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INTERVIEW
2025.07.09
クリス智子の「暮らしの質を高めてくれる、好奇心の窓のつくり方」 / 展覧会「Beyond the WINDOW」開催にあたって
Photo / Kei Fujiwara
Edit / Quishin
Costume Tops / humoresque
ARToVILLAでは2025年7月30日(水)〜8月5日(火)の期間、ラジオパーソナリティ・クリス智子さんと一緒に、展覧会「Beyond the WINDOW ―クリス智子と暮らしとアート―」を開催します。
長年、J-WAVEでナビゲーターを務め、現在は『TALK TO NEIGHBORS』でご活躍するクリスさん。以前ARToVILLAの取材でアトリエ「Cafune」に伺った際、「私のなかでは窓が一番のアート」と語ってくれたのが、今回の展覧会の出発点でした。
開催前のインタビューでは、窓について「好奇心の形をしているもの」「時間の質を変えてくれる装置」と語り、それはアートにも通じる感覚だと話します。石や枝、部屋にこぼれ落ちる光のような小さなことでも、心を動かされる瞬間がその人なりの“窓”になりうる──そんなクリスさんのまなざしには、忙しいなかでも暮らしの質を高めていくヒントが詰まっているように感じられます。
展示されるのは、クリスさんが長年にわたり関係を紡いできた5組の作家たちの作品。暮らしとともにある作品たちが、空間を通してそっと差し出されます。この展覧会はきっと、どこか新しい“窓”との出会いになるはずです。
ARToVILLA初登場のクリス智子インタビュー
「暮らしのなかでスモールトークを楽しむ」クリス智子の展覧会への想い

──展覧会「Beyond the WINDOW ―クリス智子と暮らしとアート―」に向け、どんなことを大切に準備されてきましたか?
今回は5組の作家さんにご登場いただきますが、会場となる大丸東京店のART GALLERY 1で、好きな作家さんたちをどういうふうに見せられるのか、作品や空間でどうやって遊べるのか、考えてきました。
グラスひとつでも、それがテーブルの上にあるのと、庭にあるのと、ギャラリーにあるのとでは、全然違って見えてくるもの。私自身、空間によっていかに違って見えてくるかというのを日頃から楽しんできたので、展覧会でもそれができたらいいと思っています。
来てくださる方々にも、「どこに置いたらおもしろいかな?」とか「どうやって組み合わせたらいいかな?」といった目線で、自分の暮らしや空間をイメージしながら作品たちを見てもらえたらうれしいです。
──「同じ対象でも空間によって見え方が変わること」を、クリスさん自身はいつ頃から楽しむようになっていったのでしょう?
わりと小さい頃からだったと思います。やっぱり、引っ越しが多かったからかな。以前もお話したかもしれませんが、23回くらい引っ越しをしているんです(笑)。
持っていたものを新しい場所に連れていくたびに、どこにどうやって置こう?と試す遊びを繰り返してきました。特に、窓辺にはこだわっていて、ものを新居に運ぶ前に、まずは自分で小物だけを持っていって窓辺をつくる。子どもの頃からそんなことをしていた記憶があります。
Cafuneの壁にくっつけているベンチも、前はテレビ台として使っていたものです。1階にあるものを2階に持ってきたり、ベッドルームにあるものをキッチンに持ってきたり。そのくらいひとつの使い方に縛られず、置く場所もどんどんシャッフルしちゃうんです。

