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2024.10.09

「アートを買う行為は自分のオリジナルな考えを育んでくれる」YouTuber・平岡雄太 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.28

Interview&Text / Miki Osanai
Photo / Takuya Ikawa
Edit / Quishin

自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。

お話を聞いたのは、“好きなことがある毎日は楽しい”をテーマに活動する人気YouTuberの平岡雄太さん。iPadやAirPods、お気に入りのTシャツや古着、ヴィンテージ家具など、ガジェットからファッション、インテリアまで幅広く「好きなもの」への愛情や使い心地を日々発信しています。

動画撮影をする仕事部屋に、ペインティングや彫刻作品も飾る平岡さん。「アートを買う行為は、自分のオリジナルな考えを育てる」と語ります。

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クララ ブラン / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.27はこちら!

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「ジャポニスムが一番好き」パリジェンヌ・クララ ブランが“周りを気にしがち”な日本人に発信したいこと / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.27

  • #クララブラン #連載

# はじめて手にしたアート
「自著の挿絵を依頼したいと考えていた方の個展で購入しました」

はじめてアートを購入したのは3年ほど前、2021年の夏です。寺田倉庫で開催された松本セイジさんの個展に行って「ねずみのANDY」の原画を購入しました。

松本さんを知ったきっかけは、自分の書籍をつくるにあたって出版社の方から挿絵を依頼したいイラストレーターやアーティストの候補をいただいたこと。いくつか候補を挙げていただいた中に松本セイジさんがいらっしゃって、作風を一目見たときに「好きだな」と感じたんです。

そこから自分で松本さんのことを調べていると、個展「EVERYDAY」が開催されるとを知り「イラストを描いてもらいたいんだったら個展に行かないと」と足を運んだんです。そこで出会ったのがこちらの作品でした。

 

# アートに興味をもったきっかけ
「作品を購入したことで、アートの世界への関心が深まりました」

YouTube動画を撮影している平岡さんの仕事部屋

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美術館とギャラリーの違いって?

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美術館とギャラリー、何が違う? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.1

  • #和田彩花 #連載

それまでも美術館に行くことはあったけれど、いわゆる画廊などアートを購入できる場所に行ったことはなかったので、松本さんの個展でのすべての体験が新鮮でした。

売れた作品にシールがつけられるのを見て「ああ、こういうところでこうやって購入されていくんだ」と知ったり、松本さんと直接お話しして自分が購入した作品の裏側にあった想いを聞くことができたり。作品の配送のされ方も新鮮でしたね。ダンボールではないしっかりとした箱で送られ、購入した証明書も出してくださって驚きました。

僕は大学生の頃からファッションがずっと好きで、ファッションの世界はアーティストとのコラボも盛んなのでアートに対して「いいな」という気持ちはありましたが、いざ自分が購入することまでは想像していませんでした。

特にペインティングはアートの王道という印象があったので、立体作品よりもハードルが高いものだと思っていて。それでもはじめて購入したアートがペインティングだったのは、それが抽象画などではなくイラストだったという点が心理的ハードルを下げてくれたのかもしれない。イラストは「あっ、かわいい」という感覚で手にしやすいものだと思うので。

松本さんの個展を通じて、それまで知らなかったアートの世界を知ることができましたし、それをきっかけに他のアーティストの作品も購入するようになっていきました。

 

# 思い入れの強いアート
「惹かれる作品に共通するのは『平和な世界観』を感じられること」

matsuiさんの個展で購入した原画もお気に入りのひとつです。

matsuiさんのInstagramを通じて初の個展を開催することを知って、会場に伺い「すごくかわいいな」と感じて購入しました。松本さんとmatsuiさんは、イラストの線が太くて主張が強すぎない作風が似ているなと感じます。

「同時代に生きているアーティストの作品を購入すると、その先の活躍が自分のことのようにうれしくなる。松本さんやmatsuiさんはグッズもたくさん出されていて、僕もTシャツなど愛用しています。“大人の推し活”ですね」と平岡さん

ペインティングだけでなく、仕事部屋には立体作品も飾っています。

kurryさんの木彫りのオブジェは、よく行くヴィンテージショップでひと目見て惹かれ、購入しました。お花のオブジェは花瓶から抜き挿しできるようになっていて、パッケージに「夏場は一日に2、3回、冬場は一日に1回出し入れしてください」と説明が書かれているのもユーモアを感じますね。

