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ESSAY
2022.09.23
ミュージシャンが綴るアートのこと。/ Vol.03 松尾レミ(GLIM SPANKY)
Illustration / Natsuki Someoka
夏はイベントで全国を駆け巡るミュージシャンの方々に、この時期に鑑賞した特別なアートの話を綴ってもらった。1年の中でも一番祭りが多い季節、芸術祭で、美術館で、ギャラリーで、あるいは街の中で、いったいどんな作品に刺激を受けたのか?
3回目に登場するのはロックユニット・GLIM SPANKYの松尾レミさん。2014年に惜しくも閉館してしまった清里現代美術館に行ったときの衝撃を回想してくれました。彼女自身の音楽にも多大な影響を与えたこの場所の魅力とは?
清里現代美術館(2014年閉館)
1990年に山梨県の清市にオープンした私設美術館。ヨーゼフ・ボイスやマルセル・デュシャン、アーノルフ・ライナーの作品や現代音楽家のジョン・ケージの楽譜などを所蔵。1960年代に活躍したボイス、ケージ、そしてオノ・ヨーコなど、様々な国籍のアーティスト、音楽家、詩人たちが参加した前衛芸術集団・フルクサスの常設展も行っていた。また、現代美術に関する膨大な資料もに取り揃えており、現在は元スタッフ営業する本屋〈telescopeart@art美術古書店〉でその資料を預かって販売。
フルクサスで溢れる、優しいアートの部屋
これまでにドイツの「バウハウス・ミュージアム」やニューヨークの「MoMA」などの美術館にも足を運んできましたが、もし「一番好きな美術館は?」と聞かれたら、間違いなく私は「清里現代美術館」の名前を挙げます。この場所に行って血が騒ぐ感覚を、今でも忘れられません。
訪れたのは、確かまだ私が美術大学に通っていた頃。幼少期から60s、70sのロックや渋谷系など実家で耳にしていた為、そのカルチャーにまつわるアートが好きでした。初めは妖精画やミュシャから興味を持ち始め、60sロック・サイケデリックアートやフランス映画のポスター、バウハウス、シュールレアリズム、ダダ等が好きになっていきました。
そんなある時、親がフルクサスを教えてくれたんです。そこには自分の心を揺さぶられるものがぎゅっと詰め込まれていて、衝撃を受けました。
バキッとインパクトのあるモダンなデザイン/音楽も詩も演劇もアートも全部詰め込んだ総合表現であること/”芸術”は崇高なものだという概念のハードルを下げて、日常の中に芸術を落とし込んでいる面白さ......など色々ありますが、とにかくデザインや写真やポスターが、最高にかっこいい!
そして清里現代美術館という場所にはフルクサスのとんでもない展示があるということも同時に教わり、すぐに連れて行ってもらいました。
清里現代美術館の外観
清里の森を進むと、突如現れるコンクリートで作られた清里現代美術館の佇まいがとにかくカッコ良かったのを記憶しています。中に入るといくつもの部屋やコーナーがあって、奥の壁にはジョン・ケージの楽譜が壁一面に大きく貼られていました。もう、釘付けです。
壁一面にジョン・ケージの楽譜が飾られた展示スペース
そしてそこに現れるフルクサスの部屋! ……もう、これまで観た展示で一番最高だったと断言できます。「FLUXUS」と書かれた扉を開くと、部屋の中央にガラスケースがあり、そこにぎっしりと資料やコレクションが敷き詰められていました。そこだけでも見ごたえがあるのにも関わらず、壁にも360°ポスターやフライヤーが貼ってあるんです。部屋全体が一つの作品みたいで、私はいつの時代のどこにいるのか分からなくなる。立ち止まって、作品たちにただただ圧倒されるような体験で、何時間も過ぎていきました。
フルクサスの部屋
それはまさに、フルクサスの”ハプニング”に遭遇してしまったかのよう! 部屋の中にいることで自分もその一部になって、空間演出している気分になれました。
ヨーゼフ・ボイス、ジョン・ケージ、フルクサス等の膨大な資料、現代アートの繋がりと流れをこの美術館は視覚的にわかりやすく、ユニークに教えてくれる。そしてこの美術館の館長さんは、本当にそれらを愛しているんだなあということが痛いほど伝わってくるのです。
ヨーゼフ・ボイスの作品などが展示された部屋の様子
展示されていた作品には音楽を聴いたり、暗い部屋に灯りがあるだけのインスタレーションもありました。それをずっと見つめていたら、分かるとか、分からないじゃなくて、作品に自分が入っていく感覚になっていくんです。知識量や理解力は関係なくて、実際見て感じたことが最高の体験である、と思わせてくれる包容力に満ち溢れた場所でした。現代美術は難しいと言われがちですが、本当は誰にでも開かれているアートだと思います。先ほども書いたように、見て感じたものがその人にとっての答えで良い。正解を押しつけないけれど、非常に攻めている。それは私自身が創作する音楽やデザインにも反映させていきたいと思っています。
惜しくも2014年に閉館してしまったのですが、今でも記憶の中の清里美術館に影響を受け続けています。もしもタイムトラベルができるなら、過去に戻ってまた清里美術館の作品を鑑賞したい。願わくば、あのフルクサス部屋に住んでみたい!
フルクサスの部屋に飾られたポスターの数々
information
GLIM SPANKY 6th ALBUM『Into The Time Hole』が現在発売中。また各種サブスクでも配信中。
11月から12月までに全国ツアー「Into The Time Hole Tour 2022」が開催。こちらのグッズのデザインも松尾自信が手掛ける。
DOORS
松尾レミ
ミュージシャン
日本大学芸術学部デザイン学科中退。男女二人組のロックユニット・GLIM SPANKYのボーカル。家族の影響で幼い頃から音楽やアートなど様々なカルチャーに触れて育つ。特に影響を受けたものは60年代~70年代のロックや、バウハウス、シュールレアリズム、幻想文学など。GLIM SPANKYのツアーグッズやアートワークも松尾自信が手掛けている。
volume 03
祭り、ふたたび
古代より、世界のあらゆる場所で行われてきた「祭り」。
豊穣の感謝や祈り、慰霊のための儀式。現代における芸術祭、演劇祭、音楽や食のフェスティバル、地域の伝統的な祭り。時代にあわせて形を変えながらも、人々が集い、歌い、踊り、着飾り、日常と非日常の境界を行き来する行為を連綿と続けてきた歴史の先に、私たちは今存在しています。
そんな祭りという存在には、人間の根源的な欲望を解放する力や、生きる上での困難を乗り越えてきた人々の願いや逞しさが含まれているとも言えるのかもしれません。
感染症のパンデミック以降、ふたたび祭りが戻ってくる兆しが見えはじめた2022年の夏。祭りとは一体なにか、アートの視点から紐解いてみたいと思います。
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