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2022.09.09

話題の「NFT」って一体何?どんな可能性を秘めている? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.7

Interview&Text / Mami Hidaka
Edit / Moe Ishizawa
Photo / Yuri Inoue
Illust / Wasabi Hinata

19世紀の画家、エドゥアール・マネの絵画に魅せられたことをきっかけに、現在までに2冊の美術関連書を上梓するほどアートを愛する和田彩花さん。現在は大好きなフランスに留学中で、古典絵画から歴史的建築、現代アートまで、日常的にさまざまなカルチャーに触れているようです。

そんな和田さんとお話しするテーマは、昨今話題の「NFT」。いくらでも複製できてしまう画像や音楽、映像などのデジタルデータに唯一性を保証する画期的な技術です。2021年は「NFT元年」「NFTバブル」とも言われるほどインターネットを革新し、経済を動かし、アートシーンを大きく盛り上げたNFTですが、一般的にはまだそれほど浸透しておらず、いまだに「NFTって何?」と首を傾げる人も多いのではないでしょうか。

実は和田さんもその一人。アイドルや美術のお仕事の場で「NFT」というキーワードが挙がるようですが、どういった可能性を秘めた技術なのか想像できないとのことです。

「和田彩花のHow to become the DOORS」は、今更聞けないアートにまつわる疑問やハウツーを、専門家の方をお呼びして和田彩花さんとともに紐解いていく連載シリーズ。NFTによって社会や美術史はどう変化していくのか? NFTアートのコレクターはどういった部分に価値を見出しているのか? 第7回からはNFTに関するさまざまな疑問を紐解くべく、2021年に日本初のNFTアートのオークションのキュレーターを務めた文化研究者・山本浩貴さんとの対談の様子をお届けします。

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前回はインスタレーションアートなどかたちのないアートについて田村かのこさんからお話を伺いました。

前回はインスタレーションアートなどかたちのないアートについて田村かのこさんからお話を伺いました。

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インスタレーションやパフォーマンスアートってどんなもの? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.6

  • #和田彩花 #連載

「NFT」=「Non-Fungible Token」。それってどういう意味?

和田:山本さん、今日はよろしくお願いします。私はNFTについてまだまだわからないところが多いので、今日はたくさん質問させていただきます!

山本:僕もデジタルアートの専門家ではないのですが、2021年10月末に日本初となるNFTアートのオークションをキュレーションする機会をいただき、その際に文化研究者として自分なりの視点からNFTを調べ、理解を深めていきました。今日はよろしくお願いします。

和田彩花さん、山本浩貴さん

和田:まず「NFT」と検索してみると、一番上に「Non-Fungible Token(=非代替性トークン)」という説明が出てきますよね。なんとなく作品の所有証明書のようなものをイメージしつつも、わかるようで、わからないような……。山本さんなりの「NFT」とは何かを聞いてみたいです。

山本:「Token」は「しるし」や「象徴」を意味する語で、そこから派生して、今では引換券や代替貨幣という意味でも頻繁に使われるようになりました。「Fungible」は代替(交換)可能、そこに「Non」という接頭辞がついて「代替(交換)不可能なトークン」という意味になります。

例えば、千円札5枚と五千円札1枚は、どちらも同じ価値なので交換可能ですよね。一方で、仮に今僕が和田さんの美術本を持っていて、和田さんからサインを書いていただけたとしたら、この本は唯一無二の価値を持ち、僕は同じ本で新しい状態のものを見つけても交換したくありません。このように、交換できない・唯一無二のものであるという状況が「Non-Fungible」の本質です。

 

芸術はもともと唯一無二じゃないの?

和田:ありがとうございます!なるほど……。でも、私は芸術は元からすべて唯一無二であると勝手に思い込んでいました。唯一無二の芸術とNFTアートの違いとはなんでしょうか。

山本:和田さんのおっしゃる通りで、たしかにこれまでの芸術も唯一無二だと思います。少し文化研究的な話をすると、ヴァルター・ベンヤミンという思想家が、コピーなどの複製技術が可能になったときに芸術はどう変化するのかを論じた『複製技術時代の芸術』という有名な論文があります。

 和田さんは今フランス留学中とのことで、近代美術含め日々いろんな美術作品を見られているかと思いますが、例えばロダンの彫刻にはいま・ここにのみ存在するような本物特有の凄みがありますよね。ベンヤミンは、その目には見えない芸術の力を「アウラ」と定義します。今や複製技術が進化して、3Dスキャンを使えば比較的簡単にロダン的な何かは作れますが、そこに「アウラ」はない。論文では、この複製技術時代において芸術は変化せざるを得ないという話をしているんです。

和田:つまり、時代の発展やテクノロジーの進化とともに、芸術の唯一性がなくなってきたということですね。その流れにNFTを位置づけて考えていくのも面白そうです。

山本:まさにそうなんです。特にデジタルデータは簡単にたくさん複製できますし、複製可能であることこそ本質ともいえますよね。NFTは、そういった従来の「普通」をひっくり返して、原理的にデジタルデータに唯一無二の価値を与えるという技術です。

和田:ありがとうございます。昨年からアイドルや美術の仕事でNFTというキーワードが挙がるようになり、何度説明してもらってもNFTがどういった可能性を秘めた技術なのかあまり想像できずにいたのですが、山本さんの説明でとてもよくわかりました!

