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2026.11.05

「いい音楽は、アートワークもいい」VIVA Strange Boutique・山口美波がDIY精神で築いた唯一無二の空間 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.53

Interview&Text / Miki Osanai
Edit / Quishin
Photo / Daisuke Murakami

自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。

お話を聞いたのは、東京・奥沢でショップ「VIVA Strange Boutique」を営むオーナーの山口美波さん。敬愛するポストパンクやニューウェイヴのバンドを軸としたオフィシャルグッズを、自ら企画・デザインし、お店で展開しています。

音楽を軸にものづくりを楽しむ山口さんは、バンドやレコードのジャケットからどんな影響を受けてきたのでしょう? 18年前、一目惚れしたレコードから得たのは「いい音楽は、アートワークもいい」という体感。敬愛するミュージシャンたちのDIY精神からも多大な影響を受けて、お客さんから「いい時代のロンドン」とも言われるほど、唯一無二の空間をつくりあげています。

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# はじめて手にしたアート
「アートワークに一目惚れしたレコードを聴いてみたら、『やっぱりいい音楽はアートワークもいいんだな』と体感させられました」

「VIVA Strange Boutique」は、ポストパンク、ニューウェイヴのアイテムやオリジナルアパレルを取り扱うショップ兼アートギャラリー

はじめて手にしたアートで思い浮かんだのは、グラフィックデザイナーや映画監督として知られるマイク・ミルズがアートワークを手がけた、The Sads(ザ・サッズ)というバンドのレコード。このジャケットに一目惚れして購入しました。

『A Silent Performance By The Sads June 14th 2008 Los Angeles』

友人が渋谷でViolet And Claireというレコードショップをやっていて、そこで2008年に購入しました。お店の壁にかかっているのを見たとき、醸し出すオーラに吸い寄せられるような感覚になったんです。家に帰って聴いてみると、すごくよくて。「やっぱりいい音楽はアートワークもいいんだな」って、自分の中でいろいろとつながった感覚になりました。

また、このバンドのメンバーであるアーロン・ローズ自身が、Alleged Galleryというギャラリーで新しいアーティストを紹介したりBeautiful Losersという展覧会をキュレーションするなど、アメリカのユースカルチャーやコミュニティをつくってきた方でもあります。ライブパフォーマンスが収録されているこのレコードも、お客さんが床に座ってヘッドフォンをしながら聴くインスタレーションのような形式で、彼らしいやり方だなと感じました。

そういう背景を持つ人のパフォーマンスが、マイク・ミルズのアートワークとひとつになることで、アートピースとして完成されていると思わされるんです。


# アートに興味をもったきっかけ

「レコードやCDのジャケットなど、音楽を入り口にそのアートワークを手がける人も知っていくことが多かった」

こちらのスウェットも「Violet And Claire」で購入。「Pearl Harbour(パール・ハーバー)というバンドのメンバーがやっていたSURF SIDE SLASHERというブランドで、ハンドメイドの一点ものに惹かれて、The Sadsのレコードと同じ時期に買いました」

アートに興味を持つきっかけとなったのは、やっぱりレコードやCDのジャケットなど、音楽を入り口にした体験ですね。

小学生の頃はスウェディッシュ・ポップが流行っており、そこから洋楽を聴くようになりました。通っていた塾の先生が音楽好きだったのも大きくて、イギリスや日本のバンドのことをたくさん教わったおかげで、興味の幅がすごく広がりました。中学生くらいになってからは、レコード屋さんでイギリスのレーベルのコンピレーションを買い、さらにいろんなバンドを知っていく……そんな感じで、どんどんハマっていきました。音楽を入り口に、そのアートワークを手がける人を知っていくことが多かったように思います。

高校生になってからは、自分で好きなバンドのTシャツをつくり始め、趣味の近い人から「いいね」と言ってもらえるなど、音楽を通じたものづくりの楽しさも知りました。このお店は「せっかくならバンドにも還元される形でやりたい」と、ブート品ではなくオフィシャルグッズをつくるという形で始めた場所です。

イギリスのバンドであるThe Monochrome Set(ザ・モノクローム・セット)のデビューアルバム『Strange Boutique』が、店名の由来。店内地下に展示されているレコードジャケットの表には、メンバーからの直筆サインも

また、学生の頃に、目にした映画のフライヤーやポスターも、アートやデザインに関心を持つきっかけになったと思います。

中学生のときにフランス映画『アンナ』(1966)のリバイバル上映があったのですが、そのポスターがすごくポップで、可愛いなと感じました。こういった映画を通して知る1960年代や70年代のヨーロッパのデザインは、洋服や家具も含め、自分にとってとてもインパクトが大きかったんです。


# 思い入れのあるアート

「ちゃんと文脈や背景を理解しているものを置きたいし、身につけたい。自分なりに筋を通すのは、大切にしていることです」

お店にあるアートやインテリアは、自宅にあるものと大きくテイストの違いはなく、自分の部屋が拡張されたような感覚です。
自宅に飾っているのは、ディスクユニオンで見つけて一目惚れしたマーティン・シャープのポスター。

薄いアクリルにシルクスクリーンでプリントされています。このポスターをきっかけに、音楽・雑誌・政治的カウンターカルチャーなどを網羅してサイケデリックアートに昇華する彼の作品のファンになりました。

