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2024.06.19
高円寺で世界の民藝を楽しむ! / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS Season2 もっと知りたいアート!」Vol.5
Photo / Maya Masuda
19世紀の画家 エドゥアール・マネに魅せられたことをきっかけに美術史を学び、日々熱心にアートシーンを追いかけ続ける和田彩花さん。一年以上にわたるフランス留学を経て、アートを暮らしに取り入れることの豊かさを体感したといいます。
そんな和田さんの連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Season2では、時代やジャンル関係なくアートを広く楽しむ彼女が「もっと深く知りたい!」と思うアートについてそれぞれの専門家と一緒に鑑賞し、話しあう様子をお伝えしていきます。
第5回では、約100年前に思想家・柳宗悦が説いた民衆的工藝、「民藝」の魅力をもっと深掘りしたいという和田さん。現在、世田谷美術館で開催中の「民藝 MINGEI-美は暮らしのなかにある」(〜6月30日)も、昨年の大阪会場を皮切りに4会場へ巡回し、今後は富山・名古屋・福岡へ巡回するほど、全国的に民藝への注目度は高まっています。
今回は、本展の見どころであるインスタレーションのひとつを手がけたMOGI Folk Art ディレクターの北村恵子さんとテリー・エリスさんが高円寺にオープンした2つのお店へ。現在の民藝ブームに大きな役割を果たしてきたお二人のお店で、民藝の魅力や生活の中での楽しみ方についてお話ししました。
「美は暮らしのなかにある」!
カジュアルにアートや民藝を楽しもう
和田:「民藝」展のインスタレーション、観に行きました! いまだにアートや民藝を家に迎え入れることは少しハードルが高いことですが、北村さんとエリスさんのインスタレーションを見て、アートと暮らしの距離がグッと近くなりました。「こうやって家にアートを取り入れればいいのか!」と真似したくなるような具体的なヒントがたくさん詰まっていました。
「民藝 MINGEI — 美は暮らしのなかにある」世田谷美術館での展示風景より、テリー・エリス/北村恵子(MOGI Folk Art ディレクター)によるインスタレーション。壁にはスカジャンをモチーフにした現代アート作品も 撮影:山本倫子
「MOGI Folk Art」に続いて2024年にオープンしたばかりの「MOGI & MOGI Gallery Shop」の前で、ディレクターのお二人と
北村:あの作品は、私たち二人が住んでいた家をまるごと美術館に移動させたインスタレーションなんですよ。展覧会の巡回が終わるまでの約2年間、部屋の中身をまるごと貸し出しているんです。
和田:すごい! 私が特に印象的だったのは、壁にかかっていた作品です。それぞれ単体で見ると色と形に伝統を感じるものでしたが、飾り方や場所によって鮮やかな空間になるんだという発見がありました。
北村:ありがとうございます。イギリス生活を通じて気付いたのですが、日本は壁を使うのがあまり得意ではないんです。賃貸物件だと壁に穴が開けられないのでアートやポスターを飾ることを諦めている人も多いですよね。でも壁に穴を開けなくても、細いピンを刺して立てかけるなど飾る方法はいくらでもありますし、工夫次第で一気にお部屋の雰囲気が変わります! 家具やうつわの色味やテイストも、統一感は気にせずに感覚的にミックスさせて楽しんでいます。
和田:MOGI Folk ArtもMOGI & MOGIも、日本は北海道から沖縄、そして韓国、ヨーロッパ、北欧、さらにはアフリカまで、世界各地の民藝品が並んでいて、それでもまとまって見えるのが新感覚で楽しいです。ここまで収集するほど、お二人が民藝に惹かれるようになった最初のきっかけを教えてください。
MOGI Folk Artと姉妹店のMOGI & MOGIは、100メートルほどしか距離が離れていないので、お買いものの際は2店舗ハシゴするのがおすすめ(営業時間は各店異なります)
MOGI & MOGIにて。世界各地のお皿や日本のこけし、アフリカ各地の部族のマスクなどがシームレスに並べられていて目に楽しい
民藝に惹かれたきっかけは
柳宗理の名作、バタフライスツール
北村:民藝に惹かれたきっかけは、プロダクトデザイナーの柳宗理さんとの出会いです。私たち二人は元々セレクトショップ「BEAMS」の海外担当のバイヤーで、1994年にBEAMS初のインテリアセクション「BEAMS MODERN LIVING」を立ち上げました。その関係で、ミッドセンチュリーの家具やデザインをリサーチする中で、柳宗理さんのバタフライスツールに出会い、ご本人とも仕事や交流の機会をいただいたんです。当時は日本民藝館の館長でもあった宗理さんから、直々にデザインやインテリアの魅力を教えていただくなかで、プライベートでも、民藝やアートと暮らしの距離がどんどんと近づいていきました。
和田:すごく大きな出会いですね。90年代の民藝に対する世間の注目度や反応はどのようなものだったんですか?
