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2022.04.22

現代アートってどんなもの? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.4

Interview&Text / Mami Hidaka
Edit / Moe Ishizawa
Photo / Yuri Inoue
Illust / Wasabi Hinata

19世紀の画家、エドゥアール・マネの絵画に魅せられたことをきっかけに、現在までに2冊の美術関連書を上梓するほどアートを愛する和田彩花さん。今日では、古典絵画のみならずパフォーマンスやインスタレーションなど、現代アートの展覧会も数多く観に行くのだそうです。

日常的にアートに触れながら関心を広げる和田さんと一緒に、今回お話しするテーマは「現代アートってどんなもの?」。「現代アート」という言葉を何気なく使っていたけれど、そのイメージや内容についてはふんわりとしたものにとどまっている人も多いかもしれません。正解や定義がはっきりとしない現代アートを、和田さんはどのように楽しんでいるのでしょうか?

「和田彩花のHow to become the DOORS」は、今更聞けないアートにまつわる疑問やハウツーを、専門家の方をお呼びして和田彩花さんとともに紐解いていく連載シリーズ。第4回は、現代アートや舞台芸術のプログラムを中心に、日英の通訳・翻訳を軸とした多彩な活動を展開されている「アート・トランスレーター」の田村かのこさんとの対談の様子をお届けします。

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第3回は、第1回・第2回にに引き続き、世界的オークションハウス「サザビーズ」での経験を生かし、現在はGINZA SIX内にあるアートギャラリー「THE CLUB」のディレクターを務める山下有佳子さんに、「アートの価値は、誰がどう決めるか」についてお話を伺いました。

第3回は、第1回・第2回にに引き続き、世界的オークションハウス「サザビーズ」での経験を生かし、現在はGINZA SIX内にあるアートギャラリー「THE CLUB」のディレクターを務める山下有佳子さんに、「アートの価値は、誰がどう決めるか」についてお話を伺いました。

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アートの価値は、誰がどう決める? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.3

  • #和田彩花 #連載

解釈は人それぞれ。定義が曖昧な「現代アート」の魅力って?

田村:彩花さんは、この連載の第1回「美術館とギャラリー、何が違うの?」で、マネの絵画が美術に興味を持つ明確なきっかけになったとお話されていましたよね。

和田:はい、高校生の頃から19世紀以前の西洋絵画に興味がありました。古い絵画を観ることは、今自分が生きている世界とは別の世界を覗くようで楽しかったんです。その後大学で美術史を専攻し、古今東西の美術を幅広く学ぶ中でだんだんと現代アートも観るようになっていきました。かのこさんは、どういったきっかけで美術の世界を志したんですか?

和田彩花さん

田村:私は特定の作家や作品がきっかけになったわけではなくて、小さい頃から絵を描くのが好きでした。でもそのままアートの道に進んだのではなく、少し遠回りするようにアメリカの一般大学に進学し、土木工学を学びました。当時好きだった数学とアートが交わるところに建築があると思ったんです。そして日本に戻ってきてから今度は真正面から美術を学ぼうと、現代アートが何かもよくわからないまま、東京藝術大学の先端芸術表現科に入学しました。

田村かのこさん

和田:現代アートを定義するのは難しいですよね。私は、今は作品が制作された時代で現代アートかどうかをざっくりと理解しています。現代アートは同時代性が強く、今まさに起こっている社会の変化について素早く反応するような作品も多いので、世界を別の視点から捉え直すヒントになる点にも魅力を感じています。

田村:自分で「現代アートはこういうものだと考えてみよう」と決めるのはすごくいい方法だと思います。時代で理解するにも、現代アートはマルセル・デュシャンの『泉』(1917年)から始まったという考えもあれば、一方で戦後から始まったという考え方もあります。また、今現在生きているアーティストによって作られた作品を現代アートだと解釈する人もいます。現代アートの定義は人によって異なり、その実態は曖昧です。ここでは無理に定義せず、それぞれの解釈の違いも楽しみながら現代アートの魅力について考えられたらと思っています。

