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SERIES
2025.12.10
アーティスト feebee 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.41
Edit / EisukeOnda
独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動する、とに〜さんが、作家のアイデンティティに15問の質問で迫るシリーズ。今回は「神獣」というモチーフを現代の目線で再構築したシリーズを描く、feebeeさんに迫ります。
アーティスト RITSUKO 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.40 はこちら!
今回の作家:feebee
イラストレーターとしてのキャリアを経て、2015年頃からアーティスト活動を開始。伝説に登場する神獣を現代の目線で再構築した神獣シリーズや、現代人と社会を題材としたポートレートシリーズなどを描く。タブローの他、木版画やアートトイのキャラクターデザインなども意欲的に行なっている。
《観察者効果 白沢 憂鬱》(2018)
《BfW/DFPNS 001》 (2025)

feebeeさんに質問です。(とに〜)
今回のゲストは、2015年頃よりイラストレーターから美術の世界へと飛び込んだfeebeeさん。彼女は、伝説に登場する神獣を現代の目線で再構築した「神獣シリーズ」を制作しています。龍や鳳凰といった神獣は、日本美術および東洋美術でお馴染みの画題ではありますが、よくよく考えてみたら、長い美術の歴史の中で神獣に特化した作家はいなかったような。
そんな“神獣を愛し、神獣に愛された”アーティスト・feebeeさんに15の質問を投げかけてみました。プレッシャーをかけるつもりは全くありませんが、「神回答」を期待しています!
Q01. 作家を目指したきっかけは?
物心ついた頃から、何かを生み出す仕事に惹かれていました。特別な転機があったわけではありませんが、自分にとっていちばん自然で続けられる表現が“絵を描くこと”だったので、気づけば作家という道を選んでいました。
Q02. 作品として最初に発表した神獣は何ですか?
白沢(はくたく)。

もともとは、パソコンのIllustratorで絵を描いてみようと思ったのがきっかけだったというfeebeeさん。「当時、描いた絵をホームページに載せたら、いつのまにか仕事になってたんです。なりたいと思ったわけじゃなくて、“仕事になるんだ”って感じで(笑)」。仕事としてのイラストから“表現”へ踏み出す転機になったのが、現代アーティスト・天明屋尚さんに誘われた展示だった。依頼ではなく、自分の意志で描く作品として挑んだのが大きかったという。「考えた末に描いた白沢が、自分の“作品”として向き合う最初の一歩になりました。そこから、表現として描く面白さに気づいたんです」

初めてfeebeeさんが描いた白沢の作品。《観察者効果 白沢 青》(左/2015)《観察者効果 白沢 白》(右/2015))。「白沢って、目が沢山あって。いろんな見方を同時に持てる存在が面白いなと思ったんです」
Q03. feebeeさんにとっての“美術界の神様”は誰ですか?
特に神様と思った方はいませんが、影響を受けるという意味では若冲、北斎、クリムト、マグリットなどがいます。
Q04. 青春時代、一番影響を受けたものは何ですか?
いろいろなジャンルから影響を受けてきたので、一番を決めるのは難しいのですが、絵に関して言えば漫画やアニメです。小中学生の頃は、鳥山明さん、高橋留美子さん、芦田豊雄さんなどの絵をよく模写していました。


イラストを描き始めた頃は、R&Bやヒップホップのカルチャーに影響を受けて、“かっこいい女性”を好んで描いていたという。「中学生まではアニメや漫画が好きだったんですけど、高校生になると音楽やファッションの方が好きになっていって。その一方で、写楽の作品を部屋に貼っていたりもしたんです」。その後、それぞれ好きだった要素が自然と合流し、人物の描き方に和の雰囲気を取り入れるようになった。「今のスタイルも、その流れの延長にある気がします」

Q05. 神獣を描こうと思ったきっかけは何ですか?
小中学生の頃に見た『怪物誌(FantasticDozen12)』に掲載されていた、山海経に登場するキャラクターの印象がとても強く残っています。それが、想像上の生き物を描くことへの興味が芽生えるきっかけになったように思います。

