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- ルーカスB.B.が選ぶ「部屋から、遠くへ」誘う作品たち。自然とともに生きるために
INTERVIEW
2022.01.20
ルーカスB.B.が選ぶ「部屋から、遠くへ」誘う作品たち。
自然とともに生きるために
Photo / Gyo Terauchi
たとえ家の中にいても、遠くに足を運ぶことができなくても、アートとともに暮らすだけで、私たちはどこにでも旅立っていける。ARToVILLAの初回特集「部屋から、遠くへ」は、そんな思いを込めて設定されたものです。
今回は、日本発の世界を旅するトラベルライフスタイル誌『PAPERSKY』編集長・ルーカスB.B.さんに特集テーマに基づいたご自身のアートコレクションをご紹介いただくほか、自宅にアートを取り入れる際のこだわりポイントや、雑誌とアートとの共通点についても伺いました。
『PAPERSKY』
有限会社ニーハイメディア ・ジャパンが発行する、2002年創刊のトラベル・ライフスタイル誌。表紙のダイマクションマップが表現するように、ひとつの連なる世界を意識し、さまざまな土地の豊かな物語を紡いでいくメディアです。
アートを目にした瞬間の「心の動き」を大事にしたい
――今回は、ARToVILLAの初回特集である「部屋から、遠くへ」をテーマにアート作品をご紹介いただきます。はじめに、ルーカスさんがご自宅にアートを取り入れる際に意識しているポイントを教えてください。
作品に出会ったときに、心が動くかどうかをとても大事にしているよ。アート業界にはコレクターがいるけど、中には株を買う感覚の人もいるし、「買ってからあとで売ろう」と考える人もいると思う。でも、僕はいくら価値があるとかはまったく考えていない。
今回セレクトした作品は、『PAPERSKY』の企画で関わった友人たちのものがほとんど。だから僕はこれらの作品を見るたびに、過去の仕事のことを思い出して誇らしい気持ちになる。僕自身が描いたり撮ったりしたものではないけど、自分が関わった企画から生まれたものだから、1%でも自分を作品の一部のように感じられるのが嬉しいと思うよ。
ルーカスB.B.さんがセレクトした、「部屋から、遠くへ」行ける7つの作品
①木彫りの山 / 高野夕輝
『PAPERSKY』北海道特集の取材で出会った、山の形の彫刻や木彫りのクマをつくっているアーティスト・高野夕輝さんの作品。アウトドアブランド「and wander」と一緒に企画した展示『みんなで、山思うプロジェクト展』を行ったときに、彼にも参加してもらって。彼の作品は人気であっという間に完売しちゃったから、展示が終わったあとに注文して購入させてもらったんだ(笑)。お気に入りの自転車のフィギュアと一緒に、本棚に飾っているよ。
②Tokyo Tree Trek / ジェリー鵜飼
東京特集号の企画「Tokyo Tree Trek」に参加してくれた、旧友でもあるジェリー鵜飼さんの作品。ジェリーさんとは『TOKION』の頃から一緒にものづくりしているから、もう25年くらいの付き合いかな。これも僕らの展示に合わせてつくってもらったものなんだけど、イラストにも文字にもなっていてお気に入りなんだ。風の強い、寒い日に一緒に自転車で走って東京の樹木を巡って生まれたものだから、見るたびにそのときの気持ちを思い出せる作品だね。
③山の絵 / 佐々木愛
彼女は山や自然をモチーフに空想の世界を描く作家なんだけど、これは『PAPERSKY』の特集で一緒にスイスに行ったときの作品。スイスの美しい風景を描いたアーティストたちを紹介しながら、作品が描かれた場所を実際に訪れて、愛さんにもその場所の風景を描いてもらって。この作品はお客さんとミーティングする場所に飾っているんだけど、「いい写真ですね」ってよく言われるよ。「じつは絵なんですよ」と伝えると、みんな驚くんだ。
④海で拾った廃材で作ったランプ / 齋藤徹
葉山に住んでいる友達から、プレゼントしてもらったランプ。浜辺に落ちていたタンクのキャップなんかを再利用してつくられたもの。夜、ライトを点けるとカラフルな光を発して温かい気持ちになるよ。
⑤海の絵 / 岸田ますみ
これも一見写真のようにも見えるけど、海辺の絵。ますみさんは、故・安西水丸さんの奥様でもあるのだけど、以前、僕らが制作していたファミリー向けのフリーペーパー『mammoth』で、水丸さんにイラストを依頼したご縁で出会って。2013年頃かな。彼女も灯台が好きで、砂浜や海辺をモチーフにした作品も多く、すこしドリーミーで自然の雰囲気を感じられる絵を描いている。いつでも旅する気分になるように、『PAPERSKY』のグッズを置いてある棚に一緒に飾っているよ。
⑥ガラスの写真 / 渋谷ゆり
渋谷さんとは、彼女が大学生の頃からの知り合い。この作品はNYのスケートボーダーの写真をガラスの中に閉じ込めたもので、自然光が入る、1階の本棚に置いてあるよ。ガラスが光をとりこんで反射して、すごくきれい。
⑦掛け軸 / Naijel Graph(ナイジェル・グラフ)
玄関に飾っている掛け軸。「MEDETAI」って描いてあって、気分がいいでしょ(笑)? ナイジェルは20年以上前に、いきなり「会いたい」って連絡をもらって出会ったんだけど、この間、久々に事務所に遊びにきてくれて。当時彼は『TOKION』の読者で、僕と出会えたことがいい経験だったって言ってくれて、そのお返しにくれたのがこの掛け軸。ショッピングバッグや段ボールをリメイクしてつくられたものだよ。
『and wander「OUTDOOR GALLERY」with PAPERSKY』
アンドワンダー創業の地にオープンした「OUTDOOR GALLERY」は、自然に魅せられ、山へ行く、旅に出る、そして日常のなかの驚きや発見を楽しむ人々のために開かれたスペース。
旅するメディア『PAPERSKY』と、ここを訪れる人々とともに新たな文化を生んでゆく、現在進行形のギャラリーです。
アートと雑誌の共通点は、行動を起こすきっかけになること
――ルーカスさんが編集長を務める雑誌『PAPERSKY』も「旅へと通じるどこでもドア」をテーマに掲げており、今回の特集「部屋から、遠くへ」に通じる部分もあるように思えます。ルーカスさんご自身は、雑誌とアートの共通点を感じる瞬間はありますか?
