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2024.03.13
スクリプカリウ落合安奈がもうひとつの祖国で撮影した、その土地の質感 / 刊行記念展「ひかりのうつわ」がOFS GALLERYで開催
Key visual / from Iarna [Winter],《Vesseles of Light》 2023
© Ana Scripcariu-Ochiai
OFS GALLERYでは3月29日(金)から4月14日(日)までスクリプカリウ落合安奈の個展を開催します。この個展は特製ボックスに収めた「ひかりのうつわ」の刊行記念として開かれるもの。会場ではプリントの展示及びフォトボックス「ひかりのうつわ」の販売を行います。
日本とルーマニア、二つのルーツを持つスクリプカリウ落合安奈は人と社会や土地との接続、帰属意識といったことがらをテーマに作品を制作しています。「ひかりのうつわ」はもうひとつの母国であるルーマニアに2022年11月から1年間、滞在して制作したもの。彼女がフィルムに収めた、ささやかだけれど輝きを秘めたものです。
今回刊行される「ひかりのうつわ」特製フォトボックスは3つのボックスに10,500カットあまりの写真から冬・春・夏の3つの季節ごとに各21枚ずつの写真(うち1枚はプラチナプリント仕上げ)を収めたものです。ボックス自体が額縁のようになっていて、好きな写真を差し替えて楽しむことができます。
《ひかりのうつわ》特製フォトボックス
Iarna [Winter] / Primăvara [Spring] / Vara [Summer]
2023年
[Material] 特製ボックス:クロス装、作家直筆サイン、シリアルナンバー入り
[Size] Box size W216mm×D266mm×H35mm / Paper size 165mm×216mm / Image 101mm×152mm
[Edition] 各15(プリント21枚、内プラチナプリント1枚で1セット)
デザイン | 宇平剛史 プリント | 写真弘社 製函 | 篠原紙工
ルーマニアでの季節を感じる
以前にもルーマニアを訪れたことはありましたが、長くても2ヶ月程度の滞在でした。「もうひとつの母国の手ざわりを確かめるにはぶつ切りの季節をつなぎ合わせるのではなく、季節のひとめぐりをそこで生きないといけない」と感じた、と彼女はいいます。
タイトルの「ひかりのうつわ」はルーマニアに旅する前から彼女の中にあったものだそう。その言葉が生まれたのは2022年の元日のことでした。
「パンデミックで展示やいろいろな予定がキャンセルになり、ずっと計画を立てていたルーマニアにも国境が閉ざされて行けない苦しい状況の中、2022年の始まりの元日にカメラを片手に初日の出を一人で見に行ったんです。初日の出自体よりもその後に、枯れた草や冷気の中で大地を押し上げている霜柱、そんな小さきものひとつひとつが1年の始まりの光を受けているのを見て、この世界のすべてが「ひかりのうつわ」なのだと思いました。今でもうまく言語化することが難しいとても感覚的なことなので、一見小さなできごとに見えるかもしれないけれど、心の中では大きな転換点になりました」
ルーマニアでは全土を回りました。ブカレストの国立農民博物館の研究者など、現地の人々の協力を得ながらキリスト教が移入する以前の土着の風習や年中行事などを追っています。ルーマニアはローマ帝国、オスマン帝国といった国々に支配されてきた歴史があり、その影響もあって地域によって違う顔がある、と彼女は感じました。
from Primăvara [Spring],《Vesseles of Light》 2023 © Ana Scripcariu-Ochiai
彼女は個人的なルーツとなる場所も訪れています。そのひとつが、モルドバにある彼女の祖父が生まれ育った家です。家は朽ち果てていて床を木が突き破っているような状況でしたが、裏庭にあったリンゴの木には実がなっていました。そのとき、見知らぬ女性が近づいてきて「アナですか」と尋ねたそうです。実は4歳か5歳のころ家族でルーマニア中を旅していた時に、そこにきたことがありました。幼いときのことだったので彼女の顔を覚えていませんでしたが、そのときに会った女性だったのです。
