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INTERVIEW
2023.03.24
「街とつながって、そこから新しい方向が生まれる」小池一子と考えるこれからの“つながり”と“アート”
Photo / Shingo KANAGAWA
Edit / Eisuke Onda
コピーライター、編集者、クリエイティブディレクターとして1960年代以降の日本のクリエイティブシーンを支え、80年代からはアートとも密接に関わり、日本初のオルタナティブスペースを作る。それ以降も広告、ファッション、アートなどさまざまな領域をジャグリングしながら第一線で活躍する小池一子さん。
彼女のクリエイティブにおける、大切なキーワードのひとつに「つながり」というものがある。そしてその姿勢は現在も健在であり、今年開催の「東京ビエンナーレ2023」にも色濃く表れている。
今回のインタビューでは彼女の仕事を紐解きながら、今日まで大切にしてきた「つながり」について語ってもらった。
「今日はあの人に会える日だ」
インタビューの最初は小池さんの「つなげる」仕事について語ってもらった
ーー小池さんはファッション、広告、アートなどさまざまなクリエイティブの現場で人と人をつなげるお仕事をされてきたと思います。そんなこれまでの活動のなかで、どんなことを大切にされてきたのでしょうか。
大切なことは、人ときちんと出会い、興味を持つということだと思います。打ち合わせで話すだけではなくて、その人たちと一緒にコーヒーを飲みたいなとか、そういうことを考えて、関係をもっと深めていきたい。今までさまざまなジャンルの仕事をしてきましたが「業界」って言葉が私は好きではありません。それよりも「人」。だからプロジェクトによって、いろんなやり方を試してきました。
ーー インターネットの普及によって、ひとくちに「つながり」といっても、その「つながり方」が変わってきています。かつての良かったところも踏まえながら、現代における「つながり」についてお聞かせください。
1970年代や80年代のころは、つながりを深めることを意識しないでやってきたように思います。特に私のジェネレーションは、ジャンルに関係なく、いろんなクリエイティブの人と交流を持っていた。それこそ友達がゆっくり話そうよというのでカフェで会うと、その人はその場で別の友達に「小池と会ってるんだけど、来ない?」と電話をしているんです。それで話が面白かったから、 またみんなで会おうよみたいになっていく。あの頃は人間関係も仕事も、全てがフィジカルだったと思います。
インターネットによって変わったのは、より多様な出会いができるようになったことです。ある意味では時間を超えることもできます。先日カナダのフィルムメイカーの友人があるインタビュー映像を送ってくれました。そこに映っていたのは、かつて70年代にパリでデザインの勉強をしていた日本人女性だったのですが、その映像のおかげで彼女がまだスペインの工房で活躍していることが分かりました。こういう連鎖の仕方って、今まではなかったことだと思うんですよね。ネットを通じて共有された映像のおかげで、その女性とも再びつながることができました。
「二日前も飲みながら話してたけど、わたしたちって変わらないんですよ」
ーーそういった人とのつながりを大切にされてきた小池さんがよく一緒にお仕事をされてきた存在として、デザイナーの田中一光さん(*1)があげられると思います。
*1……日本を代表するグラフィックデザイナー。小池さんとは西武セゾングループの広告や無印良品の立ち上げなどで仕事を共にした。
田中さんの偉大さは、単にデザインをするだけじゃないことです。人をつなぎ、才能を発掘する。彼の仕事は、そういうあらゆることを含んだ「ディレクション」でした。田中さんとの関係は、私が駆け出しの編集者のころ、あるPRマガジンのデザインをお願いしに行ったことから始まります。私が演劇をやっていたことを面白がってくれたり、音楽をはじめいろんな趣味が合致したこともあり関係が深まっていきました。田中さんも、それらについての造詣も深かったので、よく意見交換をして、勉強させてもらいました。生涯の親友であり、1番影響を受けた先輩です。
ーーディレクターとして関わられた〈佐賀町エキジビット・スペース〉(*2)は小池さんの活動のなかで代表的なもののひとつだと思います。それまで取り組まれていた編集や広告ではなく、場所を構えるに至った動機などをお聞かせください。
*2……1983年から2000年まで運営され、美術館とも商業ギャラリーとも異なる非営利でアートやデザイン、ファッション、写真、建築などの展示を行うオルタナティヴ・スペースの先駆けとして知られる。ここでの展示をきっかけに活躍したアーティストも多い。
