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2023.04.28

「みんな」と「アート」に寛容な街って? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.14

Interview&Text / Mami Hidaka
Photo / Yuri Inoue
Illust / Wasabi Hinata

19世紀の画家、エドゥアール・マネの絵画に魅せられたことをきっかけに、現在までに2冊の美術関連書を上梓するほどアートを愛する和田彩花さん。2022年2月からは大好きなフランスに留学中で、古典絵画から歴史的建築、現代アートまで、日常的にさまざまなカルチャーに触れているようです。

Vol.14のテーマは、アートの公共性について。現在フランス留学中の和田さんは、アートが介入してくるようなパリの街並や、無料で鑑賞可能な美術館など、フランスのアートの公共性とアーティストに対する寛容さに感動したそうです。日本の現代アートが今後よりすべての人にひらかれていくためには、どのような変化が必要でしょうか?

今更聞けないアートにまつわる疑問やハウツーを、専門家の方をお呼びして和田彩花さんとともに繙く「和田彩花のHow to become the DOORS」は、連載スタートから1年を迎えました。Vol.13と14はスペシャル回として、和田さんが今気になっている方をゲストとしてお迎えし、お二人でフランスと日本のアートシーンについてお話していただきます。ゲストは『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』などの著書で知られるノンフィクション作家の川内有緒さん。川内さんのフランス滞在時の思い出をはじめ、国内外のアートを楽しむ中で得た知見を話していただきます。

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芸術大国フランスで暮らす魅力って? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.13

  • #和田彩花 #連載

公共空間=みんなのための場所。
その「みんな」って誰のこと?

川内:「アートの公共性」、なかなか難しいテーマですね。私はこれまで仕事やプライベートで30ヶ国以上を回ってきましたが、たしかに国によってアートのひらかれ方も様々だと思います。

和田:30ヶ国以上!それでいうと「アートの公共性」は、私が日本で生まれ育ち、日本のアーティストと話す機会が多いからこそ気になっているテーマなのかもしれません。例えば美術館は公共の場であり、私は大学でも「後世により多くの作品を伝えるために、保管と研究に専念し、それを社会にひらいていくみんなのための場所」だと学びました。でも、その「みんな」の中には本当にすべての人が含まれているのでしょうか? 数年前にそういった疑問を持ってから、アートの公共性について考えるようになりました。

和田彩花さん、川内有緒さん

川内:すごく大事な視点ですね。和田さんが、日本におけるアートの公共性に疑問を持つようになったきっかけは何でしたか?

和田:もともと私は古典絵画が好きで、大学でも西洋美術史を学びましたが、Chim↑Pom from Smappa!Group(以下Chim↑Pom)との出会いを皮切りに現代アートの面白さを知り、絵画とはまた違う、美術以外の文脈でも語られるような新しい表現に触れることができました。かつて私が思い描いてきたアーティスト像は、天才肌でキラキラしたイメージでしたが、Chim↑Pomをはじめ地道に活動しているアーティストの生の声を聞く中で、日本ではアーティストが社会的に弱い立場にあることを知りました。

具体的には、Chim↑Pomのメンバーである卯城竜太さんとアーティストの松田修さんは、対談の中で、公園や広場といった公共の場が、みんなのための場所ではなく、民営化されてマジョリティにとっての居心地の良さを求められる場所になっているということに言及されています(※)。実際にChim↑Pomのメンバーは、過去には公園で不審者として通報されたこともあるようで、公共の場が本当の意味でみんなのための場所であり続けることはすごく難しいのだなと。

※卯城竜太(Chim↑Pom)・松田修『公の時代 官民による巨大プロジェクトが相次ぎ、炎上やポリコレが広がる新時代。社会にアートが拡大するにつれ埋没してゆく「アーティスト」と、その先に消えゆく「個」の居場所を、二人の美術家がラディカルに語り合う。』(朝日出版社、2019)

パリの凱旋門もジャックOK!
芸術大国フランスらしい寛容さ

和田:東京の再開発が進み、街がどんどん綺麗になっていく一方で、それが排他的な空気を生み出しているという事態に気付かされたんです。川内さんは、「アートの公共性」という観点から印象に残っている国はありますか?

