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INTERVIEW

2025.02.05

雛人形にも進化した信楽焼の“多様な可能性” / 堀田真由がときめく! 工芸からみつける、生活に寄りそうアート【前編】

Interview&Text / Miki Osanai
Photo / Takuya Ikawa
Edit / Quishin
Hair&Makeup / Tomoe Nakayama
Stylist / Arata Kobayashi(UM)

職人の技とその土地ならではの美意識が宿る、伝統工芸品。経年変化を楽しみながら修理して使い続けることができ、人生のパートナーのように付き合っていける存在です。

そんな伝統工芸を愛する俳優のひとりが、滋賀県出身の堀田真由さん。津軽漆を題材とした映画『バカ塗りの娘』(2023年)で主演を務めたことをきっかけに、伝統工芸への想いが深まったという堀田さん。今回、足を運んだのは、“やきもの”の産地として有名な滋賀県の信楽町。

地元の伝統工芸を体験するなら?と伺ったところ、堀田さんから「信楽焼」の声が挙がったことから町の体験施設「Ogama」を訪れることに。作陶の前に、まずは信楽焼について学んだ堀田さんが、「イメージがガラリと変わりました」と語ったワケとは?

産地に足を運んで知った信楽焼の新たな一面、良質な陶土の源である琵琶湖とともにある地元滋賀への想いについても語ってくれました。

数年ぶりに歩く信楽「中学生の頃の体験が記憶に残っていた」

窯元散策ができる「ろくろ坂」を登ったところに佇む、信楽焼の体験施設「Ogama」。看板前に降り立った堀田さんの胸には、懐かしさが込み上げてきました。

「実は、ここのエリアを訪れるのは数年ぶりなんです。地元の友人と信楽町に来たときにOgamaさんも覗いたけれど、その日は休廊日で。外から眺めただけだったので、また来ることができてうれしいです」

数年ぶりに訪れた、信楽焼の産地。そもそも信楽焼を選んだ理由は、中学時代の体験にあったと言います。

「『バカ塗りの娘』の出演をきっかけに、地元である滋賀の伝統工芸にももっと触れたいという思いが募っていたなかで今回、信楽焼を選びました。理由は、私も家族もうつわが好きというのと、中学生の頃に信楽焼を作陶したことがあったから。そのときは教室で湯呑みをつくって、それは今も実家に置いてあるんですけど、もう一度どこかで体験したいなと思っていたんです」

期待に胸を膨らませる堀田さんを出迎えてくれたのは、Ogamaを運営する「明山窯」の代表・石野伸也さん。

2010年に明山窯のアンテナショップとしてオープンしたOgamaは、信楽焼の歴史や魅力を広く発信する施設でもあります。

早速、石野さんに施設を案内してもらいながら、Ogamaの想いや信楽焼の特徴などを教えてもらいました。

堀田さんにOgamaを案内する石野さん(左)

最初に案内されたのは、昔ながらの趣を持つ登り窯。信楽町のランドマークです。

「以前に友だちと覗いたときも、『すごい大きさだね』と話していたんです」と、興味津々で窯のなかを覗く堀田さん。

この登り窯は100年ほど前までは焚口に薪をくべて焼成する方法でした。時代の流れとともにガス窯や電気窯が主流となり、信楽町でも50年ほど前から大きな登り窯が徐々に使われなくなっていったそう。

それでも信楽焼の歴史の変遷や、焼成方法による焼き上がりの違いを伝えたいと、登り窯をあえて残してきたと聞き、「(トタン屋根で覆うなど)これだけ大事に保存していらっしゃる理由がよくわかりました」と堀田さん。

創業400年を超える明山窯の当主である石野さんの想いに、しみじみと感じ入る様子でした。

登り窯の焚口と向かい合わせにして、ガス窯が置かれている

 

「作風も用途も、多様な可能性を秘めているのが信楽焼なんだなと」

登り窯やガス窯を見学したあとは、Ogamaのショップへ。

入り口付近にある展示スペースに足を踏み入れると、「かわいい!」と声を挙げる堀田さん。視界に飛び込んできたのは、信楽焼の雛人形でした。

2階建てになっているOgamaのショップには、両フロアに明山窯の職人が手がける工芸品が並び、入り口付近は季節に合わせた作品が展示されるスペースになっています。

石野さんいわく、「信楽は大きなものから小さなものまでつくる産地で、それを可能にしているのが細工のしやすい陶土にある」のだとか。

昭和初期には火鉢の国内生産が8〜9割だったとも言われる信楽。その陶土は、“琵琶湖の恵み”から生まれるものです。

約400万年前には現在の信楽の位置に琵琶湖の原型があり、その湖底に動植物が堆積した「古琵琶湖層」から採れる土で信楽焼はつくられます。ざっくりと粗く、粘りやコシがある良質な土によって、火鉢のような大きなものから取り皿や豆皿のような小さなものまで自由に作陶できるのだそう。