イギリスのSpectrum(スペクトラム)というバンドの、このレコードもずっと探していたのですが、最近ようやく大阪のFOREVER RECORDSさんで購入できたものです。

経年劣化でわかりづらいのですが、ジャケットの中には緑色の液体が入っています。Spectrumは主要メンバーであるSonic Boomがアートスクール出身というのもあり、音楽だけでなく、アートワークも常に特殊でかっこいいのも魅力です。

PLASTICS(プラスチックス)として活動し、現在もミュージシャンやグラフィックデザイナーとして活動し続ける立花ハジメさんの作品も、自宅とお店に飾っています。この大きな時計はハジメさんがデザインを手がけたSwatch(スウォッチ)です。

右隣に並べてある縦長のオブジェは、展覧会に展示されていた作品を譲っていただきました。自宅のTVの上にも、ハジメさんのタイポグラフィ作品『TV』を飾っています。

私にとってはアートもインテリアもあまり境目はないのですが、ちゃんと自分で文脈や背景を理解しているものを置きたいし、身につけたい。自分なりに筋を通すのは、空間づくりでも大切にしていることです。


# アートのもたらす価値
「1970年代後半から80年代の『好きなものがないなら、自分でつくる』というマインドに、私自身すごく影響を受けています」

自分の好きなバンドの多くが活躍した1970年代後半から80年代は、イギリスでパンクが起こったことをきっかけにロックの概念がガラッと変わっていった時代だと思います。DIY精神が強まり、セルフプロデュースができるアーティストが増えてきたのがちょうどその頃なんです。

「自分でも、なんでもできる」というDIY精神から生まれたものは、オリジナリティがあるし、実験して発明されている感じがある。私はそれが好きです。たとえばThe Durutti Column(ザ・ドゥルッティ・コラム)が1980年に発表したデビューアルバム『The Return Of The Durutti Column』のジャケットも、そういうマインドが感じ取れるもの。

The Durutti Column『The Return Of The Durutti Column』、Factory Recordsのカタログ番号から通称『FACT 14』と呼ばれる

紙やすりを一枚一枚手で貼ってつくられているのですが、「レコード棚に入れたときに、両サイドのレコードを傷つけてやろう」という発想から生まれた形だそうです。こういう、「わざわざそんなことしなくてもいいけど、思いついちゃったからやる」みたいなスタンスは、オルタナティブだし、アートだなと感じます。しかも、紙やすりを貼ったのがJoy DivisionとA Certain Ratio(ア・サートゥン・レシオ)というバンドのメンバーなんです。

VIVA Strange Boutiqueでも、The Durutti Columnとコラボレーションしてアルバムのアートワークを落とし込んだブルゾンジャケットをつくりました。

傍観者でいるのではなく、当事者になる。そんな「好きなものがないなら、自分でつくる」というマインドが、70年代後半から80年代の音楽やアートワークからは溢れ出ていて、私自身すごく影響を受けています。


# 大切にする「お店の在り方」
「レコードを通じて歴史や人間関係を知ることで、バンドの音楽がより味わい深くなる。そのきっかけになれたらうれしいです」

このお店も、「好きなものがないなら自分でつくろう」という発想から始まっています。そもそも「自分が好きなポストパンクやニューウェイヴに特化したお店がないから、そういうお店があったらいいな」という想いがあったんです。

今思うと、無意識のうちに「ちっちゃなイギリス」をつくろうとしていたのかも。実際、イギリスから来られたお客さんから「いい時代のロンドン」という言葉をいただいたこともあります。

お店をやっていてうれしいのは、やはりグッズをつくったアーティストから喜んでもらえることです。グッズをデザインするときは元々のアートワークの雰囲気を大切にしつつ、自分の持っている資料からアレンジを加えて、バンドやレーベルにラフから提案しています。

Scritti Politti(スクリッティ・ポリッティ)の名盤『Cupid & Psyche 85』のアートワークを落とし込んだTシャツ

THROBBING GRISTLE(スロッビング・グリッスル)とのコラボで生まれたスウェット。「メンバーがバラバラになっているのでコラボは半分諦めていたのですが、2年前にロンドンに行った際にレーベルに直接お邪魔して、関係者に確認を取ってもらい、形にできました」

最近は10代や20代の子も親御さんの影響で来てくれ、このお店のTシャツをきっかけにバンドのことを知って、音楽を聴いてくれるお客さんもいます。やっぱりレコードやCDのジャケットは、音楽やアートに興味を持ちやすいフォーマットだと思いますし、ジャケットのデザイナーとバンドの関係を知ると結構、おもしろかったりする。

たとえば、イギリスのレーベルFactory Records(ファクトリー・レコード)と、そこで多くのデザインを手がけたピーター・サヴィルによるチームワークは、今も伝説となっています。レコードを通じてそれを取り巻く歴史や人間関係を知ることで、バンドの音楽がより味わい深くなると思っているので、このお店もそのきっかけのひとつになれたらうれしいです。

 

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DOORS

山口美波

VIVA Strange Boutiqueオーナー

鹿児島出身。アパレル勤務などを経て、2019年春、東京都世田谷区の奥沢にポストパンク、ニューウェイヴカルチャーを軸としたショップ「VIVA Strange Boutique」をオープンし、バンドのオフィシャルグッズやショップのオリジナルグッズをつくり、販売。自身もソロプロジェクトSHE TALKS SILENCEで音楽活動を行う。

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