佐賀町エキジビット・スペースが始まった頃に関心を集めていたのは、街にどういう文化の「器」を作るのかという議論でした。それ以前にも東京デザイナーズ・スペースだったり、場所に関わる活動はしていたのですが、佐賀町エキジビット・スペースのコンセプトが固まったきっかけは、ニューヨークのブルックリンで学校の閉校後、若いアーティストが各国から集まれるようなオルタナティブなアートの場にリニューアルしたことを知ったことでした。それで場所を探して、江東区佐賀にある食糧ビルの3階を改装してオープンしました。
私はフランスの五月革命、日本の東大安田講堂占拠など世界で同時多発的に起こった68年の若者の運動に共感した世代なんですが、だからこそ他の国の人とも意見交換がしたかった。なので海外のアーティストも呼んで展示してもらったし、なんの迷いもなくプレスリリースはバイリンガルにしました。自分がやっていることがグローバルに見てもつながっていると思っていたんです。
佐賀町エキジビット・スペース 撮影:三好耕三
ーー こうしたこれまでの活動スタンスは、現在も変わらずに続けられているのでしょうか。
基本的には変わってないと思います。ただ、キャリアをずっと続けられているのは、私が素晴らしい人たちに出会えているからというのがあります。 同世代で他界しちゃった方もたくさんいるんですが、今もいろんな刺激を受けていて、毎朝起きるときに「今日はあの人に会える日だ」と思えるんです。
「結果的に生まれるものが、アートなんじゃないかな」
小池さんがプロジェクトディレクターを務める「東京ビエンナーレ2023」は街とのつながりがテーマ。クリエイティブディレクターとして関わるプロジェクト「ジュエリーと街 ラーニング」の舞台となる御徒町に訪れるといろいろな人に話しかけられる小池さん
ーー 「東京ビエンナーレ2023」も「リンケージ つながりをつくる」というテーマを掲げ、小池さんのこれまでの活動と重なりあう部分があると思います。テーマが決まった背景などについて教えてください。
初回である前回の東京ビエンナーレは20年から21年にかけて開催されました。今回のテーマは中村政人さん(*3)をはじめ、主催している中心メンバーと意見交換する過程でだんだんと決まっていきました。新型コロナの流行やロシアとウクライナの戦争など、信じられないようなことが起きる中で、何を私たちが大事にしていきたいかっていうことを考えたときに、人とのつながりがテーマとして浮上してきたんです。それを「リンケージ」という英語で表現しています。
*3……代表作にマクドナルドのMを作品化した《QSC+mV / V.V》(2001)などがあるアーティスト。アートと社会を結びつけた活動も多く、2010年に「アーツ千代田3331」を立ち上げ統括ディレクターを務める。
街の中に入り込んで、きちんとアートが必要なことを感じられる、そういう動きを作りたいと思っています。第1回の時に、中村政人さんが海外の人たちに呼びかけるテーマとして「ソーシャル・ダイブ」という言葉を使っていました。街に深く潜り込んで、そこで生きていくアートを作りたい。いわゆる世界の大きなトリエンナーレやビエンナーレは、そもそも文化の力を国同士で見せあうことから始まっています。それに私は違和感を持っています。それとアートで街づくりをするということも好きになれない。もっとアートが必要な生活が身近に感じられて、それが自分たちの欲求になったほうがいい。街とつながって、そこから新しい方向が生まれる。そんな風に結果的に生まれるものが、アートなんじゃないかなと思うんです。
ルビーストリートにお店を構える〈(有)ラトウナサガル〉の前を通ると、店主のラジャさんがお出迎え
始動した「ジュエリーと街 ラーニング」のプロジェクトの様子 撮影:飯塚麻美
ーー 街との関わりという点からすると、小池さんがクリエイティブディレクターとして関わられている「ジュエリーと街 ラーニング」のプロジェクトもそのような姿勢は重要視されているように思います。
「ジュエリーと街 ラーニング」は参加者自身の、あるいは家族や身近な人から譲り受けたジュエリー、アクセサリーをリメイクして、生まれ変わらせるプロジェクトです。実はここでも「つながり」を感じてもらうよう考えています。まずデザインにあたってはジュエリーデザイナーの方にアシストをしてもらって、それを御徒町の職人さんにお願いします。これが「横のつながり」ですね。もうひとつは、家族のモノをリメイクすることによって、ファミリーのリンクという「縦のつながり」を感じてほしいとも思っています。例えば、家の中に眠っている帯留めだったら、それを今の生活で身に着けられるようなブローチやペンダントにすることで、大切に使い直す。そういうものってゴミになっちゃうこともありますよね。でもそれはもったいない。
(写真左)今回のプロジェクトのチューターであるジュエリーデザイナーの一力昭圭さんのドローイング。(写真右)御徒町をリサーチする一力昭圭さんと小池さん
ーーなぜこうしたプロジェクトを思いつかれたのでしょうか?
