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- 道の上で、Chim↑Pom・卯城竜太と建築家・西田司が語り合う「居場所をどうやって作ってる?」 / 「居場所のかたち」対談 ―前編―
INTERVIEW
2022.04.15
道の上で、Chim↑Pom・卯城竜太と建築家・西田司が語り合う「居場所をどうやって作ってる?」 / 「居場所のかたち」対談 ―前編―
Photo / Shiori Ikeno
Edit / Eisuke Onda
2022年3月22日、六本木・森美術館で開催中のアーティスト・コレクティブChim↑Pomによる初の回顧展「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」にとあるアーティストと建築家が待ち合わせていた。
原発や震災、ジェンダー、それから都市の公共性など、さまざまな社会問題に対しアートで回答してきたChim↑Pom(チンポム)の作品が並べられた会場。とりわけ、目玉でもある新作インスタレーション《道》に訪れたのは、展示の仕掛け人でもある同コレクティブの卯城竜太さんと、彼に会いに来た建築設計事務所・オンデザインを主宰する建築家の西田司さん。
この日、初対面となった二人の共通点は「公共」について、お互いの領域でアプローチしていること。卯城さんはアートを通して人が自分らしく活動できる場を、西田さんは住宅や公共施設の設計を通して誰かの居場所を試行錯誤している。
《道》の上に腰かけた二人が話すのはARToVILLAの特集テーマでもある「居場所のかたち」。世界的なパンデミック、不安定な経済状況や震災や戦争で、生活者たちの「居場所」は目まぐるしく変化している。そんな時代に何を生み出すのか?
最初に口火を切ったのは、西田さん。Chim↑Pomの作品の大ファンだと語る彼自身の思いをきっかけに、前編では都市空間における“居場所の作り方”を考えます。
1本の道で繋がった、これまでのキャリア
西田司:話はじめても大丈夫?
――はい。
西田:お客さんもいる開館中に、突然《道》の上で取材が始まる感じがすごいですね(笑)。
卯城竜太:実はこの空間でさっきまで会議をしてたんですよ。まだあそこにChim↑Pom(*1)のメンバーもいます。
西田:本当に? でも今日は展覧会の会場で対談ができるということで、とても楽しみにしていました。どうぞよろしくお願いします。
*1......取材時のグループ名はChim↑Pomでしたが、4月27日から期間限定でChim↑Pom from Smappa!Groupへと改名。本記事の収録が改名前だったのでChim↑Pomと表記します
写真左から西田司さん、右は卯城竜太さん
――この対談のテーマは「居場所」なんですけれども、回顧展が開催中であり、実際今その会場にいるということもありますので、まずは西田さんのほうから、Chim↑Pomについてどんな印象を持っていたのかを教えてください。
西田:まずはじめにChim↑Pomというか、卯城さんを認識したのは2012年のTRANS ARTS TOKYOでした。これは神田の旧東京電機大学校舎11号館をメイン会場として、東京藝術大学主催で開催されたのですが、実施するにあたって建築的な法律をどうクリアすればいいのかということを主催者サイドにいたアーティストの中村政人さんに相談されまして、僕も建築家として関わってたんですよ。具体的には建物は新築時と使い方が変わる際には用途変更という手続きが必要になるのですが、それをスキップする方法として、大学の学外公開授業で使用するという解釈を行政協議でとって、法律を上書きするような仕事を担当しました。そこで卯城さんが当時講師を勤めていらっしゃった美学校の「天才ハイスクール!!!!」のメンバーのみなさんの展示を見て、卯城さんのことを知ったんですよね。
その後、メディアを通じてChim↑Pomの活動は知っていたのですが、2016年に歌舞伎町振興組合ビルで開催された「また明日も観てくれるかな?~So see you again tomorrow, too? ~」に行き、床に解体現場のように穴を開けて、その床が積み上げられているのを見て衝撃を受けました。
2016年10月に新宿の歌舞伎町商店街振興組合ビルで開催されたイベント「また明日も観てくれるかな?~So see you again tomorrow, too? ~」。取り壊しを予定していた同ビルの中央をブチ抜いた作品《ビルバーガー》の展示や、小室哲哉やラッパーの漢 a.k.a. GAMIのライブなど、様々なカルチャーを内包したイベントとなった。: Chim↑Pom《ビルバーガー》2018年/Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京) / 展示風景:「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」森美術館(東京)2022年 / 撮影:森田兼次 / 画像提供:森美術館
――今回の「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」についてはどういう風にご覧になりましたか?
