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- カルチャー酒場のマスター・古谷高治が語る、「アーティストと一緒にステージを上げていく楽しさ」 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.11
SERIES
2023.04.14
カルチャー酒場のマスター・古谷高治が語る、「アーティストと一緒にステージを上げていく楽しさ」 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.11
Text / Miki Osanai
Photo / Shimpei Hanawa
自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。
お話を伺うのは、大阪・心斎橋を拠点に、音楽からファッション、アートまで幅広いカルチャーの情報を発信するTANK酒場のマスター・古谷高治さん。アメ村で1994年に始めたTANK GALLERYから、digmeoutCAFE、digmeoutART&DINERと場所を変えながらも、「まだ世に出ていない才能を発掘して、世に出していくプロジェクトをずっとやっている」と古谷さん。
DJブースが常設されたTANK酒場へお邪魔し、古谷さんのはじめて手にしたアートやお気に入りのアートついて伺うと、「アーティストと一緒に成長していく楽しさ」を感じ続けてきたことがわかりました。
連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.10 / for Cities・杉田真理子 編 はこちら!
# はじめて手にしたアート
「アート的なものとして最初に買ったのは古地図」
一般的にはアートとされないと思うけど、僕にとってのはじめてのアートは、中学1年生の頃に大阪・江坂の東急ハンズで購入した古地図です。東急ハンズのポップアップで売られていた古地図を見て、「ポスターにしたらカッコいいな」と思って購入しました。
この古地図はおそらく、どこかの海図じゃないかな。地図って今はデジタルが主流だから、こういうものがあまり存在しない。アートではないけど、アート的なものとして最初に買ったものでもあるから、思い入れもあります。
僕は子どもの頃から古いものが好きで、古美術とまでは言わないけど、フィギュアや古着をコレクションしていました。中学1年生はちょうどファッション誌を読み始めた時期で、雑誌を入り口にしてなんでも幅広く興味を持っていきましたね。
連載「現代アートきほんのき」Vol.1 / アンディ・ウォーホル 編 はこちら!
# アートに興味をもったきっかけ
「雑誌を端から端まで読んでいたら、いろんなものがカルチャーとして入ってきた」
アートに興味を持ったのも雑誌がきっかけです。
ファッションに興味を持って雑誌を読み始めましたが、80年代にアンディ・ウォーホルやキース・ヘリングが東京に来た特集などを読んで、「アートも面白そう」と興味を惹かれていきました。結果的に、音楽欄やアート欄がすごく好きになりました。
雑誌って、ファッションだけじゃなく音楽もアートも、いろんなカルチャーが載っている。それを端から端まで読んでいたら、全部がカルチャーとして自分の中に入ってきたという感じ。だから僕は「アートもカルチャーや!」と思っていたんです。ネットがない時代だったから、いろんなカルチャーが全部つながったものとして捉えられたのかな。
社会人になったあとは、働いていた職場の裏にあった工房のネオンアートに影響を受けて、「ネオン管職人になりたい」と真剣に考えていました。その工房で働いていた人たちがアメリカ帰りだったので、アメリカに留学しようと思っていたくらい。
でもある日、アメ村(大阪のファッションと流行の発信地・アメリカ村の通称)を散歩していたら、知っている先輩から「ちょっとここやれへんか」とギャラリーカフェを紹介されて。アメリカはいつでも行けるけど、アメ村でお店をやれるチャンスはほとんどないだろうと、ギャラリーカフェをやることにしたんです。
それが、1994年から始めた「TANK GALLERY」。最初は知り合いのアーティストから声をかけ始めて、いろんな展覧会ができる場にしていきました。
# 思い入れの強いアート
「作品を持っているアーティストが売れると胸が高まる」
TANK GALLERYを始めてからしばらくは、アートは購入していませんでした。自分がやっていることはギャラリストというよりも、様々なカルチャーが交差する場をつくっているという感覚だったから。
イメージは、アンディ・ウォーホルのアトリエ兼サロンである「ファクトリー」。ミュージシャンやアーティストを集めて夜な夜な酒を飲みながら、「こんな映画をつくろう」「あんな音楽をつくりたい」と話せる場をつくりたかったんです。
それが1999年に、古武家賢太郎さんの作品を購入したことをきっかけに、アートを購入し始めるようになりました。東京で知り合ったことをきっかけに、大阪でも個展をやりましょうという話になり、ギャラリーで個展をしていただいたんです。この絵は、そのときに購入させていただきました。
