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INTERVIEW
2022.06.14
Dr.ハインリッヒ流アートフェアを楽しむ5箇条とは?
Photo / Kengo Yamaguchi
Dr.ハインリッヒは2004年5月に結成された、幸(みゆき)さん、彩(あや)さんによる双子の漫才師。笑いの殿堂・なんばグランド花月の単独公演が即完売するなど、いま劇場で最も勢いのある芸人です。アート展「㐧一回Dr.ハインリッヒのアートの館」を開催したり、アート鑑賞をモチーフにした「現代アート」という漫才があったり、幸さんの趣味が美術鑑賞だったりと、アートから深い影響を感じるお二人に「Dr.ハインリッヒのアートフェアを楽しむ5箇条」を考案してもらい、国際的アートフェア「art stage OSAKA」の会場からインスタライブを配信しました。約1時間の中継から印象に残ったシーンをキーワードと共に振り返ります。
#Dr.ハインリッヒが考えるアートフェアを楽しむ5箇条
art stage OSAKA(*1)会場前でDr.ハインリッヒが考えるアートフェアの楽しみ方5箇条が発表されました。
*1……日本最大のアートフェアである「アートフェア東京」に続き、大阪で行われた国際的アート見本市。2022年の6月3~5日に大阪・中之島の堂島リバーフォーラムで第一回目が開催。国内外のアートシーンを凝縮した現代アートの作品を扱う約30のギャラリーが参加し大好評を博した。
幸:まずは「展示場の外観そのものを俯瞰で見る」と。もうアーティーは始まってるから。
彩:そうそう。「ここがアートフェアかー」と言いながら、まずは楽しむ。
幸:で「作品のキャプション熟読」。
彩:そうなんですよ。これ結構楽しいんですよ、読むの。
幸:我々も実は「Dr.ハインリッヒのアートの館」というアート展やった時、キャプションこだわったんですよ。
彩:そうですね。アーティストさんどう思うかわかんないですけど、我々芸人なんで ここはボケしろですよね。
幸:はい。
彩:今日は違いますけれど(笑)。
幸:そうね。
彩:で、作品を観るにあたって。
幸:「無になってみる」。
彩:これなんですよ。
幸:結局これやねん。
彩:一回パッと見たとき、無になってこう「ハイ」っと。
幸:特に現代アートはこうやねん。で無になってみるんやけど「逆に深読みしてみる」。
彩:そうそれ。どういうつもりで作りはったんだろうと。
幸:我々の「現代アート」っていう漫才を知ってくれたはる人はまさにそうなんやけど。作者の人を呼んで「ちょっとキミキミと。キミはこれをどういうつもりで作ったのかね」と。
幸:聞くも良しやし。一人で考え続けるのも良しですし。的外れでもいいんですよ、こんなんは。
で最後ね「空間の波動を感じる」。言わずもがな。
彩:言わずもがな、波動ですよ。
幸:アートは波動でしかないので。
彩:では、これを持ちつつ観に行きましょうか。
#波動を感じる
会場に入ると飛び込んできたのは、メディアアーティスト落合陽一さんのNFTアートでした。
幸:早速、絵じゃない。
彩:落合陽一さんの。
幸:わ!面白い。
彩:カッコいい。
幸:ウニョウニョと。
彩:マジでさ一回ほんまに無になって見るしかないですね。これに関しては。
幸:直線が赤血球みたいな感じになっていってる。
彩:これは一個の前で釘付けになりますね。
幸:水みたいな。
彩:どうですか? これは波動ですよねもう(笑)。
幸:これは完全に波動やな(笑)。
彩:(キャプションに)wavesて書いてあるし。これは感じるしかないな、波動を。
幸:これどこでもええから止まったところをシャツにしたいな。
彩:そうね。したいしたい。
#コシノジュンコ
ブラックスーツに黒ネクタイ、ピンヒールがトレードマークのDr.ハインリッヒ。黒を基調にたコシノジュンコさんのコンテンポラリーアートを前にしてテンションが上がります。
幸:JKギャラリー。
彩:おーかっこいい!
