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2024.11.13

北欧、暮らしの道具店・佐藤友子の、アートを通じて「自分の暮らしを編集」する楽しさ / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.29

Interview&Text / Tomomi Fujisawa
Photo / Madoka Akiyama
Edit / Miki Osanai & Quishin

自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。

お話を伺うのは、ライフカルチャープラットフォーム「北欧、暮らしの道具店」の店長・佐藤友子さん。世界中の商品やオリジナル商品の紹介を通して「フィットする暮らし、つくろう。」というメッセージを発信する佐藤さんのはじめて手にしたアートは、北欧で出会った小さな花瓶。

今から20年ほど前に出会ったひとつの花瓶が、「おしゃれなスタイルをつくることではなく、自分で自分の暮らしを編集することを大切にしたい」という佐藤さんの指針を形作っていったことがわかりました。

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平岡雄太 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.28はこちら!

平岡雄太 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.28はこちら!

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「アートを買う行為は自分のオリジナルな考えを育んでくれる」YouTuber・平岡雄太 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.28

  • #平岡雄太 #連載

# はじめて手にしたアート
「北欧で出会ったひとつの花瓶。これほど可愛いものがこの世に存在するのかと、驚きました」

私にとっての「はじめて手にしたアート」を考えたとき、20世紀のスウェーデンの作家であるマリ・シムルソンが手がけた花瓶が、頭に浮かびました。

購入したのは20年ほど前。「北欧、暮らしの道具店」を一緒に運営している兄と一緒に訪れたストックホルムのお店で、ふと、この作品と目が合ったのですが、出会った瞬間に「これほど可愛いものがこの世に存在するのか!」と大興奮だったのを覚えています。

雑貨の買い付けのためにお店をまわっていたのですが「これは絶対、自分のために手に入れたい!」と思って購入しました。

この花瓶がやってきたからといって、暮らしぶりが突然変わったわけではありませんが、気持ちの面では大きな変化があったように思います。

それまでずっとインテリアコーディネートの仕事をしてきて、どういうスタイルがオシャレなんだろう?と考えることが多かったけれど、このひとつの花瓶がやってきたことから「自分の手で、私なりの北欧スタイルをつくっていきたい」と思うようになったんです。

「自分自身の暮らしを、どういうふうに自分でつくっていこう?」と想像力を働かせるとき、この花瓶からいつも、やる気をもらってきましたね。

 

# アートに興味をもったきっかけ
「アートとの距離が近づいたのは、兄の言葉がきっかけでした」

若い頃からインテリアでも、マリ・シムルソンの花瓶のような手仕事による一点ものに惹かれ続けてきましたが、いわゆる「アート」と呼ばれるものに対しては身近というよりはまだ自分の見る世界がそこに焦点が合ってこなかった感じもあり、造詣が深い人が愉しむものだと思っていました。

それが「アートは買えるもの」という認識に変わったのは、本当に最近のこと。兄の一言がきっかけで、アートを今までよりは身近に感じられるようになったんです。

そんな兄自身もアートに触れるようになったのはこの1、2年のこと。ふと「アートは鑑賞するという視点だけではなく、買い物をする気持ちで観てみるとまた違って見えるよ」と話してくれたんです。

それまではギャラリーに行っても、どう振る舞えばいいのかわからなかったのですが、兄の言葉をきっかけに、「蚤の市でかわいい雑貨を見つけてその場で飾り方を考えるような感覚で、アートを観ていいのかも」と思えました。

かわいい雑貨を見つけると、よくよく観察して飾り方を想像したりしますが、兄の言う「買い物をする気持ちでアートを観る」というのも、まさにそうやって自宅に迎え入れてからのことを想像することなのかなと。新しい眼鏡を得たことで、それ以前よりもずっとアートを身近に感じられるようになり、そこから作家さんの作品を購入するようにもなりました。

 

# 思い入れの強いアート
「選んだときの気持ち、それを手にした私はどう感じたのかを、常に心の中で言語化しています」

マリ・シムルソンの花瓶に出会ったときのように、一目見た瞬間に惹かれたのは、加藤大さんの作品です。

小さめのアートはふたつ並べて配置。「サイズに合わせて飾り方も工夫している」と佐藤さん

この作品は、ドレスという非日常にあるモチーフを描いていながらも、ほどよく抽象的で、暮らしになじむ点が気に入りました。

アーティスト、KAZUKIさんの油絵もお気に入り。

「KAZUKIさんの作品は、ピンクとモスグリーンの色使いがお気に入り」

Instagramでフォローしている方の自宅に飾られているのを見て一目惚れしました。KAZUKIさんは、自身の作品を「生きているもの」と考えられていて『リビング・アート』と呼んでいます。

作品をリビングルームにおくことで、空間にも動きや息づかいが生まれてほしいという願いが込められているところが素敵だなと感じますし、そういう空間づくりをしたいなと共感します。

平面作品にも興味が広がったのは、兄の言葉だけでなく、新しい住まいをつくり始めたこともきっかけのひとつです。

実は今、初めての家づくりをしている真っ最中なんです。これまで長年、賃貸マンションに暮らしてきたので「大きな白い壁面も増えるし、壁に釘を打って大きなアートをかけられる!」となり、これまで以上に新たな暮らしをイメージしながらアートを探すようにもなっていきました。

