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2024.05.24

【後編】社会課題に挑む現代アーティストが築く、限界集落にある夢の家へ / 連載「作家のB面」Vol.22 米谷健 + ジュリア

Photo / Shimpei Hanawa
Text / Daisuke Watanuki
Edit / Eisuke Onda
Illustration / sigo_kun

アーティストたちが作品制作において、影響を受けてきたものは? 作家たちのB面を掘り下げることで、さらに深く作品を理解し、愛することができるかもしれない。 連載「作家のB面」ではアーティストたちが指定したお気に入りの場所で、彼/彼女らが愛する人物や学問、エンターテイメントなどから、一つのテーマについて話しを深掘りする。

今回登場するのはアーティストユニット・米谷健+ジュリア。前編では二人がアーティスト活動と並行しておこなう有機農業について伺った。後編では経済システムの破綻、環境問題、戦争などさまざまな課題に向き合う作品制作についてお聞きした。

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前編はこちら!

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【前編】現代アーティストが有機農業を通して考えた、身体と社会のバランス / 連載「作家のB面」Vol.22 米谷健 + ジュリア

  • #連載 #米谷健+ジュリア

 

集落での暮らしは、見られている感覚がなくて心地いい

前編で訪れた畑から車で約30分、二人が運営する作品展示場およびイベント会場「Dreams Art House」へ

──この地で作品制作や農作業をしているお二人を、集落の方々はどのように見ていますか?

健:自分たちの農業のやり方自体がアートパフォーマンスみたいなものなので、みんな珍しそうに見ていましたね(笑)。今どき手で田植えをしているなんておかしいじゃないですか。

ジュリア:みなさん良い方なんですよね。

健:そうそう。現代アートってわかりづらいじゃないですか。でも、作品も農作業もみんな面白おかしく見てくれている。それに、集落の方も結構作家かなと思えるようなものを作っているんです。隣のおじさんは漆喰職人なんですけど、一回自分たちの作品搬出で業者さんが来てたときに、「俺の作品を見てくれ」って連れて、漆喰で作った鹿のオブジェを見せていました。

ジュリアさん

ジュリア:限界集落にわざわざ移住した私たちのことを新鮮に思ってくれている部分もあると思う。

健:先日、「ちょっと手伝ってくれる?」って言われて、ついて行ったら山の中に入っていくんですよ。そうしたら猪が檻の中で暴れまくっていて。猪を軽トラに積んで運ぶのを手伝ったんですが2、3日したら肉になって返ってきました。すごくないですか? これは芸術だと思いましたね。

ジュリア:ただ、子どもたちが都会に出たくなる気持ちもわかるんですよね。便利だし、たまに行くと楽しいなと感じますから。長くいると疲れますけど(笑)。

健:展示会に行ったり、人と会ったりするのは楽しいんですけど、畑で10時間働いているよりも、都会のアスファルトの上を歩いている方がずっと疲れるんですよね。立っていられなくなるほどぐったりしてしまう。あれは一体何なんだろう。あと都会はスーパーマーケットが命綱だから、あれがなくなったら死んでしまう危機感もありますね。

健さん

──都会だと人が多い分、必要以上に自意識が働くことで疲れることもあります。他者からどう見られているかを気にしたり。

健:今はSNSもあるから余計にそうですよね。自然の中にいると見られている感覚がないから気持ちいいのかもしれません。


──都会は人が多い分、無関心になりますが、田舎だと人間関係も濃密になるのでは?

ジュリア:まだ他者として見られているから、そこまで密にはならないかもしれない。

健:自分は村の役員を任されているので、そうもいかないですね。役員も消防団もみんな男性ですから、やはり男社会だなと感じる部分もあります。群れたり集団行動が苦手だから会社員も辞めて作家としてフリーランスになったけど、ザ・村みたいなところに入っていくと、そうも言っていられないですからね。

ちなみに「Dreams Art House」はオフグリッドな建物であるため、水道とガスは通さず燃料には薪を使用している

 

環境破壊に戦争、地球は限界値を超えてしまっている

写真上は会場に展示された二人の作品《Wishes》(2015)はディズニーランドの代表的なキャッチフレーズをディズニーランドのある国々の言語で制作したもの。ウランガラス特有の緑色の光で夢の国の言葉を美しくも不気味なものとして表す

──自身の作品展示場およびイベント会場として制作した「Dreams Art House」について教えてください。

ジュリア:最初は倉庫として使うつもりで、一つの部屋だけ展示スペースにしようかと思ったんですけど、やりだしたら楽しくなってきて、すべて作品展示の場になりました(笑)。

「Dreams Art House」の1階展示スペース

建物入り口にある「夢」と書かれた暖簾

──夢というコンセプトはどこからきたのでしょう?