アトリエの本棚から『怪物誌(Fantastic Dozen 12)』を取り出し、開明獣のページを開いたfeebeeさん。「当時は怖くて仕方なかったんです。でも大人になると全然怖くない。なのに“怖かった感情”だけ残っていて」。その感覚が、現在の“見えないものを可視化する”表現の原点になっている
Q06. 神獣を描く上でもっともこだわっていることは何ですか?
神獣は、昔の人々が未知を解釈し、理解しようとしたときに、それを目に見える形で表そうとした精神的・認知的プロセスの表れでもあるのではないかと考えています。
そのため、私が神獣や伝説に登場するキャラクターを描く際には、過去の作家が描いたイメージの焼き直しではなく、現代においてそのキャラクターを描く意味を明確に持つことを大切にしています。それぞれのキャラクターが内包する象徴的な意味を現代社会と結びつけながら、自らの解釈を通して、外見的にも新たな“現代のキャラクター”として再構築できればと考えています。

「最近発表した《re Narrativeのためのプルラリティ001》では、これまで白沢を複眼的な視点や思考の象徴として描いてきたことに加えて、『多元的(プルラリティ)』という概念を重ねています。この作品の白沢は、異なる視点や物語が交差し、共存しうる空間そのものを象徴する存在です。背景には北斎の滝を引用しています。私たちは滝を見たとき、無意識に“北斎の描いた滝”を重ねているかもしれない。誰かが物語を与えれば、そのイメージに縛られてしまうこともある。SNSで意味があふれる時代に、本当に多層の視点を持つ存在がいたらどのように世界を見るのか。そんなことを想像しながら描きました」

2020年に開催した個展「変化しつつ循環するもの」では、12年を通して少しずつ変化する十二支と、その中央に猫・ネズミ・イタチを大きく描いた。「当時はコロナ禍でもあったので、その不安を絵に込めつつ、新しい時代の予兆として“十二支になれなかった動物たち”を描きました」
Q07. 「BittenfromWithin」シリーズの女性にモデルはいますか? また、無表情で画面のこちらを見つめているのはなぜですか?
特にモデルはいません。このシリーズは、現代社会における“アイコン的ポートレート”として制作している作品シリーズです。
人物は女性として描いてはいますが、実際には「人間」そのものの象徴です。また、この作品は“問いかけ”を内包したものであるため、あえて無表情に描いています。
タイトルの“BittenfromWithin”は、直訳すると「内側から噛まれる」という意味です。SNSが日常化した現代社会において、人は常に“他者のまなざし”を意識しながら自己を形成しています。
その意識が過剰になった現代では、まるで“自分で自分を噛む”ように、自己を傷つけながら成立している存在だと言えるのではないでしょうか。
ここに描かれている「獣」は“神獣”ではなく、個人と社会が関わる際に発生する「内面化された社会的他者」や、“自己を噛む自己のエネルギー”の象徴です。私が描く“神獣”が外界の未知を可視化する存在だとすれば、この「獣」は、内なる未知(内界)を可視化する存在だといえます。

《Bitten from Within 095》(2023)
Q08. アトリエの一番のこだわりor自慢の作業道具など
アトリエは天井が高いことがこだわりです。空間の抜けがあると気持ちも解放されますし、天井が高いとアイデアが出やすいと聞いたことがあります。アトリエは余計な色が視界に入らないように、なるべく空間全体を白で統一しています。

現在のアトリエは3年ほど使用している。「たまたま見つけたこの場所は、天井が高くて居心地も良かったんです。広い空間の方が気持ちも抜けるし、制作中も作品が実際の展示空間と同じような大きさに感じられるので、展示イメージがつかみやすく制作も捗ります。白壁は自分たちで塗ったもので、ギャラリーのような雰囲気があるから、展示するときのことをイメージしながら描けるんです」

Q09. feebeeさんにとっての“三種の神器”は何ですか?
パソコン、スマホ、紙の本
Q10. 職業病だなぁと思うことは?
色々な場所に行って何か見ても、なんでも取材になってしまいます。

「旅行に行っても、“苔の縁”や“岩の質感”ばかり見てしまうんです(笑)」。旅先でもつい観察を始め、気づけば接写で撮った写真が資料になっているという。そんな取材体質が、神獣の細部のリアリティを支えている。
Q11. 浮世絵版元・アダチ版画研究所と毎年コラボしているそうですね! 自身の作品が浮世絵となった時の率直な感想を教えてください。
さまざまなタイミングが重なり、《寿という獣》シリーズを子年から一年ずつ発表していく形が実現したことは、私のテーマの一つである「変化しつつ循環する」を体現する重要な流れとなりました。
十二年という長い歳月をかけて浮世絵作品を発表し続けるというのは、なかなかできることではありませんので、どこかご縁のようなものを感じています。なので、シリーズ初めとなる「寿という獣 子」が浮世絵となったときは、とても感慨深い思いがありました。
また、ご一緒し始めた時期に、ちょうど職人さんの世代交代が重なり、若い担い手の方々が私の作品に関わってくださることになりました。その繊細な技術と手作業の積み重ね、そしてそれを次世代へと受け継いでいこうとする姿勢に、心からの敬意を抱いております。
この《寿という獣》の木版画シリーズは、江戸時代の浮世絵《寿と云ふ獣》――「十二支を合成して新しい獣にする」という発想をもとに描いています。現代の作家である私が、江戸時代に制作された浮世絵から影響を受け、アダチ版画研究所と協働し、絵師・彫師・摺師という伝統的な工程を通しながら現代的な視点を加えて再構築するという行為そのものが、本シリーズのコンセプトにもなっています。

