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INTERVIEW

2026.03.11

美術館に身を置くだけで、豊かなアート体験になる / モデル・知花くららが惹かれる、自然や暮らしと調和する建築

Interview&Text / Mai Miyajima
Edit / Miki Osanai & Quishin
Photo / Kei Fujiwara

二級建築士の資格を持ち、建築とアートをこよなく愛するモデルの知花くららさん。展覧会にもよく足を運ぶという知花さんと、海が見える神奈川県立近代美術館 葉山館を訪れました。

館内をゆっくりとめぐりながら語ってもらったのは、建築視点で楽しめるおすすめの美術館、そして、知花さん自身の建築体験や大学での学びを通じた、美術館という建築ならではの体験価値について。

アートを鑑賞するだけではない、美術館という空間に身を置くことの豊かさとは?

その土地の自然を感じ、過去の暮らしに思いを馳せるのも、建築のおもしろさ

――知花さんが神奈川県立近代美術館 葉山に来るのは、今回で何回目になりますか?

3回目です。最初は、「海が見える美術館がある」と聞いて、友人と一緒に訪れたのがきっかけでした。

今は私も海沿いで暮らしているんですが、当時はまだ都内に住んでいて、息苦しくなると電車に飛び乗ってよく海に出かけました。沖縄出身なので、海を眺めていると気持ちが上向いて、深呼吸できるような気がするんですよね。

神奈川県立近代美術館 葉山の目の前には一色海岸、反対側には三ヶ岡山が広がる

――「建築目線で楽しむ美術館」のひとつとして、ここ葉山館をおすすめしてくれました。改めて館内をぐるっと歩いてみてどう感じましたか?

大自然の中にある立地を活かしている点が素晴らしいと思います。海の青と山の緑に光が調和する建築が美しいですよね。海を望む庭園にも作品が展示されていますが、潮風や波音を感じながら作品と向き合うことができるのは、ここならではの体験だと思います。

耳と足の形が描かれたプレートの上に佇んで、波や自然の音に耳を傾ける。鈴木昭男《「点音(おとだて)」プレート・葉山(神奈川県立近代美術館 葉山)》2012年

美術館の外壁を背に立つ鉄の人物は、写真に収める人も多い人気の作品。アントニー・ゴームリ―《Insider Ⅶ》1998年

館内も、外の自然とのつながりを感じられるつくりになっているんですよね。はじめて訪れたときに印象的だったのが、海が見える窓があること。窓から入る光がすごく美しくて。絵画は自然光を当てられないものが多いので、管理の面では難しいことが多いと思うのですが、その手間のおかげで自然の中でのアート鑑賞ができるというのはありがたいことです。

館内には展示室を含め、窓のあるスペースが複数ある。紫外線カットのガラスを使用し、作品によっては自然光の中で展示することも

天井からの自然採光を取り入れている展示室もある。天井は展示の内容に応じて開閉が可能

――ほかにも、建築目線で見て楽しめるおすすめの美術館について教えてください。

すみだ北斎美術館は、近未来的な外観なのですが、斜めに切り込まれた三角形の入り口を見たときに、私は沖縄の斎場御嶽(せーふぁーうたき)を想起しました。

例えば、狭い入り口をくぐり抜けるとワッと空間が広がっているというのは、建築でもよく使う仕掛けだったりします。狭い場所は向こう側の空間への期待感を高めますし、メリハリをつけることで、空間の広がりや光を強く印象付けてくれます。

また、私は古い洋館が大好きなので、三菱一号館美術館東京都庭園美術館も、すごく見応えがあります。特に、三菱一号館美術館のアーチが連なった廊下や、併設するカフェ「cafe1894」の天井の高さやアンティークな佇まいにはグッときます。

これらの洋館には、建設当時の人々のエネルギーが宿っていると思うんです。和の様式で生活していた中に突然、西洋の文化が入ってきて、「美しい」と感じた衝撃や、「それを手に入れたい」と技術を会得していった熱量が感じられる。そうやって過去に思いを馳せることも、建築視点で美術館を見るおもしろさだと思います。

「建築は体験だ」そう気づかせてくれたアフリカの岩窟教会とマサイの家

――いくつかおすすめの美術館を挙げていただきましたが、知花さんが惹かれる建築物に共通点はありますか?

デザインや意匠、素材といった建築そのものも好きですが、それ以上に光や風など、その土地の匂いを感じられる建物が好きです。その土地ならではの匂い、ということに絡めて言えば、その建物とともに時間を過ごしてきた人々の暮らしが見える建築にも、惹かれます。

そういう建築を意識した原体験はアフリカにあるんです。2007年から14年間ほど、国連のお仕事でさまざまな地域に行かせてもらいましたが、強烈に心に残っているのがエチオピアにある『ラリベラの岩窟教会群』。岩をくりぬいて造られた迷路のような遺跡で、中にはお祈りをしているおばあさんがいたり、声が反響したりと不思議な空間なのですが、ふと上を見上げると外からの光が差し込んで、風も感じられる。そのときに「建築って体験なんだ」って実感したんです。

館内を歩く中、2026年2月まで開催されていた企画展「若江漢字とヨーゼフ・ボイス」も鑑賞。若江漢字《現れ出る時》1989-2025年

アフリカではマサイ族の家にもお邪魔しました。既婚の若い女性に「お茶を飲んでいって」と招かれたのが、洞穴のような土壁の家。

入り口にお勝手があって、奥に寝床がある1Kのような間取りで、電気はなく、外からは家畜の匂いがするし、赤土の砂埃が舞っている。それでも、そこを通り抜ける風は心地よかったし、フレッシュなミルクで淹れてくれたチャイがとてもおいしくて、私自身も自然体でいられるような感覚になり、「ここならずっと住めるかも」と思ってしまいました。

こういった体験から、そこに暮らす人々の生活が感じ取れる建築に惹かれることに気づきました。それは、地域の風土に根ざしたプリミティブなものにワクワクするということ。当時は、好きという漠然とした感覚だけを持っていましたが、のちに大学に入ってきちんと建築を学び始めてから、この感覚を言語化することができました。


「100年後に何を残すか」を考えるための建築の学び

――2019年から大学で建築を学び始め、2022年に2級建築士試験に合格されています。大人になってから建築を本格的に学ぼうという情熱は、どこから湧いてきたのでしょうか?

