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INTERVIEW
2026.06.17
街歩き系映像クリエイターななすけと巡る銀座の名パブリックアート3選 / 街中アート探訪記番外編
Critic / Yutaka Tsukada
Photo / Kyouhei Yamamoto
散歩をテーマにしたYouTubeチャンネル『ななすけの散歩録』(登録者数11.7万人)で人気の街歩き系映像クリエイターななすけさん。街の豆知識を存分に楽しむななすけさんを、パブリックアートを入口にアートの世界をめぐる連載『街中アート探訪記』のおふたり、塚田優と大北栄人が待ち合わせしました。今回はコラボレーション企画として、ななすけさんのチャンネルでも連動番組を配信。一緒に銀座のパブリックアートを散歩しました。
前回は銀座駅にある大友克洋の作品を鑑賞!

岡本太郎の対極主義を銀座で見る
なな:岡本太郎ですね。顔が時計になってる。
大北:10時10分で怒ってるみたいな、時計の角度で表情が変わりますね。
塚田:そうなんですよ。実用的な機能を持たない彫刻であると同時に、時計という機能を持っていて、正反対の要素が対立してるんですね。
岡本太郎は「対極主義」を掲げ、要素と要素が対立し合っている状況を作品内に持ち込もうとしました。
(※「対立を乗り越えてこそ良くなる」というヘーゲルの弁証法に対して「対立してるからこそエネルギーがあるんだ」とバタイユは異を唱えました。パリ留学した岡本太郎はこのバタイユに影響を受けたそう。)

大北:『坐ることを拒否する椅子』は椅子でしたが、こっちは時計ですよね。
塚田:似た構造ですね。椅子という機能を持ってるけども、睨みつけるような顔で坐ることを拒否することによって、作品として成立させてます。
太陽の塔においても対極主義が見られる
なな:大阪にある有名な『太陽の塔』もこんな形でしたっけ?
大北:両手を広げたみたいでちょっと違いますね。塔の中にはこういうニョキっとしたものがあった気がするんですけどね。
なな:中に入れるんですか。岡本太郎ワールドが展開されてますか?
大北:ですね、展示室になってるんですよ。
塚田:入れ子構造ですよね。太陽の塔は万博で建物の中からニョキって生えてたので。それも岡本太郎の対極主義的なところで、建物の中に異質なものを入れちゃう、常識に囚われない考え方の塔でした。

なな:『若い時計台』は時間によって表情が変わりますけど、太陽の塔も、しかめっつらのようななんとも言えない表情です。あれは意味があるんでしょうか。
塚田:最近あった万博もそうでしたけど、当時の万博って芸術家の間でも「賛成/反対」が分かれてたんですよ。
なな:最近のも討論されてましたよね。
塚田:万博に反対するような勢力もいた中で、どう万博にコミットメントしようかという時に、プロデューサーとしても参加していた岡本太郎は、展示場を貫くような形で太陽の塔を建てた。それってちょっと反抗的じゃないですか。
なな:優しい顔ではないのはそういう背景が。
塚田:僕の解釈ですが、万博に対する距離感というか、立場とかもあってああいう表情になってるのかもしれないですね。
なな:対極主義や岡本太郎の表現したいものを踏まえると可能性のありそうな面白い説です。
現代に通じる岡本太郎のポップとシュルレアリスム
大北:メキシコに縁が深いから太陽なのかなと思ってたんですが。
なな:メキシコ?
塚田:壁画運動というパブリックアートの運動がメキシコで起こったんですよ。メキシコ革命の意義や、国民としてのアイデンティティーを伝えることを目的として起こったムーブメントでした。岡本太郎はそんな民衆のエネルギーに関心を持っていて、メキシコのホテルのために描いたのが渋谷にある『明日の神話』なんですね。
なな:タイトルが一つ一ついいですね。心に残る。
大北:だれでも分かる言葉で『若い時計台』『明日の神話』。ポップ気質というか大衆受けする要素がありますね。
なな:最近だと『タローマン』っていう特撮映画がありましたね。
大北:そうだそうだ。ナンセンス界隈の星でもある、藤井亮監督ですよ。
なな:岡本太郎のキャラクターたちがウルトラマンみたいに活躍するすごい不思議な映画で。
塚田:太郎と特撮の相性の良さですよね。そもそも特撮において、怪獣をはじめとした造形はシュルレアリスムから影響を受けているっていう風に言われていて。
大北:岡本太郎はパリで当時のシュルレアリスムを学んでるんですよね。今はツッコミのない笑いを「シュール(笑)」って形骸化した意味で使うことが多いですけど、岡本太郎だけは本気のシュール。
塚田:そう、もともとシュールな要素が入ってるってことですね。

