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INTERVIEW
2023.01.27
集めることとアートはつながっている。透明愛好家tomeiが愛する、日常に寄り添う透明コレクション
ARToVILLAでは2022年10月から、音楽やファッションや映画など、さまざまな入り口からアートを手にする楽しさへといざなう特集「アートを観たら、そのつぎは」を実施しています。
アートを観て、それをいきなり購入したり、コレクションしたりすることはハードルが高いかもしれませんが、美しい包装紙や海で見つけた貝殻など、身近なものに自分なりの「アート性」を感じて思わず何かを収集してしまった経験がある人は多いのではないでしょうか。今回登場する透明愛好家のtomeiさんもそのひとり。コレクターはどのような美意識を持ってそれを集めているのか、そのコレクションとアートに通ずるものはあるのか。tomeiさんに、自身が集めている透明なアイテムと透明愛好家の活動、好きなアートとの共通点について聞きました。
# 透明について
「小さい頃から気づいた頃にはもう透明に惹かれていた」
tomeiさんが手がけた「流氷ゼリーポンチ」。海のような青いソーダに、流氷をイメージした乳白色のゼリーが浮かぶ
透明なものに惹かれるようになったきっかけそのものは、じつはすごく曖昧だったりして、小さい頃からすでに透明なものに惹かれていたように思います。水の波紋や、海の波をみつめている瞬間はあっという間で、この時間が溶けていく感覚に気づいた頃にはもう、透明に惹かれていました。
小さい頃は、手を動かすことが好きな子どもでした。折り紙、粘土、絵を描くこと。今、SNSで発信している料理もそのうちのひとつだったりします。それと同じくらい「透明」という存在が好きで、海に落ちているシーグラスやガラスのビー玉などを拾い集めたりしていました。
透明なものの魅力はきっと語りきれないほどたくさんありますが、私が思うのは透明が持つ曖昧さが魅力のひとつ。「透明」はこの世にないものの表現として使われることもありますが、言葉としては確かに存在しています。この矛盾に満ちた存在は常に不安定さを兼ね備えているように思うんです。あるようでない。ないようである。この目が離せなくなるような不安定さこそが、透明を魅力的だと感じるひとつの理由になっているのかもしれません。
# コレクションすることについて
「集めるという行為は、一時的ではなく継続的に楽しみをもたらしてくれる」
現在、自宅にある透明コレクションは、重複しているものもありますが、ざっくり数えて100点ほどあります。
透明なものの中でも、水やオイルなど動きがある素材を一緒に合わせられるアイテムは特に心が惹かれます。ガラスのお皿やグラスなど、中に入れるものによって見え方が変わったり、天気や光の当たり具合で変化を見せてくれるアイテムは、常に透明好きな心を楽しませてくれます。
なかでもお気に入りなのが、studio noteのawaglassという泡時計です。ガラスの中に特殊なシャボン液が入っていて、泡が上へ上へと上がっていきます。泡の大きさだけでなく通過する時間までバラバラで、砂時計が時間を計るものだとするなら、泡時計は時間を楽しめるようなアイテムなんです。
作品を手掛けた作家さんを知ってもらう機会になったらいいなと考えているので、集めたアイテムは写真を撮ってSNSで発信して楽しんでいます。そうすることで、投稿をみてくれた方と一緒に楽しむことができる良さがありますね。
「コレクションする」ことについては、集める瞬間はパズルのピースをはめていくような楽しさがあり、集めた後はグラスに水が満たされるような充実感があります。私の部屋には多くの透明アイテムが飾ってあり、「好き」が詰まった部屋だからこそ気分を高めてくれます。集めるという行為は私にとって、一時的ではなく継続的に楽しさをもたらしてくれる存在のように思います。
# 好きなアートについて
「私のコレクションと好きなアートの共通点は『日常とリンクしている』こと」
tomeiさんが所有する吉岡徳仁さんの作品集『TOKUJIN YOSHIOKA』
