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2026.06.17

大友克洋が日本の「かっこいい」を巻き取った銀座駅のパブリックアート / 連載「街中アート探訪記」Vol.53

Text / Shigeto Ohkita
Critic / Yutaka Tsukada

私たちの街にはアートがあふれている。駅の待ち合わせスポットとして、市役所の入り口に、パブリックアートと呼ばれる無料で誰もが観られる芸術作品が置かれている。
こうした作品を待ち合わせスポットにすることはあっても鑑賞したおぼえがない。美術館にある作品となんら違いはないはずなのに。一度正面から鑑賞して言葉にして味わってみたい。
今回訪れたのは東京メトロ銀座駅の構内に新たに生まれたパブリックアートである。手掛けたのは80年代漫画界におけるニューウェーブとして注目を集め、『AKIRA』で世界に名を知らしめた大友克洋。いわば新たな「かっこいい」を生んだ大友だが本作は日本の「かっこいい」を振り返ったものだという。

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  • #大北栄人・塚田優 #連載

「Procession Spin」
原画・監修:大友克洋
協賛:セイコーグループ株式会社、公益財団法人メトロ文化財団
協力:東京地下鉄株式会社
企画:日本交通文化協会
製作:クレアーレ熱海ゆがわら工房

ダイナミズムを感じる歴史の流れ

大北:いや、すごい…。熊手みたいにおもしろいものがわーっと載ってますね。こういうぐるっとした大きなしめ縄が神社にありますよね。
塚田:なるほど。神社には御幣(ごへい)というジグザグ形のものもありますが、あれも運動を感じさせますよね。
大北:ああ、この「ぐるっと」も運動と言えますね。
塚田:縄文から現代までは直線的な歴史ではなく、渦を巻くように激しく流れてきたということを示すために使っているのかもしれませんね。

大北:これはアートの歴史ですか?
塚田:東京メトロの広報の方によると、大友克洋が日本の歴史を振り返ったなかでかっこいいものを選んだという話だそうですよ。
大北:古代はストーンサークルとか渋いものもあり、神さま仏さまが真ん中あたりは目立ちますね。
塚田:近世ぐらいまでは宗教の勢いがあって、次第に芸事とか文化になってますね。
大北:近代は橋や塔のインフラが。
塚田:しっかり代表作の『AKIRA』もいる。AKIRAファンが来たらかなり嬉しいですよね。

大北:それにしてもたくさんある。1個1個面白いので時間が潰れますね。待ち合わせにいい。
塚田:待ち合わせアートだ。「これは何時代?」とか「これはどこの仏像?」みたいなことも話せますよね。
大北:お母さんたちはすごい喜びますよ。子どもに少しでも勉強してほしいから。観光コンテンツにもなりますから。
塚田:「『AKIRA』の金田だ!」って気づいてくれますかね。
大北:世界的コンテンツでもありますから。
塚田:知っていれば「おおっ」てなりますよね。

漫画と美術の巨匠たちとも重なる

塚田:同じ仏像がたくさんありますね。
大北:五百羅漢像は『火の鳥』鳳凰編にも出てきましたね。飢饉があって、主人公が像をいっぱい作るんですよね。災害の歴史と近いですよね。
塚田:言われて連想しましたが確かにこの作品の壮大さは手塚治虫の『火の鳥』を感じさせるところがあるかもしれません。古代から未来を行き来しつつ、人間の業を壮大に描く。大友は手塚をリスペクトしていますし。
大北:アニメーションをやったり、手塚・大友両氏の日本の漫画巨匠ラインありますね。
塚田:ですよね。あとこういうふうに森羅万象が描かれ、細かいもので全体が構成されるというのは、ブリューゲルやボッシュ(※)という西洋美術の巨匠との関連も考えてみたくなります。
大北:ああ、ヒエロニムス・ボッシュ、色んな変なキャラがめっちゃ描き込まれてるんですよね。SNSで知りました。たしかに色んなもの大集合の。
塚田:ブリューゲルはそのボッシュに影響を受けた人です。実際、これらの作家に対する興味を大友はインタビューで述べてますね。
大北:時間がつぶれそうな絵の系譜ですね。
※ヒエロニムス・ボッシュ(1450頃–1516)とピーテル・ブリューゲル(1525/30頃–1569)の2人は、16世紀の初期ネーデルラント絵画(現在のオランダ・ベルギー周辺)を代表する巨匠

