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2026.09.30

【前編】茶道具は金工作家としてのルーツであり、自由なものづくりの支えでもある / 連載「作家のB面」Vol.46 長谷川清吉

Text / Masae Wako
Photo / Tomoya Miura
Edit / Eisuke Onda
Illustration / sigo_kun

アーティストたちが作品制作において、影響を受けてきたものは? 作家たちのB面を掘り下げることで、さらに深く作品を理解し、愛することができるかもしれない。連載「作家のB面」ではアーティストたちが指定した場所で、彼/彼女らが愛する人物やエンターテイメントから、一つのテーマについて話を深掘りする。

今回訪ねたのは、愛知県名古屋市の金工作家、長谷川清吉さん。梱包材の‶プチプチ〟や空き缶など、使い捨ての工業製品をモチーフにした作品で注目を集めている。実は尾張徳川家の御用鐔師(ごようつばし)をルーツとする茶道具金工家の生まれであり、そのユニークなアートピースを支えているのも、日本の伝統技法である鍛金や彫金だ。竹林に囲まれた瀟洒な茶室で、自身のルーツでもある茶道具の話を聞いた。

四十六人目の作家

長谷川清吉

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ロンドン仕込みのモダンなオブジェを作る金工アーティストであり、伝統技法で茶道具を作る金工師でもある。アーティストとしては、日常生活の中で簡単に見過ごされてしまう工業製品などを題材に、途方もない時間と手間をかけて、「見たことはあるけど、見たことのない」作品を作る。

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《内包 connotation-ptp》 アルミニウム

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《丸透丸薫炉》 真鍮

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《かながさね飾箱》 銀 銅 真鍮 青緑

 

茶道はオタク文化の幸せなカタチ

江戸時代創建の寺院〈八事山興正寺〉内の普門園にある茶室〈竹翠亭〉で。建物は大正6年ごろに建てられた海運王・日下部久太郎の邸宅を移築・再生したものだ

金工による茶道具を作る長谷川家の4代目である長谷川清吉さん。生家は尾張徳川家の御用鍔師をつとめた家系。江戸時代には刀装具の鍔などを手がけていたが、明治維新後の帯刀禁止令を機に刀製造は衰退。鍔の加工技術を活かし、金工の茶道具を作るようになった

——お茶の世界に触れたきっかけを教えてください。

小学生のころだと思います。僕が生まれ育ったのは代々金工の茶道具を作っている家で、父の長谷川一望斎(長谷川竹次郎)は三代目。3時になると工房では、父や職人さんたちがお茶を点て、お菓子を食べていたんです。住まいも同じ敷地内にあったので、僕もたまに呼ばれては、大人たちに混ざってお茶をいただいて。おじいちゃん(二代目一望斎)の知り合いの作家さんの茶碗で点ててもらったりしてましたね。

茶道というと特別なものというイメージもありますが、僕にとってはごくごく日常のことでした。「きれいな和菓子を食べて、お茶碗の中でシャカシャカやって飲むのがお茶なんだ」と思っていたくらいで、たぶん両親も、僕にお茶の作法を教えようとしたわけではなかったと思うんです。それでも、「お茶の道具を作る仕事は、僕が継ぐって思われているんだろうな」みたいなことは、子どもながらに感じていたような気がします。

「自宅から工房までは10歩ほど。3時のお茶に呼んでもらうと、つっかけを履いて工房へ行き、作りかけの茶道具を横目で見ながら、職人さんたちといっしょにお抹茶を飲んでいました」

——ご自身でもお茶を点てるようになったのはいつごろですか?

高校卒業後、現代アートや彫刻を学びたくて、ロンドンの大学に留学したんです。いずれ金工の仕事に役立つだろう……という気持ちはまだ芽生えてなくて、動物のオブジェや胸像などを作っていましたね。茶道を始めたのは、帰国して父のもとで金工の修業に入った時。きちんと先生について作法を習いました。

同時に茶道具についても勉強し始めたところ、知れば知るほど面白くて、憧れも増す一方。茶道は建築、着物、美術、工芸、飲食、しつらえなど、いわば日本文化の総合芸術なのですが、中でも茶道具には、日本人のオタク気質が詰まっている。茶碗や茶器に銘(名前)をつけたり、意味や物語を見出して愛でたり、形の違いを数ミリ単位で探究したり……。小さな伝統工芸を囲んでアートピースのように眺め、楽しんでいる大人たちの姿を見て、ものに対する幸せな執着を感じたというか、自由だなあと思ったことを覚えています。