「約束したわけでもないのに広大なルーマニアでまた会うことができた、そんなミラクルな体験でした。また、人の手を離れてもリンゴは季節の巡りとともに静かに実をみのらせる、そのことにも感銘を受けました」といいます。
カメラを通してつかんだささやかな瞬間
これらの作品は(株)大丸松坂屋百貨店が始動したLadder Projectにより制作し、京都で開催されたArt Collaboration Kyotoで、5台のスライドプロジェクターを用いた新作の大型インスタレーションとしても展示しました。今回はその際に同時に制作した特製フォトボックスの写真を一部店内にも展示しています。
Courtesy of Daimaru matsuzakaya, movie by Naoki Miyashita
「人々のささやかな祈りの所作、水滴が輝く若葉といった、カメラがなかったら気づかないうちに通り過ぎてしまうようなものです。でもカメラを持つことで集中力が生まれていろんなものをつかんで持ち帰ることができました。そんなささやかなものの奥にある広がりや土地の哲学、そこに触れるような身体感覚を味わってもらえたら」
この作品に限らず、他のシリーズでもアナログでの表現にこだわりがあります。
「私にとってカメラに限らず手を使ってこねるように作品をつくることは身体性、物質性の意味からも大切なんです。フィルムの風合い、質感みたいなものを求めているのだと思います。土地の空気を持ち帰る、鑑賞者をそこへ連れていくことができるように感じられるんです」
from Vara [Summer],《Vesseles of Light》 2023 © Ana Scripcariu-Ochiai
フィルムカメラではどのように写っているのか、その場で確かめることができません。ルーマニアに旅立つ前に落合は1年間かけてフィルムカメラのテストを繰り返し、準備を重ねてきました。彼女の写真の手ざわりが、私たちを遠いどこかへと導いてくれるのです。
Information
スクリプカリウ落合安奈 刊行記念展「ひかりのうつわ」supported by ARToVILLA
■会期
3月29日(金) ~4月14日(日)
営業時間:12:00~20:00(最終日は18:00まで)
休廊日:火曜日、水曜日
※トークイベント開催のため3月30日(土)は17:30閉店となります。トークイベント参加のお客様以外の入場はできませんので、ご了承ください
■場所
OFS GALLERY(OFS.TOKYO内)
東京都世田谷区池尻3丁目7番3号
スクリプカリウ落合安奈×前田エマ トークイベント
「季節のひとめぐりをかの土地で生きる」
同じ1992年生まれであり、およそ季節のひとめぐりを異なる土地で暮らした経験をもつ前田エマをゲストに、トークイベントを開催します。「土地に根差した文化」や「ルーツ」に関心を寄せて活動する二人に、ルーマニアと韓国の滞在を通して見たものや、日本との文化との違いなどを語っていただきます。
出展作家:スクリプカリウ落合安奈
ゲスト:前田エマ
開催日時 3月30日(土)18:30~19:30
会場 OFS GALLERY (OFS.TOKYO内)
料金 無料
定員 30名(事前予約制)
イベント詳細はこちら
ARTIST
スクリプカリウ落合安奈
美術家
1992年埼玉県生まれ。東京藝術大学油画専攻を首席、美術学部総代で卒業。同大学大学院グローバルアートプラクティス専攻修了。同大学大学院彫刻専攻博士課程に在籍。埼玉県立近代美術館(2020)、ルーマニア国立現代美術館(2020)、東京都美術館(2019)、世界遺産のフランスのシャンボール城(2018)やベトナムのホイアン(2019)など世界各地で作品を発表。主な受賞歴は、ARTnews Japan「30 ARTISTS U35 2022」、「TERRADA ART AWARD 2021」 鷲田めるろ賞、「Forbes Japan 30 UNDER 30 」2020、「Y.A.C. RESULTS 2020」SWITCHLAB / ルーマニアなど。令和4年度公益財団法人ポーラ美術振興財団在外研修員としてルーマニアで活動。 Photo © Kotetsu Nakazato
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