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- 小谷実由がアートに感じる、変わらない「好き」という気持ち / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.7
SERIES
2022.12.23
小谷実由がアートに感じる、変わらない「好き」という気持ち / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.7
Edit / Yoshiko Kurata
Photo / Kyohei Hattori
自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。
今回お話を伺うのは、モデルの小谷実由さん。雑誌やカタログ、広告などでモデルとして活躍するほか、2022年に初のエッセイ本「隙間時間」を刊行。さまざまな作家やクリエイターたちと企画にも取り組むなど、普段から表現者と接点の深い小谷さんの自宅にはアート作品が飾られています。お気に入りの喫茶店「ローヤル」でアートとの最初の出会いとなった展覧会での印象的なエピソードから、そこから徐々に慣れ親しんできたアート作品への直感力のあり方を穏やかにお話してくださりました。
音楽を通じて出会ったアートの世界
――ご両親の影響で幼い頃から、音楽にまつわるグラフィックデザインやアートワークに触れる機会が多かったそうですね。
そうですね。両親ともに音楽に興味があったことから家にたくさんレコードがあったんです。それらレコードやCDジャケットに描かれているアートワークに興味を持ったり、音楽から当時流行っていたカルチャーにハマるような学生時代を送っていました。ひとつ興味を持てば、父親も次から次へとオススメの音楽やアーティストを勧めてくれたんですよね。
――そこから、アートに意識的に興味を持ったのはいつ頃でしょうか?
だいぶ遅い方だと思います。小さい頃は、そうやってジャケットのアートワークから音楽や衣装、その年代の映画まで派生したカルチャーに興味を持っていたのですが、展示を観に行ったことはなくて。20代前半にいまの夫である映像作家・写真家の島田大介さんと出会ったことから、一緒に美術館の展覧会や写真展などに足を運ぶようになりました。そこから、自分もモデルとして「あの写真家さんに撮ってもらいたいな」「あの方と一緒に仕事したいな」という気持ちから能動的に写真家やアーティストの作品や展示を調べるようになりました。
「わからない」ということへの恐怖心からの解放
「わからない」ということもひとつの解釈
――展示に行き始めた中で、印象的な展覧会について覚えていますか?
2012年に東京都現代美術館で開催していた展覧会「アートと音楽-新たな共感覚をもとめて」ですね。総合アドバイザーに音楽家・坂本龍一さんが携わっていたことから、興味を持って行ったのですが、まったく自分の中で消化できなかったんです。自分が好きな音楽を作っているひとの表現のひとつである、作品や空間に触れてみたいという好奇心で行ってはみたものの、想像以上のスケールとインスタレーションに圧倒されただけで終わってしまって。そのことがすごくショックでした。いま思えばそんなことないんですけど、会場にいる鑑賞者は全員理解しているように見えて、わたしだけ場違いなんじゃないかって焦りと孤独感を感じちゃって(笑)。いまでは「あれ、わかった?」と気軽に一緒に行った友達に聞けるようになりましたけど、当時はそれすら怖くて口に出せなかったんですよね。
――ジャケットのアートワークや写真など平面作品と違って、空間作品はより鑑賞者それぞれの体感による解釈が委ねられますよね。
絵画と違って明確なキャプションがないから、どこからどう見ることが正解なのか困惑してしまいましたね。一緒に観ている人が感じ取っているものと、自分の琴線に触れたものは違うことが鑑賞体験の面白さでもあると今では理解できますが、当時はどの言葉で表すことが正しいかという考え方に縛られていたんだと思います。
――「わからなかった」もある意味、感想のひとつだとは思いますが、なかなか緊張感のある場所では言いにくかったりしますよね。そこから素直に展覧会に向き合えるようになったきっかけはありますか?
具体的になにかの展覧会をきっかけに変わったわけではないですが、いまだったら、当時よりもう少しなにか感じられるはず…だと思いたいです(笑)。歳を重ねる中で、作品から自分の過去の記憶や気持ちを思い起こすことは多くなったのかなと。例えば、今年6月に京都で開催していたブライアン・イーノの展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」で、しばらく音に包まれた空間に身を置いているうちに癒されたり、過去の記憶を思い起こしたり。以前に比べるとそのような反芻する回路はつながっているような気がします。
はじめてのアート作品
――本日持ってきていただいた、作品との出会いについて教えてください。ドローイング作品でしょうか?
タイの漫画家のウィスット・ポンニミットさん、通称タムくんの原画作品になります。毎年、タムくんは、六本木・ADギャラリーで個展を開催しているんですけど、この作品は7〜8年ほど前に購入した作品です。展示会場一面の壁にメモに書いた原画がバーっと貼られていて、どれも3000円ぐらいからの手頃な値段だったので、20代前半の私でも手にしようと思える作品でした。
――この作品のどのようなところに惹かれたのでしょうか?