卒業アルバムで将来の夢にクリエイティブ職と書いたくらい、子どもの頃からアートには興味を持っていました。家族もアートが好きで、小さい頃から美術館へ連れて行ってもらったことをふと思い出したりします。普段のアートの楽しみ方は美術館に行ったり、本を買ったり、自分でつくることなど多岐に渡ります。楽しみ方って好きなものに対する向き合い方にも似ていて、集める、つくる、発信するなど、ひとつに絞る必要はなく、自由に捉えていけたらと私は考えています。
Tokujin Yoshioka, TORNADO, 2007(画像提供:吉岡徳仁デザイン事務所)
好きなアート作品を挙げると、吉岡徳仁さんの「TORNADO」はそのひとつです。200万本のストローによる竜巻のようなインスタレーション作品を展示会場でみたときに湧き上がった高揚感は今でも忘れません。書籍『みえないかたち』の中で、吉岡さんが手がける作品の素材はいつも身近なものから着想を得ていることを知りました。私が透明な作品づくりの題材に料理を用いたのも、身近なものを用いる吉岡徳仁さんの影響を受けているところがあると思います。
PixCell-Deer#52 2018 mixed media h.2173 w.1896 d.1500 mm photo : Nobutada OMOTE | Sandwich Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE
また、彫刻家の名和晃平さんが手掛けている「PixCell-Deer#52」という作品には、物の捉え方という観点でインスピレーションをもらいました。名和さんの「PixCell」シリーズは動物の剥製や楽器などの表面が細かい透明の球体で覆われている作品で、観る角度によって、光の反射や歪みで輪郭がぼやけて見えるんです。透明なものって透き通ってクリアに見える魅せ方だけではなく、多くの可能性を秘めているなと感じました。
アートプランターを制作するユニットEchidnaが手がける、水をイメージしたサボテン「water cactus」
実際に購入したアート作品でいうと、Echidnaさんという作家さんが手がける透明なサボテンは、手に入れたことがあります。樹脂でできた植物の作品で、水をたっぷりと含んだような透明感のある佇まいに一目惚れをしました。造形も細やかでひとつひとつ手作業でつくられています。私の家にあるのは飛鳥という種類のサボテンなのですが、他にもウチワサボテンやオベサといった様々な種類のサボテンを手がけているそうです。
「日常とリンクしている。」という点で、これらのアートと私がコレクションしている透明なものは通じているところはあるかもしれません。コレクションしている作品は、時計や食器などの普段の生活の中で馴染んでいる存在です。
# 自身の活動について
「作品をつくるときは日常の景色、季節そのものがアイデアの源」
tomeiさんが手がけた「金木犀の琥珀糖」。金木犀ジャムを使い、秋の香りを閉じ込めた
「透明愛好家」として活動を始めたきっかけは周りの友人が与えてくれたと考えています。普段の会話の中で、好きな色について話していたときに私が、「透明が好き」と答えたときに、思いのほか周りの人たちが驚いていたのです。この会話が周りとの違いに気づいたひとつのキーポイントで、透明を意識するきっかけにもなりました。もちろんほかの人と違うということに悩んだ瞬間もありますが、今思い返してみると違いに気づけるということはかけがえのない時間だったなと思いますね。
そこからふと、自分と向き合ってみたいと思い立って、最初に始めたのがカメラでした。カメラって、そのとき撮った心情や撮りたかった気持ちを写真を通して思い返すことができるんです。そうして見返してみると、ガラスやキラキラした水の写真をよく撮っていたなと気づきました。そこから周りの友人たちも背中を押してくれたこともあり、透明なものを発信するようになりました。
今に至るまでを思い返してみると、自分と向き合って見えてくる自分もあれば、誰かとの会話の中で気づく自分もあるのだなと感じますね。
