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INTERVIEW

2026.02.04

TOKYO ART BOOK FAIR 2025で1万円あったら何を買う? #2 服部恭平、田部井美奈、井上岳(GROUP)に聞いた

Text & Photo / Kyohei Hattori , Mina Tabei , Gaku Inoue
Edit / Eisuke Onda
Illustration / Makiko Minowa

2025年の開催で15回目を迎えたTOKYO ART BOOK FAIR。今回は初めて2週末にわたって開催され、国内外から約560組の出版社やアーティストらが出展した。

クリエイターに1万円を手渡し、会場で気になる本を自由に選んでもらう本企画。今回は、写真家/モデル・服部恭平さん、アートディレクター/グラフィックデザイナー・田部井美奈さん、建築家・井上岳さん(GROUP)の3名に参加してもらった。

それぞれの視点から選ばれた本を手がかりに、アートブックの多様な楽しみ方や、ジャンルを越えて広がる発想のヒントを探っていく。

TOKYO ART BOOK FAIRとは?

TOKYO ART BOOK FAIR(TABF)は、アートブックやZINE(自主制作出版物)に特化したアート出版の祭典で、2009年のスタート以来、アジア最大級の規模で国内外のクリエイターや出版社が一堂に集うイベント。15回目となる2025年は、初めて2週末にわたって開催され、各週末ごとに出展者が入れ替わる仕組みで、多彩な表現に出会える場となった。国内外から約560組の出版社やアーティストらが出展し、展示・販売のほか、トーク・ワークショップ・ライブ・サイン会など多彩なプログラムも展開された。

■Week 1
2025年12月11日(木)- 14日(日)
■Week 2
2025年12月19日(金)- 21日(日)

公式サイトはこちら



CASE1
写真家 / モデル・服部恭平さん

「写真集を買うつもりだったけど、結果的に全部違うものになった」

写真上が『アイスランド 横山裕一』(888ブックス)と小さい原画がついた中古のCD。下の左から『Like A Broken iPhone(アイフォン割れた) オオクボリュウ』(RYU OKUBO ART STUDIO)、写真家・横浪修さんのポラロイド、『seeing itself 新しい写真のために for new photography ホンマタカシ』(torch press)

いつも本屋さんに行くとき、買うのは一冊と決めている。家に未読の本が山積みっていうのもあるけど、「僕はここでこの本を買ったんだ」という体験を思い出としてとっておきたいからだ。でも今回は1万円分お買い物するから、さあ大変。

TABFには去年から写真集を売る側として参加させてもらっている。全国の色んな方と出会えるから好きだ。今回はWEEK1のENTRANCE AREA。BOOK SIGNINGなどをした。WEEK1とWEEK2のどちらもお邪魔できたので、そこで買ってきたものを紹介させてもらいます。

まずはじめに『アイスランド 横山裕一』(888ブックス)。2016年に上海で展示した作品の本らしい。ブックデザインは服部一成さん。表紙の潔い“明るさ”に惹かれてすぐ手が伸びた。中ページを覗き込んでみると、ミニマムなのに密度があり、今にも聞こえてきそうな迫力があるオノマトペが広がった見たこともない漫画だった。“ネオ漫画”と呼ばれているらしい。勢いがあるのに、淡々としたムードがあり衝撃を受けた。ブースに横山さんがいらっしゃったのでサインしていただいて少しお話を聞けた。つけていたメガネ型のルーペがかっこいい。1,200円。小さい下書き原画がついてる中古のCDが1,000円。下描き原画の切れ端が300円。

次は『Like A Broken iPhone(アイフォン割れた) オオクボリュウ』(RYU OKUBO ART STUDIO)。2016年にCALM & PUNK GALLERYで開催された個展の本らしい。表紙のキャラクターがかわいいのと”アイフォンが割れた”というタイトルが気になった。キャラクターがアイフォンを落として拾う様が100コマで描かれている。キャンパスやノート、立体やネオンサインまで様々な支持体で描かれていて、本ではパラパラ漫画的に構成されている。制作過程の写真もたくさん載っていて、色んな楽しみができるとてもいい本。写真は吉川周作さん。こちらもオオクボリュウさんにサインしてもらえた。3,960円。