塚田:ナマズがいるのは面白いですね。江戸時代、地震はナマズが引き起こしたという民間信仰がありました。
大北:関東大震災のころでもまだ皆そういう意識があったんでしょうね。火事もあるし、全体的に災害が多いですかね。
塚田:大友さんの代表作の『AKIRA』といえば核戦争が起きた後の世界ですし。人々の生活がガラッと変わるような出来事があった後も、歴史は続いていくのだというイメージを持ってるんでしょうね。
大北:こった設定ですよね。核戦争を起こした上で、そっから先っていう。
塚田:戦後復興としてオリンピックを控え、復興していくタイミングの物語というのは確かにこってる。飢饉や災害のイメージはやっぱり入れたかったというか、入れるべきだと思ったんでしょう。

平面を立体に起こす工房の工夫

大北:災害があって復興して戦争もあって。……戦艦大和、角度が凄いです。
塚田:すごいですよね。多視点で、上からだけじゃなく横から見てる視点もあったり。空間的な整合性はないはずなのに、ちゃんとわかるっていうね。
大北:脳はちゃんと認識できてますけど、よく考えるとどうなってるのかわけがわからないですね。戦艦の部分とかね。

塚田:この橋もかなり傾いてますよね。しっかりとしたパースっていうものを理解して絵が描ける大友さんだからこそ、応用が利くんでしょうね。
大北:点と点を結んで、その上に描く、みたいなのがパースってやつでしたっけ。
塚田:そうですね。消失点を決めて、そこから放射線状に線を作ると一点透視法になります。。上とか下にも消失点を作ると、俯瞰とか見下げた形が描けます

大北:これはどこまで大友さんがやってるんですかね。
塚田:ネットに公開されてる原画を見ると色もついてますね。
大北:じゃ工房の人たちがめちゃめちゃ頑張った可能性ありますもんね。
塚田:これは頑張ってますよ。今、原画を確認したら橋や戦艦実物にしたときにかなり傾けてますよね。
大北:見やすくしていただいている。
塚田:遠くから見ると原画の通りって感じがするんですけどね。
大北:立体はどこから見るかで形が変わってくるんですね。
塚田:近くで見るとものによって消失点が違うことがよく分かるので、「この原画をどう3次元にするか」という制作サイドの頑張りがわかる。や、すごいですよ。遠くから見ると割と普通に見えるのに。

パブリックアートの名工房と大友克洋のリアリズム

大北:これ陶でできてますよね。どうやって作るんでしょうね。
塚田:通常の工程だと粘土で造形して、乾燥後焼いた後に、釉薬などを塗ってもう一回焼くって感じです。ただ質感にこだわってますね。ガラス面のところとか。
大北:ほんとだ、陶器なのにメタリックなのも再現してますね。

塚田:この金田のバイクのカウルのところ、もしかしてそのまま鉄だったりします? 陶器は色んな質感を再現できますが。
大北:特に金属面はおもしろいな。宇宙飛行士の鏡面もあれば、こんな古代の金属もある。
塚田:青銅器ですね。 
大北:土器のところは素焼きみたいで、それぞれ「らしい」質感ですね。
塚田:クレアーレ熱海ゆがわら工房というパブリックアートを多く手掛ける工房が作ってます。
大北:よく出てくる名前ですね。確かにこの宇宙飛行士の鏡面、釉薬でこんな色が出るんだって。エイジングされた鉄みたいなところもあるし。全然違う。 
塚田:そうですね。釉薬大会だ。
大北:確かに釉薬大会ですね。うん。

大友克洋とはリアリズムの作家ではないか

大北:塚田さんはイラストレーション史も専門ですよね。大友克洋ってどんな位置づけなんですか?
塚田:大友さんの功績の一つとしてマンガの絵柄を変えたことがまずあると思います。
大北:『ゴルゴ13』みたいな劇画タッチが流行った時代のあと?
塚田:そうですね。当時は手塚治虫のような少年マンガ的なもの、萩尾望都のような少女マンガ、それにさいとうたかおのような劇画、大きく分けてこの3つがあったんです。
大北:「3つしかない」とも言えますね。
塚田:そんななかに1970年代後半から80年代初頭にかけて、高野文子やますむらひろしといったニューウェーブと呼ばれたマンガ家たちが登場します。73年デビューの大友克洋はその筆頭と言えます。