北村:1994年頃の日本では、デザイナーズ家具や生活雑貨は本当に売れず……。しばらくの間は私たち二人が実際に生活の中でものを使って楽しんで、なんとなく馴染んできたタイミングで、少しずつ売り場で紹介していくような形でスタートしました。「民藝」というスタイルを打ち出して、その良さをお客様に理解していただけるようになったのは2000年頃でした。
和田:民藝の良さが伝わるまでに、5年もの長い時間がかかったんですね。今の高い注目度からは考えられないです。最初にBEAMSではどのような民藝が受け入れられたのかも気になります。
北村:沖縄のやちむん(陶器)と北欧のデザイナーズ家具の異文化ミックスでした。私はやちむん特有の絶妙なクリーム色が大好きなのですが、そのほとんどに沖縄の伝統的な絵柄が入っているんです。私はそれも大好きなのですが、当時のお客様には大胆に絵柄が入ったうつわは馴染みが薄く、受け入れてもらうのに時間がかかる気がしました。
そこで地元の作り手さんにお願いし、別注で無地のものをつくってもらうことにしたんです。美しいクリーム色を全面的に活かしたやちむんと、全くカルチャーが異なる北欧家具とミックスさせて売り場に展開したところ、初めてお客様に受け入れられて、とてもよく売れました。お母様へのプレゼントとして特別なときのために買ってくれる若い人も多く、とても嬉しかったですね。
MOGI Folk Artは、うつわのラインナップが充実。店内中央のテーブルには日本全国のうつわが所狭しと並び、さまざまな職人の手仕事を感じられる
棚には、藍色の繊細な絵柄が入ったこけしも。他にも店内の所々にさまざまなこけしがあり、地域や職人ごとの個性が感じられた
実際の使い勝手よりも、とにかく
「好き」と思える感覚を大切に
和田:やっぱり異国のカルチャーをミックスさせる感性が素敵です。買い付けで世界各地の民藝品を見て回ることも、作り手の方への交渉も、とてもやりがいがありそうですね。
北村:私たちは、同じ作り手の元を何十回も何百回も訪れて、毎回仕事とは関係なく、自分たちが使うために20点、30点も買っていました。とにかく通い続けて、きちんと自分たちで買って、実際に試して、その中で本当によかったものだけをお店用に買い付ける。大変なプロセスなので、私たちのようなスタイルのバイヤーは珍しいと思います。
和田:作り手との信頼の築き方が素晴らしいです。作り手の人にとっても、きっと自分がつくったものを心から気に入って使ってくれていると実感できると、買い付けもお店の別注も喜んで受けたくなりますよね。お二人にとって「これはいい」と思えるポイントはどういうところなんですか?
北村:もちろん使いやすさも大事なのですが、私もエリスもそれほど使いやすさには重点を置いていません。好きと思ったものはできるだけ購入して生活の中に取り入れ、使ってみることが大切と思っています。しっくりとくる使い方が見つかるまで、長く時間がかかることもあります。
一見オブジェかと思いきや、陶器でできたスピーカー。エリスさんが素敵な音楽を流してくれた
和田:目で楽しむためだけに買うものもありますよね。それに民藝は、時代に合わせて用途が変わったり増えたりするイメージもあります。
北村:そうですね。作り手の人が、同じものを作り続けていても時代や経験とともに変化があるように、使い手も変わっていくのだと思います。まったく同じものを作ることは不可能なので、その揺らぎみたいなものも人の手を感じられて面白いですよね。
和田:北村さんは、買ってみたものの意外としっくりこない作品に対してどのように工夫したことがありますか?
