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2026.07.01
アーティスト菊池玲生 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.46
Edit / Eisuke Onda
独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動する、とに〜さんが、作家のアイデンティティに15の質問で迫るシリーズ。今回は、歴史的な絵画のイメージを引用・再構成するアーティスト・菊池玲生さんのアトリエを訪ね、その作品や創作の背景についてうかがった。
アーティスト 稲恒佳奈 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.45 はこちら!
今回の作家:菊池玲生
東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程を修了(2023)し、博士号を取得。2023〜2026年の間は東京藝術大学教育研究助手を務める。菊池は、歴史的な絵画イメージを再構成しながら、私たちが「見る」という行為そのものを問い直す作品を制作している。彼の関心は、絵画の技法や素材の探求にとどまらず、鑑賞者がどのようにイメージを認識し、関係づけるのかという認識論的な側面にある。 現代においてAIが画像を生成し、視覚的メディアが無限に生産される状況の中で、彼の作品は「見る」ことの意味を再考させる。絵画を単なる視覚的対象としてではなく、環境や鑑賞者との関係の中で有機的に成立するものとして捉え、その可能性を探求している。 主な個展に「Surfaces」(TAKUSOMETANI GALLERY、東京、2026)、「What’s Spotlight?」(Art ID、東京、2024)、「これは『』ではない」(銀座 蔦屋書店、東京、2024)。グループ展として「膠へのまなざし」(日本橋髙島屋、大阪髙島屋。京都場に巡回)、「Meta Perspective」(四季彩舎、東京、2025)、「Distance」(Gallery MU、東京、2024)、「他人の風景 Vol.2」(alpha contemporary、東京、2024)など。アートフェアでは2024年に中国・厦門のART AMOYへ、2025年にはART FAIR ASIA FUKUOKAに出展。11月にはVietnam International Art Fairに参加。
《Copy and paste 2514》(綿キャンバス、アクリル絵の具)
《Copy and paste 2520》(綿キャンバス、アクリル絵の具)

菊池玲生さんに質問です。(とに〜)
大変ご無沙汰しております!初めて出会ったのは10年以上も前、若手作家が多数参加するグループ展でしたね。僕がMCとして若手作家たちに話を振っていくというトークイベントで。菊池さんに、イベントの時間内に新作を仕上げられるか無茶ぶりをしたのでした。その節は大変失礼いたしました。さらに、その後、トークショーとワークショップを掛け合わせたような謎イベントのゲストをお願いしたこともありましたね。あれも今思えば、無茶ぶりでした。重ね重ね大変失礼いたしました。あの菊池さんが今やすっかり立派になられて!……と思ったら、しばらくお会いしないうちに作風ががっつり変わっていました!一体何があったのでしょう?!是非、教えてくださいませ。せっかくなので(?)、無茶ぶりみたいな質問も混ぜておきました。
Q01. 作家を目指したきっかけは?
これというきっかけはありませんが、細かい選択の積み重ねで。
Q02. 青春時代、一番影響を受けたものは何ですか?
自分ではわかりません。

「大学院までは日本画を制作していましたが、博士課程の頃から画中画を取り入れた作品を発表するようになりました。ただ、その頃は公募展にもなかなか通らなくて。日本画というカテゴリーでは扱いにくい作品になっていたんだと思います。そうした経験もあって、現代美術の文脈をより意識するようになりました」
Q03. 近年の代表的なシリーズ「Copy and paste」について教えてください。
Photoshopで既存の絵画を反復する形で再構成して出力し、キャンバスに描画する作品です。絵画やイメージの同一性や行為の一回性を扱いつつ、見るという行為そのものを対象としていくような作品です。対象となる作品を選ぶ基準はありませんが、浮世絵はマルチプルな性質をもつため、多く制作しています。

「『Copy and paste』には引用元となる絵画があるのですが、最近はAIのことも考えます。生成AIに『作家Aと作家Bを混ぜた表現で風景を描いて』と指示すればできることを、作家がフィジカルを使ってやることに意味があるのかなと。そこに現状では絵画らしさが出るのかなと思っています」
Q04. デジタル上でコラージュする際のこだわりはありますか?
気持ちのわるい気持ちよさのようなものは意識しています。このシリーズは作者の肉体的な介入が限りなく小さい性質なので、構図で、絵画としての強度が出るように時間をかけて調整しています。