雑誌にもアートにも共通していると思うのは、「ないもの」を「あるもの」として届けることができるところかな。『PAPERSKY』を例に挙げると、東京特集号の「Tokyo Tree Trek」という企画で都内の巨木・樹木をめぐるコースをつくったんだけど、全長60kmにわたるコースを6つのセクションに分けて、セクションごとにイラストを描き下ろしてもらって。そうすると、いままでイメージも何もなかった木の存在が、そのエリアのアイコンになって、「いつかこの道を歩きたいな」と思うようになるよね。
僕たちがつくっているのは雑誌だけど、中身になるメッセージがなければ真っ白なただの本でしかない。アーティストも、真っ白なキャンバスに、どういうふうに世の中にメッセージを届けたいかを考えて描くだろうし。『PAPERSKY』は雑誌だけど、商業ベースのものではないから、自分たちの作品を届けるような気持ちでつくっているんだ。まだ見えていないものを具体化させて、見た人の中で現実のものにしていく力があるのは、雑誌もアートも変わらないかな。気分をよくしたり、行動を起こさせることができるものだと思う。
ジェリー鵜飼さんが描き下ろしたイラスト(提供:PAPERSKY)
生きることすべてがアート
――アートに敷居の高さを感じている人も、まだまだ多くいると思います。そういった人がより気軽にアートを楽しんだり、身近なものに感じるためにはどうしたらいいと思いますか?
生きることすべてがアートみたいなものだと思うんだ。たとえば食事。どこにでもあるお皿と割り箸でも食べることはできるけど、お気に入りの素敵なお皿を取り入れたらもっといい時間になるよね。どこかの地域で作家の工房を見て買ったりだとか、料理と好きな形のお皿を組み合わせたりとか、ちょっとしたことでもアートを日常的に楽しめるんじゃないかな。簡単なことでも豊かさを得ることができる。
「高いものがいいアート」ということではなくて、値段が安いものでも、自分で拾ったものでもいい。自分の心が動いたもの、面白いと感じたもの、逆に、見ているとものすごくいらいらするものでもいい。これを置くと猫が来ないだろうな……と、魔除けみたいに扱ってもいいし(笑)。いわゆる作品だけがアートではないし、本当のアートっていうのは、表現とか編集とか、心のあり方のことだと思うよ。
DOORS
ルーカスB.B.
Editor & Creative Director
1971年、アメリカ・ボルティモア生まれ。サンフランシスコ育ち。12才で雑誌制作を始めてから現在まで、読者の視野を広げ、インスピレーションを与える、オーガニックなメディアを制作し続けている。1993年、カリフォルニア大学を卒業し、卒業式の翌日にバックパックひとつで来日。『TIME』『WIRED』『JAPAN TIMES』にて、カルチャーやライフスタイルを専門とするフリーランスのライターとして活動し、1996年に日英バイリンガルのカルチャー誌『TOKION』を創刊。90年代に日本のユースカルチャーを世界に向けて発信し、伝説の雑誌となった。その後、2002年にトラベル・ライフスタイル誌『PAPERSKY』を創刊。“エスノ・トラベル”という新たな視点で、時間、自然、文化をシームレスに融合させ、未来とつなぐフレッシュなメディアを創造している。
volume 01
部屋から、遠くへ
コロナ禍で引きこもらざるを得なかったこの2年間。半径5mの暮らしを慈しむ大切さも知ることができたけど、ようやく少しずつモードが変わってきた今だからこそ、顔を上げてまた広い外の世界に目を向けてみることも思い出してみよう。
ARToVILLA創刊号となる最初のテーマは「部屋から、遠くへ」。ここではないどこかへと、時空を超えて思考を連れて行ってくれる――アートにはそういう力もあると信じています。
2022年、ARToVILLAに触れてくださる皆さんが遠くへ飛躍する一年になることを願って。
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