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- アートとじっくり対話できる美術館、温泉、庭園 / 「私が好きな、アートがある居場所」Vol.2 高橋亮(アートプロデューサー)
ESSAY
2022.06.03
アートとじっくり対話できる美術館、温泉、庭園 / 「私が好きな、アートがある居場所」Vol.2 高橋亮(アートプロデューサー)
Edit / Eisuke Onda
特集「居場所のかたち」のシリーズ「私が好きな、アートがある居場所」では編集者、モデル、キュレーター、プロデューサーなど、さまざまな方にアートが体験できるオススメの場所を教えてもらいます。今回はアートプロデューサーの高橋亮が推薦。建築家の仕掛けが光る美術館、温泉施設、庭園。訪れたら、身も心も満たされる。そんなアートを巡る旅に出かけてみませんか?
空間の余白がつくる、至福のアート体験
僕がアートの鑑賞空間に求めるのは、作品とじっくり対話できる環境であること。具体的には、展示されている作品同士の間隔や展示室の広さがゆったりしているかどうか、人との適度な距離感がとれるか、もっと言えば、トイレや通路などまで気遣いが行き届いているかなど、展示内容よりも居心地良く過ごせる場所であることが大切です。どんなに素晴らしく価値の高い作品も、狭い空間にぎゅうぎゅうに詰まっていたり、雑然とした場所に置かれていたりしたら、その魅力は損なわれてしまうもの。作品を眺めたり、作品と共に過ごす時間も含めて、ひとつのアート体験。余白のある空間でこそ、思いっきりアートに浸れると思います。
①豊島美術館(香川・土庄町)
コンクリート・シェル構造を採用し一本の柱もない空間には、天井にある2箇所の開口部から、周囲の風、音、光を内部に直接取り入れている。/内藤礼「母型」2010年/写真:森川昇
訪れるたびに思わず時間を忘れてしまうのが、穏やかな瀬戸内海に浮かぶ豊島にあるこの美術館。建築家の西沢立衛さんが手がけた、シンボリックな水滴のような形の建築も素晴らしいですし、何より開放的な空間がすごく心地良いんです。展示されているのは、アーティストの内藤礼さんが制作した「母型(ぼけい)」と呼ばれる作品のみ。展示替えをすることもありませんが、何度行っても新たな発見があって、飽きることがありません。アートとは、そこから自発的に何か強いメッセージを受け取ろうとしなくても、共に時を過ごすこと自体に価値がある。そう思わせてくれる空間です。
瀬戸内海を望む豊島唐櫃(からと)の小高い丘に建設された豊島美術館。緑が広がる広大な敷地の中に水滴のような建物の造詣が際立つ。/写真:鈴木研一
開館時間:3月1日〜10月31日の期間は、10:00〜17:00(最終入館16:30)。11月1日〜2月末日は10:00〜16:00(最終入館15:30)
休館日:3月1日〜11月30日は毎週火曜日休み、12月1日〜2月末日は火曜日から木曜日
鑑賞料金:1,570円
住所:香川県小豆郡土庄町豊島唐櫃607
詳細や予約は公式HPにて
②VISON(三重・多気町)
商業、宿泊、温浴施設が複合するVISON。写真は陶芸家・内田鋼一氏がプロデュースする、器や調理道具をテーマにしたミュージアムの「アトリエ ヴィソン」
三重県の多気町という自然豊かな田舎町にある複合ショッピング施設です。三重の山海の幸が楽しめるマルシェがあったり、パティシエ・辻口博啓さんのパティスリーがあったり、ライフスタイルショップがあったり。今の暮らしを少し豊かにできるような発見をくれる場所だと思います。そして、「アトリエ ヴィソン」と呼ばれるエリアには調理道具の小さなミュージアムもあり、施設内の至るところにはアートや1点もののヴィンテージ家具も点在しています。一度、施設内のホテルに泊まったときは、身近にアートの雰囲気やデザインの気配を感じながら、薬草湯につかったり、ボーッとしたりしてゆっくりとした時間を過ごすことができました。暮らすようにアートに触れられる、気持ちの良い場所です。
絶景が広がる温浴施設では、三重大学とロート製薬の共同研究で作った薬草湯が楽しめる
営業時間:9:00~22:00(ただし、店舗によって営業時間は異なります)
住所:三重県多気郡多気町ヴィソン672番1
詳細は公式HPにて。
③小田原文化財団 江之浦測候所(神奈川・江之浦)
冬至の日の出の方向に向けて配置された光学硝子を敷き詰めた舞台と冬至光遥拝隧道©小田原文化財団
現代美術作家の杉本博司さんが設計した芸術庭園です。「人類とアートの起源」をテーマにしていて、広大な敷地に、移築された門や古代の石などの歴史的な美術品、杉本さんのアート作品、そして建築物が点在しています。素晴らしい作品から、少し分からないようなものまで、体験として面白いです。特に印象に残っているのが、夏至の日の出の方向に向く「夏至光遥拝100メートルギャラリー」や、冬至の日に朝日が昇る方角に向いているトンネル「冬至光遥拝隧道」など、太陽の動きと連動して施設が配置されていること。自然や古代からの歴史の上に今の僕らは生きている。その積み重ねと自分たちの現在地をアートを通じて感じさせてくれる特異な場所だと思います。
海に向けて真っ直ぐと伸びる、夏至光遥拝100メートルギャラリー©小田原文化財団
事前予約・入替制
開館時間:午前の部は 10:00~13:00、午後の部は13:30~16:30
休館日:火・水曜日、年末年始および臨時休館日
見学料金:3,300円
住所:神奈川県小田原市江之浦362番地1
詳細や予約は公式HPにて
information
コンテンポラリーアートコレクション
国内外で人々を魅了する、独特の個性あふれる現代アートの数々が一堂に。
期間:6月15日(水)〜6月20日(月) ※最終日は午後3時30分まで(午後4時閉場)
場所:心斎橋PARCO 14F PARCO GALLERY/SPACE 14
URL:https://www.daimaru.co.jp/shinsaibashi/artweeks/art_shinsaibashi/
GUEST
高橋亮
ギャラリスト・アートディレクター
1988年大阪府生まれ。FM802 / FM COCOLOのアートプロジェクト「digmeout」プロデューサー。クライアントワーク等のアートディレクションを多数手がける。また、アートギャラリー「DMOARTS」ディレクターを務め、展覧会のディレクション、国内外のアートフェアへの出展、アーティストマネジメントなどを行うほか、2015年には大阪発のアートフェア「UNKNOWN ASIA」を立ち上げ、実行委員会メンバーに。2018年よりエグゼクティブプロデューサーに。さらに、2020年には大阪で新しいアートフェア「DELTA」を立ち上げ、共同代表として活動するなどアートシーンの発展と拡大に注力している。
volume 02
居場所のかたち
「居場所」はどんなかたちをしているのでしょうか。
世の中は多様になり、さまざまな場がつくられ、人やものごとの新たな繋がりかたや出会いかたが生まれています。時にアートもまた、場を生み出し、関係をつくり、繋ぐ役目を担っています。
今回のテーマではアートを軸にさまざまな観点から「居場所」を紐解いていきます。ARToVILLAも皆様にとって新たな発見や、考え方のきっかけになることを願って。
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