健:昔観た黒澤明のオムニバス映画『夢』から引っ張り出しました。その中で「水車のある村」という話があるんですけど。

ジュリア:ここも家の前に流れる小川に水車小屋があるんです。

健:「水車のある村」は自立の話なんです。人間は便利なものに弱く、便利なものほど良いものだと思ってしまう。そして本当に良いものを捨ててしまう。そういうことが作中で語られていて。

ジュリア:それと、死を恐れていない。だからお葬式も明るくやるシーンがあるんです。私たちが現代社会で忘れているようなことを思い出させてくれる作品でした。

二人の代表的な作品《クリスタルパレス》(2013)は原発保有国の国名を付け、その国の原発からつくり出される電力の総出力規模をシャンデリアのサイズに比例させて制作。ウランガラスを用いて幻想的な緑色の光を発する構造とした

《スイートバリアリーフ》(2009)は世界規模で発生している珊瑚の白化現象は地球温暖化に加え、砂糖産業に起因する(砂糖キビ畑から河川を通して流出する農薬と化学肥料による)という研究をもとに制作した立体作品。写真はヴェネチア・ビエンナーレに出展した時のパフォーマンスの様子

男性用下着にG-20主要国の国旗を刺繍した作品《景気刺激策》(2017)。サイズは国の債務残高(対GDP比)に一致し、「Sale」の札には下着の値段ではなく、その国の借金の総額を記載した

──これまでにお二人はさまざまな問題意識のもと、作品制作を行ってきた印象を受けます。これからの社会に対して不安は多いですが、お二人がいま喫緊の課題だと考えていることを教えてください。

健:いろいろあるんですけど、経済システムはもう破滅的になっていると思います。そういうタイミングで戦争が起きている。いつも歴史はその繰り返しじゃないですか。経済が立ち行かなくなったときに戦争が起きる。それと、一番危惧しているのは環境破壊。こちらはもう、地球の限界値を超えてしまっている。

ジュリア:夏はもう本当に農作業をしていられないくらい暑いですね。

取材中にカメムシが何匹も視界に入ってきた。「ここ一年でカメムシも大量に増えましたよね。こういう変化からも地球温暖化を実感します」

健:食べ物が作れなくなったら、これは確実にかつての文明が滅びたのと同じ結果になるんじゃないかなと思うんですよね。

ジュリア:あと私が気になるのは、人の意識が単純化していること。国際問題も、あいつが悪いこっちが正しいという言説ばかり。お互いが外交で、妥協して交渉していこうという感じにはなっていないですよね。ウクライナ侵攻もガザ侵攻もそうだし。

健:西も東も、みんな大本営発表をやっているんですよ。

ジュリア:日本の戦時中の言説に似ていますよね。

健:それに平等を謳う一方で、貧富の差はどんどん広がっている。政治を見ていると、市井の人々、一人ひとりの気持ちなんて完全に資本主義の中で舐められちゃっているんじゃないかなと思ってしまいます。

《地球温暖化は終わった!あなたがそう望むなら》(2010)はジョン・レノンとヨーコ・オノが「War is Over!(If you want it)」キャンペーンの一環として、世界各地で行ったベッド・インパフォーマンスのパロディ作品。会場の2階に当時のベットを展示。せっかくなので再現してもらった

パフォーマンス当時の写真

 

テーマは人類滅亡。AIと制作した新作

ミヅマアートギャラリーで開催する新作展示「明日の遺跡」にて発表する作品

──経済と環境破壊、そして二項対立のお話があったと思うんですけど、そこを起点として作られたような作品で例に挙げられるようなものはありますか?