西田:まず今回も、すごいなと。とりわけ台湾で行われた《道》プロジェクトはとても建築と共鳴する部分があり興味をひかれました。ルールには法律として禁じられていることと、暗黙知として禁じられていることの2種類がありますが、そのぎりぎりを狙っている。《道》でやっていいことを交渉した結果が書面として展示されていましたが、自分もこういうことを「やってみたい」と思いました。それと玄人的な見方になりますが、美術館の中に新たな《道》を作ってしまうと面積が増えて「増築」扱いになり、確認申請が必要になってくる。でも増築にならないよう工夫しているところも上手いなと思いました。
卯城:面積が増えちゃうと駄目だから、そうならないよう空地が新たに生まれたというか。まさか道をつくって空地ができるとは思っていませんでした。
2017年9月に国立台湾美術館で行われたインスタレーション《道》。美術館から公道までを繋ぐ一本の道を作り、その上でメンバーによる飲酒や、ブロックパーティーなどが行われた。「暴力行為NG」などの規定をメンバー自らが設けたのも特徴。: Chim↑Pom《道》2017- 2018年/Courtesy:ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京) / 展示風景:「アジア・アート・ビエンナーレ2017」国立台湾美術館(台中)2017- 2018年 / 撮影:前田ユキ
西田:なるほど。ではどういう感覚で今回の回顧展は取り組まれたのでしょうか?
卯城:まず回顧展っていうオファー自体はおもしろくないなと思いました。なのでその枠組みをどう作り変えるのか、回顧展をどうプロジェクト化するのかを考えました。それで森美術館がある53階に《道》を作ろうとなったのですが、そこで少し問題がありました。台湾で《道》を作った時には公道につながっていたので自信を持って道と言えたのですが、ここだとそれが難しいので道にならない。ずっと閉まっていた天窓を開け自然光を取り入れたことで雰囲気も良くなりましたが、概念的には、会場内に砕けたアスファルトやアスファルトシートなどさまざまな表情のアスファルトを点在させ、ぐるっと一周丸い、会場全体をひとつの道として見立てることにしました。砕けたアスファルトは東日本大震災の被災地で当時見受けられていたものをイメージしています。一周続くことで、道に終わりと始まりがなくなったことは重要で、だから会場の順路も左右どちらからもいけるようにしてあります。作品ってナラティブ(*2)が変わると解釈も変わるので、そのような仕掛けを施しました。Chim↑Pomは賛否両論があるコレクティブなので、作品を見る立場を固定化するのは嫌だったんです。
*2……物語や語り口という意味を持つ言葉。近しい言葉だと「ストーリー」は事実が俯瞰して語られていくのに対して、「ナラティブ」は語り手が主体で自由に語り紡いでいくこと。
インスタレーション《道》では、森美術館ではあまり開かない天窓を開放することで、うっすらとした自然光を取り込む。
西田:展覧会が道でサーキュレーション(*3)している構造は面白いですね。回顧展ってキャリアを振り返るものでもありますが、キャリアの語源は「轍(わだち / *4)」と言われています。道がないと轍はできない。つまり両者には切っても切れない関係があるわけで、道によってChim↑Pomのキャリアがひとつの轍となって、サーキュレーションしている。
*3……様々な意味があるが、建築分野においては循環していくこと。
*4……車が通ったあとに残る車輪の跡のこと。
卯城:展示はセクション分けされてるんですけど、屋外や街頭でのプロジェクトをいろいろ紹介しているので、道の上でやったものがたくさんあったんです。だから、道という主題でつながっている。
インスタレーションの《道》の話に戻りますが、森美術館は高層ビルの中にあるのでレギュレーションも多い。その限られている中でどういう風にこの《道》を運営していくのかを、「道を育てる」というプロジェクトにしてキュレーションをお願いすることにしたり、やりたいことを一般公募しています。
