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REPORT
2025.01.15
アイドル和田彩花と行く「ARToVILLA MARKET」。マンガを通じてアートと出会う
Photo / Daisuke Murakami
2024年を楽しく締めくくる展覧会として、東京・池尻大橋のOFS GALLERYで開催した「ARToVILLA MARKET vol.3 -読んで 創って また読んで」。今年で3回目となる本展では、私たちにとって身近なカルチャーであるマンガをキーワードに、ARToVILLA選りすぐりの現代アートをお届けしました。
出展作家は、酒井智也、篠崎理一郎、平沼久幸、星山耕太郎。4名とも、創作の背景にマンガの影響がある作家たちです。彼らは、マンガからどのようなインスピレーションを受けたのでしょうか? 日々さまざまなアートを追いかけるアイドルの和田彩花さんとともに本展をレポートします。
大人も子供も大好き!マンガが、アートを楽しむきっかけに
展示風景より。「マンガ」のテーマに沿った作品をあわせて、作家陣が影響を受けたというマンガも展示
大人も子供も、みんなにとって身近なカルチャーである「マンガ」。誰しも一冊は、夢中になって読んだ作品があるのではないでしょうか?
それはアーティストにとっても同じこと。今回のARToVILLA MARKETの出展作家は、全員がマンガに影響を受けて創作を楽しむ作家たち。絵画やイラスト、ドローイング、陶芸作品と、それぞれ異なる表現を追求しながらも、4名とも表現の源泉はマンガにあります。
どこか『火の鳥』を思い起こす宇宙的表現。篠崎理一郎が描く線画に夢中!
篠崎理一郎さんは、影響を受けたマンガとして、手塚治虫の宇宙観と歴史観が詰まった名作『火の鳥』と、アメフト部に入部した高校生の成長を描いた稲垣理一郎/村田雄介の『アイシールド21』をピックアップ。日常風景や心象風景を、宇宙的かつ緻密に描く篠崎さんのドローイングからは、たしかにこの2冊からの影響を感じとることができます。
篠崎理一郎さんのドローイングに近寄ったり離れたりを繰り返しながら、時間をかけて鑑賞する和田彩花さん。実はマンガ特有のコマ割りは読む順番がわからなくなることもあり、少し苦手意識を持っていたようですが、「アートには正解がないので、篠崎さんの作品は色々な場面から自由に読めて楽しい」とのこと。
「篠崎さんの線のドローイングは、ボールペンや蛍光ペン、色鉛筆といった身近な文房具を使っているところに強い作家性を感じました。親しみやすくも美しい色彩と線で、さまざまなものを緻密に描いているので、じっくり見れば見るほど発見と感動があります。
時間や物語を感じる平面作品は少ない印象ですが、篠崎さんの作品の中にはマンガのようにコマ割りもされているものもあり、それをヒントに頭の中で自由に物語を繰り広げたり、壮大な時間を感じたりしながら、じっくりと読み進めていくことができました。どこかの惑星を舞台にしているのかなぁ」(和田)
篠崎理一郎は、主に線画やドローイングを軸に制作。マンガや数学をルーツに、日常風景や心象状態を掛け合わせながら、繊細かつインタラクティブな世界を表現する
作品から想像した物語や妄想を、誰かと話し合うのも楽しい
奥に見えるのはモノトーンで描かれた篠崎理一郎《Relax》(2019)
マンガから飛び出してきたような色と形。酒井智也のポップな陶の世界
マンガやアニメ、アイドル、そして個人的な記憶を抽象化したパーツを組み立てて、一つの作品に仕上げているという陶作家の酒井智也さん。生き物のようなころんとした形と鮮やかな色彩が魅力的で、開幕と同時に会場を訪れたコレクターの方は、なんとすでに30個も彼の作品を持っていました。ずらりと並ぶとアートとしての魅力が増して、集めたくなる気持ちがよくわかります。
「日本のマンガやアニメをルーツに持つ作品だからなのか、一目見てすぐ親しみを覚えました。ポップカルチャーの色合いと、芸術を創るうえで生まれる色合いはまったく違うと思うのですが、酒井智也さんの作品は、ポップカルチャーの人工的な色彩をまとった陶芸なので不思議な魅力があります。一輪挿しとしての機能を持つシリーズもあって、お気に入りを見つけて家に飾りたくなりました」(和田)
ロクロで抽象的なパーツをたくさん作り、それらを組み合わせることで、新たな作品が生まれるとのこと
手前に並ぶのはアイコニックな一輪挿しのシリーズ
美大受験時に背中を押すように、入学後の新しい世界を想像させてくれたという 『ハチミツとクローバー』