 

控えめできれいな佇まいの茶道具を作りたい

銀製の〈丸茶器〉。茶道具における茶器とは、抹茶を入れるための蓋もの。丸い茶器の全面に、「魚々子(ななこ)」と呼ばれる装飾を施している

——金工による茶道具について教えてください。そもそもどんな道具があるのでしょうか。

金工師が作る茶道具は、抹茶を入れる茶器や、お湯・水を注ぐ注器、菓子器や花入れ、飾りものなどですね。主な技法は、槌で金属を細かく叩き延ばしながら成形する「鍛金」と、金属を彫って装飾や加工を施す「彫金」です。

例えばこの〈丸茶器〉は銀でできています。形はオーソドックスな丸い蓋もので、表面を3種類の大きさの丸い粒々で装飾しているのが特徴。つまり、造形も模様もすべて「丸」で構成しているんです。この粒々模様は「魚々子」と呼ばれ、ふつうは唐草模様や動物柄などを彫った周りを埋めるために使われるのですが、僕は全面にこの模様を施しました。

先が細い円状になった魚々子用の鏨(たがね)を連続して打ち込むことで、細かい粟粒を敷き詰めたような模様を表す。魚々子の技法は中国から伝わったと言われ、奈良時代には専門の職人もいた。宝物や装飾品のほか、江戸時代には刀剣の鐔などにも用いられた

「まず表面がつるんとした丸い容器を作ってから、装飾を施します。銀の厚みは約0.8ミリと薄いので、鏨を打ち付けた時に凹んでしまわないよう、支えとして中に松ヤニを詰めてから彫っていくんです」と長谷川さん

というのも、この丸茶器が、ビールの泡を見て思いついたものだから。「泡は大小の丸の集合体だから、魚々子の技法で再現できるんじゃないか」って気づいてしまったんです。模様の直径はいちばん小さな丸で1ミリ以下。集中して1日じゅう打ち続けても10日間はかかる。めちゃくちゃ大変ですし、伝統工芸的にはあまり見ないやり方だと思いますが、とても気に入っています。

——では、長谷川さんが思う“よい茶道具”はどういうものですか?

茶道具の楽しみのひとつが取り合わせ。やきものの茶碗、鋳物の釜、金工の茶器に木工の茶杓など、どんな道具を選び、どう組み合わせるかに個性や趣味性が現れます。中でも花形はやっぱり茶碗。その茶碗に対して脇役的存在なのが、金工で作る茶道具だと思うんです。なので、意識しているのは一歩引いた控えめなもの。茶碗の隣に置かれた時にケンカするのではなく調和するもの。そういうきれいな佇まいが、金工の茶道具には必要です。

もうひとつ言うと、金工の茶道具にはプロダクトデザイン的な感覚があると思うんです。よく「用の美」って言いますが、まず使いやすさがあって、そのうえで「なんかいいな」と思わせる雰囲気があるものが理想的。そして、どんなに時間や手間をかけたとしても、技術的な難しさや手の細かさを主張するのはきれいじゃない。そこは気を遣っています。

一方で、眺めて楽しむ飾り箱も、金工ならではの茶道具です。〈かながさね飾箱〉は、透かし彫りや魚々子、象嵌(金属を彫って木や漆など別の素材を埋め込む技法)など、いろんな意匠を施した金属の板を重ねることでひとつの紋様を表すもの。オブジェっぽい要素も含んでいます。

〈かながさね飾箱〉。種類の違う金属板を積み重ね、ひとつの造形を作る「かながさね」は、長谷川さんが名付けた独自の手法。ここでは銀、銅、真鍮を使い、白(銀)、黄色(真鍮)、黒・茶・緑青(銅)の5色を表現している。「銅は加工によって茶色にも黒にも緑青にもなる。とても魅力的な素材です」

 

彫刻で学んだ「ものの見方」が茶道具に生かされた

——金工で茶道具を作ることの難しさやハードルはどこにありますか?