《寿という獣》シリーズの新作《寿という獣 午》

《寿という獣 丑》《寿という獣 兎》

《寿という獣 虎》《寿という獣 龍》

《寿という獣 鼠》《寿という獣 蛇》
Q12. 浮世絵の原画を制作する上でもっとも意識していることは何ですか?
肉筆画とは異なり、版画は彫師や摺師との共同作業によって完成する作品です。工程の中で線や形が少しずつ変化していきますが、私にとってはその“変化”こそが版画の魅力だと感じています。
その魅力を活かすために、どの要素を簡略化すれば最も印象的に見えるかを意識しています。

制作ではデータを色ごとに分けて渡すという。「赤、緑、黄と全部レイヤー分けして。職人さんが刷りやすいように考えています」
Q13. 神獣にまつわるトリビアを1つ教えてください。
白沢は、「すべての病や妖怪の正体を知る神獣」といわれています。江戸時代の人々は、旅では疫病や災難を避け、夜は悪夢や病魔から身を守ってくれると信じ、白沢の絵をお守りとして旅に携えたり、枕元に置いて眠ったりしていたそうです。
Q14. もしも作家になってなかったら、今何になっていたと思いますか?
すみません。思い浮かびません。

Q15. もし、神獣の何かの能力が1つ得られるとしたら、どの神獣の何の能力が欲しいですか?
「人間の言葉を解し、万物の知に精通する」という白沢の能力。万物の知に精通する感覚を一度体験してみたいです。


白沢にはじまり、白沢に終わり、白沢のトリビアまでありがとうございました。
他にどんな作家が白沢をモチーフにした作品を作っているか思い浮かべてみたところ、パッと浮かんだのは、目黒の五百羅漢寺にある白沢(獏王)の像くらいなもの(あとは『鬼灯の冷徹』の白澤)。白沢作品に関しては、間違いなくfeebeeさんが第一人者ですね。
そんなfeebeeさんが生み出す白沢に、1つとして同じものが無いことが何よりも印象的でした。それぞれ異なる姿をしているのは、古来の神獣をただ伝統的に描くのではなく、現代のエッセンスをその都度に取り入れているから。と言っても、安易にスマホやデジタル数字といった現代的なアイコンを描き込まないところに、feebeeさんの矜持を感じます。
2026年以降はどんな白沢が生まれるのか、注目です。(とに〜)
Information
feebee 寿という獣~新作木版画「丙午」発表記念展
■会期
2025年12月17日(水)→12月23日(火)※最終日は16時閉場
■会場
大丸東京店 ART GALLERY
東京都千代田区丸の内1-9-1
■入場料
無料
大丸東京店 美術画廊、ART GALLERY1・2のHPはこちら
ARTIST

feebee
アーティスト
神奈川県生まれ。イラストレーターとして独自のネオジャパネスクスタイルで好評を博した後、2015年にアーティストへと転向。国内外での展覧会やアートフェアを通じて作品を発表している。東洋的な思想を根底に、日本画、工筆画、アクリル画などの技術を駆使し、作品を通じて言語や文化を超えた、現代人に共通するテーマを提示している。江戸時代の浮世絵に着想を得た木版画シリーズ「寿という獣」を毎年の干支に合わせて発表し、伝統木版画技術の継承を長期的に見守っている。主な個展に「変化しつつ循環するもの」(六本木ヒルズA/Dギャラリー、2020年)、「私は、私と私の環境であるII」(roidworksgallery、2024年)、企画展に「浮世絵現代展 UKIYOE IN PLAY」(東京国立博物館 表慶館)などがある。
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アートテラー・とに~
アートテラー
1983年生まれ。元吉本興業のお笑い芸人。 芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など、幅広く活動中。 アートブログ https://ameblo.jp/artony/ 《主な著書》 『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』(誠文堂新光社) 『名画たちのホンネ』(三笠書房)
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