 

アートの世界は、何かひとつ疑問を持つことから始まる

和田:私は、古い絵画にある作家の痕跡をたどるのが好きだったこともあり、レディメイド(既製品を表現の素材とする手法)やデジタルアートといった現代アートは、最初の頃はどうしても無機質に感じ、あまり入り込めずにいました。

そんな現代アートへの眼差しが切り替わった原体験は、2019年にワタリウム美術館で開催されたChim↑Pom(*1)発案の『Don't Follow the Wind Non-Visitor Center』展です。東京電力福島第一原発事故による帰還困難地域が実際の会場となっていて、そこには私が報道で見てきた福島とはまた別の福島がありました。アートが示すもうひとつの現実があるということにハッとさせられました。

*1……2022年4月27日、Chim↑Pom from Smappa!Groupに改名

田村:アートは、言葉とはまた違う形で心に届くものですよね。藝大入学時の私は、衣服と皮膚の境界を探ることに関心がありました。一体どこまでが自分で、どこからが自分ではないのか。誰もが衣服を着ないと社会で生活できないけれど、そもそも「着る」という行為はどういうことなのか。ふたり一緒に1枚の服を着れば他者との境界はなくなるのではないか……。

そういった自分の中にある問いや関心の先で、さまざまなアーティストが私の想像にも及ばないような素晴らしい視点から作品を生み出していることを知りました。彼らを見ているうちにだんだんと「自分が何かつくるよりも、たくさんのアートを見て、アーティストの考えに触れたい」と思うようになったんです。

和田:かのこさんのお話を聞いていて、個人的にでも社会的にでも、何かひとつ疑問を持つところからアートの世界は始まるのだと思いました。特に現代アートを前にすると、歴史や社会の中で自分がどの立ち位置にいて、今後どう生きていきたいかを強く問われるような気がしますよね。私も子どもの頃から自分と他者との境界について関心がありましたが、それを言葉にして周りに伝えることは難しく、どうしても「不思議ちゃん」というキャラクターで括られてしまうことが多かったんです。でもアートに興味を持ったことで、そういった自分の問題意識に対して堂々といられる場所ができました。

田村:誰しも一度ならず、人生や自分という存在について考えたことがあるはずなのに、それをオープンに話し合える機会はなかなかないですよね。抽象的で哲学的な考えを口にすると「ポエム」だと言われたり、揶揄されたりしてしまう。でも、そういったことについて人生を賭けて考えている人たちがたくさんいる場所、真剣に話し合える場所としてアートの世界を発見したときは私もすごく嬉しかったです。

 

まずは肩の力を抜いて、アーティストの考えを知ることから始めよう

田村:彩花さんは、現代アートをきっかけにとくに関心を深めたテーマなどはありましたか?

和田:女性の表象の問題です。ジェンダー写真論でも名が挙がるやなぎみわさんの作品はとても印象的でした。女子大だったこともあり、美術と社会の接点を考える授業の中でフェミニズムについても深く触れましたが、美術史を切り口に女性が抱えてきたさまざまな問題を知る中で、裸婦を描いた絵画の見方も大きく変わっていきました。

それまではなんの疑問もなく絵画を通じて女性の裸を見ていましたが、実はけっして自然なことではない。また、女性の表象を追った先に現代の「アイドル」という職業があることに気付き、私自身の問題としてより関心を深めていきました。かのこさんはどうですか?

