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INTERVIEW

2026.05.13

画家・真田将太朗は、なぜAIを学んだのか。描く理由の言語化と、新しい風景へ

Interview & Text / Fumika Ogura
Photo / Masashi Ura
Edit / Eisuke Onda

真田将太朗は「新しい風景」を描く画家だ。東京藝術大学で絵画を学び、その後、東京大学大学院でAIの研究に取り組んできた。なぜ彼はAIを学んだのか。

そしてその経験は、絵を描くという行為をどのように捉え直したのか。これまでの歩みから、松坂屋名古屋店で開催される個展「PLAYSCAPE」に至るまでの話をうかがった。

絵を描く身体と、その理由を分析するAI

――小西遼さんとの対談 で、真田さんが絵を描く動機や衝動は、ご自身の身体性に基づくものだとお話しいただきました。そこで、AIのお話もでていましたが、まず、真田さんがAIを学びはじめたきっかけから教えていただけますか。

大学4年生の頃、AIアプリを使ってSNSに画像を投稿するのが流行ったときがあって。そのときに、“いよいよイラストレーターや、画家の仕事がなくなる”っていうひとつの議論が起こっていたんです。ただ、僕は小西さんともお話したように、本能的に絵を描きたいタイプですし、この議論に関してどこか違和感があったんですよね。一方で、「人間には創造性が宿っているから問題ない」という反論も目にしたのですが、それも少し説得力に欠けるように感じていて。そもそも当時の僕はAIについてなにも知らなかったし、その“文字を打てばアウトプットが生成される存在”について、もっと理解しなければならないなと思ったんです。ある程度、自分自身がAIを高いレベルで学んだうえで、人間にしかできないことを議論したり、考えたりするほうが健全だと思ったし、これからの表現にもつながるなと。それで、これを卒業研究にしようと思いました。

――具体的にどのようにAIを学んでいったのでしょうか。

ただ、芸大には人工知能を学べる教授や研究室がなかったので、まずはAIを扱っている東京の会社に片っ端から電話をしました(笑)。「今、こういうことを調べていて、ぜひ手伝っていただけませんか」と。そうしてご縁のあった会社と出会い、共同で研究を進めることになりました。無事に卒業研究は終えたのですが、そのアウトプットをさらに発展させていくには芸大の環境では難しくて。東京大学の大学院を受験し、そのまま研究を続けることにしました。

――そのような学びを得て、アーティストとしての文脈として自分にしかできないことはあると感じていますか?

やはり絵を描くことは身体性の問題だと思っていて。人間は五感を無意識に統合しながら、次の行動を選択していく。そのプロセス自体は、まだ人間のほうが高次元で行えていると思うんです。そうした点に着目していくと、クリエイティビティの源泉のようなものも、より明確に見えてくるのではないかと感じています。一方で、AIが有用だなと思う側面もあって。

例えばピカソが子どものような絵を描いたり、ポロックがアクションペインティングをしたり。彼らの表現を美術の教科書で見ると、「なぜこのような絵や筆致になるのか」と、わかりにくい部分もある。ただ、自分の分身のようなものをAIで生成することで、その描画のプロセスや、どのように筆を動かしたのかというのを、ある程度プログラムとして再現できるようになるんです。そうすると、自分の行動や、自分と似たような行動をするものの“根拠”が、文章や数式で出てくるんです。これは無意識下の行動の明文化というか、記述可能にするという点で、とても有用なものな気がしていて。もちろん、まだ記述しきれない感覚的な領域も多く残っていますが、それでも「なぜこの筆を選んだのか」「なぜこの色を選びがちなのか」といった判断は、ある程度説明できるようになる。そうした意味で、美術そのものの理解や、美術家の行動を読み解くこと、あるいは教育的な観点においても、AIは有用な可能性を持っていると感じました。

――ご自身の制作にAIを取り入れようと思ったりすることはあるのでしょうか。

自分自身はもう絵と自分だけで向き合うことに喜びを感じているので、制作自体に積極的に使おうとは思っていません。ただ、この研究自体面白かったですし、情報を集積してアウトプットする素早さや、量に関しては人間はAIに勝てませんね。

 

「いいな」と思った風景を描く

――そんななかで、改めて真田さんは、どのようにして絵を描いていくのかをお伺いできたらと思います。

僕の絵のベースとなるのは風景です。散歩しながら「いいな」と思った景色を、写真におさめて、それをもとに描いていきます。

――どのような風景に真田さんは惹かれるのでしょうか。

光だと思います。例えば、スカイツリーのような高いところから景色を眺めたとき。目の前にドーンと広がる風景に感動して、「絵を描きたい」という衝動が生まれはするんですが、それと同時に、光の差し方そのものにも惹かれている気がしていて。高いところから引いた目線で見るからこそ、光の方向が見えてくるじゃないですか。一方向から差す太陽光でビルの側面だけが光って、あとはすべて影になっているような。そのコントラストの繊細さに、強く心を動かされているのかなと思います。また、あるいは、アトリエの周りを散歩するとき。誰もが目に止まらないような場所で、地面がふと光っている。「これ綺麗、描きたい」と思って、写真を撮ることもあります。そう考えると、風景そのものというよりも、そこに生まれる陰影に心が動かされているのかもしれません。