 

# 大切にする「暮らし方」
「私ならではの北欧スタイルや、暮らしを通じた自分らしさを作っていきたい」

夫とストックホルムを訪れたときの体験も、私自身のライフスタイルの基礎をつくってくれたと思っています。

夫との初めてのストックホルム旅の少しあとに、兄とも同じ場所に行くことになったのですが、その際、現地の方の自宅に遊びに行ったんです。その方は日本の鉄瓶を使って中国茶を淹れてくれました。カップ&ソーサーは、私がずっと憧れていたスウェーデンの作家のスティグ・リンドベリのベルサ。このワンシーンだけで、一体いくつの国のアイテムが出てくるのだろう、と目を離せませんでした。

背景やジャンルが異なるものたちが融合している様、固定観念や型にとらわれない大らかさ、肩の力が抜けた自然体な姿がとても心地よく、「こういうふうに自分の価値観で自分の暮らしを編集したい」と感じた瞬間でした。

その後、マリ・シムルソンの花瓶を手にする体験も重なって「私がやりたいのはおしゃれなスタイルをつくることではなく、自分らしく暮らしを編集することだったんだ」と気づいたんです。

そこから約20年ほど時間をかけて、自分が「好き」と感じるものを集めてきました。リビングの棚に飾っている北欧雑貨やアートピースなどは、まさに私の歴史そのものです。

いわゆる年表と呼ばれるものは、出来事が文字で記録されているのが一般的ですが、私の場合はこの棚こそが自分の年表。この子たちを見るだけで当時の景色や体験したこと、感じた気持ちを思い出せるんです。

統一感がなく見えたとしても、ひとつの物語としてつながっている。これまで刻んできた自分自身の足跡のように愛おしく感じています。

 

# アートやインテリアの空間づくり
「アートやインテリアを飾るとき、その場所を景色として捉え、自宅のものとコラボレーションさせています」

自分なりに暮らしを編集するために、アートやインテリアの飾り方で意識しているのは、空間を面で捉えて「景色」として表現すること。

たとえば、真っ白い壁を背景にして、ただ棚やテレビを置くと、そのアイテムひとつがなんだか「浮いて見える」と感じることがありますよね。

だけど、家具の周りにランプを配置して高低差をつけたり、植物で上下から覆ったりして視線を散らすと、家具やインテリアが浮くことなく、その一面が「景色」に生まれ変わります。

また、「センスのいい空間にするためには、このトーンや質感で揃えなきゃいけない」と思っている人も多いと思いますが、揃えることが好き、というわけでなければ統一感を出すことを手放していいと私は思っていて。

年齢を重ねる中で自分が「いいな」と感じるものは変化していくのが自然なことで、その時々の「自分の好き」が揃っていれば、自然と空間は心地よくなるもの。そして、好きなものを空間に迎え入れるとどんどん飾りたいという気持ちが湧いてくるものです。

それらをコラボレーションさせて自分なりの景色をつくる行為から、その人のセンスの表れている空間が生み出されると思っています。

秋野ちひろさんのワイヤーアート作品「ワープ」は、玄関からリビングに続く廊下に飾っている。「ある場所から別の空間へワープしている様子を表現した景色をつくりたかった」と佐藤さん

 

# アートと近づくために
「アートを手にするきっかけは、誰かの真似でもいい。自分のものになってから、その人なりの付き合い方が始まっていくと思います」

自分らしく編集……とは言っても、自分らしさを見つけるのは結構難しいものですよね。自分が好きな作品がどういったものなのか言語化するのも、ひとりの力では難しい。

だから私は最初、「誰かの真似」から始めてみてもいいと思っています。実際、私自身もこれまでいろんな人から影響を受け真似もしてきました。

イルマリ・タピオヴァラの椅子は、20代の頃に憧れていた岡尾美代子さんが紹介していたもの

誰かの真似から購入したアートやインテリアでも、自分のものになってから生み出されて行く行為はその人のオリジナルだと思うから。使い方や飾り方といった「付き合い方」の部分は、誰も真似できない自分だけのもの。

そして、その付き合う過程で、私はこういう色合いが好きなんだとか、こういう飾り方が好きなんだとか、自分らしさに気づいていくことができるんじゃないかと思っています。

だからきっと、アートを手にする「きっかけ」もなんでもよくて、「心の温度が1℃上がった」という感覚を取りこぼさないことが一番大切なこと。まずは自分の「好き」に従ってそれを手にしてみる体験から、日々の暮らしの楽しみが広がっていくんじゃないかと思っています。

 

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DOORS

佐藤友子

北欧、暮らしの道具店・店長

1975年生まれ。2006年に実兄である青木耕平と株式会社クラシコムを共同創業。取締役副社長兼、2007年に開店したECサイト「北欧、暮らしの道具店」では店長として、商品・コンテンツの統括を行う。その傍らで、オリジナルドラマ『青葉家のテーブル』ではエグゼクティブプロデューサー、大人気ポッドキャスト番組『チャポンと行こう!』ではパーソナリティをつとめる。

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