世界各地のコミックも蒐集。洗練された平沼久幸のイラストシリーズ
会場に入ってすぐに目を惹く平沼久幸さんのイラストシリーズ。彼はアパレル出身ということもあり、まず視覚的に「かわいい」「かっこいい」「飾りたい」と思わせられるかどうかを大事にしている人気のイラストレーターです。
本展では、過去に開催された個展「平沼久幸のめまい」の続編となる新作をお披露目。作家が重度の体調不良になり、ブラックアウトするまでの視界がどんどん歪んでいく体験をモチーフに、日常風景が歪んでずれるのを描いたシリーズが並びます。
「紙袋に歪んだ某ハンバーガーショップのロゴと、著名なマンガやアニメのキャラクターが描かれていて、好奇心をくすぐられる作品です。ポップアートを連想させるシルクスクリーンの手法と、マンガ的な線画の組み合わせが魅力的でした。体調不良の経験をもとに作品を着想したという背景を知れて、作品との距離が近づきました」(和田)
某ハンバーガーショップのロゴが印象的な作品群は、ブラックアウトで視界がどんどん歪んでいく体験をモチーフに描いた平沼久幸の「めまい」シリーズ
『AKIRA』のほか、1960~70年代頃に刊行されていたベルギーの週刊誌『journal Tintin(タンタン・マガジン)』なども
さまざまな画風で描き切る。超多面性を持つ画家・星山耕太郎
星山耕太郎さんの作家性を一言で表現するとすれば、「超多面性を持つ画家」。巧みに分割された画面の中に、写実絵画のような画風や、抽象表現主義を彷彿とさせる荒々しい画風もあれば、アニメや漫画、あるいはピクセル画のような画風もあり、見どころたくさんの一枚になっています。
「一見コラージュのように見えながら、どれも隅々まで一人の作家の手によって描かれていて驚きました。画面の中にきらりと輝く瞳は『ガラスの仮面』を彷彿とさせますし、作家のインスピレーション源を画面の中に発見していく楽しさもある絵でした。飽き性で、ルーティンが苦手で、衝動的な性格を逆手にとって、こんな風にマンガのコマ割りで一枚の絵の中に複数の表現を共存させる手法を思いつくとは……!弱点を肯定して独自性にしていく力が素晴らしいです」(和田)
人それぞれが多層的に人格を持ち、他人の脅威となる危うさを持つことを暗示している
ここでも不朽の名作『AKIRA』が。楳図かずお『神の左手悪魔の右手』や美内すずえ『ガラスの仮面』も
アートの楽しみ方をもっと自由に、もっと豊かに
マンガと親しみのある4名の作家のアートが一堂に集結したARToVILLA MARKET。マンガを通してアートに出会うのはもちろん、アートを通してマンガの魅力も再発見できるような充実した内容でした。
一人ひとりが自分の好きなものとアートを結びつけて話しはじめてみたら、アートの楽しみ方はもっと豊かに広がります。次回のARToVILLA MARKETは、何を切り口にアートを楽しめるのでしょうか? 第4回も新たなアートとの出会い方をキュレーションできたら嬉しいです。
DOORS
和田彩花
アイドル
アイドル。群馬県出身。2019年6月アンジュルム・Hello! Projectを卒業。アイドル活動と平行し大学院で美術を学ぶ。特技は美術について話すこと。好きな画家:エドゥアール・マネ/作品:菫の花束をつけたベルト・モリゾ/好きな(得意な)分野は西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。2023年に東京とパリでオルタナティヴ・バンド「LOLOET」を結成。音楽活動のほか、プロデュース衣料品やグッズのプリントなど、様々な活動を並行して行う。 「LOLOET」HPはこちらTwitterはこちらInstagramはこちら YouTubeはこちら 「SOEAR」YouTubeはこちら
DOORS
肥髙茉実
ライター/編集者
2018年多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業、卒業制作優秀作品賞受賞。社会課題への関心をもとにリサーチを行い、音や平面作品、言葉を組み合わせたインスタレーションなどを制作する。18年4月よりリサーチの一環として、広告や雑誌・書籍、テレビなど、領域横断的な言葉の仕事を開始。ウェブ版『美術手帖』をはじめ、『tattva』『BRUTUS』『i-D』などのカルチャーメディアを中心に企画と執筆を行う。主な展覧会に 2020年「静謐な光、游泳のかたち」(Sta.)。
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