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2026.05.13

「いかによいプライベートの時間をつくれるか」プロフリークライマー・野口啓代の、脳を休める暮らしのサイクル / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.47

Interview&Text / Miki Osanai
Edit / Quishin
Photo / Madoka Akiyama

自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。

お話を聞いたのは、ボルダリング・ワールドカップで日本人女性として初優勝を飾るなど、クライミング界のパイオニアである野口啓代さん。選手を引退してスポーツクライマーの楢崎智亜さんと結婚、出産を経験したあとも、海外遠征に帯同しながらクライミングの普及活動に力を注ぐなど、家庭とクライミングを両立しています。

インテリア、ネイルやファッションも好きで、「私生活ではあえてクライミングから離れ、好きなものに囲まれて過ごしている」と野口さん。遠征先や旅先で購入したアートも、野口さんの生活を豊かにするアイテム。現役時代から大切にする暮らし方を聞いていくと、「疲労を溜めず、いつでもフレッシュな気持ちで仕事に向き合えるヒント」が見えてきました。

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  • #shuco #連載

# はじめて手にしたアート
「ロンドンで泊まったホテルは、空間のすべてにフォルナセッティの世界観が詰め込まれていて、すごくワクワクしました」

私が現役の頃から好きなアーティストのひとりが、フォルナセッティです。アートを手にするようになったわりと初期の頃から、フォルナセッティがデザインしたお皿やキャンドルなどを、よく購入していました。

海外でも日本でも購入していますが、最初はたしか、一番右のフラワーベース。こちらは海外で購入したものです。

(キャプション)3点とも、20世紀のイタリアを代表する芸術家・フォルナセッティの作品

フォルナセッティにハマったのは、インテリアを雑誌やSNSで眺めていたときに偶然知ったのがきっかけです。その後、2016年にロンドンのとあるホテルに泊まったことで、一層、世界観が好きになりました。

その年にパリで世界選手権があったのですが、大会のあと、留学中だった妹に会いにロンドンに行ったんです。泊まったホテルの一部は、壁紙から何から、空間のすべてにフォルナセッティの世界観が詰め込まれていて。近代美術というか、モダンな雰囲気に惹かれました。そういったホテルに泊まったのもはじめてのことで、すごくワクワクしました。

そのときにお土産としてフラワーベースを購入。その後、妹からプレゼントでもらったりもして、徐々にフォルナセッティのアイテムが増えていきました。

妹は美術館巡りが趣味で、ロンドンでは一緒に美術館を回りました。その手前に滞在していたパリは街並みそのものがアートのようで、歩いているだけでも楽しかった思い出があります。


# アートに興味を持ったきっかけ
「入り口はインテリア。家を快適に感じられる空間にしたいという欲求が、若い頃から強くありました」

アートへの興味の入り口は、やはりインテリアです。18歳からひとり暮らしだったのですが、その頃から、自分の好きなもので家の中をいっぱいにすることに楽しさを感じていました。

遠征も多かったので、家にいる時間はそんなに多くなかったけれど、「家という場所を自分が一番快適に感じられる空間にしたい」という欲求が、若い頃から強くあったんです。

好きなインテリアを集めていくうちに、先ほど挙げたフォルナセッティなど、海外の遠征先や旅行先で出会って惹かれたアートを、どんどん集めるようになっていきました。

Kartellのチェア

DETAILのウォールクロック

また、そういった中で、購入したものを自分でアレンジして絵画のように飾る、という遊びをするようにもなりました。

たとえばこちらは、エルメスのスカーフをホームセンターで額装して、飾ったもの。

このスカーフは、身につけるために購入したのではなくて、最初から「飾る」ことを想定して購入しています。

こういった発想になったのは、インテリアの本や雑誌の影響だけでなく、父の存在もあるかもしれません。父は、私が実家にいた頃から、大会のユニフォームを額装して飾るということをしていたんです。


# 思い入れのあるアート
「ソルトレイクシティのお店で出会ったカウズの作品は、その場でお店の人に交渉して、売ってもらったんです」

アートは海外で購入することも多いと話しましたが、フォルナセッティ以外だと、たとえば、カウズのコラージュ作品。

アメリカ・ソルトレイクシティで行われた夫の大会の応援に行ったときに、購入しました。

出会ったのは、偶然立ち寄ったアパレルのお店でした。もともとカウズが好きだったのですが、お店のインテリアとして飾られていたこの作品を観たとき、すごく素敵だなと感じたんです。