随分前に、沖縄の慶留間島(げるまじま)にある祖父の生家と土地を譲り受けたんです。祖父からは「鉄筋コンクリート3階建ての上等な家を建ててちょうだい」と言われていたのですが、あの島にそんな近代建築の箱は似合わないだろうと、漠然と思っていました。当時はちょうど、アフリカの土地柄や民族性に触れるお仕事をしていた時期で、慶留間島にも似た空気感を感じていたんです。

建物って、今からつくるとおそらく100年後もそこにあるわけなので、いわば未来への手紙のような存在。建物には、当時の人たちが未来に何を残そうとしたのかが詰まっていると思うんです。だとすると、私も沖縄の景色の一部としてここに何を残していきたいかを、きちんと建築の視点を持って考えなければならない。そう考えたのが大学に通うきっかけでした。

大学では近代以降の建築の勉強をしました。プリミティブなものが好きな私にとっては、知識や意匠を体系的に学ぶとても有意義な学びとなりました。大学で建築の視点を学んだからこそ、自分のつくりたいものの輪郭がより明確になっていきました。

慶留間島の家に関しては、海辺の暮らしを感じられるような沖縄古来の住居のスタイルに、空調や断熱など現代の便利なテクノロジーも取り入れたコンセプトハウスをつくりたいと思っていて、少しずつプロジェクトが動き出しています。

――実際に建築を学んでから、建物を見る視点にどのような変化がありましたか?

建物をすぐに裸ん坊にしちゃうようになりました。それは、建物に入ったときに自分の頭の中で壁を全部取り払って、骨組みだけにしてみること。それから、地形や立地を観察して、高低差とか光とか、そういった要素が建物のデザインにどう落とし込まれているのかなど、ストーリーを想像するのが一層楽しくなりました。


「美術館という空間に身を置いているだけで、それは豊かな体験」

――最後に、美術館という建築ならではの体験について伺いたいです。美術館とそれ以外の建築物では、体験にどのような違いがあると思いますか?

アートというのは、展示される空間込みで認識されるもの。ちょっと暗い部屋に置くことで映える作品もあるし、開放的なホールに、ドンと一枚だけ飾ることで伝わるものもある。空間のあり方が作品への印象に作用するのが、美術館という建築ならではの体験ですよね。

過去に訪れた中で忘れられないのが、フランスのアンティーブにあるピカソ美術館での体験です。南仏の海沿いにある小ぶりな美術館なのですが、石壁の部屋にはアーチの窓があって、外にはコート・ダジュールの海が広がっていて……明るいんだけど底抜けに明るいわけではないような光が、すごく美しかったんです。それらがピカソの作品と相まって空間全体にどこかポエティックな雰囲気が漂っていて。あの場所で作品を観ることができたのは、とても価値のある体験でした。

――私たちが美術館でアートを観ているとき、それは建物やまわりの環境からも何かを感じているということですね。

そう、必ず何かを受け取っています。そしてそれは、実際に行って感じてみないとわからないこと。光や寸法感(大きさ)は、ネット上の写真を見ているだけでは絶対に捉えられません。

――より美術館という空間を楽しむために、どのような意識を持つといいでしょうか?

たとえば、空間に入ったときにハッとする瞬間ってありますよね。それは圧倒されているというサインで、そこに自分の好きな建築のヒントがあると思っています。

私はアートを見るときもその感覚を大切にしていて、現代アートで言えば、松井冬子さんの作品を初めて見たときは圧倒されて作品の前から動けなくなってしまいましたし、NIM(國宗恭史)さんのホオズキの作品も見た瞬間に気に入って、今も家に飾っています。

アートだけでなく作品を見せる建築そのものも、足を踏み入れた瞬間に肌で感じられるものがあるはずで、その感覚に自覚的になって立ち止まる。それだけで美術館という場所で体験できることの密度がグッと濃くなると思います。

もっと言えば、美術館で必ずしも作品を集中して観なくたっていいと思っています。こんなこと言ったら怒られちゃうかな(笑)。アートがある場所という世界観に浸ってただボーッとしたり、併設のカフェやレストランに行ってみたり、もっと気軽に出かけてもいいと思うんです。

美術館というのはアートに触れられる場所であるのと同時に、自分のための時間をつくれる場所だから。美術館という空間に身を置いているだけで、それは豊かな体験なんです。

Information

神奈川県立近代美術館 葉山


住所:〒240-0111 神奈川県三浦郡葉山町一色2208-1

施設利用時間:9:30〜17:00(入室は16:30まで) 

休館日:月曜日(ただし、祝日及び振替休日の場合は開館)、年末年始(12月29日–1月3日)、展示替期間

詳細はこちら

DOORS

知花くらら

モデル

1982年、沖縄県那覇市生まれ。上智大学を卒業後、2006年にミス・ユニバース世界大会で第2位に輝き、さまざまなメディアで活躍。国連世界食糧計画(WFP)での活動では、オフィシャルサポーターや日本親善大使も務めた。2019年、第1子妊娠中に京都芸術大学通信教育部建築デザインコースに入学。2022年には二級建築士試験に合格し、移住先である海辺の家のリノベーションを自身で手がける。

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