田村:私はアートトランスレーターとして創作の現場に関わる中で、人と人をどのようにつなげば、よりよい制作環境をつくり、よりよい作品を生み出し、より多くの人と共有できるようになるのかを考えるようになりました。そこで、通訳・翻訳という言葉を介したつながりだけでなく、創作に関わる人がその人の立場や出自に関わらず安心して作品づくりに臨めるようなコミュニケーション環境を整えたり、鑑賞者が美術に関する知識や経験の有無に関わらず興味を持てるような入口を用意したり、それぞれの場と内容に応じた対話のあり方を提案していくコミュニケーションデザインのお仕事を積極的に行っています。

和田:実際に現代アートに対して敷居の高いイメージを持つ人はまだまだ多いので、かのこさんのお仕事をすごく尊敬します。私が留学中のフランスの美術館では、来館者の多くが誰かと話しながら絵画を見ているんです。それもふざけているわけではなく、真剣に作品についてディスカッションしながら展示をまわっていて、その美術館の風景がまず日本と違うところだと思いました。日本の美術館でも、気軽にお話しながら作品を鑑賞できる環境が生まれたら、アートと触れることがもっと楽しくなる気がします。

田村:展覧会の感想をちゃんとした文章に書こうとすると、言語化が難しいと感じるかもしれないですが、直接誰かに話してみることは楽しいし、話しながら自分の考えが整理されるのでおすすめです。ひとりのときは、気になったアーティストが書いた言葉を読むのもいいですね。彩花さんは、展覧会に行ったら案内のテキストなどは読みますか?

和田:まずは文字情報は入れずに作品そのものと向き合うことが多いです。作品から受け取ったものを自分の中で解釈したり、それを文章にしてみることにも楽しさを感じます。かのこさんは?

田村:私はアーティストだけでなく、キュレーターや美術館スタッフ含む展覧会をつくった人たちの声を受け止めてから展示を見たいと思っているので、展覧会に行くとまず会場入口にあるステートメントを読むことが多いです。展覧会やアーティストについてもっと知りたいと思った場合は、図録に収録されたテキストや、アーティストのインタビューなどを探して読むようにしています。

例えば音楽でも、すごく好きな曲に出会ったら、同じミュージシャンの他の曲を聴いてみたり、そのミュージシャンがインタビューで別のアーティストについて話していたら、それも一緒に聴いたりすると思います。楽曲やパフォーマンスだけでなく、その人の人柄や趣味嗜好をたどるようにどんどん魅力にはまっていく。その応援活動は、すごく楽しいことですよね。今後は現代アートも他のカルチャーと同じように、肩の力を抜いて楽しめる人が増えてほしいと思います。

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引き続き、田村かのこさんとアートの「わからなさ」をどう楽しむかについてお話したVol.5もご覧ください。

引き続き、田村かのこさんとアートの「わからなさ」をどう楽しむかについてお話したVol.5もご覧ください。

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アートの「わからなさ」をどう楽しむ? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.5

  • #和田彩花 #連載

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連載『和田彩花のHow to become the DOORS』

アートにまつわる素朴な疑問、今更聞けないことやハウツーを、アイドル・和田彩花さんが第一線で活躍する専門家に突撃。「DOORS=アート伝道師」への第一歩を踏み出すための連載企画です。月1回更新予定。

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和田彩花

アイドル

アイドル。群馬県出身。2019年6月アンジュルム・Hello! Projectを卒業。アイドル活動と平行し大学院で美術を学ぶ。特技は美術について話すこと。好きな画家:エドゥアール・マネ/作品:菫の花束をつけたベルト・モリゾ/好きな(得意な)分野は西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。2023年に東京とパリでオルタナティヴ・バンド「LOLOET」を結成。音楽活動のほか、プロデュース衣料品やグッズのプリントなど、様々な活動を並行して行う。
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田村かのこ

アート・トランスレーター

アート専門の翻訳・通訳者の活動団体「Art Translators Collective」代表。人と文化と言葉の間に立つ媒介者として翻訳の可能性を探りながら、それぞれの場と内容に応じたクリエイティブな対話のあり方を提案している。札幌国際芸術祭2020ではコミュニケーションデザインディレクターとして、展覧会と観客をつなぐ様々な施策を実践。非常勤講師を務める東京藝術大学大学院美術研究科グローバルアートプラクティス専攻では、アーティストのための英語とコミュニケーションの授業を担当している。アーティスト・イン・レジデンスPARADISE AIRメディエーター、NPO法人芸術公社所属。

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