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- 国内外を旅する画家の、仙台の創作拠点。浅野友理子のアトリエ / 連載「部屋は語る〜作家のアトリエビジット〜」Vol.9
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2026.09.16
国内外を旅する画家の、仙台の創作拠点。浅野友理子のアトリエ / 連載「部屋は語る〜作家のアトリエビジット〜」Vol.9
Edit & Text / Eisuke Onda
制作途中の作品や散らばった画材、机や棚から、その作家の個性が滲む。アトリエに訪れると、作品の奥にある思考の一端を垣間見ることができる。連載「部屋は語る〜作家のアトリエビジット〜」では、現代作家たちの創作空間を紹介していく。
第9回は国内外のさまざまな土地を訪れ、人と植物の関係をリサーチしながら得た実感を描く、画家・浅野友理子のアトリエを訪れた。
目眩く、植物をめぐるリサーチと作品







「これは最近作った版画作品で……」
そう言って作品を見せてくれたかと思えば、今度は「これは陶器なんですけど……」と別の作品の話が展開される。さらには台湾で手に入れた本、植物からつくられた紙、制作途中の5メートルほどもある反物へ。仙台市郊外の雑居ビルにある画家・浅野友理子さんのアトリエで、目眩く作品やリサーチ資料の話が始まった。
植物やその種子と人間との関わりをリサーチし、作品を制作してきた浅野さん。近年はそこから、植物そのものの生態や、植物が人や動物、虫とともに土地から土地へと移動してきた歴史へと興味を広げている。
「実は最近、アトリエにあまりいなくて、ずっとリサーチで台湾や韓国に行っていました。今月は絵画を描くのに集中しているんですが、明日もリサーチで東京に行きます。やっぱりどこかに出かけると偶然の出会いみたいなものが必ずあって、その時の身体的な感覚が大切で。それがないと描けないんです」
国内外のさまざまな土地を訪ね、そこで人や植物に出会い、自らの身体で実感したことを持ち帰って描く。旅することと描くことを往来する浅野さんに、現在の関心やアトリエで制作中の作品について、自由に話してもらった。
九軒目の作家
浅野友理子

1990年宮城県生まれ。現在は宮城県を拠点に活動。国内外の土地の食文化や植物の利用法をリサーチし、出会った人々との交流や自身の体験をもとに絵画を制作。土地に受け継がれてきた知恵や営みに目を向けながら、人と自然との関係や生命の循環を描き出している。

《くちあけ》(パネルに和紙、油彩、岩絵の具、水干絵具) 2019 大原美術館 所蔵

「あいち2025」での展示の様子 ©︎ Aichi Triennale Organizing Committee
Photo: ToLoLo studio
植物と虫の1対1の関係を描く

アトリエの扉を開くと、まず目に飛び込んできたのは色鮮やかなサツマイモと里芋の絵だった。大きく広がる葉、その下にごろごろと実る里芋。色鮮やかな紫色をしたサツマイモの絵の上では、収穫しようと無数の手が伸びている。
「これは埼玉県川越の芋の歴史を調べて描いた絵です。サツマイモの畑に行ったら、ちょうど子どもたちが芋掘りをしていて。1時間くらいでわーっと収穫して、一瞬で去っていく。その様子が印象的で描きました。9月からオペラシティで開催される『種と根っこ ─ 都市の耕し方』に出展しようと思って並べていました。床にあるキャンバスは、その展示のためにこれから描こうと思っているんですけど……まだ手をつけてないですね」


では、傍らに置かれたキャンバスには、これから何が描かれるのだろう。
「オペラシティの展示が都市の植物をテーマにしたもので、これまでの作品も出展するんですけど、新作はテーマに寄せすぎずに、いま興味のあるものを描こうかと迷っています。台湾に行ったときに出合った愛玉(アイギョクシ)という植物が面白くて。デザートの愛玉子(オーギョーチー)に使われるんですけど、この植物が受粉して実をつけるためには、愛玉小蜂という虫が必要なんです。愛玉専属の虫みたいな感じで、その関係が面白い。
調べていくと、日本の関東以西に自生するイヌビワという小さなイチジクみたいな植物にも、専属の虫が存在するんです。そういう植物と虫の1対1の共生関係を、シリーズとして描けないかなと思っています。まずはこのイヌビワをきっかけに都内の植物をみてまわる予定です。ちょうど明日から、小石川植物園や日比谷公園でイヌビワのリサーチをしようと考えていたところでした。オペラシティの植栽にも興味深い背景があって。いくつかのテーマが混ざり合う作品になるかもしれません。……まだ描いていないので、展示にこの作品がなかったら察してください(笑)」