「別々の絵の波のラインをあえて揃えたり、顔を描かなかったり、断片を繋げたりと、絵画の構図では忌避されがちなことをやっています。ただ、ギリギリ気持ちよく見えるようなバランスは大切にしていて。サンプリングに使う絵にも特別な基準はなくて、有名で見た人に伝わるなら、ダーツで選んでもいいくらいです」
Q05. 職業病だなぁと思うことは?
特に絵画ですが、モノを見た時に工数や手順、仕組みを考えてしまうところです。


制作途中の《Copy and paste》。デジタルでコラージュしたイメージを転写し、マスキングテープを重ねながらレイヤーごとにアクリル絵の具で描いていく。「このシリーズでは再現性の高いアクリル絵の具を使うことが多いですね。以前は箔も使っていましたが、日本美術の技法そのものを再現することに少し違和感があって、今の方法に落ち着きました。“たらし込み”を再現すると、偶発性の再現になってしまう気がするんです」
Q06. 「Seen being seen」シリーズについても教えてください。
前述した「Copy and paste」を制作する前、画中画を主に題材としていた時期に、絵というものが限りなく他人であると思っていました。 同時に、根津美術館蔵の「吉野龍田図屏風」の鑑賞体験や、李朝の民画の逆遠近法を用いた表現から、「絵がこちらを所有し、そして見ている」のだと思ったことを端緒として制作しているドローイングのシリーズです。

感光材を用いて制作する「Seen being seen」シリーズ。他者の絵画を転写しながら、「見ること/見られること」の関係を探っている。写真は《2503》(感光剤、箔、墨、和紙)
Q07. 「見る」という行為をテーマにしているのはなぜですか?
私にとって「見る」ことと同じくらい「見られる」ことが重要です。それは私に向けられる視線という意味ではなく、視線は交換されるものである、等価であることに意味を感じるのです。

「博士論文では日本画を制度論的に扱っていたのですが、一方で『見ること/見られること』にも関心がありました。鷲田清一や、メルロ=ポンティの身体論なども参照しながら考えていたのですが、私が言いたいのは、人物と視線を交わすような話ではありません。私たちは絵画やイメージを所有するものだと考えがちですが、逆に絵画の方がこちらを見ている、あるいは所有していると捉えることはできないかと思ったんです」
Q08. アトリエの一番のこだわり or 自慢の作業道具など
共同アトリエではないところです。同じクラスタの人がたくさんいるのが苦手なので。


大学を出て自宅で制作するようになったことをきっかけに、棚なども自らDIYしたという。几帳面に整理整頓された空間には、植物や趣味の品々が並び、菊池さんらしい一面が垣間見える

アトリエで育てている「デカリア・マダガスカリエンシス」。「マダガスカル原産の植物で、ジグザグの木とも呼ばれています。今は新芽がかわいいんです」と菊池さん

本棚には多様なジャンルの書籍が並ぶ。「最近ジャンルごとに整理したので、だいぶ探しやすくなりました」と菊池さん

台所の壁には、友人と飲んだクラフトビールのラベルが貼られている
Q09. もっとも尊敬するアーティストは誰ですか?
尊敬するあらゆる分野のアーティストがいますが、一番となると難しいです。

ズラリと並んだ『日本屏風絵集成』から好きな作品を尋ねた

「『誰が袖図屛風』は、画中画という意味でも影響を受けた作品です。重いですし、最近はネットで高画質の絵画も見られるので滅多に開かないんですけど、本ならではの印刷技術が極まっていて、デザインもいいんですよね」
Q10. 「私、こう見えて○○なんです」何?
博士号取得者。
Q11. もしも作家になってなかったら、今何になっていたと思いますか?
鼻持ちならないヤツ。
Q12. 自分を漫画やアニメなどのキャラクターに例えるとしっくりくるのは何ですか?
ドラえもん。

