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- 一点物を自由に楽しむ高山都にとってのアート「一日の終わりとはじまりに目を合わせ、心身を整えてくれるもの」
INTERVIEW
2024.07.31
一点物を自由に楽しむ高山都にとってのアート「一日の終わりとはじまりに目を合わせ、心身を整えてくれるもの」
Text / Yukimi Negishi
Photo / Madoka Akiyama
Edit / Quishin
暮らしの中にアートを取り入れている人は、家の中のいつ・どこで、どんなふうに、アートを楽しんでいるのだろう?
お話を聞いたのは、料理やインテリア、ライフスタイルの発信が人気な、モデルの高山都さん。2022年に結婚された夫の安井達郎さんと住まう自宅には、お気に入りの食器や花瓶、ランプなどとともに、アート作品が溶け込んでいます。
工芸品や民藝品と境目なくアートを愛でる高山さんに、日々実践している「飾り方や使い方を決めつけない自由な楽しみ方」を教えてもらいました。
トーンの美学を守りながら「この世にふたつとないもの」を自由に楽しむ
――2021年の3月に引越した現在の自宅は、ご自身でリノベーションされたそうですね。うつわや花瓶など、日用品もこだわりのものを使っている印象を受けていますが、そういったもので彩られる空間全体のコンセプトはありますか?
家のテーマはミクスチャーです。
吹きガラスのライトはカリフォルニアの作家さんがつくられたもので、椅子とテーブルはデンマーク製、でもガラスの食器棚は日本のもので年代も古い。古今東西、有名無名を問わず、違う場所からきたものを一緒に置いて、スッと馴染むような空間をイメージしてつくっています。
ただ、なんでもかんでも詰め込んでいるわけではなくて。自分が気持ちいいと感じる質感で、トーンを揃えることだけは意識しています。作家さんの手でつくられたこの世にふたつとないものが好きで、手仕事の香りがしつつ完璧ではない余白を感じさせるものに惹かれます。そういったもので生活環境を整えることが、私の中のトーンの美学です。
和製のガラス棚には好きな作家さんの工芸品が収納されている
――高山さんのトーンの美学はどのように育まれていったのでしょうか。
一つひとつのモノの質感に意識が向くようになったのは、30代になってからですね。
感度の高い先輩に、いろんなジャンルの人やモノと出会える個展や美術展などに連れて行ってもらったことで、20代の頃には見えていなかった自分の感性が浮き上がってきたように思います。
また、30代半ばくらいからは、「これがあったら気持ちいいだろうな」と思って手にしたものを、「もっと自由に使ってみる」ということもはじめました。家ではワインクーラーを花瓶として使っていたり、酒器を小鉢にして使っていたりします。
アートもそういう感覚で、明確な飾り方や楽しみ方を決めてはいなくて。大好きな木工作家のnarukiくんのスツールは、花瓶を置いたり、本を読んだりコーヒーを飲んだりするときのテーブルにしたり、座ってみたりなど日常のいろんなシーンを共にしているんです。
――自由な使い方をするようになったのは何がきっかけだったんですか?
一番大きなきっかけは、初のエッセイ本を出した34歳の頃に、昭和の名女優である高峰秀子さんの著書『コットンが好き』という本に出会ったこと。その本の中に、うつわなどはもっと自由に使ってもいい、といったことが書かれていて。それまで自分の中にあったモノに対する「こうでなきゃいけない」という固定観念が外れたんです。
作家の向田邦子さんも大好きで、生前は自分の芯を貫きながらも、自由な発想と創意工夫で暮らしを楽しまれていたことに惹かれます。人生の大先輩の暮らしぶりを知り、私自身ももっと、自由に暮らしを楽しみながら年を重ねたいと思うようになっていきました。
一日の終わりとはじまりを整えてくれる、寝室のアート
――高山さんがアートを暮らしに取り入れるようになったきっかけについてもお聞きしたいです。
4、5年ほど前、誕生日に友人からnarukiくんの作品をプレゼントされたことをきっかけに、はじめて家の中にアートをお迎えしました。最初はどうやって飾ったらいいのかわからず、前の家ではなんとなくテーブルの横に置いていたけど、引越してリノベーションした空間にnarukiくんの作風がしっくりと合う感じがして。
今はその作品にヒバの木のチップを入れて玄関に飾っています。そういうふうに飾り方を楽しめるようになってから彼の作品がどんどん好きになって、個展にも行きはじめ、少しずつ作品を集めるようになりました。
――生活環境にアートを取り入れるようになって、暮らしそのものに変化はありましたか?