川内:世界各地それぞれの歴史があるので一概には言えませんが、南米では、歴史的に、壁画などを使って社会運動を推し進めるというアートの存在意義があり、今でも人権侵害や社会問題をパブリックアートを通じて訴えるということがさかんに行われています。また、パリやベルリンなどの都市は、街中にあらゆるレベルのアートが存在していて、「アートの公共性」に関して先進国だと思います。例えばパリでは、クリスト&ジャンヌ=クロードというアーティストによって、市のシンボルであるエトワール凱旋門を布とロープで包む大規模なプロジェクトが敢行されました。

アーティストが市のシンボルをジャックするなんて、お金も時間も労力もかかって大変ですし、作品の意味がわからない人も少なくないと思いますが、それでもアーティストのやりたいことを実現させてあげられるのがフランスの素晴らしいところです。日本では、仮に誰かが東京タワーを全部包むアートプロジェクトを思いついたとしても実現は難しそう・・・。

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美術館は変わり続けている? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.10

  • #和田彩花 #連載

Christo and Jeanne-Claude 公式ホームページより《L'Arc de Triomphe, Wrapped》(1961-2021)
公式ホームページはこちら

川内:とはいえ、日本でも地域住民が制作や運営に参加する瀬戸内国際芸術祭などの芸術祭や、「泊まれるアート」というコンセプトを持ったホテルなど、様々な形でアートが盛り上がっていて、日本が遅れを取っているというわけでもないと思います。

和田:たしかに!Vol.10〜12で対談した難波祐子さんからも、美術館における現代アートの展覧会の来場者数はどんどん増えていると聞きました。では、日本の公共空間で大規模なアートプロジェクトの実現が難しそうなのはなぜなのでしょうか?

川内:個人的には、日本にアートの教育普及の人員が少ないという問題があると思います。一部の美術館などでは、現場に教育普及のエキスパートが不在のケースもあるようなので、そもそもソフト面での人材育成ができていないところが日本の弱点だと思います。美術館の役割は、作品を展示・収集することだけではなく、教育を通じて社会をよくしていくことに貢献するのも役割の一つです。ただ、まだその意識が十分に広まっていないようにも感じます。昔も今も学芸員の労働環境についてはよく問題に上がりますが、残業や休日出勤の多さ、お給料の少なさなどを見直して、人を育てる土壌をつくっていかなければいけません。

和田:なるほど。アートを公共にひらいていくためには現場で活躍できるエキスパートが必要であり、エキスパートとなる人材を育てるためにはアートに関わる労働環境を見直すことが重要ですね。

 

本当の意味で「みんな」の
居場所となる美術館へ

川内:水戸芸術館は現代美術を専門にしている美術館で、教育普及にも力を入れていて、思春期の中高生や障害を持つ人たちなどにとっての居場所になることを目指し、どうすればすべての人たちが美術館に来やすくなるのかをずっと考えてきたようです。ちょうどこの前まで水戸芸術館の現代美術ギャラリーで個展を開催していた中崎透さんも、学生時代学校になかなか馴染めず、ようやく見つけた自分の居場所が水戸芸術館だったと明かしています。

川内:ほかには福島県猪苗代町の「はじまりの美術館」も、運営母体が社会福祉法人の美術館であり、赤ちゃんから大人まで誰でも靴を脱いで裸足で上がってアートを楽しむことができます。美術館はアートを鑑賞するだけにとどまらず、年々コミュニケーションを生み出す場としての役割も大きくなってきたので、そういう意味では、美術館の公共性は高まっているはずです。

和田:日本にもたくさんの素敵な事例があって嬉しいです!今後ますます、本当の意味でのみんなの美術館が増えてほしいですね。

 

時間的・身体的・経済的負担
3つの障壁がなくなったら?