一時期、作風が定まらなくて悩んだことがありました。金属を叩いて伸ばしたり、彫って加工したり、ある程度なんでもできることで、逆に自分らしさがわからなくなってしまったんですね。何を思ったか、象嵌の作品だけを作り続けたりもしましたが、まったく思うようにはいかなくて。そんな時にふと気づいたのが、「いっそ、全部の技法を重ねて一つの作品に詰め込んだら?」ということでした。

例えば、1枚の金属に象嵌と透かし彫りを並べて施すと、収まりがとても悪い。ところが、2枚の金属それぞれに象嵌と透かし彫りを施し、段差をつけて重ねると、意外なほどまとまりがよくなるんです。このことを知ってから、「重ね」を積極的に取り入れるようになりました。いろんな彫金技術が使えることがプラスに働くし、個性も表現できる。模様同士に関係性を持たせることで、一つの景色やストーリーが作れるのも面白いところです。

〈かながさね飾箱〉の側面。2本線による彫りを施し、線の間や周りを魚々子で打ち埋めている

——そういった長谷川さんらしい茶道具に、影響を与えているものは?

イギリスで彫刻を学んだことですね。それまでとは違うものの見方を学べたのが、すごく大きかった。彫刻って、対象物を一個の塊として俯瞰して見るというか、細部を作りつつも常に全体を感じていないと崩れてしまうんです。その感覚は、丸い茶器を作る時にも、オブジェのような飾り箱を考える時にも、すごく役立っています。

金工の茶道具は小さくて細かいものも多く、ぐーっと近寄って細部に入り込んでしまいがち。その感覚も大切なのですが、時々、ふっと離れて「いい形に近づいているかな」と別の目で眺めることも必要です。彫刻を学んだことで、ものを見る時の感覚はすごく広がった。もしもロンドンで絵画やグラフィックを習っていたら、まったく違う感覚で金工に向かっていたかもしれません。

あとは、海外での生活を通して、日本の面白さを感じたことでしょうか。たとえばインスタント食品。ロンドンでもインスタントの食品は食べていたんですけど、帰国して久しぶりにレトルトのたらこスパゲッティを食べたら、めちゃくちゃおいしくてびっくりした。こんなに安いのに、ここまでクオリティ高く作り込まれていていいの? 日本っていい意味で異常だな、とカルチャーショックを受けました。

考えてみたら日本のものづくりもそうなんですよね、多くの工芸家は手間ひまかけて作り込むことをいとわないし、いいものを作りたくて突き詰めた結果、気がついたらものすごく個性的なものができちゃった……みたいな話もよく聞きます。日本にいると海外の人たちのほうが自由で刺激的なことをしているように思いがちですが、全然そんなことはない。日本人は、ある意味で規律の厳しい生活をしながらも、すごく自由なマインドと遊び心を持っているし、そういうものづくりを何百年も続けてきた国なんだなって強く思います。

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【後編】「見たことがあって、見たことがないもの」を伝統技術で作る / 連載「作家のB面」Vol.46 長谷川清吉

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TEMPLE DATE

八事山興正寺

尾張徳川家の祈願所として、歴代藩主とそれに連なる人々と深い縁を結んできた興正寺。境内にある五重塔は国の重要文化財に指定されている。

■住所
愛知県名古屋市昭和区八事本町78

公式サイトはこちら 

Information

CURATION⇄FAIR Kyoto

メディアパートナー・ARToVILLAブース
『活きるまなざしと意識』
出展作家:川井雄仁/国松希根太/長谷川清吉(50音順)

■会期
2026年11月6日(金)~11月8日(日)
11:00~18:00  ※8日は17:00まで

※11月5日(木)はプレス・招待者向けのプレビューを実施

■会場:本山 妙覺寺
京都府京都市上京区下清蔵口町135

■入場料
CURATION⇄FAIR Kyotoに準ずる


CURATION⇄FAIR Kyoto公式サイトはこちら 

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ARTIST

長谷川清吉

金工家

1982年、三代目長谷川一望斎春洸の長男として生まれる。2001年ロンドンのチェルシー美術大学彫刻科入学、2005年に帰国後、父・春洸のもとで鍛金と彫金の修業に入る。2018年、興福寺中金堂落慶法要における千宗屋による献茶道具として、南鐐皆具と唐銅風炉釜を制作。その後、興福寺に献納された。主な展示に『超絶技巧、未来へ展』(2023年/岐阜県現代陶芸美術館、 長野県立美術館、三井記念美術館)など。

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