクスクリーンやインクジェットプリントなどの印刷技術を用いて、描くこと自体を版によって再解釈し、描く行為から時間的・空間的に分けられたイメージを作る。 主な個展に、「仮想ボディに風」(ザ・トライアングル、京都、2022)、「ハード/ソフト」(I SEE ALL、大阪、2021)(準備中、東京、2021)、グループ展に、「感性の遊び場」(ANB Tokyo、東京、2022)、「惑星ザムザ」(小高製本工業株式会社跡地、東京、2022)、「VOCA展 2022」(上野の森美術館、東京)など。

volume 07

交差する風景

わたしたちは、今どんな風景を見ているでしょうか?
部屋のなか、近所の道、インターネット、映画やゲーム、旅先の風景……。
風景、とひとことでと言っても
わたしたちが見ている風景は、一人ひとり異なります。
そしてその風景には、自然と都市、アナログとデジタル、
過去と未来、現実と虚構……などの
一見異なる概念が混ざり、重なり合って存在しています。

この特集では、さまざまな人たちの視点を借りて、
わたしたちが見ている「風景」には
どんな多様さが含まれているのかを紐解いていきます。

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