和田:アート以外の事例ですが、フランス留学中に公共性を考える上でヒントになったのはピルの普及度です。フランスでは、ピルの使用は基本的な女性の権利と強く結びついており、緊急避妊薬は、病院の処方箋なしですべての女性が無料で手に入れることができます。病院に行かなければならないという時間的・身体的制約もありません。時間的・身体的・経済的な問題がすべてカバーできており、「これがひらかれているということだ」と実感しました。

美術館も、フランスでは一年を通して無料で鑑賞できるところや無料日を設けているところが多い一方、日本ではまだ企画展チケットが2000円弱するので、その時点で入れる人はだいぶ限定されてしまうのかなと。来館者の経済的な負担を減らすことが、美術館がひらかれていく一つのきっかけになるはずです。

川内:私もそう思います。金沢21世紀美術館は、2004年の開館の際に、当時教育普及を担当していた人が、専用チケットを用意して金沢市内の小学生全員を無料招待したといいます。それから20年ほど経ちましたが、金沢21世紀美術館は今でも小学生を対象とした無料招待施策を続けていますし、開館当時小学生だった人たちの一部は今もずっと通っているのではないでしょうか。

そんな金沢21世紀美術館が国内トップクラスの集客力を持つように、美術館は、5年、10年、20年……と外に呼びかける努力を続けることで、絶対に大きな変化があるんです。

和田:なんて素敵な取り組みなんでしょう。今回川内さんとのお話を通じて、そもそもアートを「ひらいていく」とはどういうことなのか、どのような努力が必要なのかを具体的に考えることができました。ありがとうございました!

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連載『和田彩花のHow to become the DOORS』

アートにまつわる素朴な疑問、今更聞けないことやハウツーを、アイドル・和田彩花さんが第一線で活躍する専門家に突撃。「DOORS=アート伝道師」への第一歩を踏み出すための連載企画です。月1回更新予定。

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DOORS

和田彩花

アイドル

アイドル。群馬県出身。2019年6月アンジュルム・Hello! Projectを卒業。アイドル活動と平行し大学院で美術を学ぶ。特技は美術について話すこと。好きな画家:エドゥアール・マネ/作品:菫の花束をつけたベルト・モリゾ/好きな(得意な)分野は西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。2023年に東京とパリでオルタナティヴ・バンド「LOLOET」を結成。音楽活動のほか、プロデュース衣料品やグッズのプリントなど、様々な活動を並行して行う。
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川内有緒

ノンフィクション作家

ノンフィクション作家。映画監督を目指して日本大学芸術学部へ進学したものの、あっさりとその道を断念。大学卒業後行き当たりばったりに渡米。中南米のカルチャーに魅せられ、米国ジョージタウン大学で中南米地域研究学修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏のユネスコ本部などに勤務し、国際協力分野で12年間働く。2010年以降は東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどの執筆を行う。 『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎)で、新田次郎文学賞を、『空をゆく巨人』(集英社)で開高健ノンフィクション賞を、「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」(集英社インターナショナル)でYahoo!本屋大賞 ノンフィクション本大賞を受賞。 著書に『パリでメシを食う。』『パリの国連で夢を食う。』(共に幻冬舎文庫)、『晴れたら空に骨まいて』(講談社文庫)、『バウルを探して〈完全版〉』(三輪舎)など。 白鳥建二さんを追ったドキュメンタリー中編映画『白い鳥』、長編映画『目に見えない白鳥さん、アートを見にいく』の共同監督。 現在は子育てをしながら、執筆や旅を続け、小さなギャラリー「山小屋」(東京)を家族で運営。趣味は美術鑑賞とD.I.Y。「生まれ変わったら冒険家になりたい」が口癖。

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