値札はついていなくて売り物でもなかったけど、お店の人に「これ買いたいです」とその場で交渉したところ、売ってくれるというお話になりまして。けっこう大きいサイズなので持って帰るのは大変でしたが、段ボールに詰めて、それを飛行機に乗せ、無事に家に連れてくることができました。

アートだけでなくインテリアにも、キッチンや洗面のスペースなど自宅全体にまで現れているのですが、私は温かみのあるものよりも、モダンな空気感を持つものが好き。

生活感がない空間のほうが落ち着くので、3年前に建てた自宅も、親しみやすさよりも憧れの家、のようなイメージでつくりました。玄関は特に気に入っている場所ですが、あえて吹き抜けにして開放的にしています。

一方、パントリーやトイレなどの小さなスペースは、色や小物を取り入れてちょっと個性的に。そういった遊び心も大切にしています。



# 疲労を溜めない過ごし方
「家の中には、クライミング要素がひとつもありません。あえて、プライベートと切り分けることを大切にしています」

現役の頃に比べると家で過ごす時間は増えましたが、今もクライミングの体験会や講習会をしたり、小中学生のボルダリング大会を主催しているので、クライミングに囲まれた日々を過ごしています。

変わらず大切にしているのは、オフのときは、クライミングから離れること。

それは生活空間にもよく現れています。私たちの家の中には、クライミング要素がひとつもないんです。何も知らずにうちにはじめて来た人は、スポーツ選手の夫婦の家だって、わからないんじゃないかな。

あえてそうしているのは、たとえトレーニングをしていなくても、クライミングのものが視界に入ることで、ずっとトレーニング中のような状態になってしまうから。家にクライミングのものがあると、脳がずっとがんばり続けている状態になってしまう。

体の疲労よりも脳の疲労のほうが取りづらいと思っているので、「家は家、クライミングはクライミング」と、プライベートとクライミングを切り分けることを意識しています。


# アートのもたらす価値
「現役の頃からお気に入りのものでやる気を高めてきた。好きなアートやインテリアに囲まれて過ごすのも、その延長線上」

その代わりではないですけど、家には、好きなインテリアやお気に入りのアート、自分の近くに置きたいと思うものばかりを置いています。

現役の頃から、好きなネイルを塗ったり、お気に入りのピアスを身につけることで、自分の気持ちを「ハッピー」「楽しい」といったポジティブなものに変え、やる気を高めてきました。好きなアートやインテリアに囲まれて過ごすのも、その延長線上にあるものだと思っています。

オフはクライミングから離れて自分の好きなものに触れるというのは、家にいないときも意識していることです。

長期間の大会中でも、空いている時間でちょっとでも遠出するなど、リフレッシュの時間をつくることを意識してきました。私は旅行が好きなのですが、たった半日だけでも遠くに行くと、戻ったときにすごく新鮮な気持ちでクライミングに向き合えるんです。

そうやって、「いかによいプライベートの時間をつくれるか」が大切ですし、私の場合はそれがクライミングの充実度につながっていると思っています。

ありがたいことに、私の主催するユース大会「AKIYO'S DREAM with RYUGASAKI」は今回で2回目を終えることができました。これからも、日本の子どもたちが世界で活躍できて、クライミングに夢を持って挑めるような活動を続けていきたいと思っています。

そのために、これからも好きなアートやインテリアを詰め込んだ空間で過ごす時間を大切にしたい。自分の一番いいサイクルを回し続けていきたいです。

 

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DOORS

野口啓代

プロフリークライマー

小学5年時に家族旅行先のグアムでクライミングに出会い、クライミングを始めて1年で全日本ユースを制覇。その後も国内外で成績を残し、2008年ボルダリング ワールドカップで日本人初優勝。ワールドカップ通算21勝、4度の年間総合優勝という快挙を成し遂げた。2018年アジア競技大会で金メダル、2019年世界選手権で2位に輝き、集大成となった東京2020オリンピックでは銅メダルを獲得し、現役を引退。現在は自身の経験をもとにクライミングの普及に尽力している。

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