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- tricot・中嶋イッキュウがアートで楽しむ「イマジナリー旅行」。曲づくりに変化も / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.51
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2026.09.09
tricot・中嶋イッキュウがアートで楽しむ「イマジナリー旅行」。曲づくりに変化も / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.51
Edit / Quishin
Photo / Daisuke Murakami
自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。
お話を聞いたのは、ロックバンド「tricot」のギターボーカル・中嶋イッキュウさん。tricotでは作詞作曲のほかにグッズのアートワークも担当していますが、自身で雑貨や洋服をデザインするソロプロジェクト「SUSU by Ikkyu Nakajima」でも広く“ものづくり”を楽しまれています。
海外ツアーを行うなど世界で活躍するtricot。イッキュウさんは日々どんなアートに触れ、独特な世界観を感じさせるサウンドやグッズを生み出しているのでしょう? 好きなアートは、SFチックでどこか不思議で、発見をくれるもの。そういった作品に触れながら脳内で空想を膨らませる時間が、イッキュウさんのクリエイティブを支えていました。
# はじめて手にしたアート
「ヴィヴィアン・サッセンのように『ちょっと思いつかない発想』が詰まっている本から、インスピレーションをもらっていました」
一番最初に買ったアートはたぶん、写真家であるヴィヴィアン・サッセンの作品集です。
購入したのが自分のブランド「SUSU」を始めたタイミングと重なっているので、今から10年くらい前かな。

自分でブランドを始めると、写真を撮る機会が増えました。服を着た上で「どんなポーズを取るか」「どういう構図で見せるか」など考えないといけないことがたくさん出てきた。
私は普通のスナップのような写真にはしたくなかったので、当時は「ちょっと思いつかないような発想が詰まっている本」から、インスピレーションをもらっていました。

ヴィヴィアン・サッセンは、基本的にファッション自体がすごくカッコいいんですけど、ポーズや編集も全然思いつかないものばかり。写真によっては人物の体の色がエイリアンっぽいのもあって、すごく衝撃を受けました。
そういう不思議というか、非現実的というか、パッと見では実態がつかめず「これってどうなっているんだろう?」と疑問が湧くものが好きなんです。歌詞を書くときも、ストレートじゃない表現になりがちなところはありますね。
# アートに興味をもったきっかけ
「『ほしいものは何でも自分でつくれる』という発想が、物心つく前からありました」
思えば父方・母方の祖父が、両方とも趣味で絵を描いていたので、子どもの頃から絵が身近だった気がします。
また、父はジュエリーを販売する仕事をしていたのですが、自分でもつくれる人で、私が「こういうものがほしい」とお願いするとよくつくってくれました。そういう意味で“オリジナルのもの”がけっこう身近で、私自身も「ほしいものは何でも自分でつくれる」という発想が物心つく前からありました。
それでも、自分から好きな作品を観に行くとか、買いに行くということをするようになったのは、25歳のときに滋賀から上京して以降です。
こちらのドラえもんの複製原画ポスターも、上京後に購入した作品。『ドラえもん』は子どもの頃からずっと好きだったのですが、上京後に「藤子・F・不二雄ミュージアム」で購入しました。

自宅の廊下にはもうひとつドラえもんがいて、カラーの作品はコスタリカ人のtricotのファンの方からいただきました。

ドラえもんをテレビで見るくらいの年齢って、『サザエさん』や『クレヨンしんちゃん』も通ると思うんですけど、その中でも私はドラえもんにすごくワクワクしていました。ドラえもんだけがSFだからかも。過去・現在・未来どこにでも行けて、ちょっと宇宙的な要素を感じられるところに惹かれていたんだと思います。

「原画集も本屋さんで購入した」と明かしたイッキュウさん。世界観だけでなく、「独特な『線』も好き」と言う
# 思い入れのあるアート
「一見すると日常を切り取っているけれど何か違和感があるような作品がすごく好き」
小見山峻さんの写真もすごく気に入っていて、こちらの作品は5、6年前に展示会で購入しました。引っ越すたびに一番目につくところに飾っていて、今はリビングのテレビ横に飾っていつでも眺められるようにしています。

