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- 足を使えば、記憶に残る作品に出会える。青野賢一が音楽からいざなうアート作品たち
INTERVIEW
2022.10.28
足を使えば、記憶に残る作品に出会える。青野賢一が音楽からいざなうアート作品たち
Edit / Quishin
Photo / Takuya Ikawa
ARToVILLAでは10月から、音楽やファッションや映画など、さまざまな入り口からアートを手にする楽しさへといざなう特集「アートを観たら、そのつぎは」を実施しています。
今回は、BEAMS RECORDSの元ディレクター、現在は文筆家でDJとしても35年間活動を続ける青野賢一さんが登場。音楽を入り口にして手にしたアート作品の紹介だけでなく、青野さんがアートを手にしていった過程、そして「記憶に残るアートとの出会い方」にまでお話が広がっていきました。
出かけることから、音楽とアートが接点を持った
──DJとして活動し、音楽やファッション、美術など文化芸術の領域で幅広く執筆もされる青野さんですが、音楽とアートに接点があるとするならば、ご自身はどんなふうに音楽とアートの接点を感じてこられましたか?
音楽とアートって、どちらもレンジが広いしパーソナルなものでもあるから、その距離が近いのか遠いのか、接点があるのかどうかを、一般化して言うことはできないと思うんですよね。そういった前提がありながら僕の話をすると、音楽を入り口にして出会ったアート作品というのは、決して多くはないけどあって。
僕は1987年からDJをやっていて、音楽の現場に出ることも多くあります。そこでできたつながりから、「今度、個展をやるので見に来てください」とお誘いをいただいて足を運んだり、たまたまDJをやる空間でアート作品の展示があって覗いてみたり。そういうふうに音楽とアートが接点を持っていくようなことがあると感じてきましたね。
もちろん面識のない方の展覧会なども行きますけれど、購入したアート作品はやはり、人との関係性の中で出会った作品が多いかな。その出会い方も、ネットではなくて、出かけて出会ったものです。僕は基本的に面倒臭がりだし、出不精なんですけど、やっぱり出かけないと、出会えない。今回セレクトした作品も、人と人との関係性の中で知った展示会などに実際に行ってみて、出会った作品たちです。
青野賢一さんがセレクトした、音楽の現場で出会った4つの作品
①Wendy'sのポテト容器 / 吉本綱彦
この作品に出会ったのは、世田谷区の三宿にあったwebというクラブで働いていた綱彦くんから、「今度、原宿で展示やるんです」と声をかけられたことがきっかけ。会場である原宿のkit galleryも、松田”CHABE”岳二くんという旧知の間柄のミュージシャン/DJが運営している場所で。「だったら、行く行く!」なんて言って、仕事帰りに寄りました。
このエキジビションでは、彼が自分の足を使って収集してきたゴミを模写し、現物のゴミは真空パックして一緒に展示していました。写真のWendy'sのポテト容器をモチーフにした作品もそのシリーズの一つです。でもあくまで作品は、値段がついている真空パックされたゴミの方だっていうのも批評性があっておもしろいなと感じましたね。
②ペインティング / YUGO.
青山にスパイラルという複合文化施設があるのですけど、そこの地下にかつてCAYという、ライブができるレストランがあったんです。1980年代から国内外のさまざまなアーティストがライブをしたり、またDJイベントが開催されることもあって好きなお店でした。
あるとき、そこで自分がDJをしていたのと同じ日に、YUGO.くんの展示もあって。そのタイミングでこの作品を購入しました。別の機会に買った作品と合わせて、YUGO.くんの作品は2点、持っていますね。
③Shoes / Julia Gorton
ニューヨークの音楽シーンでは、アート・リンゼイとかジェームス・チャンスが活躍し出した頃。ニューヨークのパンクシーンや、ポスト・パンクシーンを切り取った女性の写真家が、Julia Gortonです。
彼女が日本で展覧会をやったのですが、その場所が、恵比寿リキッドルームの2階にあるKATAというスペースでした。この展覧会をオーガナイズされていたのが古くからDJとして活動し、文筆家としても知られる荏開津広(えがいつ・ひろし)さんだったこともあり、足を運びました。作品がフレームに入っているわけではなくて、ラフな感じでバーッと貼り付けられているような展示の仕方で、その中で購入したのがこの作品です。
④コラージュ作品 / FLANGER
FLANGERというのは、INCENSE、IKEBANAといったバンドで活動されていたmakiさんの古着を使ったアートワーク/ファッションのプロジェクト名です。makiさんと知り合ったのはたしか、2000年代前半くらいじゃないかな。そのmakiさんが、世田谷区の奥沢にあるVIVA Strange Boutiqueというお店で展覧会をされると、VIVA Strange Boutiqueの山口美波さんから伺って。山口さんも、SHE TALKS SILENCEという名義で音楽活動をしているんですよ。そんな経緯から展示を見に行って、購入した作品です。通常は古着をコラージュして新たなアイテムとして発表しているFLANGERですが、これは初となる平面作品。ニュー・ウェーヴのレコードのジャケットにでもありそうな雰囲気が気に入りました。
足を使わなければ、記憶に残らない
──ここまで紹介してくださったアート作品しかりですが、出不精とも自称される青野さんが、インターネットが発達した今の時代に、実際に足を運んで、自分の目で見ることにこだわるのはどうしてですか?
