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2026.02.11

「自分の手で、つぎはぎした空間は心地いい」オルネ ド フォイユ店主・谷卓の、未完成なものたちへの眼差し / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.44

Interview&Text / Mai Miyajima
Edit / Miki Osanai & Quishin
Photo / Madoka Akiyama

自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。

お話を聞いたのは、世界中から買い付けた雑貨や、心からほしいと思う商品を企画して販売するインテリアショップ「オルネ ド フォイユ」のオーナー、谷卓(たに・あきら)さん。「オルネ ド フォイユの家づくり」というInstagramアカウントでは、約5年前に購入した新築一軒家の内装を夫婦でつくり続けている様子を発信。未完成だった空間が、谷さん夫妻の手によって完成に近づいていく、そんな奮闘記が楽しまれています。

谷さんが惹かれ続けるのは、ご自宅と同様、どこか未完成だと感じられるもの。はじめて手にしたアートも下書きの跡が残るラフ画で、「未完成のように感じられるものに対して、自分の手でつぎはぎすることを、ずっと続けている」と語ります。そのルーツはフランス暮らしにあり、そこで培った技術や経験が、居心地のいい空間づくりにつながっていることが見えてきました。

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「ツルツルよりザラザラが好き」作家・徳谷柿次郎が語る、自分の意思を選び取る生き方 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.43

  • #徳谷柿次郎 #連載

# はじめて手にしたアート
「完成された作品よりもラフ画のほうが、作家の純粋なアイデアが表現されているように感じます」

僕は24歳のときにフランスに渡り、パリで14年間暮らしてから帰国したのですが、はじめて自分でアート作品を購入したのもパリ。現地で暮らし始めてから数年後のことでした。

そのとき手にしたのが、フランスのポスター画家であるエルヴェ・モルヴァンの作品。1950〜60年代頃の広告アートのエスキースで、エスキースというのは下絵やラフ画のことです。

「実際の広告はこの下絵どおりになることもあるし、いろいろ修正が入って違うものになることもあります」

購入したきっかけは、フランスでのこれからの生活に悩んだことから。フランスでは叔父が現地で営む免税店で働いていたのですが、経営的な事情から解雇されてしまって。これからどうやって生活していこう?という状況になってしまったんです。

悩んだ末に、自分が本当にいいと思う雑貨を、東京で売ってみたいと考えました。元々、フランスで年2回開催される雑貨の展示会に足を運んだり、妻とふたりで蚤の市に通ったりしていたのですが、そういった中で、サヴィニャックのようなかわいいイラストが載った広告なども好んで集めていたので、それらのキーホルダーやポスターを買い付けて、日本に向けて販売することにしたのです。

エルヴェ・モルヴァンに関しては、もともとご遺族の方と仕事でお付き合いがあったので、ご自宅に伺ってこのエスキースを購入させていただきました。

僕にとっては、この絵が完成された作品じゃなくて、ラフ画であることがうれしい。よく見ると鉛筆の跡が残っていたり、ところどころ塗り途中だったりするんですが、そのほうが珍しいし、作家の純粋なアイデアが表れているような気がします。


# アートに興味をもったきっかけ
「自分が未完成なものに惹かれることに気づかせてくれたのは、ミロの青の絵でした」

僕は実家が家具・雑貨屋さんをやっていて、子どもの頃から家具の展示会やデパートで開催される美術展などに連れて行ってもらっていました。大人になってからも、20代前半の頃はアルバイト先に滋賀県立美術館のスタッフさんがいらしたので、よくチケットをもらって展示を観に行っていましたね。

でもアートに詳しかったかというと、全然そんなことはなくて。たとえば滋賀県立美術館では20世紀を代表する画家のひとりであるデイヴィッド・ホックニーの作品を観たのですが、当時はあまり、わからなかったんです。

でものちに、フランスでもう一度ホックニーを観たときに、スッと心に入ってきて、すごくいいなと感じることができました。わからないなりに数を見ることで、わかってくることがあるんだなと思った経験です。

階段下の印象的な照明は、「オルネ ド フォイユ」で15年以上愛され続ける名品「オリジナル・ウッドターニングランプ」。海外のアンティークを思わせる佇まい

ホックニーだけでなく、フランスではいろいろな場所でアートを鑑賞しました。パリで暮らし始めたばかりの頃によく通っていたのは、現代美術館のポンピドゥー・センター。

中でも印象的だったのは、3連画でとてつもない大きさの、ジョアン・ミロの『青』の絵。もちろん計算して描かれているとは思うのですが、どこか偶然に、自然発生的に生まれた作品のように感じられて、すごく感動しました。その感動のままにポスターを買って部屋に飾ったのですが、おそらくそれが僕にとって、最初のアートを飾るという体験。

僕は、偶然のものとか、自然のものとか、どこか未完成さや余白を感じられるものに惹かれます。青の作品との出会いは、そういう自分に気づかされてくれた、大きなきっかけだと思います。

お気に入りのアートは世界各国を旅して手に入れることが多い。こちらはアフリカで購入した針金のモビール。「このゆるさがいいんです」と谷さん


# 思い入れの強いアート
「自分なりにものを見立てて、それがアートだと言えるなら、それはアートになる」

玄関に飾られているのはHONGAMAさんの猫の絵。ユニークな表情が愛らしい。猫と暮らす谷さんは、猫のアートやアイテムはつい手にとってしまうそう

青の作品のような、どこか未完成な印象を受けるものや、余白を感じ取れるものを、自分なりにどう見立てるかということに、ずっと興味があります。

「見立てる」っていろんな意味があると思うんですけど、僕にとってはたぶん、自分の手でいろいろとつぎはぎをして、新しいものをつくるようなこと。それをずっと続けています。