たとえば、階段を上がったところにちょっとした鳥の置物を置いて、その横に小さなガラスの玉を置いてみたら、「鳥が卵を産んだみたいに見えておもしろいかも」とか。ひとつの小さなシーンをつくるような感覚で、空間をつくることが多いですね。
そういう小さな遊びを私はよく、スモールトークって言っています。家のなかにちょっと何か気になるものがあること、それによって一瞬の小さな対話が生まれること。それがすごく楽しいし、気持ちがいいんですよね。お店のトイレに格言みたいなことが書かれていたりすると、ちょっと何か持ち帰るものがあるじゃないですか。そういうものを生み出している感覚です。
アートが暮らしのなかにあることで、常に何かちょっとしたことを考えられたり、新鮮に思えたりするきっかけになる。そういった対話によって、自分の暮らしの質がちょっとだけよくなると思っています。
出会いから一つひとつ物語れる、5組の作家とのコラボレーション
──今回展示される5組の作家さんは、どのような想いでご提案されたのか、それぞれ教えてください。テーブルの上に出してくださっている、有馬晋平さんからお聞きしてもいいでしょうか。
どの作家さんとも、物語があります。一つひとつの出会いから、お話していきますね。
◯有馬晋平
有馬さんについては、建築家の内藤廣さんに教えていただいたのがきっかけです。
内藤さんに、自身の好きなアートピースを持ってきてもらうという話になったとき、お持ちいただいたのが有馬さんの作品でした。触らせていただいた瞬間、「なんだこの感触は」「すごく落ち着く」って、もう驚いちゃって。それで、有馬さんご本人に連絡したんです。
見ているだけでも癒されますが、触って驚くというのがいいんですよね。有馬さんの作品は、ここまで人の手で滑らかにできるのか、という驚きがありますし、家のなかで何かしていてもついつい触っちゃう(笑)。手で感じることの大切さを思い出す作品です。

◯潮工房(小西潮・江波冨士子)
小西潮さんと江波冨士子さんとは、もう25年くらいのお付き合いになります。きっかけは、私がラジオで「ガラスが好き」という話をしたら、当時の干支だった猿の作品を贈ってくださったことから。実は潮さんは高校の先輩だったこともわかり、工房に行って制作の体験をさせてもらったり、Cafuneでのご飯会にも来ていただいたりというお付き合いをさせていただいています。知れば知るほどに、温かなお人柄、細やかな気配り、そして制作に対する情熱を感じるおふたりです。
彼らの作品は光と影がとても美しくて、グラスやお皿に何も入っていなくても、とてもきれい。日の光が入る場所に置くと、飲み物が入っていなくても光を飲んでいる感じがします。

◯康夏奈
それから、康夏奈さん。小豆島でご活動されていたときに、私がどこかで夏奈さんの絵を見て、それまで体験したことのないような没入感のある作品が気になり、ラジオにご出演いただいたんです。そこからのご縁になります。彼女は、風景を描いているようで実は体験したことを描いている人。海を描くために20日間も潜って、実際に描くときには、自分のなかにある記憶の風景を呼び起こして、体全体を使ってアウトプットするんです。
窓って、人間が風景を眺めるために額縁がついている側面があるけど、康さんは額に収まらないんですよ。額を取っ払ってどんどんその先まで描いていく。2020年に病気で他界されましたが、療養でこの鎌倉のエリアに住んでいて、時々やり取りもしていました。日記には、自分が体験したことを最後の最後まで書き記されてもいた。そんな類稀な彼女のエネルギーを今回、少しでも伝えられたらと思っています。

◯フランシス真悟
フランシス真悟さんは、やはり鎌倉と、ロサンゼルスを拠点にしているアーティストです。真悟さんの作品を「体感してほしい」という思いで参加をお願いしました。今の時代、SNSやサイトでも写真になった作品を見ることができるけれども、真悟さんの作品はそばに行かないとわからない、そういう知覚的な仕掛けがあります。
ひとつの絵が、立つ位置、見る角度によって、違う作品に見えるんです。それは、同じ空間にいてはじめて体験できること。空間や時間を行ったり来たり。感覚を総動員して見ながらも、浄化されるような不思議な感覚になると思います。遠くへ思いが及ぶ、スケール感のある作品だと思います。

◯都築まゆ美
都築さんはデジタル印刷機「リソグラフ」を使ったプリント作品を制作される作家さん。はじめてお会いしたのはラジオ番組のお仕事だったのですけど、彼女のリソグラフ作品にとても目を奪われました。
描かれているのは家であったり、窓、車、子どもといった日常の風景なのに、何かざわっと心を動かされる感じがして、気になる。記憶のかなたとリンクしながらも、違う世界を見るようだなぁと思います。
その後、都築さんは油絵でも制作活動をされていくのですが、リソグラフのタッチだと思っていた彼女の画風は、油絵でも通ずるものを感じ、都築さんのアーティスト性を再度、強く感じました。今回ご登場いただくなかでも、特に、物語のなかに引き込まれる感じのある作家さんです。