たしかに今の時代は、ネットの中になんでも情報があります。でも、スマホの画面で見て「いいね」とボタンを押すだけでは、よっぽどの衝撃じゃない限り、自分の中に感じたことは流れていってしまうもの。足を使って探していない分、記憶に残らないと思うんですよね。なので、SNSでもなんでも、興味を持ったときに「ふうん」と頷いて終わらないで、ちょっと出かけてみる身軽さがすごく大切なんじゃないかと思っています。
──青野さんの身軽さは、音楽、ファッション、映画、芸術といろんなカルチャーを横断しての活動にも通じる部分がある気がします。
たしかに、アートを購入するときも、パッと見て「ああ、いいじゃん」くらいの感覚で購入しています。だから作品名もわからないものが多いんです。アート作品だけでなく、レコードや洋服でも、「こういうものを探しています」というのが僕にはなくて。自分が選びたいものの系統は、なかなか説明がつかないんですよね。
青野さんご自宅のリビング。「家具も、年代やテイストがバラバラ。このバラバラさが、一貫しているところですかね」(青野さん)
その根底には、ひとつの枠組みに自分を収めたくない思いがあるのかな。近年になって、「私らしさ」という言葉を目にする機会が多いと思いますけど、私らしさを自分で決めてしまうことで狭いところに押し込められ、停滞してしまう感覚があるんです。
アートを選ぶときも、私らしさ、あるいは誰かの正しさみたいな枠に自分を当てはめようとせずに、誰がなんと言おうと自分の手元に置きたいと思うものを手にとってもらうのが、その人にとってのアート体験の一番ベストな形になるんじゃないかと思っています。
information
アートなレコードジャケットと共にじっくりと味わい、語らう音楽/アートの鑑賞体験[DJイベント/トークイベント]
〜登壇者:青野賢一(文筆家 / DJ) / 小林沙友里(アートライター / 編集者)〜
このイベントでは、様々な時代のポップ・ミュージックを実際に聴きながら、その曲に込められた意味を青野賢一(文筆家 / DJ)さんと小林沙友里(ライター / 編集者)さんと共に探っていきます。 会場は数々の現代アートが展示されている空間。アーティストがどのような「目」で時代を眺め、作品に昇華するのか、音楽とアートの両軸から考えます。詳細はPeatixイベントページにて。
DOORS
青野賢一
文筆家/選曲家/DJ
1968年、東京生まれ。株式会社ビームスにてPR、クリエイティブ・ディレクター、BEAMS RECORDSのディレクターなどを務め、2021年10月に退社、独立。現在はフリーランスとして、音楽、ファッション、映画、文学、美術といった文化芸術全般をフィールドにした文筆家、DJ、選曲家として活躍している。著書に『迷宮行き』(天然文庫/BCCKS、2014年)、最新刊『音楽とファッション 6つの現代的視点』(リットミュージック、2022年)。
volume 04
アートを観たら、そのつぎは
アートを観るのが好き。
気になる作家がいる。
画集を眺めていると心が落ち着く。
どうしてアートが好きですか?
どんなふうに楽しんでいますか?
観る、きく、触れる、感じる、考える。
紹介する、つくる、買う、一緒に暮らす。
アートの楽しみ方は、人の数だけ豊かに存在しています。
だからこそ、アートが好きな一人ひとりに
「アートとの出会い」や「どんなふうに楽しんでいるのか」を
あらためて聞いてみたいと思います。
誰かにとってのアートの楽しみ方が、他の誰かに手渡される。
アートを楽しむための選択肢が、もっと広く、深く、身近になる。
そんなことを願いながら、アートを観るのが好きなあなたと一緒に
その先の楽しみ方を見つけるための特集です。
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