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- 【後編】「見たことがあって、見たことがないもの」を伝統技術で作る / 連載「作家のB面」Vol.46 長谷川清吉
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2026.09.30
【後編】「見たことがあって、見たことがないもの」を伝統技術で作る / 連載「作家のB面」Vol.46 長谷川清吉
Photo / Tomoya Miura
Edit / Eisuke Onda
Illustration / sigo_kun
アーティストたちが作品制作において、影響を受けてきたものは? 作家たちのB面を掘り下げることで、さらに深く作品を理解し、愛することができるかもしれない。 連載「作家のB面」ではアーティストたちが指定したお気に入りの場所で、彼/彼女らが愛する人物や学問、エンターテイメントなどから、一つのテーマについて話を深掘りする。
今回登場するのは、日本の伝統的な金工技術でオブジェやアートピースを作る長谷川清吉さん。前編では、家業であり、自身のものづくりのルーツでもある茶道具について話をうかがった。後編で語ってもらったのは、その技術を生かした新たな創作表現について。
使い捨ての形を、手間と時間をかけて作る面白さ


誰もが知っているプチプチを題材にしたオブジェ。霰(あられ)という伝統技法を応用した。霰とは、先のとがった鏨を使って円錐型の突起物を規則正しく打ち出したもの。鉄瓶や釜の表面に施されることが多い
——いまや長谷川さんの代表作でもある「プチプチで包まれたハコ型のオブジェ」。同じ金工でも、茶道具とはまた違う印象ですね。
ある時、作品の梱包に使うプチプチが床にバーッと広がっていて、妙にチカチカして見えたんです。「銀がチカチカするのと似ているな……これは、茶道具で使う霰(あられ)という伝統技法を応用したら作れるかも」と思いつきました。
実は「プチプチで包んだ状態」をかたどったのではなくて、一枚のプチプチを金属で作ってから、銅で作った箱を実際に包んでいるんです。まず打ち込み用の棒状の型を作り、受けとなるパイプ状の型との間に金属板を挟んで、「プチ」一つ一つを打ち出していく。さらに木のヘラを使ってへこませながら、実際のプチプチの形に近づけていきます。包んだ端を留めるテープの部分も金属で作っています。
日常的にそういうアイデアを思いつくことはよくあって、わりと頻繁にメモしているのですが、ほぼ形にはなりません。翌日にメモを見返して「なんだ、これ? 全然ダメじゃん」って終わることがほとんど。

プルトップをあけた空き缶をモチーフにした作品。素材は銀。グシャッとつぶれた空き缶や、プルトップのみの作品もある
——ほかにも、つぶれた空き缶、コンビニのビニール袋、アイスの袋など、ユニークなアートピースをたくさん制作されていますが、何かきっかけがあったのですか?
きっかけは10年ほど前。つぶれた空き缶を見て、「これを手で作ったら面白いものができるだろうな。こういう道具を使って、こういう技法を使えば絶対作れるはず」って、ちょっとニヤニヤしながら考えていたんです。だけど、考えているうちに、それは自分にとって意味があることなのかどうかが、わからなくなってしまった。作るのは面白そうだけれど、茶道具を手がけている自分が突然こういうものを作っても、必然性も脈絡もない。そう思って作るのを止めました。
でもその後、缶コーヒーを飲んでいる時にふと思い出すようなことが2、3年続いて。「こんなに忘れずにいるということは、何かがあるんだろうな」と思い、ようやく作り始めたんです。ここまで来たら、形にしないと不健康になりそうだな、と。

使い捨ての工業製品を金工で再現。「PTP包装シート」と呼ばれる錠剤のシートをモチーフにした作品も

「空間や人の気配を感じさせるようなものを目指ています」と長谷川さん
——そうやって生まれた「使い捨ての工業製品」シリーズは、ご自身にとってどういう存在ですか?
作ってみて感じたのは、いちど使ったら捨て去られるようなものを、茶道具のために培った技術を使い、時間をかけ、しかも手で作ることの面白さでした。僕が魅力を感じているのは、工業製品というモチーフではなく、時間をかけて作るという行為そのものなんです。
大の大人が昼間から梱包材や空き缶と真剣に対峙し、槌と鏨を持ってひたすら手を動かして、大きなものだと3000個以上のプチプチを1個ずつ打ち出している。頑張って作れば作るほど、どこかおかしな姿になっていく。そういうアホさというか(笑)、「正反対さ」の可笑しさに、茶道具とはまた別の楽しさがあるんじゃないか。今はそんなふうに思っているし、面白さの背景にある技術も伝わるんじゃないかなと感じています。
手がうごいてしまうんです