古武家賢太郎さんが大阪で個展を開催したときの、DMの原画でもある作品
単純に絵がすごく好きになって、「これだ!」と狙い撃ちで購入。2000年代になると古武家さんがどんどん売れていって、「作品を持っているアーティストが売れるって、胸が高まる感じがあるんだな」と知りましたね。
中村muchoよしてるくんの作品も、思い出深いものがあります。古いTシャツやめんこなんかをコラージュして作品をつくるアーティストなんですけど、この作品は古いマッチ箱を使ったコラージュ作品。マッチ箱はもともと僕がコレクションしていたものなんです。
古谷さんのマッチ箱を使った、中村muchoよしてるさんのコラージュ作品
ベースの赤色はTシャツ。彼も古着が好きで。古いもので新しい命を生み出しているのが、すごくいいなと思っています。
アートは100点以上所有していますが、家の中に全部は飾っていません。4、5点の作品を季節に合わせて入れ替えて楽しんでいる感じです。
ミヤザキコウヘイさんの作品。「モザイクみたいな感じで木片に色を塗って、カットしてるというのがいいなと思って」
# アートと近づくために
「見る機会を増やせば、『自分の好み』がわかっていく」
2002年には、僕の審美眼が面白いとお声がけをいただいて、FM802のアートプロジェクトが手がける「digmeout CAFE」の店長に。その後、リニューアル移転した「digmeout ART&DINER」のマスターを経て、今に至ります。
場所が変わっても、やっていることは基本的に同じ。まだ世に出ていない才能を発掘して、世に出していくプロジェクトをずっとやっていると思っています。僕は、メインストリームよりもインディペンデントな存在を応援したいという気持ちが強いんです。
自分がどんな作風が好きなのか、あるいは、どんなアーティストに惹かれるのかという「自分の好み」は、単純に見る機会を増やしていけばわかっていくものだと思います。それはアートだけでなく、音楽やファッションなど他のものにも言えること。
僕自身は、ファッションはリーバイスの501XXを集め、音楽は90年代前半のアシッドジャズムーブメントにハマって、メインストリームはもちろん、ズレたところで起こっているサブカルチャーや、エッジなモノに惹かれるんだな、と自分自身を知りました。
たくさん触れることによって審美眼が養われていき、欲しいものを選べるようになる。だからこそアートに関しても、触れる回数を増やす方法を考えていくほうにアンテナを伸ばしていきたいですよね。そうすると僕が古武家さんの作品に「これだ!」と思えたように、いつか自分の欲しいものに出会えるんじゃないかな。
# アートのもたらす価値
「お店をやりながらアーティストと成長できることが楽しい」
インディペンデントな存在を応援したいという想いがあるのは、僕自身が20代の若い頃に「アーティストと一緒に成長して、ステージを上げていきたい」という気持ちでギャラリーを始めているから。
「一緒にステージ上げていこう」なんておこがましいかもしれないと思いながらも、お店をやりながらアーティストと成長できることがすごく楽しいので、今もできることを続けてやっています。アートを購入するときも、新人の作家や作品が世の中でまだあまり知られていない作家を応援する気持ちで購入することが多いかな。
作家と一緒に成長していく楽しさは、アートを購入することでも感じられると思います。やっぱり一回購入すると、自然とその先のことを追いかけたくなるものだから。その結果、何年も経ったあとに、「あの作家さん、めちゃくちゃ売れたね」ということも起こるかもしれない。
TANK酒場にギャラリーはないけど、僕は音楽もファッションもアートもカルチャーとして好きだからPARCOの別フロアなど他の場所を使って個人でアートプロジェクトも企画しているし、それはこれからも続けていきたいこと。それがTANK酒場でつくり続けている音楽シーンと、いつか絶対に融合すると思っているんです。
新しいものって、何かと何かがうまく混ぜ合わさって生まれるもの。TANK酒場も2021年にオープンしたばかりなので、これからもっと軌道に乗せて、アーティストのステージを上げるきっかけを作り続けていきたいです。
DOORS
古谷高治
TANK酒場マスター
大阪府出身。マロニエファッションデザイン専門学校を卒業して就職したのち、1994年にアメ村で『TANK GALLERY』を始める。2002年にFM802のアートプロジェクトが手掛ける『digmeout CAFE』の店長に就任し、2006年にリニューアル移転した『digmeout ART&DINER』でマスターを務める。2021年に心斎橋PARCO地下2階心斎橋ネオン食堂街にTANK酒場をオープン。多くのイベント企画やアートプロジェクトを手がけ、アーティストの活躍の場をつくる。
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