タムくんの描く「マムアン」ちゃんは、活発的な表情をしていることが多いんですけど、それとは違って、このちょっと拗ねているような表情に親近感が湧いて、一目惚れで買いました。当時はファンとして行ったのですが、いまはご飯をみんなで一緒に食べに行く友達として彼を近くでみている中で、レストランにあるコースターやメモ帳など紙切れを見つけた途端に自ずと絵を描き始めるんですよね。その場にいるみんなの似顔絵を描いてひとりずつに渡したりして。そうやって日常的に手を動かしているんだなと近くで見ていて感動しますね。
――ウィスット・ポンニミットさんの作品は他にもコレクションしていますか?
当時でも奇跡的に手に入れられた程の人気なので、原画はいつも売り切れてしまっていて…。いつか手に入れたいなと思っています…!
「好き」という直感に変わりなし
――お家には他にも作品が飾られているそうですが、それら作品の共通点などありますか?
花や猫など好きなモチーフと色合わせから、自然と統一感が出てる気がします。青が好きなこともあって、家に飾ってある夫の作品も海の写真ですね。
――平面作品が多いのでしょうか?
そうですね。その中でも写真作品は多いです。最近購入した作品も、写真家・木村和平さんの個展「石と桃」で一目惚れしたものです。飯田橋にあるギャラリー「ロール」で開催していたのですが、マンションの一室のような会場に写真が壁や平置きなどさまざまな展示方法で発表されていて、展示方法にまず惹かれたんですよね。平置きされている写真を上から覗き込むなんてこと、なかなかないじゃないですか。その中で、平置きで猫が写真を覗いているように見える作品を買いました。家に飾るにしても、眺めるというよりもわざわざ観に行くのである意味、贅沢な鑑賞体験だなあと感じます。この作品は夫が購入すると決めたのですが、私もお気に入りの作品です。
木村和平さんの個展「石と桃」で購入した作品
――カメラのファインダーを覗くことはありますが、作品を覗くという体験は新鮮ですね。作品を購入するときの決め手はなんでしょうか?
直感ですね。「好きだな、飾りたいな」と思って、そこから実際に家にあることを想像していきます。もちろん値段で悩むことはありますけど、割と即決です。
――ある意味、洋服選びの感覚と似ているのでしょうか?
似てるかもしれないですね。洋服に対しても着ることが一番好きですけど、着なくなったとしても持ってるだけですごく心が満たされるので、同じ感覚で作品も洋服も触れていますね。
――どちらもコレクションするときに意識していることはありますか?
長く好きでいたいという気持ちは、作品や洋服に限らず持っているものに対して意識してます。「好き」と思ったとしても、それが一過性の気持ちだったら買わないですし、ずっと大事に思える存在としてみています。それもだんだん時間をかけて大切に思えてくるというよりも、最初の出会いで「絶対好き」って確信できるものがコレクションの基準になっています。
――自分の気持ちに向き合うんですね。
そうですね。たとえ「いいな、好きだな」と思っても、最近ちょっと気になるテイストだからっていう理由だけかもしれないと踏みとどまることもあります。なので、直感を大事にする一方で、同時になぜ好きなのか理由もちゃんと自分の頭の中で思い浮かべてますね。洋服だとやはり流行りのサイクルがあるので、着なくなる頻度も高いんですけど、作品に対する好きになった気持ちは出会った瞬間から変わらないです。そこは作品と洋服を長い目で見たときの違いかもしれないですね。
――そのように自身の直感をたよりに出会った作品が家にあることで、どのような影響が日常にうまれていると感じますか?
自分の好きなものが常に生活の中で目に入ることで、帰宅したふとした瞬間でも作品を観ると嬉しい気持ちになるんですよね。室内に差し込む光に照らされる作品を観て、やっぱりいいなあと思える。それは自然光や自分の心境がどんなに見え方が変化したとしても、作品への気持ちは変わらなくて。むしろ作品を観るたびに「好き」という気持ちの確信が深まる、そんな大事な一瞬をアート作品はつくってくれます。
DOORS
小谷実由
モデル/文筆家
1991年東京生まれ。14歳からモデルとして活動を始める。自分の好きなものを発信することが誰かの日々の小さなきっかけになることを願いながら、エッセイの執筆、ブランドとのコラボレーションなども取り組む。 猫と純喫茶が好き。通称・おみゆ。 2022 年7 月に初の書籍『隙間時間(ループ舎)』を刊行。
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