北村:例えば、若い頃はもったいなくてなかなか使えなかったものが今では日常的に使い込めるようになって、経年変化を楽しんでいます。うつわなら、食べ物によっても全然見え方が変わってきます。少し背の高い深めのうつわなら、お花を挿しても素敵ですしね。民藝ではないですが、何年も食事用に使っていたイギリスの有名なミッドセンチュリーデザインのお皿に、ふと思い立って石鹸を置いてみたらすごく可愛くて。今はバスタブの近くに飾るように置いているんですよ。
和田:それは絶対に可愛いですね! 高円寺は街ゆく人も若い人が多いですが、このお店に来るお客さんはどのような人が多いんですか?
北村:エリスがインスタグラムでお店のラインナップを発信しているので、最近はそれを見て、海外からはるばるお買いものに来てくれるお客さんも多いです。アートや民藝だけでなく、古着も置いているので、高校生や大学生が古着を探しにふらっと入ってきてくれることもあります。若い人で、うつわなどの民藝に興味を示す人はまだまだ少ないので、いつか手に取ってくれたら嬉しいなと思っています。
MOGI & MOGIのほうは、壁一面に現代アートやポスターがずらり
和田:インターネットやSNSに情報が溢れているので、アートに接点がない人や民藝を知らない人にとっては、うつわを見て少し気になったとしても、真面目に買うべき理由を探してしまって購入に踏み切れない人も多いのかもしれません。北村さんやエリスさんのように、自分の中の「好き」に従って、感覚的にいろんなものを買える人が増えたら、もっと楽しい世の中になりそうだなと思います。
北村:誰かが良いというものを買いたいという人も多いし、「失敗したくない」というような感覚が広がってきているのかもしれないですね。スマホやパソコンで何かを調べたらいくらでも情報が手に入る世の中だから、直感的な部分を使う機会が減っているような気がします。直感での買い物は失敗することもあると思いますが、「理由もなく好き」と感じられるような直感を信じることも大事です。
和田:実際に使ってみて、ああやってもこうやってもしっくりこない……となってしまっても、その繰り返しの中で自分だけの使い方や見せ方を見つけていくのも、アートや民藝の醍醐味ということですね。MOGI Folk ArtもMOGI & MOGIも、一目惚れのような感覚に出会えるものがたくさんありました。うつわもアートも古着も大好きなので、この感覚を大事にしながらお買い物を楽しみたいと思います!
Information
「民藝 MINGEI-美は暮らしのなかにある」
【東京会場】
会期:2024年4月24日(水)~6月30日(日)
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:毎週月曜日
会場:世田谷美術館 1・2階展示室
観覧料:一般 1,700(1,400)円/65歳以上 1,400(1,100)円/大高生 800(600)円/中小生 500(300)円 ※( )内は20名以上の団体料金
主催:世田谷美術館(公益財団法人せたがや文化財団)、朝日新聞社、東映
後援:世田谷区、世田谷区教育委員会、J-WAVE
協賛:TOPPAN
特別協力:日本民藝館
協力:静岡市立芹沢銈介美術館、カトーレック
【今後の巡回予定】
富山県美術館:2024年7月13日(土)~9月23日(月・祝)
名古屋市美術館:2024年10月5日(土)~12月22日(日)
福岡市博物館:2025年2月8日(土)~4月6日(日)
HPはこちら
DOORS
和田彩花
アイドル
アイドル。群馬県出身。2019年6月アンジュルム・Hello! Projectを卒業。アイドル活動と平行し大学院で美術を学ぶ。特技は美術について話すこと。好きな画家:エドゥアール・マネ/作品:菫の花束をつけたベルト・モリゾ/好きな(得意な)分野は西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。2023年に東京とパリでオルタナティヴ・バンド「LOLOET」を結成。音楽活動のほか、プロデュース衣料品やグッズのプリントなど、様々な活動を並行して行う。 「LOLOET」HPはこちらTwitterはこちらInstagramはこちら YouTubeはこちら 「SOEAR」YouTubeはこちら
GUEST
北村恵子、テリー・エリス
MOGI Folk Artディレクター
1986年にビームス ロンドンオフィスとしてバイイングを担当。〈ダーク ビッケンバーグ〉や〈クリストファー・ネメス〉など、ロンドンの新しいデザイナーを日本にいち早く持ち込むとともに、90年代中頃から北欧家具や柳宗理のバタフライスツールなどを日本市場に改めて紹介。2003年にビームス内にレーベル「フェニカ」を立ち上げ、日本や世界に伝わる伝統的な手仕事のものの良さを啓蒙する。2022年独立し、「MOGI Folk Art」、2024年に「MOGI & MOGI Gallery Shop」を高円寺にオープン。
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