都築まゆ美《 Through the Window》
窓とは「好奇心の形」をしているもの

──展覧会のタイトルである「Beyond the WINDOW」は、直訳すると「窓の向こう側」。このタイトルの裏には、どんな想いがあるのでしょうか。
窓ってなんだろう?ということなんですけど、「好奇心の形をしているもの」だと、私は思うんです。
窓というのは、それがあることによって「あっちには何があるんだろう?」とか「どんな風景になっているんだろう?」と想像させてくれるもので、外の世界と内側の世界とを意識させてくれるもの。そういう意識だったり、新たな想像を生み出してくれるという意味で、好奇心の形をしていると思います。
それはアートも同じ。アートも暮らしのなかにあることによって、それが好奇心の入り口になって、新しい何かを生んでくれるものですよね。
また、時計で動いているのとは違う時間を味わえるところも、窓とアートの共通点だと思います。波の音や雨が降る様子に心が落ち着くことがありますが、それって時計の針で動いているわけではない人間にとっての落ち着くリズムが、自然のなかにあるということ。「自分に流れている時間の質を変えてくれる装置」のような部分が、窓にも、アートにもある気がします。

──前回の取材では「窓が一番のアート」というお話がありましたが、改めてクリスさんにとっての窓というのは、一般的な概念を超えたもので、アートの持つ力とも重なるような視点で捉えられているんだなと感じます。
インテリアとしての窓や、生活機能としての窓も好きですけど、私が思う窓というのは、もう少し広がりあるものなんですよね。ちょっといいなと思って拾ってきた石や枝でも、それが好奇心の入り口──窓になりうるという考え方なので。
それに気づいてから、自分のなかで何かが広がった感覚がありました。窓自体を必ずしも取り付ける必要はなくて、フッと休みたいところや意識を置きたいところに、好奇心を開いてくれたり時間の流れを変えてくれたりするものを置くことで、「自分なりの窓」を新しくつくることができる。そういうふうに思ってます。
──今回の展覧会も、訪れた方々が、暮らしの中に好奇心の窓を増やすきっかけになるかもしれませんね。
そういうふうに作品を見てもらえたらうれしいです。連れて帰って、自分の暮らしでその延長を楽しんでいただけるように、手渡せたらいいなと思います。
今って本当に、いろんなことが流れていくスピードが速くて、私もですけど、みんな忙しい気がするんですよね。でも、そういうなかでも、過ごす空間や時間って、自分でいくらでも変えられるもの。その喜びを、私はいろんな人と一緒に楽しんでいきたいんです。

イベント情報
トークセッション
「アートと暮らしを楽しむはなし」
日程:7月30日(水) 18:00~19:00
会場: 大丸東京店 10F ART GALLERY 1
参加方法:事前予約制(先着20名)
参加費:無料
出演者:クリス智子、有馬晋平、フランシス真悟
※詳細は7月14日頃にイベントページでご案内します
Information
Beyond the WINDOW ―クリス智子と暮らしとアート―
■会期
2025年7月30日(水)→8月5日(火)
営業時間:10:00~20:00(初日は17:30、最終日は17:00閉場)
■場所
大丸東京店 10F ART GALLERY 1
東京都千代田区丸の内1-9-1
■入場料
無料
■出展作家
有馬晋平、潮工房(小西潮・江波冨士子)、康夏奈、都築まゆ美、フランシス真悟(50音順、敬称略)
DOORS

クリス智子
ラジオパーソナリティ
大学卒業時に、東京のFMラジオ局 J-WAVE でナビゲーターデビュー。暮らし、デザイン、アートの分野を得意とし、長年ナビゲーターを務めた平日お昼のワイドプログラム『GOOD NEIGHBORS』では2,000人以上のゲストを迎え、心地よいトークを届けてきた。2024年4月からは『TALK TO NEIGHBORS』で、より時間をかけてひとりのゲストと濃密なトークを繰り広げる。
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