今度はちょっとイレギュラーで、本じゃなくて写真。横浪修さんのテスト撮影の時のポラロイド。横浪さんの写真が好きで、展示をよく見に行ったり、写真集を持っている。ブックフェアにもよく参加されていて、その際に少し写真の話をさせてもらうのを楽しみにしている。たくさんあった中から小さい画面の中に吸い込まれそうな2枚を選んだ。2枚で1,300円。

最後に『seeing itself 新しい写真のために for new photography ホンマタカシ』(torch press)。ホンマタカシさんが写真を見る・撮ることについて解説しているテキストブック。たまたま『ホンマタカシの換骨奪胎』という映像の解説本を読んでいる最中で、それがとても面白いので、こちらも購入。ホンマタカシさんの写真がとても好きで、影響され続けている。この本はTABFで先行発売らしい。1,980円。

全部で9,740円。行く前は写真集を買うつもりだったけど、結果的に全部違うものになった。ブックフェアならではの買い物ができて満足。自宅のテーブルに並べてにやにやしています。

(文・服部恭平)

服部恭平

東京在住の写真家。2018年にファッションモデルとして活動する傍ら写真を始める。2025年に服部恭平写真事務所を設立。変わりゆく日常の中で私的なイメージを切り出している。



CASE2
アートディレクター / グラフィックデザイナー・田部井美奈さん

「まだ知らない誰かの表現に触れた瞬間」

写真左からValentina Améstica『Relatos pasajeros』(2023/Calipso Press)11x16 size 4 riso inks Speckletone 100lb cover paper ¥2,500(5,000)※二枚セットで購入そのうちの1枚としてカウントしています、Kai Udema『ircle crcle cicle cirle circe circl (mantra)』(soft concern hard concern)32p 23×40cm riso printed 2022 €30(=5754.093円)

まだ知らない誰かの、グラフィックの新しい視点や、質感、試みに触れるような作品に出会えることは、本屋を探索する上でとても興奮する出来事の一つです。今回購入したものたちにも、そういった瞬間が確かにありました。

一つ目、アムステルダムの出版プロジェクト「soft concern hard concern」で購入した、Kai Udemaによる、『ircle crcle cicle cirle circe circl (mantra)』。正円が中心に描かれたA4サイズの紙が、台にラフに固定され、そのことによって自然に起きる、円や紙のゆがみを記録するように写真に捉え、その変遷を並べ束ねた本。単純な仕組みにもかかわらず、とても潔く、軽快で、詩的な美しさを感じます。23×40cm、すこし大きめのサイズ、薄い紙をただ束ねただけ、リソグラフ印刷、そういうことから感じるそっけない存在感も気に入っています。

二つ目、グラフィックデザイナーValentina Amésticaによる、『Relatos pasajeros』。これは、Valentina Amésticaのインスタレーションを、リソグラフスタジオ「Calipso Press」が、リソグラフ印刷で再現したポスターです。とりとめもない、小さな印刷物の断片たちを集め、ただ並べているようなものですが、これも質感や、配色、一つ一つの造形のリズムの違いや、不揃な文字組みにとても魅力を感じました。

(文・田部井美奈)

田部井美奈

2014年に独立し、田部井美奈デザインを設立。広告、書籍、パッケージ、展示などの領域でデザインを手がける。2025年に個展「光と図形と、その周辺」(ggg)を開催。



CASE3
建築家・井上岳さん(GROUP)

「本のつくる距離」

写真左は『CRISIS OF THE ERA, ARCHITECTURE OF CRISIS 』(Domino Press)、左下『The Goodwiller vol.5 "The สังสาระ"』(The Goodwiller)、右上『Why Don't You Dance? 』(18, Murata)、右中『WE WHO HAVE CHANGED 』(IST Publishing)、右下『FIAT LUX』(Studio The Future)

何かを介さず、出来事に直接触れることは可能なのだろうか。直接性とは、その間を0にすることではなく、距離を知ることだと仮定してみる。TABFでは、世界各国のアートブックが集まり、その制作者が各ブースで説明をしてくれた。

『CRISIS OF THE ERA, ARCHITECTURE OF CRISIS 』(2025 / Domino Press / Seoul)
韓国ソウル大学建築学科の卒業制作展の図録で、危機の時代を新聞のスタイルで表している。