「楽園(銀座のオアシス)」
原画・監修:平山郁夫
企画:帝都高速度交通営団、日本交通文化協会
製作:クレアーレ熱海ゆがわら工房
平山郁夫《楽園(銀座のオアシス)》
つづいては東京メトロ銀座駅にある平山郁夫が手掛けた『楽園(銀座のオアシス)』を鑑賞します。1930年生まれの平山郁夫は東京大学学長を2度務めた日本画家の権威。薄暗い地下鉄構内に赤いステンドグラスが独特の空間を作っています。
大北:赤い。楽園っていうタイトルなんだ。意外。
なな:動物もいますね。

作家の別の一面が見られるパブリックアートの魅力
なな:日本画の先生なのにステンドグラスなんですね。
塚田:そこがパブリックアートの面白いところで、ちょっと違った作風にチャレンジすることがあるんですね。
大北:ステンドグラスをやるっていうのは日本画の人にとって全然違いますよね。
塚田:たとえばこれは赤と緑系の色で構成されてます。お互いの色を引き立て合う補色対比というものです。
なな:混ぜたら黒になる逆の色ですね。
大北:たしかに、目を引きますね。
塚田:ですね。平山はふだん主調をなす色で画面全体を統一的に描くタイプなので、冒険作と言えそうです。
そんな平山作品の特徴の一つとして挙げられたのが日本画においての象徴性の導入。
平山は『入涅槃幻想』という作品で釈迦が亡くなる入涅槃を描きました。それは状況を正確に描く従来の宗教的絵画とは違い、人物たちが黒いシルエットでぼんやりと浮かび上がる象徴性の高いものでした。

日本画に自由な解釈を持ち込んだ平山のらしさを観る
塚田:平山は説明的に描くのではなく、自由な解釈で釈迦の死の悲しみを描くことで、伝統にとらわれない表現をしてるんですね。
なな:従来の日本画とはちがった、次の一手というか。
塚田:日本画は歴史考証を重んじる考え方がありますからね。『楽園』は宗教を題材にしてませんが、平山なりのムードや特徴はちゃんと見えてきます。同じ形を反復させながら画面をつくるところとか。
大北:涅槃図も黒くぼやっとしてるし、こっちも真っ赤です。2点だけだと暗さや強さみたいなネガティブな印象もありますが、それも特徴ですか?
塚田:色使いの観点で言うと、平山さん自身、いろんな色を使ってますね。シルクロードの絵とか澄んだ空気感を感じさせる色っていうか……。
なな:抽象化された感じなんですかね。
塚田:具体的ではないですね。例えばラクダにしても、ちょっと遠くからぼんやりしていて、ディテールを細かく描くっていうような感じではありません。
なな:じゃあ不気味に感じるというのは、そういう部分を私たちが勝手に不気味に感じてるみたいな。
塚田:そうですね。平山が作品に持たせている解釈の幅なのかもしれません。ただシルクロードの旅をしたスケッチ集がいくつか出ています。それを見ると「このおじさんを描いたんだな」っていう感じが見える。
大北:具体的なんだ。
塚田:ですね。なのでそういう具体的な経験が積み重なって、作品としてシンボライズされたものが現れてくるんじゃないですかね。

地下鉄構内になぜパブリックアートがあるのだろう?
塚田:ところでこの作品を企画したのもステンドグラスを作った工房の大元は、日本交通文化協会というところで。これは広告付きのベンチを駅の構内に置く事業で成功を収めた、瀧冨士太郎が創業した、交通文化事業株式会社が設立したものです。
大北:知らない人と知らない会社がわーっと出てきましたが(笑)
なな:椅子の背に広告ついたもの、ちょっと古い駅とかにありますよね。
塚田:そうですね。もちろん今でも全然あるんですけど、あのベンチ広告で事業を成長させた人なんですね。
大北:「西洋に比べて日本の風景は広告が多い」という話はこのパブリックアートの連載でよく出てくる話なんですけどその一端を担ってますね。良くも悪くもあるとこなんですが。
塚田:その恩返しのために、こういう風にパブリックアートを作り始めたという経緯ですね。1970年代ぐらいからパブリックアートに力を入れ始めました。HPを見ると、500以上の作品が紹介されてます。
なな:高度経済成長期のあとにも。いろんなビルができて、街が変わってきた、変わっていった時代に、いろんなことを。
塚田:確かに色々ビルとかできると、「ロビーに作品置こうか」ってなりますからね。
大北:日本の街づくりが全国で行われて、風景が変わるタイミングってことか、なるほどなあ。さっきの岡本太郎の後の時代ですね。