この写真は横断歩道のところで時空が歪んでいるようで、「ここで何かが起こっているんじゃないか」と想像させられる。一見すると日常を切り取っているけれど何か違和感があるような作品がすごく好きです。
ニューヨーク在住のチョーヒカルさんとも、小見山さんと同じくらいのタイミングで出会って、展示会に足を運んでいました。その後、tricotの3rdアルバム『3』のアートワークを手がけてもらうなどお仕事でもつながり、今も帰国されるたびにご飯に行くような関係です。
最近は絵本をたくさん描かれていますが、組み合わせも配色もすごくユニークで、いろんな発見があります。

それから玄関に飾ってある、お笑いコンビ「野性爆弾」のくっきー!さんの絵もとても大切な作品です。
2025年に結婚式を挙げたときに「ジェニーハイ」で一緒に活動していたくっきー!さんに、夫婦の顔を描いたウェルカムボードをつくっていただきました。

公私ともに特に親しくさせていただいているアーティストは、Matthew mallow(マシューマロー)さん。SUSUのキャラクター「Nuef(ヌーフ)」とどこか通じる部分のある作風に刺激を受けており、FUSEさんというアーティストも交えた3人でグループ展を開いたこともあります。友人であり師匠でもある、そんな存在です。

自宅のリビングにはMatthew mallowさんのイラストも
# アートのもたらす価値
「家でアートを見て『イマジナリー旅行』をしたり曲をつくったりしているほうが、どこまでも遠くに行けるような無限を感じられる」
音楽で言うと、地元にいた頃は音の出し方でも歌詞にするときも、自分の内側にあるものを今よりもストレートに表現していました。まだ曲をつくっている期間も短かったので、内側にあるものからつくることができたんです。
でも、それを出し切ったあとがやっぱり大変。「これからどういうものをつくっていきたいのか」をもっと広げて考えないといけなくなる。
そんなとき、知らず知らずのうちにアートに助けられていたと思います。アートはいろんな発見をくれ、発想を広げてくれるもの。常識が覆されて脳が広がる感覚になれることがたくさんあります。
だから好きな作品の傾向も自然と、「違和感」や「発見」を得られるものになるのかも。私は映画ならホラーが好きなんですけど、それも「まさかこんなところから髪の毛が出てくるとは」と驚かせてくれるそのアイデアに惹かれるんです。

もちろん発想の広がりって、海外旅行などでも得られるものかもしれない。
でも私の場合は、去年オーストラリアを一人旅したときに想像していた以上に楽しめなくて(笑)。いろんなものを見た結果、「もうこれ以上はないんだ」とどこか有限を感じてしまったんですよね。
でもその経験のおかげで「自分は家でアートを見て『イマジナリー旅行』をしたり曲をつくったりしているほうが、どこまでも遠くに行けるような無限を感じられるんだ」と気づくことができました。
# アートと音楽のつながり
「音楽は、遠くに飛ばしやすい表現。『このAメロが来て、このBメロなはずない』となるような曲をつくっていきたい」
受け取っているだけでなく、自分が人に与えられたらいいなと思っているのも、やっぱり発見です。
「このAメロが来て、このBメロなはずない」ってなるような音楽が好きなので、そういう曲をもっとつくっていきたい。SUSUでのものづくりも同じスタンスです。

「SUSU by Ikkyu Nakajima」のオリジナルキャラクター・Nuefが登場する絵
それから、音楽という表現は物理的に届くものではないけれど、その分「遠くに飛ばしやすい表現」だというのも、ずっと活動を続けてきて感じていることです。
大人になってからは「音楽を通じたコミュニケーションや、音楽で出会わなかったはずの世界中の人たちとつながれることに救われているな」とよく思います。
これからも遊び心を大切にしながら、人を驚かせたり楽しませたりしていきたいです。
DOORS

中嶋イッキュウ
tricot・ギターボーカル
2010年にバンド「tricot」を結成。作詞作曲も担当している。国内外でツアーを行ない、ヨーロッパ、全米、アジアにてツアーも開催するなど海外でも評価される。レギュラー番組の企画バンド「ジェニーハイ」にボーカルとして参加し、2018年にデビュー。2022年には山本幹宗と二人組で音楽プロジェクト「好芻(スース)」の活動も開始。ソロプロジェクト「SUSU by Ikkyu Nakajima」でもプロダクトデザインを手がけるなど多岐にわたって活動。
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