台湾でのリサーチの際に購入した本。「現地で実際に会ったのがブヌン族の方々で、そこでは女性たちが代々豆を受け継ぐ文化があるんです。右の黒い本はその食文化の保存会の方々がまとめたもの。真ん中は小米(シャオミー)という穀物についての本です。小米でお酒をつくっている人たちもいて、日本でいうどぶろくみたいな感じなんですけど、フルーティーでおいしくて。お土産にしようと箱で買ったら、『すぐ爆発しちゃうから持って帰れない』となって(笑)。現地でたくさん飲みましたね」
植物のエネルギーを描くために


普段使っている筆と日本画の代表的な画材である水干絵具
浅野さんは絵を描く際、さまざまな画材を使う。西洋の絵具から日本画の画材まで、描きたいイメージに合わせて選び取るという。
「もともとは油絵学科なんですけど、今は油彩を使うのは1、2割くらいで、日本画の画材が多いですね。膠や岩絵具も使いますが、一番使うのは水干絵具。発色がパキッとしていて好きなんです。絵の最後に木の実に艶を出したいときには、油絵具を使ったりしますね。
植物の一瞬の躍動感みたいなものを描きたくて。絵なんだけど動いているように、生き生きと見せるには、線の強さだったり、色やタッチが大事で。植物の模様や種の質感を出すためにも、いろいろな絵具を使います。油絵具と日本画の画材のように、質感の異なるものをぶつけることで、植物が持つ力強さやエネルギーを絵に表現できると思っています」
そう語ったあと、おもむろに一枚の絵を取り出してくれた。


それは大学院時代に描いた作品だった。当時リサーチしていた山形の栃の実を描いたもので、浅野さんは栃の実からつくられる栃餅や、それをつくる人々について取材していたという。現在へと続く、植物と人との関係をめぐる制作の原点でもある。
「学部生の頃も植物は描いていたのですが、大学院の頃から地域に入ってリサーチする機会が増えて、植物と、もっと周辺にあるものを探りながら描くようになりました。この作品は栃の実の艶のある質感を表現したくて、周りは岩絵の具顔を使って、黒い実の部分は油彩で描きました。背景には銀箔を貼って、アイロンで焼いてこの質感を出しています。院生の頃は、日本画をやっている友達やテキスタイルの子とも距離が近かったので、影響を受けながら、油彩以外の手法にも挑戦できる環境だったんですよね」

「これは宮城県栗原市にある風沢ミュージアムで展示した、藍染作品の型紙です。その地域で代々藍染を受け継いでいる方がいて、その様子を描いた絵を型紙にして、ステンシルのように染めた布を制作して展示しました」
版画を刷る。紙に想いを馳せる



続いて浅野さんが見せてくれたのは、版画をまとめた冊子の刷り出しだった。
「埼玉にある『デイサービス楽らく』で滞在制作を行った際に作った版画の冊子です。毎日通われている利用者さんたちから植物をきっかけに話を聞いて、それをもとに版画を彫って、刷る様子をみてもらったり、刷りを体験してもらったり。その一部を塗り絵にして皆さんにも色を塗ってもらい展示しました。何か一緒に作ろうと思ったときに、一から絵を描いてもらうのはハードルが高いけど、塗り絵だったらできるという話になって。皆さん普段からやっているから色鉛筆の使い方も上手で、1枚1枚に個性があって、それぞれ仕上がった塗り絵に魅力がありました」


続いては渋い色味の和紙と、これまでに制作した版画をまとめた作品集も見せてくれた。1冊ずつ、製本も浅野さん自身が行っているという。
「このアトリエから1時間くらいの笹谷という地域に、塚原さんという方がやっている和紙の工房があって、そこで作っている紙なんです。和紙の原料となる楮の皮の質感をあえて残して、柿渋で染めています。その風合いがいいので、表紙に使おうと思って。この冊子は製本も自分でやっているので、注文があったらその都度作るという感じですね。こういう植物を原料にした紙も好きで、ついつい集めちゃいます」

「台湾で出会った原住民の方がつくっているもので、原料となる楮の皮を叩いてつくられているんです。丸めてみると、木の質感を感じますよね。楮について調べていくと、その種が台湾からポリネシアに移動してきたという説があって。種を辿ることで、植物が移動してきた歴史も見えてくるみたいです」
反物に描く、日韓の植物の往来

机の上に広がる長い反物。京都・京丹後のプロジェクト「あしたの畑」と、韓国の伝統文化研究所「ONJIUM(オンジウム)」との共同で開催される展示『SEA BRIDGES』で発表予定の作品だという。
「日本と韓国の共通する植生や、往来の歴史、京丹後で発見された古代の舟形木棺から着想を得た作品を展示します。このイメージなんですけど……」そう言って広げたのは水彩で描かれたインスタレーションのイメージだった。