たとえば、ダイニングの壁に掛けている、インドの伝統的な刺し子「カンタ」のパッチワーク。僕が布の組み合わせを考えて、妻に縫ってもらい、一枚のパネルのようにしました。

カンタとは、使い古したサリーや古布を何枚も重ね合わせて縫い刺してつくられた布なんですけど、こうやってつぎはぎされたものに惹かれるんです。

カンタに使われる布は、いろんなサリーがリサイクルされたもので、上の布が擦れて下の柄が見えてきたりという偶然性が生まれるのがおもしろいところ。お店で商品化もしましたが、ひとつとして同じものにならないところも、いいなと思っています。


# アートの飾り方
「建ててから5年経っても未完成の家。自分たちで工夫しながら、空間をつくり続けています」

自分たちの手でどんどん継ぎ足しを重ねていくというのは、ものに対してだけでなく、空間にも行っていることです。

今の家は、2021年4月に建てたのですが、実はまだ完成していません。基礎や天井の塗りなどの根本的な部分を大工さんにお願いして、それ以外の、壁を塗ったり床を貼ったりなどはすべて自分たちで手がけました。今も内装をつくり続けながら住んでいます。

もしも予算が無限にあるなら、最初から完璧な理想の住まいにできるのかもしれない。でも僕も含めて、そうではない人のほうが多いですよね。だから僕は、何十万とするようなハイブランドの家具を揃えて空間をつくるのではなく、一般的に手に入れやすいとされているアイテムを、どうアレンジするかを考えたいんです。

実際、今の家でも、キッチンには無印良品のスタッキングシェルフをビス留めして埋め込んでいたりします。IKEAや無印良品の雑貨は、特に重宝していますね。

「余っていた棚を壁につけてみた」という一角。本などをディスプレイして北欧風にまとめた

そうやってある程度、空間ができてきたら、次はそこに小物や本、アートなどを飾っていきます。そのとき、ポンとひとつだけ何かを置くよりも、同じようなテーマのものをいくつか並べると、まとまりがよく見えるのでオススメです。

たとえばダイニングのシェルフに3つ並べているのは、海外の蚤の市で買ったタグやお菓子のパッケージを額装した、自作のアート。

僕の中では、こうやって思いつきの組み合わせや、自分なりのアレンジを施して飾ってみたものも、アートのようなもの。紙のタグでも庭にあった枝でも、自分で何か工夫を施してみたら「アートっぽい」と思えたりする。特に、家に飾るものについては、人からの評価ではなく、自分がいいと感じられることや楽しいと思えることを大切にしたいんです。

そんな考えはたぶん、フランスにいた頃の影響が大きくて。ポンピドゥー・センターで見たアートも、男性用の小便器にサインだけ書いて置かれているマルセル・デュシャンの『泉』とか、「これを飾っただけでアートと呼んでいいの?」と驚くようなものが多かった。

「根っこの形がよかったから」と庭で抜いた木を壁に飾った。「木は自然のものなので、ここに金属製の照明などを足したくなりますね」


# 家づくりの哲学
「つぎはぎしながら家に手を加えることで、居心地のよさが育まれていくことに気づきました」

限られた条件の中で、自分たちで工夫しながら住まいを完成させていく。そんな考え方も、やはりフランス暮らしの影響からだと思っています。

フランスでは築100年以上の建物を直しながら住むことが多いのですが、職人さんに頼むのはそれなりに高いし、時間もかかるので、自分でDIYするのが基本なんです。階段の下に棚をつけたり、無理やりエレベーターをつけたりと、さまざまな住人たちが継ぎ足しをして、住んでいる。

そのことを、フランスではブリコラージュと言いますが、女性たちの間では「ブリコラージュできない男って、ダメよね」みたいな感覚があるくらい、生きていくのに大切な技術なんです。

僕がパリで借りた家も、入ったときは本当にボロボロだったので、見よう見真似でシール状のタイルを貼ったり、人に聞きながら配線と照明をつなげたりして、徐々にブリコラージュの技術を身につけていきました。

一方、日本はフランスと違って、いじれない住宅が多い。そこにはもちろん、地震が多いことから耐震性が重視されるなどの事情があるのですが、僕の場合は制約の多さに対する悩みのほうが大きかったので、賃貸や中古住宅をDIYするのではなく、いちからつくるしかないという発想になった。そういう経緯で、内装から自分たちでつくる形での新築一軒家を建てました。

建てた当初は、ホテルやギャラリーのような、スッキリとしていて、かつ、洗練された空間にしたいと思っていましたが、つくりながら住んでいるうちに、「ものを足していったほうが心地いいな」という感覚が湧いてきました。お客さんや友人たちからも「なんだか落ち着く」と言ってもらえることが多い。

それはきっと、モデルルームのような隙のない空間ではなく、何かそこに人の気配みたいなものを感じられるからだろうなと思っています。人の手が加わり続けることが、そこで過ごす人の居心地のよさにまでつながっていく。

フランスでの暮らし、今の家での暮らしを経て、そんなふうに思っています。

壁の塗りやタイル貼り、棚もすべて自分でDIY。「不恰好な棚が、なんだか自分には心地いいんです」

 

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DOORS

谷卓

「オルネ ド フォイユ」店主

滋賀県出身。雑貨店と花屋に勤務後、1994年から14年間パリで暮らす。2004年、東京にインテリアショップ「オルネ ド フォイユ」をオープン。フランスをはじめ、世界各国で見つけた雑貨を販売するほか、オリジナルの商品開発も行う。2021年からはじまった家づくりの様子を記録したInstagramアカウント「オルネの家づくり」も人気。

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