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- 落ち着ける空間には隙と愛がある。ノイカフェ/ Neelオーナー・瀧本祐作が語る、空間にエネルギーを添えるアート / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.24
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2024.06.12
落ち着ける空間には隙と愛がある。ノイカフェ/ Neelオーナー・瀧本祐作が語る、空間にエネルギーを添えるアート / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.24
Text / Yukimi Negishi
Photo / Madoka Akiyama
Edit / Quishin
自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。
お話を伺ったのは、ノイカフェやNeelなど大阪や東京に15店舗を展開する株式会社neu代表の瀧本祐作さん。アーティストやギャラリストと一緒に店舗を手がけ、店舗ごとに雰囲気は異なりますが、「落ち着ける空間をつくること」は全てに共通しているそう。
お話を聞かせていただいた「Neel 中目黒」も、DIYされた壁や古材を使った床に囲まれた空間に、プリミティブアートや抽象的で色彩豊かな油画が溶け込んで、落ち着く空間になっています。15店舗のオーナーである瀧本さんにお店づくりへの想いを聞いていくと、空間に「隙」と「愛」を添えていること、そして「空間の一角にエネルギーを求めてアート作品を飾っていること」がわかりました。
谷川義行 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.23はこちら!
# はじめて手にしたアート
「京都にあるアンティーク家具屋さんに通い、掘り出し物を探す感覚で小物コーナーを見ていました」
「はじめて手にしたアート」と言われて思い浮かぶのは、自分で購入した、ロジェ・カプロンの灰皿。フランスの代表的な陶芸家のひとりですね。
大学時代に、京都にあるアンティークの輸入家具を扱っている「de naja(ドゥ・ナヤ)」という家具屋さんによく足を運んでいたのですが、そこで見つけました。de najaでは、掘り出し物を探す感覚で小物コーナーを見ている時間が好きでしたね。
ロジェの灰皿は、それがアートだと思って買ったわけではなく、裏面に書かれているロジェの名前もわからないまま、ただ模様が気に入って手に取りました。
アートに触れるようになったのは、父の影響も大きかったんじゃないかと思います。
僕が生まれる前に、父が3年ほどケニアに住んでいて、日本に帰ってくる時に現地の置物を大量に持って帰ってきたんです。中には、動物の骨やマサイ族の槍も含まれていました。
大阪府箕面市にある1号店の店舗で飾られているプリミティブアート
# アートに興味をもったきっかけ
「アートかどうかは気にせず、『お気に入りの一角』をつくるためにいろんなものを組み合わせて楽しんでいました」
アフリカのプリミティブアートに触れて育った影響もあってか、国内外のいろんな地域・年代のものをジャンルレスに扱う雑貨屋さんや家具屋さんに、よく通っていました。
大学時代は、はじめてのひとり暮らしがスタートしたことをきっかけに、とにかく自宅の模様替えを楽しんでいたのですが、ロジェの灰皿しかり「それがアートかどうか」ということを僕自身は気にすることなく手に取っていましたね。
ただ部屋の中に「お気に入りの一角」をつくりたくて、家具や雑貨、小物などをジャンルを問わずに組み合わせを楽しんでいました。
模様替えの参考にしていたのは、友人の影響でよく読んでいた『Wallpaper』。デザイン・インテリアを中心にしたライフスタイル誌です。今から20年以上前の話ですが、当時好きだった雰囲気は、ミッドセンチュリーモダン。ほかにも、スペースエイジや北欧スタイルが流行っていました。
「Neel 中目黒のエスプレッソマシーンは、メタルアートをやっている友人と一緒にこだわってつくった、オリジナルロゴを貼っているマルゾッコのものです」と瀧本さん
# 思い入れの強いアート
「お店に飾るアートも置物も、クスッと笑ってもらえるような『ユーモアのあるもの』を意識して選んでいます」
僕自身、落ち着ける空間が好きなので、お店づくりでも落ち着ける空間をつくることを第一目標にしています。たとえばですが、電車の端っこの席って落ち着きますし、あそこに座りたがる人って少なからずいますよね。それから「角部屋」とかも人気ですが、やっぱり角(かど)も人が落ち着くと感じられる特徴のひとつかなと。自分がつくりたいお店も、そんなイメージです。
