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INTERVIEW

2024.10.02

アイドル和田彩花が訪ねる世界の「ジャパン・ブルー」。Valextraもラブコールを送る〈京藍〉の魅力 / 京藍染師・松﨑陸

Edit / Mami Hidaka
Photo / Kana Anzai

日々熱心にアートシーンを追いかけ続けるアイドルの和田彩花さん。1年以上にわたるフランス留学を経て、アートを暮らしに取り入れることの豊かさを体感したといいます。また日本の伝統文化の魅力も再発見し、今は特に「ジャパン・ブルー」と呼ばれる藍染の魅力をもっと深掘りしたいとのこと。
ミラノ発のラグジュアリーレザーブランド・Valextraとのコラボレーションで注目を集める京藍染師の松﨑陸さんにお招きいただき、彼の工房を見学しました。10月末から京都・祇園のCasa Valextraと大丸京都店での作品展示が同時開催される松﨑さんに、京藍染にかける情熱やValextraとのコラボレーションについて聞いていきます。

 

日本古来の藍色は、神秘的で奥深い。
海外では「ジャパン・ブルー」と高評価

和田:今日は素敵な工房にお招きいただきありがとうございます!松﨑さんは、日常使いできる衣服やバッグなどのアイテムから、屏風や平面といったアート作品まで、さまざまな藍染の表現を展開されていますが、藍染にのめり込むきっかけはなんだったのでしょうか。

松﨑:きっかけは、大学卒業後ニューヨークに遊びに行った時のことでした。ふらりと入ったアパレルショップで、スタッフの方が「このシャツはジャパン・ブルーだよ」と教えてくれたんです。その時はあまり気に留めていませんでしたが、帰国後たまたま見たテレビ番組で日本の藍染が特集されており、海外で「ジャパン・ブルー」として高く評価されていることを知りました。ニューヨークでの出来事とつながって興味を持ち、藍染について色々調べる中で、せっかく挑戦するのであれば僕の地元・京都で約200年続く「染司よしおか」という染色工房で修業したいと思い立ちました。

和田:現代だと、日本の伝統技術の価値は、日本人より海外の人のほうが知ってくれていることも多いですよね。藍染は、特に徳島県で盛んに行われているイメージがありましたが、京都にも200年続く染色工房があったとは意外です。

松﨑:僕も元々藍染は徳島発祥のものだと思っていたのですが、歴史を調べていくと産業としての発祥は京都だということを知りました。「染司よしおか」の展覧会では、藍色以外にも赤や黄色などさまざまな色が展開され、美しくパワフルな色の数々に驚きました。すっかり植物染に魅了されて「自分もこの色を出してみたい」と強く思い、その場で「染司よしおか」五代当主・吉岡幸雄先生に弟子入りを頼み込みました。

 

藍の発祥は京都!
養蚕、手織り、和裁の修業を経て
京都で約200年続く染色工房に入門

松﨑さんは藍の自家栽培にこだわり、900坪の畑や工房の庭で京都原種の藍を育てているという

京藍の乾燥葉。松﨑さんは素手で藍染を行うため、手は爪先まで青く染まっている

松﨑:最初は厳しく断られましたが、その後もしぶとく吉岡先生の工房に通ってお願いし続けた結果、「2年間、愛媛県で修業してきたら考える」と。ついに藍染を学べると思った僕は、迷わず先生のご指示のもと愛媛県にある西予市野村シルク博物館が運営する教育機関に入りました。そこでは蚕に餌となる桑の葉を与え、繭を育てて絹糸を引き、その糸を植物で染め、手機に一本一本糸を通して機織りする…… という繊細な手仕事を学ぶ日々。養蚕から織り、和裁までを通しで学び、夜はコンビニでバイトして学費と材料費を稼ぐ…… まるで藍染への覚悟を試されているかのようなハードな修業期間でした。

和田:聞いているだけで心が折れてしまいそうな修業ですが、天然の原材料にこだわる藍染だからこそ、染める布へのこだわりも重要なんですね。逃げ出さなかった松﨑さんの行動力と忍耐力が素晴らしいです。2年間の修業を経て、無事に吉岡先生への弟子入りは果たせたのでしょうか?

松﨑:はい!念願叶って「染司よしおか」の工房に入れていただくことができました。しかし入門してからもしばらくは、藍染だけは触らせてもらえなかったんです。他の植物の染めは良くても、藍染だけはお許しが出ない。愛媛での2年間の修業に耐えた僕もさすがにしびれを切らして、自宅の風呂場にバケツを突っ込んで、独学で藍染の勉強を始めました。

京藍の歴史を学ぶため、京都の骨董品屋や古書店を訪ねて歴史的な文献を探したという。「和漢三才図会」第94巻

一点ものと思われる江戸時代の俳諧師、服部嵐雪の俳句まで

和田:なんて厳しい世界……。藍染のお許しが出なかったのはなぜですか?

松﨑:他の植物とは違い藍染は発酵させないと染まりません。素人が触ってもし発酵が止まってしまったら、仕事が止まるリスクもあるんです。自宅の風呂場で失敗を幾度となく繰り返して発酵の難しさを知り、吉岡先生から藍染のお許しが出なかった理由がわかりました。

和田:今化学染料を使った簡易的な藍染が多い中で、栽培から染料を作るまでに約1年もかかる天然の藍染に大きな価値を感じますし、藍染師の方へのリスペクトが溢れてきます。化学染料で染めた色とはどのような違いを感じますか?