「Procession Spin」
原画・監修:大友克洋
協賛:セイコーグループ株式会社、公益財団法人メトロ文化財団
協力:東京地下鉄株式会社
企画:日本交通文化協会
製作:クレアーレ熱海ゆがわら工房
『AKIRA』もいる日本の歴史
塚田:大友克洋の作風として注目したいのが緻密な背景描写ですけど、この作品もそうですね。時計で有名なセイコーが協賛に入っていて、テーマもそれに引っ掛けるように縄文から現在へという時間の流れが表現されています。
なな:あ、ちゃんと金田もいる!
大北:『AKIRA』の主人公金田がいるんですね、おもしろいな~。
なな:浅草十二階!これ関東大震災ですね。
大北:さすが目の付け所が渋い(笑)。
なな:縄文土器からネオ東京へいくんですね。すごい時代の流れだ
塚田:ひとつの歴史の中で物語を描くということは代表作である『AKIRA』も彷彿とさせますよね。
なな:『AKIRA』の最後みたいですね。色々なものがくっついて膨張していく。
大北:そうだそうだ。

漫画的表現と絵巻物的表現が立体となった
塚田:この作品はレリーフになっていますよね。3次元のものが2次元に近い形で表現されています。中央の仏像とかは正対するような感じですが、左側の列車は高い所から見下ろすような形です。
大北:立体物を平面にしてるけど、立体だからつぶれたような。
塚田:コラージュ的に視点が組み合わさってるのも面白いポイントです。

なな:ここがぐるっと1周して見えないのは、「描写できない」みたいなことなのかな?時代の断絶?
大北:戦国時代くらいですかね。戦争で文化がないとか。
なな:間にある模様がおもしろいですね。
塚田:たぶん装飾的な模様として使ってるんじゃないですかね。大友は絵巻物も詳しいんですよ。10年近く前に『火要鎮』という江戸時代の火消しを描いた作品を作ってるんですが、それは絵巻物のスタイルがストーリーテリングとして参照されてるんですよ。巻物を繰り広げるみたいな演出でアニメが始まる。
大北:じゃあこのまといを持った火消しはお得意の。
塚田:そうですね。連想させます。で、模様を装飾的に使っているというのはどういうことかと言うと、絵巻物の表現として「すやり霞(がすみ)」っていう、雲を装飾的に描くみたいな技法があるんですね。そもそも絵巻物って、1枚の絵だから漫画みたいにコマ割りがないじゃないですか。そこでどうやって物語を区切るかっていうと、雲をマンガのコマでいう「間白」みたいに使うんです。
なな:『おじゃる丸』も場面転換で雲出てきて「わーん」ってなりますね。
塚田:そうそう、そのイメージです。

この記事はYouTube『ななすけの散歩録』との連動企画として楽しめます。是非番組もお楽しみください。
※文中の内容は連載陣の見解で構成しております
DOORS

ななすけ
クリエイター
東京都出身。 YouTubeチャンネル「ななすけの散歩録」を通して散歩の奥深さや街の歴史を届けるお散歩映像クリエイター。 端正なビジュアルとは対照的なハスキーボイスの持ち主であり、ファッションモデルなどもこなす傍ら 文学などにも造詣が深く、マルチクリエイターとしても今注目を集めている。
DOORS

大北栄人
ユーモアの舞台"明日のアー"主宰 / ライター
デイリーポータルZをはじめおもしろ系記事を書くライターとして活動し、2015年よりコントの舞台明日のアーを主宰する。団体名の「明日の」は現在はパブリックアートでもある『明日の神話』から。監督した映像作品でしたまちコメディ大賞2017グランプリを受賞。塚田とはパブリックアートをめぐる記事で知り合う。
DOORS

塚田優
評論家
評論家。1988年生まれ。アニメーション、イラストレーション、美術の領域を中心に執筆活動等を行う。共著に『グラフィックデザイン・ブックガイド 文字・イメージ・思考の探究のために』(グラフィック社、2022)など。 写真 / 若林亮二
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