写真を撮るときに意識していることは光と影です。透明な光を反射して煌めく瞬間もあれば、影を吸い込み暗闇と同化する瞬間もあります。天気によっても見え方が変わるのが面白いところで、変わり続ける空間の中で透明が引き立つ一瞬を模索しながら見つけています。写真は独学で始めました。前提知識を持たないことは、自分の世界観を研ぎ澄ませていける良さとして前向きに考えています。
春の儚さを感じさせる「桜をとじこめたゼリー」
また、私は透明を料理で表現し発信することも多いですが、料理と透明は一見すると別のもののようでいて、儚さという共通点があります。食材は形を変えて変化をして、最後には味わうという行為で、なくなってしまう。透明もまた、あったものがなくなってしまったり、突然生み出されたり、波があります。その刹那的なところに料理と透明との親和性を感じて表現しています。作品をつくるときは日常の景色、季節そのものがアイデアの源です。桜を閉じ込めたゼリー、金木犀の琥珀糖など、視覚だけでなく味覚でも季節を味わえるように考えています。
「透明愛好家」として活動を始めてから、透明を同じように好きだと言ってくれる人が、たくさんいるのを知ることができました。それが何よりうれしいです。
# 今後の夢について
「いつか、透明な美術館をつくりたい」
雨をイメージしてつくったリング。ガラスとシルバー925を使用した「雨粒の指輪」
これまでは料理のつくり方や写真を、SNSで届けることが多かったんです。でも、「身につけることのできて長く楽しめる透明」をみなさんの手元に体験として届けられたらという思いがあり、今は身につける透明なアクセサリーに力を入れています。私は、今も昔も変わらずマイペースと言われることが多いのですが、好きなことに関しては時間を忘れるほどに没頭してしまいます。アクセサリーをつくっていると、朝に作業を始めてふと気づいた時には日が沈んでいることがよくありますね。
水のテクスチャーの再現にこだわった、ガラス製の「Water crown ring」
また、「透明な美術館をつくる」という大きな夢も温めています。現実としてか、あるいは仮想空間としてか、まだまだ考えるところはたくさんありますが、現段階では「訪れる人たちが心地良いと感じる空間を軸に築いていけたら」と考えています。
美術館について、視覚的な部分で言うと、空間は光を取り込んでくれる白を基調することで、今まで透明愛好家が作品を作ってきた空間に近い状態を再現できたらいいな、と。作品は、自身のコレクションから、ガラスや絵画など透明に通じるアートを手がける方々の作品を展示できたら幸せですね。透明な美術館がみなさんの琴線に触れるような素敵な出会いの場所になったらと、今も昔も夢みています。
DOORS
tomei(トウメイ)
透明愛好家
2019年より、透明愛好家として透明な雑貨、インテリアを紹介したり、自身が手がけた透明な料理のSNS発信をスタート。その幻想的な世界観で多くのファンを集める。翌2020年7月には「Casa BRUTUS」の「夏のひんやりスイーツ図鑑。」の表紙作品を手がけ話題に。現在は、写真や映像の撮影、SNSでの配信、コラムやインタビュー執筆など幅広く活動中。著書に『世界一美しい透明スイーツレシピ』(KADOKAWA)
volume 04
アートを観たら、そのつぎは
アートを観るのが好き。
気になる作家がいる。
画集を眺めていると心が落ち着く。
どうしてアートが好きですか?
どんなふうに楽しんでいますか?
観る、きく、触れる、感じる、考える。
紹介する、つくる、買う、一緒に暮らす。
アートの楽しみ方は、人の数だけ豊かに存在しています。
だからこそ、アートが好きな一人ひとりに
「アートとの出会い」や「どんなふうに楽しんでいるのか」を
あらためて聞いてみたいと思います。
誰かにとってのアートの楽しみ方が、他の誰かに手渡される。
アートを楽しむための選択肢が、もっと広く、深く、身近になる。
そんなことを願いながら、アートを観るのが好きなあなたと一緒に
その先の楽しみ方を見つけるための特集です。
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