——本物の梱包材を見て、ふと「作れるかも」と思う。ということは、日常的な風景をいつもそういう目で見ているのでしょうか。
いつもではないと思いますが、何かアイデアが浮かんだ時、頭のどこかに「作れる手を持っている」という感覚があることは確かです。やっぱり、手が動いてしまうんです。職人としての技術的な鍛錬を積んではいるので、日常的な思いつきをちょっと作ってみる……というようなことができてしまう。でも、それは危険なことでもあると僕は感じています。パッと作って、パッと展覧会に出して、作品として鑑賞される。それがいいことかっていうとおそらく違うでしょう。
形にできちゃうことは、工芸家にとって良いことでもあり、悪いことでもあると思うんです。「これが自分の作品です」と世の中に出すことにはちゃんと意味を見出したいし、慎重でいたい。職人的な工芸家がアートピースやオブジェを作ることの意味を、正直、僕はまだ言語化できないし、そこまで突き詰めなくていい気もするんですけどね。後から意味が生まれたり、ストーリーが繋がってくることもありますから。
——では、ご自身の作品として世の中に出していいかどうかは、どこでジャッジするのでしょう。
作品として成立しているかしてないか…なんですけど、結構感覚的なものなので、難しいですよね。僕の場合は、いったん完成したものを仕事場の何気ない場所にポンと置いておく。朝、部屋に入った時にパッと見た時の印象みたいなものを、すごく大事にしています。
時々、「使い捨ての工業製品をモチーフにしているのは、大量消費社会に対する警鐘ですか?」なんて聞かれることもあります。僕はあまり意識してないんですけど、普段は茶道具の世界にいる人間が、わざわざこういうものを作ることで、みなさんがいろいろ考えてくれるのなら、何らかの装置としての意味はあるのかなって思います。
ただ、それは作ってから気づいたことであって、作り始める前から考えていたわけではありません。アートはコンセプトを考えてから作られ、工芸、特に日本の工芸はものありきで思考やコンセプトが追い付いていくような感覚を僕はもっていて。そういう意味でいうと、工業製品シリーズは、アートでありつつ工芸でもあるのかな。やっぱり「手が動いてしまう」ことがとても重要な気がするんですよね。
ふたつの仕事で金工の世界を拡げる

「今年は初めてアートフェアにも参加するのですが、ずっと興味もあったし出たかったんです。いろんな土地から来る不特定多数の人に見てもらえる機会って、意外とないので」と長谷川さん
——長谷川さんと同じように、工芸とアートの両方を手がける作家も増えていますね。
僕自身のことでいえば、工芸家としては、茶道具だけを作っていれば良い世の中ではなくなってきている気がするし、アーティストとしても、きちんと作風を打ち出してたくさんの方に見てもらうことが大事な時代だと感じています。自分を取り巻く環境や時代の流れを見据えつつ、家業として続けてきたことも大切にしたい。「丸茶器」や「かながさね飾箱」を作る長谷川家の清吉と、プチプチや空き缶を作る長谷川清吉。両方の技術と感覚を行ったり来たりしながら、自由にものづくりを続けられたらと思います。
そして、言い方がちょっと難しいのですが、金工をもっと評価してほしい。例えば、やきものは好きな人も多いし、楽しみ方を知っている人がたくさんいて、それは世界が広がることに繋がります。金工も、見方や味わい方を知ってもらえるといいなって思うんです。それには、僕ら金工家がもっともっと魅力的なものを作って盛り上げなくちゃいけない。プチプチのようなアートが入り口になって、金工に興味をもってくれる人が増えたらと思うし、金工をきっかけに日本の工芸を好きになってもらえたらうれしいですね。

「工芸もアートも、自分の中に積み重なった経験や知識から生まれるものであることに変わりはないので、健康的な生活をして、フラットにものを見ることがすごく大事だと思っています」と長谷川さん
TEMPLE DATE
八事山興正寺
尾張徳川家の祈願所として、歴代藩主とそれに連なる人々と深い縁を結んできた興正寺。境内にある五重塔は国の重要文化財に指定されている。
■住所
愛知県名古屋市昭和区八事本町78
公式サイトはこちら
Information
CURATION⇄FAIR Kyoto
メディアパートナー・ARToVILLAブース
『活きるまなざしと意識』
出展作家:川井雄仁/国松希根太/長谷川清吉(50音順)
■会期
2026年11月6日(金)~11月8日(日)
11:00~18:00 ※8日は17:00まで
※11月5日(木)はプレス・招待者向けのプレビューを実施
■会場:本山 妙覺寺
京都府京都市上京区下清蔵口町135
■入場料
CURATION⇄FAIR Kyotoに準ずる
CURATION⇄FAIR Kyoto公式サイトはこちら
ARTIST

長谷川清吉
金工家
1982年、三代目長谷川一望斎春洸の長男として生まれる。2001年ロンドンのチェルシー美術大学彫刻科入学、2005年に帰国後、父・春洸のもとで鍛金と彫金の修業に入る。2018年、興福寺中金堂落慶法要における千宗屋による献茶道具として、南鐐皆具と唐銅風炉釜を制作。その後、興福寺に献納された。主な展示に『超絶技巧、未来へ展』(2023年/岐阜県現代陶芸美術館、 長野県立美術館、三井記念美術館)など。
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