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SERIES
2024.09.18
アーティスト リセイ 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.31
Edit / Eisuke Onda
独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動する、とに〜さんが、作家のアイデンティティに15問の質問で迫るシリーズ。今回は、聴診器を使って人間の音を聴き取り、そして絵を描くアーティストのリセイさんに迫ります。
アーティスト 山脇紘資 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.30 はこちら!
今回の作家:リセイ
1986年 中国 北京生まれ
東京藝術大学大学院美術研究科修士課程デザイン専攻 修了
2014年 世界イラスト大会2014 銀賞(中国国立美術館/北京)
2020年 見参-KENZAN2020- オーディエンス賞(WEBでの開催)
2020年 IAG AWARDS 2020 IAG準大賞 & オーディエンス賞(東京芸術劇場)
2020年 O+展 (新生堂/表参道)
2021年 藝大アートフェス2021 ゲスト審査員特別賞
2021年 描画図鑑(佐藤美術館)
2022年 アートまみれ(Artglorieux GALLERY OF TOKYO)
2022年 個展(松坂屋上野店)
2023年 個展(八犬堂ギャラリー)
2024年 個展(八犬堂ギャラリー)
《人の声》(制作年2023、技法・材料 漆、日本画顔料、アクリル、サイズF60)
《人の声-萌え》(制作年2023、技法・材料 漆、日本画顔料、アクリル、サイズF60 )
リセイさんに質問です。(とに〜)
今回のゲストは、中国・北京生まれのリセイさん。昨年オープンしたばかりの話題のスポット、虎ノ門ヒルズステーションタワー内の「Tokyo Node Dining」に作品が飾られる今注目のアーティストの一人です。ブロンズ像をどこか想起させるようなリセイさんの独特の人物画は、一度観たら忘れられない個性に溢れています。なんでもそれらの人物画は聴診器で人体の音を聴き、その音からインスピレーションを受けて制作されているのだとか。なるほど......。って、一瞬納得しかけましたが、普通に考えて、聴診器で人体の音を聴くってどういうこと? 音から生まれる絵画って?? 心臓の音をドキドキさせながらも、直球の質問を投げかけてみます。
Q01. 作家を目指したきっかけは?
子供の頃から絵を描くことが日常で、描き続けることを目標として課していました。これからも描き続けることが人生そのものなので、きっかけというよりも自然とここに至ったというイメージだと思っています。
中国の総合大学でデザインを学んだ後、日本にやってきたというリセイさん。「幼い頃から日本の時代劇や漫画、アニメが大好きだったので、ずっと日本に来たくて、独学で勉強もしました。ただ、語学学校にも通っていなかったので、私の日本語はちょっと変で.....。最初に覚えた言葉は『上様、おな〜り〜』でした(笑)」
「大学院時代は美術研究科で、これまでもずっと人を描こうとしてきました。最初は写真と同じような表現を続けてきました」
Q02. 青春時代、一番影響を受けたものは何ですか?
私は子供の頃からアニメ漫画オタクなのですが、美樹本晴彦先生の『超時空要塞マクロス』のリン・ミンメイ、『らんま1/2』のシャンプー、『機動戦士Zガンダム』のフォウ・ムラサメというキャラクターのデザインに非常に影響を受けました。
リセイさんが家宝のように大事にしている美樹本晴彦先生の直筆色紙
Q03. アトリエの一番のこだわりor自慢の作業道具など
アトリエは基本自宅です。私は北京生まれで海のないところで育ったので、海に囲まれた家に住むために頑張ってきました。自宅のロケーション自体が一番のこだわりです。
作業道具・顔料は魔法の混合塗料です。この顔料には漆も含まれるので、アレルギーには気をつけてくださいね。
人混みが嫌いで、海が見える街が好きだというリセイさん。「家からはレインボーブリッジも見えます。コンテナとか工場も見えて、どことなくガンダムみたいで好きです」
Q04. 日本で一番好きな街、スポットはどこですか?
アトリエのこだわりとしても書きましたが、住まいでもある東京湾岸です。私は運動全般が苦手ですが、海を見ながらのお散歩はとても気持ち良いので好きです。ちなみに運動が苦手と言いましたが、大学ではフェンシング部に所属していました。
Q05. 描かれている人物に特定のモデルはいますか?
特定のモデルはなく、毎回描きたい人を自ら選んでモデルになってもらっています。
アトリエに飾られたリセイさんの作品
Q06. 職業病だなぁと思うことは?
私は主に女性をモデルとしているので、普段から自分の描きたい女性を自然に見つめてしまいます。でも変な人じゃないですからね.......たぶん。
Q07. 漆を使うようになったのはなぜですか?