「ゲストハウスのお風呂も拝見したのですが、とても素敵でした」と堀田さん。信楽は陶器浴槽も手がけており、Ogamaの運営するゲストハウスでも信楽焼の陶器風呂が楽しめます。

ショップ1階

縄文時代からの技術を継承し、中世から現在まで生産が続く代表的な6つの窯を「日本六古窯」と言いますが、越前・瀬戸・常滑・丹波・備前と並んで、信楽もそのひとつ。

Ogamaのショップに並ぶ陶器からは、伝統を重んじながらも、時代の変化に合わせて次々と新たなチャレンジを重ねている様子が伺え、「信楽焼のイメージが変わりました」と堀田さん。

「祖母の家もそうですが、滋賀県では一家にひとつたぬきの置物を玄関前などに飾っている印象で、信楽焼と言えばたぬきというイメージが強くありました。でもお話を聞いてみると、釉薬を使った艶っぽいものだけではなくて、焼き締め(釉薬を使わずに高温で焼く焼成方法)でつくられたものもあるのだと作風の幅を知ることができました。また、お店のなかを歩いてみると、焼酎サーバーから雛人形まであって、実用性のあるものからインテリアまで、多様な可能性を秘めていることに驚きました」

信楽焼では土鍋やぬか壺、手洗い鉢に陶器製水槽、表札などもつくられているのだそう。

ショップ2階

 

「地元は等身大でいられる場所」故郷の伝統工芸の細部に目を向けてみて

ショップでは、家族へのお土産も購入した堀田さん。伝統工芸に興味を持ったきっかけも、家族の存在が大きかったと言います。

「家族がうつわや花瓶が好きで、子どもの頃から一緒に備前焼や信楽焼をよく見にいっていました。自分で購入してみようと思ったのは、芸能のお仕事を始めてから。仕事柄、お花をいただくことが多いのですが、『お気に入りの花瓶に飾りたいな』と思ったことから、花瓶や箸置きなどを少しずつ集めるようになりました」

2024年は一気に知名度を上げ、東京を拠点に活躍の幅を広げる堀田さんにとって、家族とゆっくり過ごしたり、地元に戻ったりすることは貴重な時間。地元への想いについても聞くと、開口一番に「大好きです」と笑顔が返ってきました。

「家族が好きだから会いたいというのもありますし、滋賀の方々の柔らかい空気感も好きです。東京にいるときは俳優の堀田真由という意識が強くあって、がんばろうという気持ちになるんですけど、帰ってくると、背伸びせずにそこに立っていられる。地元は等身大の自分でいられる場所ですね」

信楽焼の源とも言える琵琶湖は、堀田さんが帰省した際にリフレッシュするドライブコースでもあるそう。

「皆さん、自分の地元にはその地域ならではの伝統工芸が眠っているはず。歴史や制作工程など細部を知ることで、手にしたものがその人にとっての宝物になるんじゃないかと思います」

地元を代表する伝統工芸を通じて、故郷への愛情も一層深まった様子でした。

後編では、堀田さんがOgamaで「信楽焼の作陶」を体験した様子に迫る

Information

〈Ogama〉

RE_20241226_007

住所:〒529−1851 滋賀県甲賀市信楽町長野947
施設の利用時間:
10:00〜16:30(入室は16:00まで) 
休廊日:水曜日、木曜日、年末年始

詳細はこちら

カーディガン:35,200円(税込)
ブランド名:cash & barba(キャッシュアンドバルバ)
問い合わせ先: 株式会社エグジステンス
その他/スタイリスト私物

DOORS

堀田真由

俳優/モデル

1998年4月2日生まれ、滋賀県出身。2015年にWOWOW『テミスの求刑』で俳優デビュー。その後、2017年のNHK連続テレビ小説『わろてんか』で注目を集め、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、NHK『大奥』、TBS日曜劇場『アンチヒーロー』など話題作に多数出演。2024年には日本テレビ『若草物語―恋する姉妹と恋せぬ私―』で主演を務め、現在1月期TBS日曜劇場『御上先生』に出演中。ファッション雑誌『non-no』の専属モデルとしても活躍している。

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