私が20代のころに作っていただいた指輪があるんですが、それが入らなくなってしまったんです。それで広げなきゃいけないということでジュエリーデザイナーの一力昭圭さんに相談したんですけれども、そのときに御徒町が宝飾専門街であることを教えてもらったんですよね。実はそれまで御徒町がそうした特色を持っていることは知らなかったんですが、互助団体であるジュエリータウンおかちまち(JTO)の会長さんに話を聞くと、そこまで歴史が長いわけではないそうです。御徒町には宝石、奇石の販売だけではなく、修理をするお店もあるんですが、このプロジェクトをきっかけにアクセサリーのリメイクを依頼することで、街との関わりが生まれるのでないかと思い企画しました。「つながり」をテーマに掲げる東京ビエンナーレ2023のテーマにも合っていますしね。
東京ビエンナーレ2023
「ジュエリーと街 ラーニング」参加者募集中
※エントリー締切は2023年3月31日(金)
「アイディアって、自然に育っていくもの」
2010年に地域に開かれたアートセンターとしてオープンした〈アーツ千代田3331〉。惜しくも今年の3月で閉館になるこの場所だが、地域に根ざした活動は東京ビエンナーレにも紡がれる
ーー 御徒町はもちろんですが、東京には様々な特色を持っている街があります。そんな東京の良さはどのようなところにあると思いますか。
自宅の近くにフランク・ロイド・ライトが設計し、1921年に建設された自由学園明日館があるんです。パンデミックのときにその辺りをよく散歩していたんですが、改めて古い建物の良さを感じました。山の手がどんどん開発されていった東京の歴史を私は見てきましたが、そんな中、昔のものが残っているのも東京の良いところだと思います。
今取材を受けているアーツ千代田3331にしても元々は千代田区立練成中学校で、床とか階段に当時の設計者や職人たちが子供たちの環境をきちんと作ろうとした、 大人の思いやりが発見できます。スクラップアンドビルドだけじゃなくて、古いものを活かしながら使っていくのも大切なことです。
ーー小池さんはアーツ千代田3331にも中心となって関わられてきました。この施設も、2010年の開館以来、人や地域をつなげる役割を果たしてきたと思います。そうした蓄積は「つながり」をテーマにかかげる東京ビエンナーレにも生かされているのでしょうか?
東京ビエンナーレは新しく市民グループを作ることから始まっているんですが、アーツ千代田3331の活動があったからこそ、理解を得られた部分はあると思います。中村政人さんは市民一人ひとりが作り出すビエンナーレを実現したかった。だから市民グループを組織として作ったんですね。なので内容に行政の介入はないけれども、資金がない。でも可能な限り全てを無料で見せて、普通の市民が楽しんでもらえるようにしたい。だからクラウドファンディングにも挑戦中です。
ーーこうしたアーツ千代田3331から、東京ビエンナーレへと「つながっていく」展開は、小池さんが思い描いていたことなのでしょうか?
アイディアって、自然に育っていくものだと思うんです。私たちが発想したことがこういう風に膨らんで、ここまで来ている。地域の方も、ビジネスの方も参画してくださる。ゆくゆくはここで集まったみんながどんどんつながって、助け合いのミッションができればいいなと夢見ております。
「御徒町にはサファイア通り、ルビー通りがあって。通りに勝手に宝石の名前を付けているのも面白いの」
Information
東京の地場に発する国際芸術祭 東京ビエンナーレ2023
「ジュエリーと街 ラーニング」
御徒町のジュエリー職人との協働で、ご自身の「大切なつながり」を宿したアクセサリーを生まれ変わらせたり、新たな出会いのなかで貴方ならではの装身具をつくってみませんか。アイデアを考え、かたちにする過程は専門家がサポートし、ジュエリー制作は熟練の職人に依頼するため、ご参加者の専門知識は問いません。活動は2023年春から秋にかけて段階的に進行し、「東京ビエンナーレ2023」において展示や発表も予定。
GUEST
小池一子
クリエイティブ・ディレクター
東京都生まれ。1980年の「無印良品」創業に携わり、以来アドバイザリーボードを務める。1983年に佐賀町エキジビット・スペースを創設・主宰し、多くの現代美術家を国内外に紹介(~2000年)。この活動は、2011年創設の「佐賀町アーカイブ」(3331 Arts Chiyoda内)に引き継がれている。2022年には初の個展となる「オルタナティブ! 小池一子展 アートとデザインのやわらかな運動」を3331 Arts Chiyodaにて開催。著書に『美術/中間子 小池一子の現場』(2020年、平凡社)、訳書に『アイリーン・グレイ——建築家・デザイナー』(2017年、みすず書房)他。令和4年度文化功労者。武蔵野美術大学名誉教授。
volume 04
アートを観たら、そのつぎは
アートを観るのが好き。
気になる作家がいる。
画集を眺めていると心が落ち着く。
どうしてアートが好きですか?
どんなふうに楽しんでいますか?
観る、きく、触れる、感じる、考える。
紹介する、つくる、買う、一緒に暮らす。
アートの楽しみ方は、人の数だけ豊かに存在しています。
だからこそ、アートが好きな一人ひとりに
「アートとの出会い」や「どんなふうに楽しんでいるのか」を
あらためて聞いてみたいと思います。
誰かにとってのアートの楽しみ方が、他の誰かに手渡される。
アートを楽しむための選択肢が、もっと広く、深く、身近になる。
そんなことを願いながら、アートを観るのが好きなあなたと一緒に
その先の楽しみ方を見つけるための特集です。
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