漆は黒真珠のように淡い光沢を持っており、私を引き付ける非常に魅力的な素材だからです。
写真上/作品を光で当てると様々な表情をみせる。写真下/絵の具と漆を混ぜた画材
Q08. 人体の音を聴診器で聴くという独自のスタイルに行き着いたきっかけは何ですか?
私は魂の存在を信じており、(漫画『HUNTER×HUNTER』の)念のように見ることのできない力があると考えています。目ではモデルの表面を見るに留まってしまう。それは私が本当に描きたいものではありませんでした。最初は見ずに触る、話すという方法でモデルをより深く理解しようと努めましたが、家族に医者がおり聴診器が身近だったので、ある日自然と聴診器を用いて体の中の声を聴いてみようと思ったのです。
結果として、耳で聴く音と全く違うことに大きな衝撃を覚え、それ以降は聴診器を用いるということにしたのです。
Q09. 体内に流れる音というのは、具体的には心臓音や血流音ですか? 他にも音はありますか?
聴診器を通して聴こえる音は非常にデリケートです。心臓の音が強いイメージがありますが、実際は人によって体内の音は違っており、音の強弱の場所も違っていますし、それらに限らない体内の空気や細胞など組織の音というものが存在します。
Q10. 体内に流れる音は、人によって色のイメージが違いますか?
自身の感じる音(声)の感覚によって色を選んでいますが、例えば小川や海のように水を感じれば青系を使うなどし、力強い音を感じれば火炎を表すような色を使っています。
「その人の状態によっても音の聞こえ方が変わってくるので、同じモデルでも改めて音を聴くと違うイメージになります」
Q11. もしも作家になってなかったら、今何になっていたと思いますか?
動物がとても好きなので、動物園の飼育員になっていたと思います。
Q12. 好きな日本のことわざを教えてください。
猫の手も借りたい。
飼っていた猫のタトゥーを入れているリセイさん
Q13. これがあれば頑張れる!自分へのご褒美は何ですか?
私は自身の見た目も非常に気にしており、タバコはやらず野菜・タンパク質をとるという食事コントロールも続けています。これは少しでも健康であれば、人よりも一日でも長く描き続けることができるからです。そのように非常に強力な制限をしている中で、たまのチートデイが唯一のご褒美ですね!
Q14. リセイさんご自身の取扱説明書があるとしたら、必ず書いてあるだろう1文を教えてください。
私をできるだけ愛してあげて下さい。
Q15. 「世の中には2種類の人間がいる。○○な人間か××な人間だ」リセイさんならどんな風に2種類に分けますか?
神経質な人間と、正常な人間の2種類です。私は極めて神経質な人間だと思います。
クールでスタイリッシュ、どちらかと言えば寡黙な印象の作風ゆえ、リセイさんご自身も作風のイメージ通りの人物なのかと思いきや、いい意味で裏切られました! この記事を読んで、アニメ漫画オタクな一面に共感した方や、回答の端々から漏れ出るキュートさにギャップ萌えした方も、きっと少なくないでしょう。その一方で、一日でも長く制作することを目標に食事をコントロールする姿勢や、制作やモデルに対する探究心が垣間見えて、アーティストとしてプロ魂を感じました。リセイさんのプロ魂は一体どんな音がするのか。そして、それはどんな色をしているのかがとても気になりました。ついでに、『上様、おな〜り〜』という日本語を最初に覚えたシチュエーションも気になりました(笑)。(とに〜)
Information
『ネイネイ・リセイ二人展 Observation』
■会期
2024年10月3日(木)~10月9日(水)
10:30~20:30 ※最終日は18時閉場
■会場
Artglorieux GALLERY OF TOKYO
東京都中央区銀座六丁目10番1号 GINZA SIX 5F
ARTIST
リセイ
アーティスト
1986年、中国・北京生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程デザイン専攻修了。2014年、世界イラスト大会2014 銀賞(中国国立美術館/北京)。2020年、見参-KENZAN2020- オーディエンス賞(WEBでの開催)。2020年、IAG AWARDS 2020 IAG準大賞 & オーディエンス賞(東京芸術劇場)。2020年、O+展 (新生堂/表参道)。2021年、藝大アートフェス2021 ゲスト審査員特別賞。2021年、描画図鑑(佐藤美術館)。2022年、アートまみれ(Artglorieux GALLERY OF TOKYO)。2022年、個展(松坂屋上野店)。2023年、個展(八犬堂ギャラリー)。2024年、個展(八犬堂ギャラリー)。聴診器で人体の音を聴き、その音からインスピレーションを受けてアクリル絵具、漆を用いて制作するというオリジナリティ溢れる方法で人物や動物を描く。
DOORS
アートテラー・とに~
アートテラー
1983年生まれ。元吉本興業のお笑い芸人。 芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など、幅広く活動中。 アートブログ https://ameblo.jp/artony/ 《主な著書》 『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』(誠文堂新光社) 『こども国宝びっくりずかん』(小学館)
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