幸:「影のコンポジション」て題名です。
彩:これはカッコいいですよね、黒と白のこのなんというか、触りたくなる。
幸:触ったらあかんで(笑)。
彩:黒かっこいいですもんね。
幸:間近で見たら塗って重ねてる立体感みたいなんあるやんか。これがね、むちゃかっこよくておしゃれやねんな。このまま服とかスーツの柄やったらめっちゃかっこいいんちゃう。
ギャラリーには黒を基調としたコンテンポラリーアートが並ぶ
#メルヘンチック
続いて二人の目に止まったのは「見えない階層」というテーマで、様々な素材を組み合わせたミックスドメディアアートという手法で懐かしい世界を描く月乃カエルさんの作品でした。
彩:この感じすごくいい。
幸:キャプション熟読していい?
彩:熟読して。
幸:「生き物たちが個々に見る世界の集合なのだ。象は人間より遥か高いところから世界を見渡し、イルカは深い海の中で音波を使って周囲を認識する。同じ大地で生きていてもあらゆる生き物はそれぞれ違った見え方で世界を捉えている。月乃カエルは、その生き物の意識や感情の重なりを描き出し、光を透かして人間には見えない世界を覗かせてくれる」って。世界ですってよー。
彩:可愛いですよね。
幸:カエル、カメラさんアップで。これは楽しいぞ。
彩:なんやろ、井戸からの水出るところみたいな。ロボットみたいな。
幸:この世界はメルヘンチックね。
#ちくわの顔
アートを鑑賞しているとたまに作品と目があうような瞬間が訪れます。SHETAさんの作品でそんな現象が起こりました。
彩:あっちに幸さんの好きな魚が。
幸:魚だらけですよね。みんな面白い顔しとる。
彩:魚の目がほとんどが右を向いてるけどたまに左もいる。
幸:驚いてらっしゃるのとかニコッとしているのか、こいつこっち見てくれへん?
彩:ほんまや。
幸:お客さんの方向いてくれてる。これは楽しいな。
彩:これは楽しい。
幸:こっちの作品は動物で。
彩:色んなんがいますね。
幸:顔おもろいな。
彩:笑ってるような顔してるから。
幸:この顔さ、私が大喜利で描くちくわの顔に似てる。
彩:大喜利で描いたちくわに似てるんですか?
幸:ちくわに顔ついてる大喜利の答えで出したことある。
#いい題名
アートを鑑賞する際、重要なヒントになるタイトル。二人は浅岡咲子さんの「婦人シリーズ」というフレーズに引き込まれます。
幸:これいい題名やで。
彩:「婦人の友人」。
幸:こっちも「婦人の友人」。
彩:こっちは「婦人」で、これは婦人そのものなんですよ。
幸:ほんまやな(笑)。
彩:えーと、こっちは「婦人の友人」で(笑)。
幸:これは「婦人」やね、でこれは「婦人の友人」やねん。
幸彩:へー面白い。
#フワモコ
現代アートは様々な手法で表現されますが、お笑いにも通じるアプローチを感じさせたのが、野原邦彦さんの立体作品でした。
彩:このシリーズ面白いですね。
幸:フワっと出たはる。
彩:モコッとした湯気の中に仰向けの人が入っている。
幸:これなんかカプチーノから出てきたな。
彩:こっちは明らかにティーカップ。
幸:コーヒーの香りを嗅ぎながら休む時って、嬉しいじゃないですか。それを形にしはったんですね。ふわーーて。
Dr.ハインリッヒに訊くアートフェアを振り返って。
配信終了後、お二人にお話を聞きました。
――アート好きというのがお二人から伝わってきました。
幸:めっちゃ楽しかったですね。ピックアップした作品以外にも、歩いてる最中に見たいって波動が出てる作品がいっぱいありました。
彩:思ってたより沢山の作品があって。今ぐるっと回った感じやと足りひんくらいでしたね。
――5箇条を検証したご感想は?