落ち着く空間って、「隙があって、ギラギラしていない」と思っています。そんな空間をつくるために、あえてお店の中に壁をつくり空間を仕切ることで角部屋っぽさを出したり、椅子や机を基準値から10センチほど下げてお店全体の重心を低くしているんです。
「Neel中目黒店をつくるときは、『外国人観光客をはじめ、桜の季節に休憩したくなる人は多いのではないか』と考えて和室をつくりました」と瀧本さん
また、隙がある空間をつくるために、お店に飾るアートや置物は、クスッと笑ってもらえるようなユーモアのあるものを意識して選んでいます。ユーモアのあるものが、それを見る人の心に隙や油断を生んでくれると思っているんです。
お店のロゴになっている洋梨の絵や店内に飾られている油画、ノイカフェ公式サイトのTOPに掲載されている絵は、すべて本店である1号店の元スタッフ、ユアサメグミさんに描いてもらったものです。
「ノイカフェ公式サイト」 TOPに使われている作品
Neelのロゴ
Neel 中崎町に飾ってある猪熊弦一郎さんのアートは、サンルームという天窓がある小さな部屋の壁に飾った瞬間、ぴったりと空間にはまった作品。
猪熊弦一郎さんのリトグラフ
もともと、箕面の本店に猪熊さんの絵本を飾っていたのですけど、どうしても作品が欲しいという気持ちがあって、ずっと探していたんです。香川にある猪熊弦一郎現代美術館に偶然行ったときに感銘を受け、後日、このリトグラフを見つけたタイミングで衝動買いしました。
堀尾貞治さんのアート作品
本店をつくったときのつながりから、最近、堀尾貞治さんの作品を購入しました。本店は近所の木工作家さんと一緒につくったのですが、奥様がギャラリーをされていて、ものづくりをされている友人が多い方だったんです。
ギャラリーでは色々な出会いがあり、友井隆之さんというアーティストの方にもお店作りに参加して頂きました。友井さんが堀尾貞治さんと即席のライブイベントをやっていたことをきっかけに、堀尾さんの存在を知り、いつか作品を手にしてみたいと思うようになり、こちらの作品に縁がありました。
# アートがもたらす価値
「自分の好きな作家さんに手がけてもらったアートを飾ることは、空間に愛を込める行為だと思います」
お店の一角に自分が納得できない空間があると、この一角の何がおかしいんだろう?ってずっと考えていることもあります。自分が案内されたらいやだな〜と感じる場所は、暗くて、殺風景、愛が感じられない空間です。
そんな一角にアートを飾ることで、エネルギーを感じる場所に変わるような気がするんです。
基本、ユーモアのある一点ものがいいと思っているので、作家さんに絵をお願いして描いてもらうことが多いです。一緒にお店づくりに関わる人は、肩書き関係なく、自分が魅力的だと感じた方にお願いしています。優しくて強い、流されない人が好きです。
その人自身のことをよく知っていくうちに、こういうものができるかもしれないと気づくこともありますし、お願いしていた方が、後々アーティストになっていたということもあります。
何もなかった一角に、自分の好きなアーティストさんにお願いした作品を飾ることは、空間に愛を込める行為だと思います。それが、アートのある場所からエネルギーを感じることにつながっているのかもしれません。
#アートと近づくために
「人を介したきっかけから、アートに触れる機会が始まることはすごく多いと思います」
僕自身は、友だちや知り合いがきっかけでギャラリーに連れて行ってもらうことが多く、そこからアートの世界が広がっていった気がします。人を介したきっかけから、アートに触れる機会が始まることはすごく多いと思うので、誰か詳しい人にギャラリーなどに連れて行ってもらったりすると、アートとの距離が縮まるかもしれない。
それからやっぱり、アートかどうかに捉われずに模様替えを楽しんでみるのも、アートと近づくきっかけになるんじゃないかと思います。そのとき大切なのは、「偏見なくいろんなものを組み合わせてみる」というスタンス。年代やジャンルが違っても、実は飾ってみたら意外とテイストがマッチすることってある。たとえば欧州の人とか、仏像を西洋風の空間にぽんって置いたりするけれど、そういう遊び心が大切じゃないかと思うんです。
neu cafeのお店でアートについて聞かれたら、いつも説明できるようにしたいと思っています。もしちょっとでも興味のあるものがあったら、気軽に聞いてもらえたらうれしいです。
DOORS
瀧本祐作
ノイカフェ/ Neelオーナー
大阪府出身。大学卒業後、カフェのアルバイトを経て、24歳で箕面にある1店舗目のノイカフェ 箕面船場本店を開業。2004年に東京でNeel 神宮前店をオープン。現在、東京と大阪で合計15店舗を経営する傍ら、アンティークショップも経営している。
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