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- アートで自分自身を見つめることで社会と繋がる / 遠山正道(経営者)
ESSAY
2022.01.20
アートで自分自身を見つめることで社会と繋がる / 遠山正道(経営者)
Edit / Eisuke Onda
特集「部屋から、遠くへ」ではアートを愛する方々が、“遠く”を感じる作品についてのエッセイを綴ります。スマイルズ代表取締役社長の遠山正道さんが紹介するのは、遠山さん自身が手掛けた写真作品「社会的私欲〜生彫刻:桃〜」。動く事を規制された社会の中で、個と向き合うことが、社会と繋がるヒントになるかもしれない。遠山さんは、アートの中にそんな思いを込めた。
ARToVILLAオープンに際し、メッセージも寄せていただきました。

「社会的私欲〜生彫刻:桃〜」遠山正道
2021年11月30日〜12月5日に開催された『REAL by ArtSticker DAIKANYAMA ART WEEK』で発表した写真作品。「社会的私欲」という言葉は、遠山さん自身が大切にしている「ビジネスを“自分ごと”として捉える」という考え方を拡大させて再定義したもの。
“好き”が詰まった別荘での一枚。
自分の作品を選ぶとは何とも破廉恥だが“部屋から遠くへ”とあればこれ一択である(きっぱり)。「社会的私欲~生彫刻~」のタイトルが示すのは、自らの足元を掘ったこと*がそのまま社会と通じ得るか? 禅でいうところの“個即全体*”、があるかの細やかで大胆な試みである。
コロナ禍で家に居てみると、仕事に全てをかこつけてはおられず、自らの人生や価値観をもっと自らマネージしなければと気付かされる。まさに“自分の部屋が遠くとつながりうるか”ということ。それには先ず自らの部屋をちゃんと自らのものにする。寸分澱みのない自らの価値観を持ち、浸れるか。
写真に写り込んでいるのは私が昨今一人で通う、1974年に建築家の篠原一男*が設計した「群馬県北軽井沢の家」の部屋で自らの好きを詰め込んだもの。朝の日、西陽の影、薄暮の暗がりに心ときめかせて、好きを閉じ込めフィルムに定着させる。自分がそのままそこに乗っかりこちらを向いておーいと私に手を振っている。
大好きな自分の部屋から、遠くにまで、届きますように━━。
*注釈
-
足元を掘ったこと:哲学者のニーチェの「汝の立つ所を深く掘れ。そこには泉あり。」という名言があるように、物事の心理は外にあるのではなく、自分の中に存在するという意味で「足元を掘る」と使われる。
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個即全体:個があるから全体が存在する。すなわち、個人の行動が全体に影響を与える。また、逆に全体で起きたことが個にも影響を加える。
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篠原一男:代表作に『上原通りの家』などがある建築家。「群馬県北軽井沢の家」とは詩人の谷川俊太郎のために設計した住宅で、年月と共に住み手が変わり、現在は遠山さんが別荘として使用している。
DOORS

遠山正道
経営者
スマイルズ代表取締役社長。商社勤務を経て、スープストックトーキョーを立ち上げる。その後、ネクタイ専門店「giraffe」やニューサイクルコモンズ「PASS THE BATON」などさまざまな事業を展開。近年は、小さくてユニークなミュージアム「The Chain Museum」、アーティストを支援できるプラットフォーム「Art Sticker」などをスタート。
volume 01
部屋から、遠くへ
コロナ禍で引きこもらざるを得なかったこの2年間。半径5mの暮らしを慈しむ大切さも知ることができたけど、ようやく少しずつモードが変わってきた今だからこそ、顔を上げてまた広い外の世界に目を向けてみることも思い出してみよう。
ARToVILLA創刊号となる最初のテーマは「部屋から、遠くへ」。ここではないどこかへと、時空を超えて思考を連れて行ってくれる――アートにはそういう力もあると信じています。
2022年、ARToVILLAに触れてくださる皆さんが遠くへ飛躍する一年になることを願って。
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