一番の変化は、朝と夜の気持ちよさが変わって、心も体も健やかに過ごせるようになったことですね。実は数年ほど前、心身ともに疲れ果ててしまって上手に眠れなくなってしまった時期を過ごしていました。
友人からたくさんサプリメントや入浴の仕方などアドバイスをもらって全部試してみたのですが、それでも眠れなくて。とにかく自分で工夫して変えていくしかないと、寝る環境そのものを整えることにしたんです。引越しも、寝る環境にフォーカスしたいと思ってのことでした。
引越し後は前の家よりもずっと広い寝室空間にして、枕元に花を飾ったり、お気に入りのアートを飾ったりして、空間を整えていきました。そうするうちに、目覚めたときと眠りにつく前の気持ちよさが変わっていき、段々と眠れるように。
この経験から、「私は、『一日のはじまりと終わりに目にするものが綺麗なものであってほしい』んだ」と気づきました。アートはそれを叶えてくれたものですね。
――寝室にはどんなアートが飾られていますか?
柔らかくて自然を感じる作品が多いです。枕元には土佐和紙でつくられているhance.farさん(以下、hanceさん)の作品を飾っています。去年、高知県にある浜田和紙さんの工房にお邪魔した際にhanceさんにお会いして、人柄にも惹かれました。
「ASTIER de VILLATTE(アスティエ・ド・ヴィラット)の器も好きで、アスティエのライトはhance.farさんの作品と絶対合うと感じて購入しました」
narukiくんの作品の隣には、ミュージシャンである奇妙礼太郎さんが撮った写真も飾っています。奇妙さんは夫婦共に大好きなアーティストで、結婚式で歌ってもらったのも大切な思い出です。
narukitakahashiの作品(左から4点)、奇妙礼太郎さんの写真(右端)
寝室の窓際には写真家・川原崎宣喜さんの作品も。「柔らかさだけでなく、光を感じる作品も好き」
作品や作家と対峙することで「好き」が育まれ、楽しみ方の幅が広がる
――アートも含め、気持ちいいと感じるものを暮らしに取り入れていくことで心身が健やかに変わっていった高山さん。高山さんのように自分の「好き」に気づいて、それを育んでいくためには、どんな体験を重ねていけばいいでしょうか。
ここ数年でやっと自分の土台ができたところ、という感覚なのでアドバイスみたいなことは言えないけれど、やっぱりアートでも工芸でも、自分好みではないかもしれない場所にも積極的に行ってみることが大切だと思います。
ファッションでも同じことが言えると思いますが、振り幅がないと自分自身がどっちに惹かれるのかがわからないと思うので。
それから、やっぱり会ってみないと質感や迫力など、作品が持っている存在感まではわからない。実際に対峙してみることで、これが合う・これが好き、という納得感もより高まると思っています。
高山さんが「日々うっとりと眺めています」と語る棚の中。フランスの蚤の市で購入した器やポルトガルで購入したキャンドルなどが並ぶ
――感性を育むためには偏見なくいろんな場所に行って、対峙することが大切。高山さんが訪れたことで自分自身への理解が深まったり、作品自体をより楽しめるようになった場所はありますか?
最近、とある民藝展に行ったんです。民藝の父と言われる柳宗悦が唱えていた「用の美」は、人の手で生まれたものは使い手によってその美しさが育まれていくものという考え方ですが、それに改めて触れたことで、「やっぱりもっといろんなものを自由に使っていいんだ」と勇気をもらえました。
先ほど紹介した酒器をつくった作家さんとトークショーをした際も、作家さんから、「自分は酒器にコーヒーやお茶を入れて自由に使っている」と聞いたりもしていて。コーヒーなどは色移りがしてしまう可能性があるから入れてはいけないと思っていたので、意外でした。作家自身の考え方に触れられる場に足を運ぶことで、もっと自由な楽しみ方が見つかるのかもしれませんね。
私自身も夫と一緒に、narukiくんの工房がある高知に行ったりしています。どこでどんなふうにつくられているのかを実際に見たら、ますます作品が好きになりました。
――アートを通じて、パートナーとも一緒に暮らしの楽しみを広げているんですね。
そうですね。最近、夫婦のアトリエをつくったんです。住居とはまた別の空間で、料理の動画撮影や執筆作業などに取り組めたらいいなと思っています。
そんなアトリエに今、hanceさんの作品を迎え入れようとしているところ。自宅に飾るには躊躇していた大きな作品を思い切って買ってみることにしたのですが、すごく素敵な空間になりそうだなととてもワクワクしています。
写真も撮る夫とは、趣味が近いようで微妙に感覚が違うところもあるんですけど、違う人間同士が一緒に暮らしているからこそ生まれるミクスチャーな現象も、おもしろがっていけたらいいなと思っています。
DOORS
高山都
モデル
モデル、雑誌のコラム連載、商品のディレクションなど幅広く活動中。自然体なライフスタイルを発信するInstagramが人気。趣味は料理、ランニング、器集め、旅行。著書に『高山都の美食姿』シリーズ1〜4(双葉社)がある。
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