 

「ブロックチェーン」は作品の過去を辿る鎖のようなもの

山本:そして、美術の観点からNFTを紐解いていくうえで大事なのが、NFTを発行する「ブロックチェーン」です。ブロックチェーンは、インターネット上の取引などの情報を記録するデータベース技術の一つで、取引履歴を暗号技術によって、過去から1本の鎖のようにつなげて保管する技術を指します。

和田:ブロックチェーンによって、美術作品が過去にどのように売買されてきたか、誰が所有してきたかを確認できるようになったということですね。作品の唯一性などの保証はもちろん、転売防止などの問題にもアプローチできそうです。

山本:僕たち人間のDNAも鎖の螺旋構造になっていて、頑張ってその鎖をたどっていけば、おじいちゃんのおじいちゃんの、そのまたおじいちゃんぐらいまでの遺伝情報が残っていると思います。これまで美術作品にはそういうものはありませんでしたが、ブロックチェーンの登場によって、過去から今日までの取引履歴を作品に紐付けることができるようになったのは、ある意味では美術が生命体になったとも捉えられます。

和田:面白い! 作品そのものが、自分がたどってきた歴史の痕跡を保持しているということですもんね。

 

NFTでアートの世界がひらかれていく

山本:どうしてそんなことが可能なのか、技術的な理由は僕にもわかりませんが、ブロックチェーンもNFTも、実は使うこと自体はとても簡単なのが一つの特徴だと思います。つくるのも売買するのも、プロセスは非常にシンプルです。8歳の男の子がつくったNFTアートも高く評価されていますからね。

和田:NFTは難しいというなんとなくの先入観がありましたが、実際はむしろ逆なんですね! 誰でも参入しやすい領域だからこそ、NFTアートのシーンには色々な表現が溢れていそうです。山本さんは、アートが民主化されたときに社会にどういったポジティブな変化があると思いますか?

山本:僕自身、美大に勤めているので偉そうなことは言えないのですが、国内外の現代アートのシーンには、やはり美大を中心にしたヒエラルキーやコネクションなどが付加価値になる構造があると思っています。NFTは誰でも自由に表現し参入できるという意味で、そういった固定化された構造を壊したり、可能性をひらいたりするのではないでしょうか。

和田:美術を志す人の中で、美大の壁を感じてきた人はきっと多いですよね。そして美術史をたどっていくと女性作家が評価されなかった時代も長いので、そういったジェンダーアンバランスも、NFTが追い風となって解決に向かったらすごく嬉しいです。

山本:そうですね。冒頭で話した日本初のNFTアートのオークションは、そういった可能性を軸にキュレーションし、フェミニズムを下敷きにした多彩なアート作品もピックアップしました。テクノロジーを用いたアート作品を通じてジェンダーに斬り込んできたスプツニ子!さんや、多様なジェンダー観へのまなざしを備えたユゥキユキさん、黒人女性としてのアイデンティティを創作の源とするセーワ・アテイファさんに出品していただき、それぞれとてもいい結果を残すことができました。

NFTアートオークションでは、スプツニ子!さんの作品が最高額の839万5000円で落札された / Courtesy of SBI Art Auction

和田:年齢やジェンダー、学歴によるヒエラルキーを壊す可能性を十分に孕んでいるんですね。今日はNFTへの先入観がガラッと変わりました!

山本:それは嬉しいです。では、次回はNFTアートの醍醐味や楽しみ方について考えていきましょう!

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連載『和田彩花のHow to become the DOORS』

アートにまつわる素朴な疑問、今更聞けないことやハウツーを、アイドル・和田彩花さんが第一線で活躍する専門家に突撃。「DOORS=アート伝道師」への第一歩を踏み出すための連載企画です。月1回更新予定。

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和田彩花

アイドル

アイドル。群馬県出身。2019年6月アンジュルム・Hello! Projectを卒業。アイドル活動と平行し大学院で美術を学ぶ。特技は美術について話すこと。好きな画家:エドゥアール・マネ/作品:菫の花束をつけたベルト・モリゾ/好きな(得意な)分野は西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。2023年に東京とパリでオルタナティヴ・バンド「LOLOET」を結成。音楽活動のほか、プロデュース衣料品やグッズのプリントなど、様々な活動を並行して行う。
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山本浩貴

文化研究者、アーティスト

1986年千葉県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、ロンドン芸術大学チェルシー・カレッジ・オブ・アーツにて修士号・博士号取得。2013~18年、ロンドン芸術大学トランスナショナル・アート研究センター博士研究員。韓国のアジア・カルチャーセンター研究員、香港理工大学ポストドクトラル・フェロー、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科助教を経て、21年より金沢美術工芸大学美術工芸学部美術科芸術学専攻・講師。著書に『現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル』(中央公論新社 、2019年)、『ポスト人新世の芸術』(美術出版社、2022年)。

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