酒井智也さんの陶器のオブジェもお気に入り。一つひとつの形状が違っていて、かつ、形も不思議なんですけど、これはロクロを回して一個一個パーツをつくり、それらをご自身のインスピレーションで組み合わせてつくられているそうです。

作品名も意味の通じる言葉じゃないものが付けられていて、理解はできない。けれど僕自身が「もっと理解できないものが許容される社会になったらいいな」という思いを持っているので、それに近づくための一歩として購入しました。

惹かれる作品の共通点は「平和な世界観を感じられること」ですかね。自分自身がわりと鬱屈とした思いをエネルギーにしているタイプでもあるので、そばにあるものは「平和」がいいんです。自分と同じものをまわりに置きすぎると疲れちゃうような気がするから。

 

# アートのもたらす価値
「他人の評価がついていないものを買う行為が、自分の『好き』に気づくきっかけになる」

ヴィンテージ好きな平岡さんの1970年代スイス製のシェルフ。Fat Lavaの花器などお気に入りの一点ものを飾っている

アートを購入するという体験は、自分のオリジナルな考えを大切にするいい練習になっているなと感じます。

アートの世界に正解はなく多様な作品に溢れていて、そして一点一点それなりの金額がするもの。その中で「買う」という行為に至るのは、自分が心から「いい」と思うものだけですよね。インターネットで一切レビューを見ずに自分の価値観だけでモノを買うようなことだと思いますが、それが今の時代、けっこう重要なことだと思うんです。

僕たちはSNSでモノを探すことも、ECサイトで何かを買うことも当たり前になった時代に生きていますが、その中で他人の評価がついていないモノって意外と少ないんですよね。ほとんどすべてにレビューや評価がついている。そして、僕もそうですが、多くの人は他人のレビューがついているモノを信用するし、みんなが欲しいと思っているものをいいモノだと感じる。

悪いことだとは思わないけれど、モノの選び方がそればかりに偏ってしまうと自分が本当は何が好きかがわからなくなってしまいます。

アートは──特に、同時代を生きていてこれからさらに活躍していくようなアーティストの作品は──まだ評価がついていないことがおもしろいんですよね。まだ評価されていないものを自分で評価することで、自分の「好き」に気づくことができ審美眼が磨かれていくと思います。

僕自身、YouTubeの動画一つひとつで自分のオリジナルな考えを世の中に出していくことを常に意識にしているので、審美眼を磨くことを大切にしたいと思っていますし、アートを通じてそういう練習もさせてもらっているのかなと。

 

# アートと近づくために
「個展に行ったり購入してみたり。接触度の高い行動が解像度を高めてくれる」

アートも含め、いろんなモノへの解像度を高めていくためには「買うこと」が一番の近道だと思います。

よく、ヴィンテージの家具売り場などで「いいな」と思ったものがあっても「勉強してから買います」という人がいるけれど、それはもったいない。買うことで主体的に調べようとする気持ちが湧いてくるし、飾ってみたり使ってみたりすることで理解が深まるものだと思うので。

「ピエール・ジャンヌレの家具は民藝のような機能美に惹かれます」と平岡さん

買わなくても、SNSで眺めるだけよりも実際に個展に行ってみるなど、ちょっとずつでも接触度を高めていくことがいいんじゃないかな。アートにおいては、個展に行ってみたらインターネットで眺めているだけじゃわからなかったアナログの質感がわかったりするし、アーティストと話すことができたらより理解が深まったりする。

僕も服を買うときは、オンラインではなく実際に試着してみたり、店員さんから説明をしてもらって購入することを大切にしています。2025年から古着屋さんをやろうと計画中ですが、そこで取り扱う予定の服も国内外のディーラーからヒストリーを聞いて仕入れた一点ものですし、訪れる人には直接見て触れてほしいという思いもあり、リアル店舗という形を取りました。

生で見て、触れることでディティールまで感じ取るということを僕自身はアートに触れるときも大切にしていますし、そうやって情報量を増やしていくことでアート自体をもっとおもしろがれるんじゃないかと思います。

 

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DOORS

平岡雄太

株式会社ドリップ代表取締役 / YouTuber

1990年大阪府出身。株式会社ドリップ代表取締役で、最新ガジェットやヴィンテージアイテムなど自身の「好きなモノ」を中心に発信するYouTuberとしても活躍。著書『はかどる神iPad 』は2万部を突破。2025年1月に古着屋を開業予定。

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