《Between the landscapes》 F30号 2026年 キャンバスにアクリル

――その風景の写真を撮ったあと、実際に絵に落とし込んでいくんですね。

そのまま描いていくというよりは、まずは設計図を考えていきます。キャンバスにどのような色を置き、どのように色を塗り重ねていくのか。ここからここまでは、この色で描いていくとか。そういったことを決めてから描き始めます。だから、描く時間よりも構成を考えるほうが時間のほうが長いんです。最初の一筆を入れるときは、この設計図を再現しなきゃなというような感覚ですね。絵自体は30分くらいで描きあげるので、描く時間だけで見ると、かなり早いほうだと思います。

――設計図の段階のほうが時間がかかるんですね。

時間は結構かかりますね。設計図のベースになる写真は、基本的に横長で撮影をしています。両目が横に並んでいるので、人間の視界は基本的に横長なんです。できるだけそれに近い状況を残そうとすると、横位置の写真が向いていて。けど、その一方で自分の身体性、とくに縦のストロークを表現しようと思うと、縦長のほうが合っている。だからこそ、そのあいだに翻訳のプロセスが必要になる。横長で抑えた風景を、縦の画面にどのように落とし込めば成立するのか、そういったことにかなり時間をかけています。

《sakae》 F30号 2026年 キャンバスにアクリル

――それって、絵を描く感覚なのか、構築している感覚なのか、どちらに近いですか?

ミケランジェロの言葉を借りるとすると、削り出している感覚に近いかもしれません。ダビデ像を彫ったときの話なんですが、大きな石膏が目の前に用意されても、彼は全然作業を始めなかったらしいんです。その姿を見て、弟子や周りの人が「そろそろ始めませんか」と言ったら、「もう始まっている」と。“ダビデがそこにどう出てくるかだけだ”、みたいなことを話していたそうなんです。「どう出してあげるか」みたいな視点は、自分の感覚と近いなと思いました。でも、その日の湿度や気温によって、絵の具の出方や乾燥の仕方は違うし、自分の意図と反することが出てくるので、そこはフレキシブルに対応しないといけない側面もあります。けど、それはそれで絵のおもしろい部分ではあると思うので、そういったところを活かしながら描き進めている感じですね。

《PLAYSCAPE》 F100号 2026年 キャンバスにアクリル

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――今回の松坂屋名古屋店の展示についても教えてください。

名古屋の景色を多く展示する予定です。名古屋って、繁華街もありながら、中心地に大きな公園もあるような土地。今回展示する場所も、ホワイトキューブのような白い空間というよりは、遊びのある空間だと思うので、そういった視点から「PLAYSCAPE」というタイトルをつけました。栄の街や、名古屋城を切り取った作品が並びます。

――真田さんの作品を初めて目にする方も多いかと思います。自身の作品をどのように楽しんでもらいたいでしょうか。

抽象画って、一歩入っていくのが難しいジャンルだと思うんです。ただ、なんとなくでもいいので、“この絵よりはこの絵が好き”とか、“その絵の中でもこの部分が好き”など、自身の好きと向き合う時間になれば嬉しいですね。ご自身が今まで経験されてきた色んな景色と照らし合わせながら、新しいコミュニケーションが生まれたらいいなと思います。

――最後に、今後の展望などはありますか?

こうして色んな方面から機会をいただけるようになって、気づいたら「俺、画家じゃん」と。そういったキャリアだったので、創作をするうえで納得のいく仕事がずっと続けばいいなと思っています。あとやっぱり美術はおもしろいので、そういった“おもしろさ”に触れられる人が増えたらいいなと思っています。僕もいわゆる美術業界の外側にいたタイプの人間なので、自分ならではの視点で美術の間口を広げたり、後押しをできるようなことができたらいいなと思っています。

Information

真田将太朗個展「PLAYSCAPE」

◾️会期
2026年5月21日(木)〜6月2日(火) 
10時~19時 ※最終日は16時閉場

◾️会場
松坂屋名古屋店 
本館8階 ART HUB NAGOYA open gallery
愛知県名古屋市中区栄三丁目16番1号  

詳細はこちら 

ARTIST

真田将太朗

画家

2000年生まれ。東京藝術大学美術学部卒、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。株式会社 SANADA WORKS 代表取締役、赫赫共同代表。重力と時間を縦方向の筆致で描く「新しい風景」を主題とした抽象絵画を制作。Art Olympia 2022、東京藝大アートフェス優秀賞、ベストデビュタントオブザイヤー2025など受賞多数。JR長野駅の永久常設壁画やJR上野駅構内の30m級壁画をはじめ、常設作品は50点を超える。Google Japan、Y's、Aquascutumとのコラボ作品や、Super Formula、Super GT、ミラノ・コルティナ冬季五輪2026 スキークロス日本代表のヘルメットデザインも担当。近年はGINZA SIX 銀座蔦屋書店、Tokyo International Gallery、台湾新光三越などで個展を開催。OSAKA Art & Design 2025では阪急阪神グループのメイン作家に選出、百貨店史上最大級の個展と新装フロア全体のアートディレクションを手掛けた。幕張メッセ AI EXPOでのライブペイントや、音楽家 常田俊太郎・石若駿らと結成した「Contrapunctus」による BLUE NOTE 公演など、活動は多岐にわたる。

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