幸:結構「無になって見る」作品が多くて。昔のルネサンス絵画とかモネとか伝説の名作と比べて現代アートっていうのは「その瞬間」を楽しめるなぁという印象でした。
彩:絵にストーリー性があるものより、考えずに見れますよね。
――作家さんと同じ経験しているという共通の背景があるから。
幸:そうですね。今、現在生きてはる人の作品なので。
彩:そうそう。
幸:アートと漫才って全然別のもんですけど、自分も作って人に見せるという事をやっているので、それぞれのアーティストさんが、そうしたはる感じも伝わってきたし。
――お二人の漫才「現代アート」で出てくる掛け合いが起こりそうな瞬間もあって楽しかったです。
幸:ボケてるよなという人が結構いてはって。
彩:あぁそうですね。
幸:これは笑かそうとしてはるなという作品があって。
彩:モクモクのやつとかね。
幸:そこに重いものは何もこもってないというか、物体自身には。だから、これはなんだろうとか、難しく考えなくて良い。
野原邦彦 / 『珈琲』
――クスっとくる感じ、そこはお笑いにも通じる。
幸:そうですね。
――木のちくわ(田島享央己さんの作品)にも反応されてましたね。
彩:ちくわを木で作って、置こうという発想がまず面白いじゃないですか。
田島享央己 / 『ちくわ』、『Good brothers』
――プライベートでアートフェアに行かれた事は?
彩:こういう感じは、初めてです。
幸:部屋で仕切られてるっていう形はないですね。
――美術館と違って、アートフェアは作品が気に入れば購入することもできます。
幸:確かに、買わはるんやろなていうもんが多かったですね。現代アートって、一品物やし、楽しいものが多いじゃないですか。お洒落やし、家とかお店やったはる人が置きたい感じはわかりますね。
――アートフェア回ってみて改めて楽しみ方はありますか?
幸:作品が非日常じゃないですか。わたくしらがお笑いのネタをする時に、お客さんに非日常を差し上げたいと思うんですよ。アートの作者たちも、そういう思いがあるのかなというのを感じました。無になるのもいいんですけど、ちょっと日常を離れた世界に行って没頭したいとか、そういう空間を楽しみたいっていう感じで行かはったら良いと思います。
彩:アートフェアてなると作品が沢山あるので、一回ブワーって歩いて、吸い込まれるところから見ていくのが良いのかなと。全部をじっくりと思うと結構疲れると思うんですよ。いっぱいあるので。
幸:脳の刺激になる感じやね。
--移動中も世界がどんどん変わっていくとおっしゃってましたね。
彩:あれが醍醐味ですよね、ひとりの作者の展示じゃないから。
幸:芸風がガラッと変わる(笑)。
彩:そこがアートフェアの良いところですね。
――ギャラリーによってもスタイルが様々ありました。キャプション読んだり、ギャラリストにお話を聞いたり。
彩:キャプションないパターンもありましたよね。タイトルも作者名も伏せてある。
幸:私はキャプション読むん好きなんやけど、ないならないで実はありがたいんですよ。なかったら否が応でも作品と対話する。あれが結構楽しくて。
――お二人のアートの原体験はいつごろなんですか?
幸:結構、子供の頃から面白い絵とか、意味わからん絵見るの好きでしたね。作者が誰とかはないんですけど。
彩:学生の頃の美術の教科書とかに載ってるじゃないですか、それ見て笑ってました。
幸:そうそう、美術の資料集好きでしたね。それを鑑賞してたというか。
――幸さんは、美術館の空気感が好きとお話されていましたが、足を運ばれるようになったきっかけは?
幸:なんでやったんかな、私あんまり趣味ないんですけど、唯一、美術館に行くっていうのだけはやってたんですよ。理由は特にないですね、見に行きたいから、みたいな。
――美術やアートがネタに影響与えている部分はありますか?