「PCが苦手なので、こういうプランを求められると水彩で描いちゃいます。提出したあと、どこかに行っちゃうことも多いんですが……。長い反物と、信楽の大谷製陶所さんで滞在制作をして作った船形の陶器作品、それと絵を1枚展示する予定です。船に描いたのは、根の部分が和紙づくりに使われるトロロアオイや、韓国ではお茶や酒に使われる五味子(オミジャ)、韓国では『トドッ』と呼ばれ、東北の山間部にも自生する蔓人参など、どれも日韓で親しまれている植物です」
空間には、約5メートルの反物も展示される予定だ。使用しているのは、京丹後で生産される絹織物「丹後ちりめん」の、染色や加工を施す前の「生機(きばた)」。
「陶器の船に描いた植物や種子だったり、それがお茶や、織物になっていく様子だったりを描いています。布は絵画のように何度も塗り重ねたりできないので失敗できないし、描くのも難しいんです。普段はあまり下書きをしないんですが、今回は入念にしています」


写真上/墨で描いた下絵。写真下/布にうっすらと描かれた下書き
「絵画を描くときは、例えば《くちあけ》という作品では、最初に描いていたものを途中で塗りつぶして、描き変えたりしました。それがいい質感になることもあるし、うまくいかなくてやめる瞬間もあります。8割までいっているのに、なぜか完成しないこともあって。そういうときは、そもそも構図がダメだったりします。早い段階できれいにまとまったと思ったときこそ、途中で2回、3回と壊すこともありますね。1回壊さないと動かないっていうか……。今回は布が貴重なので、壊せないんですけどね(笑)」

絵画だけでなく、反物に描き、陶器を作り、版画を刷り、布を染める。その時々の興味や作品に合わせて、浅野さんの表現方法は軽やかに広がっていく。
「いろいろなことをやっていますが、全部、絵を描いている感覚です。私自身のことは画家だと思っています」

Information 
浅野友理子《綯い交ぜの庭》2021撮影:嵯峨倫寛
種と根っこ ─ 都市の耕し方
■出品作家
浅野友理子、板坂留五、今村文、岩名泰岳、加藤美佳、西條茜、鈴木初音、䑓原蓉子、保良雄、山縣良和
■会期
2026年10月17日〜12月20日
■休館日
月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
■開館時間
11:00 ─ 19:00
※入館は閉館の30分前まで
■会場
東京オペラシティ アートギャラリー
東京都新宿区西新宿3-20-2
詳細はこちら
あしたの畑 2026 REFLECTION| 秋期公開
■参加クリエイター
浅野友理子(大谷製陶所)、アンナ・へリンガー、五十嵐大介、いとをかし、
十八代 永樂善五郎、Onjium、金沢健幸、中川周士、中須左官店、縄屋、
パロマ+五十嵐大介*、益田芳樹、cenci、マーティン・ラオホ、
ルサージュ+髙室畳工業所*、ルマリエ+嘉戸浩・金沢健幸・藤田幸生*、
ロニオン+デザイン橡*(あいうえお順)
*Beyond Our Horizons展を機に制作されたle19Mと日本の職人とのコラボレーション作品
■会期
2026年10月12日(月・祝)~11月8日(日)
11:00-17:00 最終入場 16:00
■会場
間人:間人スタジオ、SEI TAIZA、間人プレース
宮 :宮のあしたの畑(Field of Stars、宮ティーハウス)
詳細はこちら
ARTIST

浅野友理子
画家
1990年宮城県生まれ、同県を拠点に活動。国内外の土地の食文化や植物の利用法についてリサーチし、出会った人々との交流や自身の体験をもとに絵画を制作している。土地に受け継がれてきた知恵や営みに目を向けながら、人と自然との関係や生命の循環、人間以外の生き物への視点などを色彩豊かな作品として描き出す。主な展覧会に「国際芸術祭 あいち2025」(愛知芸術文化センター)、個展「地続きの実り」(SNOW Contemporary、東京、2025)「アーティスト・イン・レジデンス プログラム2024 “SPINNING SCAPES”」(国際芸術センター青森、2024)、「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2024」(山形市蔵王体育館、2024)、「土とともに美術にみる〈農〉の世界―ミレー、ゴッホ、浅井忠から現代のアーティストまで―」(茨城県立近代美術館、2023)、「青森EARTH2019 いのち耕す場所 農業がひらくアートの未来」(青森県立美術館、2019)など。
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