健:これまでの微生物の作品《Dysbiotica》などもそうです。二項対立では割り切れないという答えが、微生物の世界なので。

微生物との共生をテーマにした《Dysbiotica》

健:それから、これから発表する新作はこれまで挙げてきたような自分たちの不安を集めたような作品です。さきほど話した、この人類はまた滅亡するんじゃないかっていう話につながってくるんですけど、滅亡って振り返ってみるとシュメール文明から始まっているんです。たとえばエジプト文明など、滅びるときには感染症や環境問題、戦争などが要因としてあるじゃないですか。今の文明も、また次に出てくるような文明も、また同じことをずっと繰り返していくのかなと思ったりするんです。それを表現したいと思っています。コロナ禍を経ても人類は学びがなかったじゃないですか。変化がなかっただけでなく、むしろ悪い方向に進んでいるように思えてなりません。


──人類の滅亡をテーマにしたという新作について少し伺いたいです。

健:西暦3600年にAI探査機によって発見された人類の遺跡です(笑)。スマホを見ている土偶などをずらっと並べて、AIが支配する未来の博物館展示のようなものを作りました。

新作の彫刻作品《明日の遺跡:礼拝像》2024 陶土(作家が耕作する田畑の土) ©︎Ken + Julia Yonetani Courtesy of the artists and Mizuma Art Gallery

ジュリア:古代メソポタミアの文学作品『ギルガメシュ叙事詩』が刻まれたタブレット(粘土板)を参考にした作品もあります。現代の環境問題や政治的な問題をひっくるめて、新しいギルガメッシュ叙事詩を作ってほしいとチャットGPTに頼んで書き上げてたものを、さらにくさび形文字に変換して、現代のiPadのようなタブレットを模して作りました。それは西暦3600年にAIの探査機が人類の欠片を発見したというストーリー。ミヅマアートギャラリーで展示するのは、そこから出土した作品、ということです。

健:くさび形文字は日本語の音を読み取って書いていくから適当な部分はあるんですけど、歴史的な書物も一般の人からしたらなんて書いてあるのか読めませんよね。だからどんなに大切なことが書かれていても、歴史が繰り返されてしまう。学びがない。そういうのを表そうと思いました。感動的な文章なんですけどね。

ジュリア:アーティストステイトメントもAIが作ってくれました。展示のタイトルも考えてくれて、「明日の遺跡」といいます。古代のイメージが過去と未来を混在させている感じですね。人類史は栄枯盛衰、繁栄と滅亡を何度も繰り返してきたと言う意味合いも入っています。今までの展示とちょっと違うんですけど、ある意味で遊んでる部分もあったりして 、作っていて楽しかったですね。

健:ぜひ、観にきてください。

Information

米谷健+ジュリア個展
『明日の遺跡:デジタル・オデッセイ』
Ruins of Tomorrow: Digital Odyssey

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■会期
2024年5月29日(水)〜6月29日(土)
12:00~19:00 (日曜日・月曜日・祝日休廊)

■オープニングレセプション
5月29日(水)18:00~20:00

■「明日の遺跡」トークイベント
6月29日(土)15:00〜 ※参加無料

■場所
ミヅマアートギャラリー
東京都新宿区市谷田町3-13 神楽ビル2F

くわしくはこちら

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ARTIST

米谷健 + ジュリア

アーティストユニット

環境問題や社会問題などをテーマに入念なリサーチを行い、独自の手法で美しくも不気味なものへと転換する作品は、インスタレーション、ビデオ、パフォーマンスなど多岐にわたる。ヴェネチア・ビエンナーレ(オーストラリア代表、2009)、シンガポール・ビエンナーレ(2013)、茨城県北芸術祭(2016)、ホノルルビエンナーレ(2017)、オーストラリア国立美術館にて個展(2015〜2016)。近年は京都の農村で無農薬農業も営なむ。写真左の健は1971年東京生まれ。東京外為市場で金融ブローカーとして3年間勤務。退職後は紆余曲折を経て沖縄の伝統陶芸壺屋焼き陶工金城敏男に師事(2000~2003年)。その後、2005年オーストラリア国立大学アートスクール修士号、2012年シドニー大学カレッジオブアーツ博士号取得。2009年ヴェネチアビエンナーレ豪州代表に選出。右のジュリアは1972年東京生まれ。ニューヨーク、ロンドン、シドニーで育つ。シドニー大学法学部卒、1996年東京大学 国際関係学部修士号取得、1999年オーストラリア国立大学博士号取得(専攻は歴史)、ニューサウスウェールズ大学日本学准教授、ウエスタンシドニー大学研究員とエリート路線を順調に歩むも2009年よりアートの道に。

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