マッサージ師や占い師が来たり、劇団やダンサーのAikidの練習の場になったりとか。他にはモデルのシャラ ラジマさんがウクライナに祈りを捧げるというパフォーマンスを行ったり、3.11の地震発生時に福島県内の町内放送で流れる黙祷のサイレンを生で転送したり、アイドルの『豆柴の大群』のライブが行われたりと、さまざまな事が起きています。
以前からChim↑Pomのエリイとも交流のあったモデルのシャラ ラジマが《道》の上で開催したイベント「道半ば」。オカモト・ショウのDJで盛り上がる場内で、アーティストが相撲をとったり、ライブタトゥーを行った。ちなみに飲酒は厳禁。
西田:実は僕、この「道を育てる」のプロジェクトを「超いい!」と思って、会社の仲間も巻き込んで一般公募に応募したんですよ(笑)。僕の会社にマスキングテープを使って都市を装飾したり、ハックする活動をしている「オンデザイン マステ部」というチームがあって、メールを送らせていただきました。
卯城:あ~はいはい! 実はけっこう応募が来てまして……まだ一通も返事を返せていないんです。もう手に負えなくなっちゃって……。
広場やパブリックスペースなどにマスキングテープを使ってハックする「オンデザイン マステ部」。ワークショップなども行う。
街の中で、道は育つのか?
――お二人の共通点は「公共」を扱っていることだと思うのですが、公共空間について考えていることや、興味を持っていることについて教えてください。
西田:僕は公共空間の価値は記憶なんじゃないかと思っています。建築や都市空間は記憶装置でもある。同じ道でもそこに浮かぶ風景は、個々の記憶と結びつくことによって違ってくるのです。
卯城:街の再開発とかは不動産的に介入することで風景を一変させてしまい、そこに暮らす誰かの記憶をいじってる。記憶喪失にさせるみたいなところがあると思います。
西田:3.11を受けて建築家の槻橋修さんという方が中心となって「失われた街」模型復元プロジェクトをやっています。これは津波で街が一変してしまった地区のジオラマを制作するプロジェクトで、そのとき模型を見ながら泣く人もいたそうです。その理由を聞くと、思い出せなかった記憶が模型をみて思い出し涙したという。風景が失われると記憶もなくなってしまう。記憶は風景と結ばれており、それが切れるとたまゆらで、はかないものなのです。
東日本大震災支援で行われた失われた街を1/500スケールの模型で再現する《失われた街 》模型復元プロジェクト。: Photo Takumi OTA
卯城:でも一方で僕が面白いと思っているのは、記憶はひとつ思い出すとどんどんつらなりになって思い出していくことです。それは一人の場合に限らず、人が集まるとそれぞれの記憶が想起され、様々に語られることで集団的な記憶になります。少しズレもするから「新しい記憶」のようにもなる。いわゆる再開発も、記憶のそういった側面に目を向けて、そういう個々人の記憶を活かして新しい風景を作ることも可能なのではないでしょうか。
西田:公共空間はこのように人々の記憶と深い関係がありますが、最近「道」に改めて注目が集まっています。かつては高速道路が開通すると地方は喜びましたが、かなり整備が進んだことで、今はそういう移動や流通だけが道路の価値じゃない時代になってきた。そこで国交省は、道路の新たな活用方法を「2040年、道路の景色が変わる〜人々の幸せにつながる道路〜」という提言にまとめました。これまでインフラとして道路を位置付けていたので、物を置いたり、人が集まって滞留することは禁止だったのですが、法改正をし、人のために使おう、人々が溜まったりできるようにしようと歩行者利便増進道路(通称:ほこみち)制度をつくり、可能にしました。
卯城:昔新宿西口地下広場でフォークゲリラが行われたとき、警察はそこを広場ではなく道路としたことで取り締まりのルールを適用できるようにした。たしかに道路は、いままで人の集まる場所とはされてこなかったように思います。一方、江戸時代の道を調べると、道が広場の役割をはたしていた。井戸端会議をしたり、そういう機能が、かつてはあったんです。国交省の提言は、道を日本らしく考え直しているのかな?