『FIAT LUX 』(2017 / Studio The Future / Amsterdam)
アーティストのパフォーマンスへの応答として制作され、映像のない映画の脚本が、テキストと色で構成されている。

『WE WHO HAVE CHANGED 』(2024 / IST Publishing / Kyiv)
ウクライナ従軍兵士のエッセイを集めた本で、ロシアによるウクライナ侵攻がもたらした、人々の変容を記録している。

『Why Don't You Dance? 』(2025 / 18, Murata / Tokyo)
作家、綾野文麿のベルギーブリュッセルで集めたファウンドフォトを元にした18, Murataギャラリーでの展示のカタログ。

『The Goodwiller vol.5 "The สังสาระ"』 (2025 / The Goodwiller / Tokyo)
タイのスリフトストアで購入した古着や小物でコーディネートと撮影を行い、オリジナルタグを付け元のお店に戻すことで、新たな流通をつくるプロジェクトをまとめた一冊。

ここにあるのは、ソウル、アムステルダム、ウクライナ、ブリュッセル、タイ、そして東京。TABFで、それらの距離は撹拌され、遠く離れた場所の出来事が、今ここにある一冊として立ち上がる。帰路につく私のバッグには、たくさんの本。それ以上に重く感じられたのは、自分の立ち位置が、世界に対して少しだけずれてしまったという感覚だった。

(文・井上岳)

井上岳

建築コレクティブ「GROUP」を共同主宰。設計の他にも作品展示や出版なども行う。主な編著に『ノーツ 第一号 庭』 (2021)、『ノーツ 第二号 引越し』 (2024)がある。

DOORS

服部恭平

写真家 / モデル

1991年大阪府茨木市生まれ。東京在住の写真家。2018年にファッションモデルとして活動する傍ら写真を始める。2025年に服部恭平写真事務所を設立。変わりゆく日常の中で私的なイメージを切り出している。主な個展に、2020年『2019-2020』(BOOKMARC)、2024年『Through the lens of Kyohei Hattori』(agnès b. Shibuya& KyotoBAL)、2025年『気持ちね』(写場)など。

DOORS

田部井美奈

アートディレクター / グラフィックデザイナー

埼玉県出身。武蔵野美術大学短期大学部卒業。2003年より服部一成氏に師事し、同時にフリーランスとしての活動も開始。2014年に独立し、田部井美奈デザインを設立。広告、書籍、パッケージ、展示などの領域でデザインを手がける。主な仕事に、武蔵野美術大学、NHK大河ドラマ『光る君へ』、PARCO CHRISTMASなどのビジュアル、マティス展などの告知宣伝物、書籍では『奥能登半島/石川直樹』『ミライの源氏物語/山崎ナオコーラ』『結婚の奴/能町みね子』などの装丁を担当。その他「(NO)RAISIN SANDWICH」「Mame Kurogouchi」のパッケージデザイン、「TADANORI YOKOO ISSEY MIYAKE 4」、HAY TOKYO「Unprecise」の店内装飾、展示「光と図形」などがある。2019年、東京ADC賞受賞。東京造形大学特任教員、女子美術大学非常勤講師。AGI(Alliance Graphique Internationale)会員。

DOORS

井上岳(GROUP)

建築家

石上純也建築設計事務所を経て、建築コレクティブ「GROUP」を共同主宰。主な設計として《海老名芸術高速》(2021)、《新宿ホワイトハウスの庭の改修》(2021)、《道具と広い庭》(2023)、《夢洲の庭》(2025)などがある。主な展示は「手入れ /Repair 」(2021、新宿WHITEHOUSE)、「Make Do With Now: New Directions in Japanese Architecture」 (2022、バーゼル建築博物館)、「DXP」 (2023、金沢21世紀美術館) 、「往復書簡/Correspondence 」(2023、ニューヨークa83)、「島をつくる/Planning Another Island」 (2024、銀座マイナビギャラリー) など。また、GROUPによるノーツエディションではこれまでに『ノーツ 第一号 庭』 (2021)、『ノーツ 第二号 引越し』 (2024)を発刊している。

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