大学時代、帰り道に上野駅の本屋で一巻ずつ買い集めたという『ドラえもん』。「毎週一冊ずつ買えば一年で揃うなと思って集め始めました。読んでみたらやっぱり面白い。子どもの頃と大人になってからでは笑うポイントも違うし、改めて読むと笑いの作り方がすごく巧みなんです」
Q13. 目の前にいきなり宇宙人が現れました。まず何をしましょう?
ほんやくコンニャクを食べる。
Q14. 誰かと一日だけ入れ替われるとしたら、誰になりたいですか?
シド・ヴィシャス。私の体で好き放題に振る舞ってほしい。私はTATEを見に行きます。

「今回の回答は、海外アーティストの翻訳記事っぽい文体をちょっと意識していました(笑)。『私にとって重要なのです』みたいな、本人はそこまで言っていないんだろうけど、翻訳すると少し硬くなる独特の感じがあるじゃないですか。あの雰囲気を目指してみました」
Q15. 今後の目標を教えてください。
より多く、広く作品を理解してもらうことです。


“気持ちのわるい気持ちよさ”を意識していると聞いて、ストンと落ちるものがありました。「Copy and paste」シリーズの作品を初めて拝見した際、思わず連想したのが、パソコンのエラー画面でした。しかしながら、不思議と嫌悪感はなく、むしろ心地よさを感じました。菊池さんの目で調整し、菊池さん自身の手で描く。AIではなく、人が制作したからこそ生まれる心地よさなのですね。
そんな絶妙なニュアンスで描かれた作品の真の魅力は、パソコンやスマホの画面越しではなかなか伝わりづらいかもしれません。菊池さんの作品が少しでも気になった方は、是非とも実物を見てくださいませ(と同時に、作品からも見られてください)。
ところで、海外アーティストの翻訳記事っぽい文体を意識した回答って何ですか!しばらくお会いしないうちに、ちょっと鼻持ちならないヤツになったのかと思いました(笑)。(とに〜)
Information
角谷紀章・菊池玲生 2人展(仮)
■会期
2026年8月27日(木)→9月2日(水)
■営業時間
10:30~20:30(※最終日は18:00閉廊)
■会場
Artglorieux GALLERY OF TOKYO
東京都中央区銀座六丁目10番1号 GINZA SIX 5階
ARTIST

菊池玲生
アーティスト
東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程を修了(2023)し、博士号を取得。2023年〜2026年の間は東京藝術大学教育研究助手を務める。菊池は、歴史的な絵画イメージを再構成しながら、私たちが「見る」という行為そのものを問い直す作品を制作している。彼の関心は、絵画の技法や素材の探求にとどまらず、鑑賞者がどのようにイメージを認識し、関係づけるのかという認識論的な側面にある。 現代においてAIが画像を生成し、視覚的メディアが無限に生産される状況の中で、彼の作品は「見る」ことの意味を再考させる。絵画を単なる視覚的対象としてではなく、環境や鑑賞者との関係の中で有機的に成立するものとして捉え、その可能性を探求している。 主な個展に「Surfaces」(TAKUSOMETANI GALLERY、東京、2026)、「What’s Spotlight?」(Art ID、東京、2024)、「これは『』ではない」(銀座 蔦屋書店、東京、2024)。グループ展として「膠へのまなざし」(日本橋髙島屋、大阪髙島屋。京都場に巡回)、「Meta Perspective」(四季彩舎、東京、2025)、「Distance」(Gallery MU、東京、2024)、「他人の風景 Vol.2」(alpha contemporary、東京、2024)など。アートフェアでは2024年に中国・厦門のART AMOYへ、2025年にはART FAIR ASIA FUKUOKAに出展。11月にはVietnam International Art Fairに参加。
DOORS

アートテラー・とに~
アートテラー
1983年生まれ。元吉本興業のお笑い芸人。 芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など、幅広く活動中。 アートブログ https://ameblo.jp/artony/ 《主な著書》 『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』(誠文堂新光社) 『名画たちのホンネ』(三笠書房)
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