大北:大友克洋の絵の特徴とはなんですかね?
塚田:まず人物においては小さな目、低い鼻といった日本人の顔や身体の造形を美化することなく描きます。
大北:ああたしかに「大友らしい人物」ってありますよね。あれは美化してないんだ。
塚田:それに汚れや時間経過を感じさせる生活感のある背景。それまでのマンガになかった「リアリズム」を導入したんですね
大北:そうか、あんまり意識したことなかったですが、リアリズムとも言えますね。
塚田:そもそも大友克洋の漫画って「背景の書き込みがすごい」というのが特徴ですよね。
大北:そうそう、そういうイメージです。『アキラ』の漫画本がでかいのは小さくすると細かくて潰れるからだ、って話がありますよね。
塚田:そうなんですね。だからまとめると、日本の生活感のある都市空間を緻密な描写力で描いた。しかもただ細かいだけじゃなくてリアリティを表現しているところが新しかったんです。
大北:あ~なるほど。たしかにここでもリアリズムが。
塚田:そんな大友さんのパブリックアートを作るとなると工房の制作スタッフも質感にはこだわるだろうし、もしかしたら大友さんの指示もあったかもしれないですよね。それがこの釉薬大会に繋がった。

パブリックアートを生む理由とはなにか

大北:これ日本交通文化協会というところが企画してるんですよね。パブリックアートでよく見る協会。
塚田:そうですね。この協会と同年に設立された交通文化事業株式会社というのがあるんですが、ここが駅のベンチの広告事業で大きくなった会社でして、実は工房のクレアーレ湯河原も同社によってできたものなんです。
大北:へえ、パブリックアートの会社なのかな。ベンチに広告ついてますよね。上の方に。
塚田:今はネットを開くたびに広告って出てくるじゃないですか。
大北:もうそれが当たり前になって、いかに「とじる」を探すかの世界になってるくらいですね。
塚田:そうそう。広告だらけの世の中とも言えますよね。昔の人の感覚はわからないけど、多分、ベンチに広告ができた時もそういう気持ちだったんでしょうね。その恩返しということで、こういうパブリックアートを何百と作っています。
大北:へえ、社会にちょっと浸食したことのお返しの方をしなきゃと。そういう公共意識は今の広告だと薄れてきてそうだから立派なことですが。

塚田:きっと数えきれないくらいベンチ広告を貼り付けたんでしょうね。
大北:それで公共空間に視覚表現が溢れて、お返しにアートを作るのもまた表現ですから。世の中にたくさん表現を生んだんでしょうね。
塚田:最初は展覧会や奨学金を出したりしてて、1970年代からパブリックアートに力を入れ始めた。大友さんとは2015年仙台空港ビルのパブリックアートをきっかけに、何作かパブリックアートを作ってます。
大北:大友さんだけでも複数あるんですか。
塚田:そうです。そもそもは東日本大震災でダメージを受けた仙台空港を勇気づけるにふさわしいクリエイターとしての人選で大友さんだったようですね。彼は宮城県出身なので。
大北:なるほど、この作品で災害が描かれているのもなんとなくわかります。
塚田:大友自身は2012年にマンガ版『AKIRA』の原画展をやったのも震災が間接的なきっかけと語ってます。なにか力になれるのであればと考え依頼に応じたところもあったのかなと想像します。
大北:ちなみに大友さんみたいにマンガ家の人がパブリックアートを作ることってよくあるんでしょうか?
塚田:マンガやアニメのキャラクターの彫刻はけっこうあります。ただすでにあるキャラクターを使うのではなく、新作としてパブリックアートに取り組むのはどちらかというと珍しいと思います。交通文化協会のHPを見ると、大友以降マンガ家の作品が明らかに増えていて、協会が協働するクリエイターの幅を広げたという意味でも大友の取り組みは歴史的にも意味があるものだと思います。

美術評論の塚田(右)とユーモアの舞台を作る大北(左)でお送りしました

machinaka-art

DOORS

大北栄人

ユーモアの舞台"明日のアー"主宰 / ライター

デイリーポータルZをはじめおもしろ系記事を書くライターとして活動し、2015年よりコントの舞台明日のアーを主宰する。団体名の「明日の」は現在はパブリックアートでもある『明日の神話』から。監督した映像作品でしたまちコメディ大賞2017グランプリを受賞。塚田とはパブリックアートをめぐる記事で知り合う。

DOORS

塚田優

評論家

評論家。1988年生まれ。アニメーション、イラストレーション、美術の領域を中心に執筆活動等を行う。共著に『グラフィックデザイン・ブックガイド 文字・イメージ・思考の探究のために』(グラフィック社、2022)など。 写真 / 若林亮二

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