浅岡咲子 / 『婦人』を眺めるDr.ハインリッヒの二人
幸:ダイレクトにはないけど、やっぱり今日もですけど面白い題名やフレーズがあるとなんか頭に入ってますね。データとして。
彩:「婦人」素敵やったよね。
――浅岡咲子さんの作品ですね。
幸:「婦人」かと思ったら次は「婦人の友人」で(笑)。
彩:あそこはちょっとじっくり見たかったですね。
――物語を感じさせる作品でした。
彩:タイトルが面白いものって良いですよね。
――「深読み」できますもんね。
幸:岡本太郎先生の「重工業」という作品があって、でっかい絵なんですけど、真ん中にネギが描いてあるんですよ。それとか面白いじゃないですか。なんで「重工業」てタイトルで真ん中にネギ置いてるんかなとか。ちょっとお笑いに通じるものが。
彩:ありますね。
幸:「すいかを食べる男と山羊」って作品がピカソであるんですよ。なんでこれ絵にしようと思ったんやろうという感じじゃないですか。題名とか。
――題名と作品のギャップが面白い?
幸:笑かそうとしたんやろなとか、ボケたんやろうていう感じとか、それか何も考えてへんのかわかんないですけど、そういうところが好きです。
――アートと聞いて真剣に向き合わないとって無意識に思っていたんですが、お二人のお話を聞いて、確かに「笑かしてくる感覚」ってあるなと思いました。それは現代アートに限らずですよね?
彩:そうですね。シャガールの絵とかにも、繰り返し同じ生き物が出てくるんですよ。色んな絵に。またこいつがいるっていう。
幸:絵の端っこに羊みたいな動物がおって。
彩:そういうを見るのも楽しいですね。なんか漫画みたいやなと思って「それからどしたの?」ってCM前に聞いてくるやつみたいな。
――ハクション大魔王に出てくる「それからおじさん」かな。確かに、共通のキャラクターがいると面白いですね。今回は、漫画ぽい作品も多かったし、あと動物モチーフの作品に反応されてましたね。
彩:好きなんですよ、描いてあったら可愛いと思いますよね。
幸:飼ってるとかではないんんですが、動物は大好きです。
今回、ご紹介したギャラリーの作品は2022年6月15日から大丸心斎橋店で開催される「D-art,ART」というアートフェアでも出店されるので、気になった方は足を運んでみてください。
information
D-art,ART
新たなコンセプトのアートフェアが誕生!
期間:6月15日(水)〜6月20日(月)
※心斎橋PARCO 14F SPACE 14 のみ最終日は午後3時30分まで(午後4時閉場)
場所:心斎橋PARCO 14F SPACE 14 、大丸心斎橋店 本館1階 御堂筋側イベントスペース
URL:https://dmdepart.jp/d-artart/
DOORS
Dr. ハインリッヒ
漫才師
一卵性双生児の姉妹による漫才師。大阪の劇場を中心に活動中。 「非日常の世界へ誘うファンタジー」をテーマにシュールな芸風でDr.ハインリッヒにしか出来ない漫才のスタイルを確立。 他のコンビとは一線を画す存在となり、「面白さ」に加えて「かっこよさ」「美しさ」も際立ち、信徒(Dr.ハインリッヒのファンの総称)になる方が日々増加中。独創的なネタと存在感で関西に留まらず、M-1グランプリ2020予選で披露した漫才が話題となり認知度が急上昇し、2022年2月になんばグランド花月で行われた単独ライブでは全国から信徒が集まりチケット即完売となり大成功で幕を閉じた。漫才だけに留まらず、アートへの造詣も深く、2020年大阪・2021年東京にて「㐧一回Dr.ハインリッヒのアートの館」を開催。Dr.ハインリッヒの新しい笑いの表現方法として繰り出される独自の感性が光る作品は、性別年齢を問わず誰でも楽しめる作品となっている。
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