西田:そうですね。欧州の広場文化に対して、日本は道文化というか、江戸時代は街道を中心にまちの賑わいが出来ていた歴史があります。法改正によって、歩道であれば15年間借り上げられるようになりました。借りる主体は、個人ではなく、商店街とか、地域団体とかが対象ですが、歩道の上にモノを置いたり、歩行者の通行を確保すれば滞留する場所をつくれるようになった。すでに大阪や姫路や神戸は指定を受けたので、これから具体例は増えていくでしょう。
卯城:Chim↑Pomの《道》も、プロジェクトであると分かると鑑賞者は「なんかしなきゃ」みたいなことになるんですよね。台湾でやったときもそうで、道で何をしたか教えてもらうと、横になってみましたとか、ペットと歩いてみたとか、報告するほどのことなのかわからないものもあったんです(笑)。それと飲酒はだめだと言われたので、エリイはそれをパフォーマンスとして行いました。そういうことを考えると、酒飲むだけでもなんか革命的に見えてくる。
西田:でも寝っ転がってる人がいて、そのアクションを模倣してみると気持ちいいよねとなって、その良さもわかってくるんじゃないでしょうか。
卯城:さっきこの《道》でおじさんが神妙な面持ちでマットでねっころがっていたんですよ。特につっこまなかったけど面白かったです(笑)。
ーーつづく
Chim↑Pom《道》2022年
後編はこちらから:道の上で、Chim↑Pom・卯城竜太と建築家・西田司が考えた「居場所を持続させるにはどうする?」 / 「居場所のかたち」対談 ―後編―
infomation
Chim↑Pom展:ハッピースプリング
結成17年周年を迎えるアーティスト・コレクティブ、Chim↑Pomのこれまでの作品と新作を合わせて約150作品を展示。インタビューで紹介した都市と公共性にまつわる作品はもちろん、ヒロシマ、東日本大震災など、作家たちが取り組んできた社会問題にアプローチした作品の数々が並ぶ。
会期:2022年5月29日(日)まで
会場:森美術館
公式HP:https://www.mori.art.museum
撮影:Hajime Kato
建築模型展ー文化と思考の変遷ー
建築模型そのものに着目して、古代から現代まで、歴史的な文脈を踏まえて振り返る展示。オンデザインが手掛けた町田の芹が谷公園芸術の杜の模型と、記事中にもある槻橋修が中心となった「失われた街」模型復元プロジェクトの復元模型も展示される。また、夏休みにはオンデザインによる参加型イベント「みんなの『広場』を建築模型でつくろう!」も開催予定。
会期:2022年4月28日(木)~10月16日(日)
会場:WHAT MUSEUM 1階
公式HP:https://what.warehouseofart.org/exhibitions/architecturalmodel/
ARTIST
卯城竜太
アーティスト
東京都出身。2005年に結成したアーティスト・コレクティブ、Chim↑Pom from Smappa!Groupのリーダー的存在(後にリーダーを辞める宣言もする)。これまでに美学校の「天才ハイスクール!!! 」で講師を務めるほか、近年では会員制オルタナティブスペース「WHITEHOUSE」の運営も行う。撮影: みなみあさみ
DOORS
西田司
建築家
神奈川県出身。建築設計事務所オンデザイン代表。東京理科大学准教授。横浜に拠点を構える事務所で、住宅を中心に、各種施設、まちづくり、家具など幅広く展開。主な作品に「ヨコハマアパートメント」「まちのような国際学生寮」など。
volume 02
居場所のかたち
「居場所」はどんなかたちをしているのでしょうか。
世の中は多様になり、さまざまな場がつくられ、人やものごとの新たな繋がりかたや出会いかたが生まれています。時にアートもまた、場を生み出し、関係をつくり、繋ぐ役目を担っています。
今回のテーマではアートを軸にさまざまな観点から「居場所」を紐解いていきます。ARToVILLAも皆様にとって新たな発見や、考え方のきっかけになることを願って。
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