松﨑:植物で染める色は優しい色をしていて、やはり化学染料では出せない色だと思います。僕が行う京藍染は室町時代の技法で、藍の葉を発酵させて堆肥状にした蒅(すくも)という染料と、木灰の灰汁、水という天然の原材料だけを使います。木灰の成分を微生物が食べ、発酵が進むと、空気に触れたところが青くなるという自然の力そのものを生かした技法です。
バケツの中の茶色い水が、少し青みがかってきたら発酵のサイン。給料の半分以上を藍染の材料費に費やしては失敗し、水の泡になるという地獄の日々を乗り越えて、初めて成功した時は本当に嬉しかったです。バケツの中で目には見えない微生物たちが働いて、この美しい藍色を引き出してくれているのかと思うと、とても神秘的な気持ちになりました。

藍の葉を発酵させて堆肥状にした蒅(すくも)〈提供写真〉

〈提供写真〉

和田:松﨑さんの京藍への愛が伝わってきます。工房での藍染ワークショップをはじめ、企業やブランドとのコラボレーション、アート作品の制作など、幅広く活動されていますが、活動全体を支えるモチベーションはどのようなものですか?

松﨑:京藍の魅力にはまっていく中で、師匠の吉岡先生はずっと「歴史を学びなさい」「歴史に答えがある」と、たくさんの古い文献を貸してくださいました。藍染は徳島県が有名で京都発祥だということはあまり知られていませんが、たくさんの文献に触れて歴史を学ぶ中で、かつての京藍の産地は僕の地元である洛西だったことや、染料が貴重だった江戸中期以降に命懸けで藍栽培の技術を京都に戻した人物がいたこと、しかし大正時代に京藍が滅びてしまったことなどがわかり、「京藍を復活させたい」「日本の正しい歴史を残し後世へ繋げたい」という気持ちが強まりました。修業3年目に吉岡先生がお亡くなりになり、その約1年後に京藍の復活と発展を目指して「染司よしおか」から独立し、今に至ります。

和田:松﨑さんの作品の実物を前に今の京藍のお話を聞かせていただき、京藍の底力や歴史の厚みを感じました。「京藍を世界に広げる」という意味で、今回のValextraとのコラボレーションや、京都2ヶ所でのアート作品の発表はすごく楽しみですね!

松﨑:僕もすごく楽しみです。僕が歳を取って死んだ後も京藍は残っていってほしい。独立したての頃はバッグやポーチなどを作っていましたが、それだけでは京藍は長く残せないと思ったんです。せっかく京藍を地元・洛西で復活させることができたので、その歴史と伝統を後世に繋ぐために、京藍のアート作品を作り、博物館や美術館に収蔵してもらうということを目標にしています。

和田:素晴らしい目標ですね。ジャパン・ブルーのアートは、海外の展覧会やアートフェアなどでも目を引くと思います。画面に向かって絵の具を飛ばしたようなダイナミックな抽象画も、水玉模様が可愛らしい抽象画も、どちらも魅力的です。円を描くようなタッチも相まって、宇宙空間のような印象を受けました。

松﨑:この作品たちは悟りや真理、禅、宇宙、自然などを象徴する「円相」をテーマに制作しています。アート作品の制作も天然の材料にこだわっているので、白い部分は白で塗ったわけではなく元々の布の色なんです。部分的に布に蜜蝋を溶かして固めることで、藍が染まらないようにコントロールして絵を作っています。餅粉で作った糊を使うこともありますよ。100パーセント思い通りとはいきませんが、その偶然性も楽しみながら制作しています。

和田:染めでも、創意工夫で色々な絵が表現できるんですね。Valextraのイジィデとコラボレーションしたバッグも、松﨑さん独自の水玉模様で作られたということで、今からお披露目の時が楽しみです!

2023年、妙心寺 桂春院での個展「円相」より〈提供写真〉

Information

京藍染師 松崎陸 SPECIAL EXHIBITION「いにしえの記憶と現代美」

■会期
2024年10月30日(水)~11月22日(金)

■会場
Casa Valextra
京都市東山区祇園町南側570-8

詳しくはこちら


「Cloud particles」京藍染師 松﨑陸 企画展

■会期
2024年10月30日(水)~11月5日(火)

■会場
大丸京都店 1階店内ご案内所前特設会場
京都市下京区四条通高倉西入立売西町79

詳しくはこちら

ARTIST

松﨑陸

京藍染師

1990年京都に生まれる。22歳の時にNYで藍染に出逢い、帰国後に愛媛県西予市にて養蚕から手織り、和裁までを一貫して学ぶ。その後、京都で約200年続く染色工房・染司よしおか五代当主・吉岡幸雄氏に師事。染司よしおか独立後、大正時代に滅びた京都原種の藍 "京藍"を復活させる。現在はアーティスト活動を主軸に置き、2023年には妙心寺 桂春院へ掛軸作品「京藍壁観図」を奉納。2024年2月ミラノファッションウィークではイタリアのラグジュアリーレザーブランド・Valextraとのコラボ作品「Mini Iside KYOAI」、「Bucket bag Micro KYOAI」を発表。伝統文化×現代アートを組み合わせ一度滅びた京藍を次代へ残すべく活動している。

DOORS

和田彩花

アイドル

アイドル。群馬県出身。2019年6月アンジュルム・Hello! Projectを卒業。アイドル活動と平行し大学院で美術を学ぶ。特技は美術について話すこと。好きな画家:エドゥアール・マネ/作品:菫の花束をつけたベルト・モリゾ/好きな(得意な)分野は西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。2023年に東京とパリでオルタナティヴ・バンド「LOLOET」を結成。音楽活動のほか、プロデュース衣料品やグッズのプリントなど、様々な活動を並行して行う。
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